実来のこと
「実来は明るい子でした。出会った時からいつも笑っていて、人の悪口を言っているところなんか聞いたことありません。トラブルなんて絶対にないと思います」
葬儀の翌日、施設に刑事が来た。
塚本龍二は40代くらいのちょっと偉い感じの人。
今村航平は20代後半くらいで、ちょっと頼りなさそうなお兄さん。
俺は少しだけ落ち着きを取り戻し、刑事たちの「実来ちゃん何かに悩んでいたとか、誰かとトラブルとか、何か言ってなかったかな?」と言う質問に淡々と答えた。
「そっかそっか。君たち2人がいつも一緒にいたって言ってたし、じゃあ悩みはなかったってことなのかなあ...」
塚本は腑に落ちないような口調で言った。
「悩みも...あったらいつも言って来てたから...分かんないけど、なかったと思います」
恭介は自信なさげに俯いた。
「夏輝君も、同じ意見かな」
今村はそう言って夏輝を見た。
夏輝は堂々と、今村の目を見て答えた。
「実来が自殺するはずありません。誰かに落とされたに決まってます。だって...だっておかしいでしょ?俺に手紙を書いておいて、当日に自殺なんて」
夏輝がそう言うと、今村は「それは....」と困惑した表情を浮かべた。
「我々も、実来ちゃんが君に宛てた手紙は..悪いけど読ませてもらったよ。筆跡は本人のものだったし、指紋も実来ちゃんのもの以外ついていなかった。文面からして、確かに自殺とは考えにくい。でも....」
塚本は淡々と語り、言いづらそうに続けた。
「現場の状況から見て、争った形跡もないし、実来ちゃんは前から倒れるように落ちたと考えられる。手すりに残った指紋も、実来ちゃんのものだけだった。形や角度も不自然なところは何もないんだ」
塚本に言われ、夏輝と恭介がキョトンとしていると、今村がフォローするように言った。
「つまりね、誰かに突き落とされたとするには、他の人がいたっていう証拠....がないんだよ。ただ1点、不自然なのは君たちの言う通り、実来ちゃんが自殺する理由がないってことなんだ」
「理由もないのに...卒業式の前の日に普通、自殺しますか」
夏輝はそう言って彼らを見た。
彼らが悪いわけではないことくらい、12歳の俺にも分かる。
だけど実来のことを淡々と語る彼らに、無性に腹が立つのだ。
実来のことを何を知らないくせに、と。
「もちろん我々もそう思う。けど、厄介なことに人ってのは、顔にも出さずに心だけに抱えてる気持ちがある。仮に明日を楽しみにしていたとしても、君に告白しようとしていたとしても、早く大人になりたいと願っていたとしても、心が突然変わることだってある。だから、残っている物や状況だけで考えなきゃいけないんだ。ごめんな」
塚本は俺の苛立ちを察したのか、先ほどより優しい口調で俺を見て言った。
「じゃあ...理由を見つけるまでは自殺だって決めつけないってことですよね。もし実来を突き落とした奴がいるなら、絶対野放しにしないってことですよね...!」
自分がどれほど難しくて、理不尽なことを言っているのかは分かっている。
だけど、悔しい気持ちが消えない。
実来が自殺なんかするわけない。
何が何でも絶対に自殺なんかじゃない。




