第7話「谷底の日々」
あの日、あの時、アイと過ごした日々のこと――
ラミウは幼い頃の記憶を、ルウナに向けて語りはじめた。
それはラミウにとって、十年以上も昔の話である。
ラミウが生まれた場所は、切り立った崖に囲まれた、奈落の底の地下街であった。
地下街の天井は遥か頭上にあり、街は常に青い闇に沈んでいる。
照明は天窓から差し込む光か、セルで輝く水晶灯の灯りのみ。
「水晶灯の灯り番です。水晶灯を灯します。暗い所はありませんか?」
酒の香りと腐臭が漂う、治安の悪いスラム街にて。
ラミウは黒い棍棒片手に、夜の街を歩き続ける。
街に点在する水晶灯を、手作業ですべて灯していくのが、ラミウに任された仕事だった。
「ラミウ、こっちに来いっ! 水晶灯が灯ってないぞ!」
「分かりました、今行きます!」
酒盛り中の男たちに呼び止められ、ラミウは小走りで現場へと向かう。
軒下に括られた水晶灯が、確かに輝きを失っていた。
「頼むぜラミウ……お前がいなきゃ、この街はすぐに真っ暗闇だ」
「自覚を持ってくれよぉ、小さな強き者さんよぉ! しっかり街を照らしてくれよなぁ!」
ラミウは黒い棍棒を水晶灯へと伸ばしてみるが、あと少しの所で届かない。
その場にあった椅子を脚立代わりにして登り、ようやく棍棒が水晶に触れた。
「……よし、灯った。これで今夜はもう大丈夫」
「ありがとうな。危ないから降ろしてやるよ」
男たちは椰子酒を乱暴に煽ると、ラミウの背を強く手で押す。
乗った椅子からバランスを崩し、無様に転ぶラミウを見て、大人たちはゲラゲラと笑った。
「おっと、ごめんごめん! 降ろそうとして手が滑ったわ!」
「……っ、大丈夫。また何かあったら呼んでください……いつでも駆けつけますので」
ラミウはふらつきながらも立ち上がり、半ば逃げるように大人たちの元から離れた。
そうして再び、水晶灯を灯すべく、夜の街の巡回を始める。
(あの人たちと話すだけ無駄……大丈夫……私は私の仕事をすればいいんだから……!)
ラミウは脚を引きずりながら、大人たちが眠る明け方まで、水晶灯を灯し続ける。
本来なら自然に灯るはずの水晶灯だが、この地に限ってそうはいかない。
崖に囲まれた地下街は固い地盤で覆われているため、大地を流れるセルエネルギーの量が他所に比べて少ないのだ。
水晶灯を灯すには暗黒星石のデバイス経由で、セルエネルギーを直接流してやらなければならない。
現在、この街に存在する〈強き者〉は、ラミウただ一人であった。
よって、灯り番の役目はラミウに押し付けられている。
「はぁ、眠たいよぉ……どうして大人たちは明け方まで飲み続けるの? さっさと眠ってくれればいいのに……」
〈強き者〉は貴重な存在であるはずなのに、ラミウは大人たちから奴隷同然の扱いを受けている。
本来なら有難がるべき存在に対して、わざと虐げて楽しんでいるようにも思えた。
しかし、ラミウにとってはそれが日常であり、当たり前であるため、自らの扱いに対して異議を唱えることはない。
なのでラミウは出来るだけ感情を殺し、大人たちとの接触を極力避けるようにしていた。
(遭遇するなら大人たちより、獰植物の方がずっとマシ。本当に変な話だよ)
ラミウは道を兎のように飛び跳ねて、地面に散らばるココナッツの殻を軽快に避けていく。
そうして、自らに備わる優れた跳躍力を利用して、廃れた教会の屋根へと登り、地下路街を一望した。
「うん、灯していない水晶はなし。これで今夜は大丈夫そうだね」
