君と出会うまで
9年前・夏輝 8歳。
弟が死んだ。
俺を必要としてくれる唯一の存在。
俺が守りたい唯一の存在。
その時の俺は、秋人がいれば何もいらなかった。
というより、何かを『望む』という感情なんかなかった。
分からなかった。
物心ついた時から、両親は俺に冷たかった。
俺が8歳になるまでに父親は2回変わった。
本当の父親がどこにいるのかなんて分からないし、興味もない。
母親は俺が泣くと怒鳴った。
父親は俺を殴った。
体はいつも痛くて、傷だらけだった。
だけど全部、慣れれば怖くなかった。
痛みはあるけど、泣かなければすぐに終わる。
お腹は空いたけど、死なない程度に水とパンを与えられた。
秋人はまだあまり喋れないし、放っておけば死んでしまうと思った。
秋人が俺の本当の弟かなんて関係ない。
俺が守ってあげなきゃ、と思った。
俺が殴られても死なないけど、こんなに小さな秋人は殴られたら死んでしまう。
直感的にそう思った。
そんな生活の中、何が何だか分からずお巡りさんが来て、俺は知らない大人がいるところに連れていかれた。
そしてその日の夜、弟が死んだことを知らされた。
わけがわからなかった。
秋人は大して喋らなかったけど、笑ったり、泣いたり、怒ったり、俺がすること、話すことに反応を示してくれた。
俺を必要としてくれていた。
『凍死』と聞かされ、暗い部屋で硬くなった弟を見た時、涙が出なかった。
目の前にいる『これ』が弟とは、とても思えなかった。
弟はいつも大きな声で泣いていて、お腹を空かせていて、たまに笑っていた。
こんな無機質な物なんかじゃない。
というか、ここはどこなんだ?
この人たちは誰なんだ?
家には帰らないのか?
まあ、じゃあ今日は殴られなくて済むのか。じゃあラッキーか。
でも早く帰らないと次帰った時に怒られる。
また殴られる。
だったら今日帰った方がまだ楽なのかも。
秋人が死んだということを認識できたのは、数日経ってからだった。
『そうしき』と言うものに出て、学校の先生や警察の人たちが俺に言って聞かせてくれた。
それからは施設に入って、知らない子供と一緒の暮らしが始まった。
言葉もろくに知らなかった俺にとって、そこは地獄だった。
家にいた方が誰とも喋らなくて済むし、話しかけられるのが面倒臭かった。
そんな時、無視してもしつこく話しかけてきたのが実来だった。