見上げれば、天窓から覗く空が僅かに白み始めている。
やっと訪れる朝の気配に、ラミウはホッと一息ついた。
「はぁ……これでやっと、ゆっくり眠れる……」
ラミウはふと、着ている服から異臭を感じ、袖を鼻に近づける。
先ほど転んだ拍子に、床に落ちていた吐瀉物が服に付着していたようだ。
「うええっ、最悪! 井戸で服を洗わなきゃ……!」
汚れた服のまま眠るなんて、兎並みの嗅覚では到底無理な話だ。
ラミウは悪臭に顔を歪めながら、街にある唯一の井戸へと向かった。
「とりあえず、乾いちゃう前に軽く水で洗って行こう」
井戸に垂れた縄を引き、ラミウは桶を手繰り寄せる。
水は少しだけ濁っていたが、文句などは言ってられない。
袖と裾をすすいでいると、ラミウの背を覆うように、大きな影が視界に落ちる。
ラミウは驚いて勢いよく振り返った。
「ようラミウ、仕事終わりか。ちょうど良いから一杯付き合え」
「ダルシットおじさん……他の仲間はどうしたの?」
背後に立っていたのは、ダルシットという大柄な男――
ラミウの父親の弟であり、ラミウにとっての叔父である。
「はは、みんな酔って寝ちまった。まったく、どいつもこいつも情けねぇ奴らだ」
虱だらけの臭い頭を掻きむしりながら、ダルシットは気だるげに呟く。
「何しろ俺は一晩中、井戸の番をせにゃならん。酒でも入れなきゃやってられねぇ」
それにしたって、明け方まで飲み続けるのは異常以外の何ものでもない。
ダルシットはココナッツの殻に果実酒を注ぐと、無遠慮にラミウの前へ突き出した。
差し出された果実酒を見て、ラミウは悩みあぐねてしまう。
「ごめんね、ダルシットおじさん。私は子供だから、お酒はまだ飲めないんだ」
「何が子供だ。この間、敷物を赤く汚してただろう。もう無理が利く歳なんじゃねぇかぁ?」
「……違うっ、お酒は本当に苦手なの! 酔うと仕事に支障が出ちゃう!」
ダルシットは舌打ちをすると、ラミウの腕を乱暴に掴んで引き寄せる。
その拍子にラミウの手からココナッツの殻が滑り、果実酒が地面にこぼれ落ちた。
「痛いっ、放して! お酒臭いよぉっ!」
「口ばっかり達者になりやがって! いいから大人しく従ってろ! 俺はお前の叔父上様だぞ!」
「……っ、嫌だぁっ! たとえアンタがお父さんの弟だとしても、私はアンタが大っ嫌いっ!」
ラミウはダルシットの顔面めがけて、思い切り頭突きを繰り出した。
頭突きは見事にダルシットの鼻へと命中する。
「ぐおぉっ、クソッ……! 痛えじゃねぇかっ!」
ダルシットが怯んだ隙に、ラミウは脱兎のごとく駆け、スラム街から逃げ出した。
裏路地を抜けて地下路へと出て、自身が身を隠す緊急避難用ハッチを目指す。
「はぁ、はぁっ、こんな街……とてもじゃないけど正気じゃいられない!」
外界に近い緊急避難用ハッチは、スラム街から数キロ離れた場所に存在する。
地上へと続く非常階段は獰植物を恐れるせいか、大人は誰も近寄りたがらない。
かつては他所の居住区域へ繋がっていたであろうポータルへのゲートも、ラミウが生まれた時には既に土砂で埋まっていた。
埋まったままの状態を見ると、復興作業は行われていないようだ。
(きっと私たちは、この街ごと軍から見捨てられてるんだ。豊かなセルも、資源もない……復興する価値がない場所だもの)
ラミウは大人から身を守る為、ハッチへと続く階段の踊り場に、小さな隠れ家を作って暮らしていた。
「はぁっ、はぁっ……ああもう、何もかも気持ち悪いったらないよっ!」
隠れ家に戻るなり、ラミウは小さな木桶を手に取って、緊急避難用ハッチへと飛びつく。
錆びた南京錠をワイヤーで器用に開錠すると、重たいハッチを両手で思い切り押し開けた。
砂埃と共に、錆びたハッチが僅かに開く。
「ううっ、眩しい……! もう太陽が昇り切ってる……!」
ラミウは隙間に身を滑りこませ、密林が広がる外界へと抜け出した。
慣れた様子で木桶を深く頭に被ると、ハッチから木の枝へと飛び移る。
そして、両手でしっかり幹を掴み、ゆっくり慎重に滑り降りる。
ひとたび外へ出てしまえば、ラミウの前には自由しかない。
「やっぱり外は気分がいいなぁ。ひとり言を呟いても、誰も私を咎めないもん」
ラミウを害する大人たちも、嫌な叔父も追ってこない。
朝の光は冷えた心を、芯からポカポカに温めてくれる。
「さぁ、急ぎ足で川へ行こう。いつまでも臭いままじゃいられないしね」
ラミウは身体を清めるべく、密林の奥にある小川へと急いだ。
石鹸代わりのムクロジの実を、両手にいっぱい拾いながら、ご機嫌に歌まで口ずさむ。
「今日が晴れてて本当に良かった……日差しさえあれば、獰植物たちも大人しいし……」
途中で数匹の獰植物と遭遇したが、彼らは光合成に忙しいのか、傍を通るラミウに見向きもしない。
(ふふ……いい子だね。昼間は本当に大人しい。気持ちよく眠る姿が可愛いくらい)
地下路から三十分ほど歩いた先に、目的地の小川がある。
この小川はラミウにとって、生活に欠かせない場所だった。
壁のように切り立った崖が、冷たい水を絶えず奈落へ運んでくれる。
洗濯や水浴びに使っている小さな浅瀬は、隠れ家以上に秘密の場所だ。
「昨晩、雨が降ったからかなぁ。いつもより滝の水量が多い気がする」
ラミウは小川の水を木桶に汲んで、着ていた服をすべて脱ぐ。
ムクロジの実を木桶いっぱいに泡立てると、手のひらで掬って頭や身体に擦りつけた。
(うへぇ、おじさんに掴まれた腕がベトベトする……。一応念入りに洗っておこう)
身体を小川で清める間、汚れた服を桶の中に漬けておくことにした。
汚れをしっかり浮かせた後、すすいで絞って木に掛けておけば、昼頃までには乾くはずだ。
「ふぅ、全身綺麗に洗ったおかげでスッキリした。あとは……こっちも清めなくちゃね」
ラミウは暗黒星石の棍棒を手に取ると、小川の中へと足を踏み入れた。
棍棒の材質は暗黒星石――
天然石であるが故に、定期的に流水を当てて浄化しないと、セルが上手く流れなくなる。
「こういう道具を巷では〈セルデバイス〉って呼ぶらしいけど……この棍棒も、そうなのかな」
この棍棒は、ラミウの母から受け継いだものだ。
ラミウにとって棍棒は、仕事道具である以前に、母から受け継いだ大切な形見でもあった。
(お母さんも病気で倒れる前は、私みたいに灯り番をしてたんだよね……)
ラミウには、両親の記憶がほとんどない。
父親は生まれる前に行方不明となり、母親も物心つく前に病で亡くなっているためだ。
(もしもふたりが生きていたら、おじさん相手に怖い思いしなくても済んだのかな)
寂しさと悔しさに全身が激しく震え、瞳から涙が零れ落ちる。
漏れる嗚咽を塞ごうと、ラミウが口に手を当てた時――
「……っあ、しまった! 棍棒が!」
あろうことかラミウは手を滑らせて、大切な棍棒を流してしまった。
下流へ流されていく棍棒を、ラミウは泳いで追いかける。
(お願い、待って……! 大切な物なの……!)
必死になって泳いだおかげか、ラミウはなんとか棍棒に追いつく。
ラミウは半ば流されながらも、なんとか足の付く浅瀬まで泳ぎきった。
「はぁっ、はぁっ、溺れる寸前っ……本気で駄目かと思ったよぉっ……!」
形見の棍棒を胸に抱き、ラミウは呼吸を整える。
そして、岸に上がろうと立ち上がったところで、何かに躓き倒れ込んだ。
「うぎゃっ―― いったたた……もう、さっきから何なのさぁっ!」
文句を垂れながら足元を見ると、力なく横たわる少年の姿。
小さな少年が顔を半分、水につけた状態で倒れていた。
「……っ、男の子!? もしや死んでる……!?」
ラミウは顔を近づけて、少年をまじまじと観察する。
灰褐色の肌に、輪郭を縁取る黒い髪。
年齢はラミウと近いようだが、ラミウよりずっと背が低い。
「よかった、ちゃんと息してる……。どうやら眠ってるだけみたい」
少年の衣服は腰巻きのみの簡素なもので、目立った怪我などは見当たらない。
「この子……こんな所で倒れて、一体どうしたんだろう」
中でもラミウの目を引いたのは、少年の身体に彫りこまれた奇妙な刺青。
足先から手先、顔面まで、奇妙な柄が全身隈なく刻まれていた。
「この柄、まるで私の棍棒……セルデバイスの彫り物みたい……」
暗黒星石で作られた〈セルデバイス〉という道具には、セルを円滑に流すため、幾何学的な柄が刻まれている。
少年の全身に彫られた刺青は、セルデバイスに刻まれる柄とそっくりだった。
「……って、そんなこと考えてる場合じゃないよ! 今はとにかく、この子を温めてあげなくちゃ!」
ラミウは少年を引き上げるため、少年の身体に両手で触れる。
すると、触れたラミウの手のひらが、たちまち蒼く輝いた。
触れた箇所からセルエネルギーが刺青を通して少年の体内へと流れ込む。
「うわぁっ!」
予想だにしない現象にラミウは驚き、叫んで後ろに倒れ込んだ。
尻が川へと落ちた拍子に、少年の顔を飛沫が濡らす。
「ん……うぅ……っ、ゲホッ、はぁっ、はぁ……」
顔が濡れたことにより、意識を取り戻したのだろうか。
少年は僅かに身動ぎをして、薄い瞼をゆっくり開いた。
震える瞼の奥で、蜂蜜色の瞳がかすかに揺れる。
「……この子、まだ生きてる!」
ラミウは少年の脇に腕を通し、慎重に上体を抱き上げた。
どれほどの長い時間、川に浸かっていたのだろうか。
ラミウの胸に当たる少年の体は、驚くほどに冷えていた。
「どうしよう、どうしよう……服を着せようにも洗っちゃったし……!」
ラミウは少年を引きずりながら、荷物の置いてある浅瀬へと戻る。
そうして、日差しで温まった岩の上に、少年を仰向けで寝かせてやった。
「その岩の上で日向ぼっこしてて! すぐに服を用意するから!」
ラミウは急いで服をすすぎ、力いっぱい両腕で絞る。
「はぁっ、はぁっ、これだけギュッと絞れば、きっとすぐに乾くはず……!」
絞った服を木の枝に掛けるが、そう簡単には乾かない。
ラミウがひとりで慌てていると、背後で横たわる少年が、ラミウに向けて何かを小さく呟いた。
「……、……――」
「え!? 今なにか言った? どうしたの!?」
ラミウはすぐさま少年の元へ駆け寄ると、彼の口元に耳を寄せた。
少年は深い吐息と共に、ラミウに向けて言葉を紡ぐ。
「……、あったかい……キミがここまで運んでくれたの?」
「そうだよ、私はラミウ。あなた、名前はなんて言うの?」
「ラミウ……ありがとう……僕の名前はアイザーク」
ラミウの話す言葉の意味を、少年はきちんと理解しているようだ。
言葉が通じるか不安だったラミウは、思わず安堵の微笑みを浮かべた。
「アイザーク―― 親しみを込めてアイって呼ぶね。アイは一体何処から来たの?」
「…………」
ラミウの問いに対して、アイは何も答えない。
「もしかして……帰る場所が分からないの?」
「帰る場所なんて無い……それに僕、自分が何者か分からないんだ……」
アイの奇妙な返答に、ラミウは困って眉をひそめる。
「自分が何者か分からない? もしかして、記憶喪失か何かなのかな」
帰る場所がないと言われたら、家に送ろうにも送れない。
「……帰る場所がないのは流石に不味いよ。夜になったら獰植物だって狂暴になるし」
もうすぐ太陽が傾きはじめる。
いつまでもここに寝かせておくわけにはいかない。
考えながら、ラミウはアイの全身を見下ろしてみた。
アイはラミウより背が低く、身体は驚くほど痩せており、節々の骨が薄っすらと隆起して目立っている。
(この子、私よりずっと小さい。年齢も私より下なんだろうな)
凛々しい顔立ちの中に、幼さが僅かに残っていることから、ラミウはそう考えた。
(放っておいたら死んじゃいそう。私が来なかったら、この子はどうなっていたんだろう)
ラミウにとって、自分よりも弱い存在を見るのは、生まれて初めてのことだった。
可愛いという感情と共に、守らなくてはいけないという使命感さえ生まれてくる。
(うん……私はアイよりお姉さんだもん。私が彼を助けなくちゃ……!)
自分なんかが烏滸がましいと感じつつも、好奇心とお節介が勝ってしまう。
ラミウはアイに提案をしてみた。
「あのさ、アイが良ければなんだけど……私の隠れ家へ一緒に来ない?」
「……カクレガ?」
アイは単語を繰り返し、分からないと首を振った。
「私が隠れて暮らしている場所。暗くて、狭くて、居心地はお世辞にも良いとは言えない」
「ラミウが隠れて暮らしてる場所……」
「家具なんてものは一切なくて、あるのは毛布と食器と、自分で作った木桶くらい」
自分で説明しておきながら、ラミウは段々と惨めな気分になってきた。
とてもじゃないが、胸を張って招待できる場所とは言い難いからだ。
(――そんな場所、きっと来たいと思わないよね)
ラミウは目を伏せ、期待せずにアイの返答を待つ。
「……毛布と水筒と木の桶もあって、カクレガにはラミウもいる」
アイはひとつずつ丁寧に、ラミウの言葉を噛みしめるように繰り返した。
蜂蜜色の瞳を爛々と輝かせ、ラミウの顔を見つめたまま、満面の笑みで何度も頷く。
「連れてって。僕、ラミウと一緒にカクレガへ行きたい」
「えっ!? 本当に来るつもりなの!?」
「うん。僕はラミウと一緒に行く。傍でラミウの力になって、助けてくれたお礼がしたい」
あまりにも素直すぎるアイの言葉は、ラミウの胸に未知の甘い熱を灯した。
まるで長年冷え切って、凍てついた心を溶かすかのように。
(もしかしたら、アイは私と同じ孤児なのかもしれない)
帰る場所なんて無いという言葉も、自分が何者か分からないという言葉も、天涯孤独の身であれば納得できる。
それなら尚更、近い境遇にある自分が守ってやらねばと、幼いラミウの心の中に、強い共感と責任感が芽生えた。
「それじゃあアイ……私と一緒に家へ帰ろう。三十分くらい歩けるかな?」
「うん、少しずつなら歩けるよ。僕の手を握って引いて欲しいな」
ラミウはアイの手を引いて、共に地下路の隠れ家へと向かう。
道中、アイは少しだけ緊張した面持ちで、ラミウの顔を何度か見上げた。
「心配しなくても大丈夫だよ。私はアイのこと、迷惑なんて思ってないから」
ラミウはアイの手を強く握り、安心させるように歯を見せて笑う。
アイも少しだけ照れ臭そうに微笑んで、ラミウの手を握り返した。
「いい? 毛布は一枚しかないからね。服は縫ってあげるけど、食器は自分で木から彫ってね」
「任せてラミウ。教えてくれれば何でも覚える。食器でも何でも沢山彫るよ」
ふたりは同じ方角を向き、小さな歩幅で歩いて行く。
少女ラミウと少年アイザーク――
孤独だったふたりは出会い、血の繋がらない小さな家族となった。




