第55話「咲いて綻ぶ燃え実の花」
繭の中は人肌程度に生暖かく、噎せ返るほどの蜜香が拡がっていた。
四肢を触手に絡め取られて、強い力で弄ばれる。
(くそ……上下が分からなくなる……! それにこの力……丸まっていないと引き千切られそうだ……!)
黒い粒子に覆われた巨大な繭の内側は、まるで土留め色の内臓壁。
幾重にも重なったヒダが絶え間なく蠕動し、中に入った獲物を容赦なく擦り潰していく。
『#春梅__チュンメイ__#、俺を置いて繭から出ろ! このままじゃ潰されて死んでしまうぞ!』
「んううっ、逃げたいけど無理っ、うお、おっ……兄さ……あっ、ああっ……」
視界の端で、#周__シュー__#の身体がひしゃげるのを見た。
直後に春梅のくぐもった声と、何かが弾けて潰れていく音。
「……春梅さんっ、大丈夫!? 周兄さん、どこにいるんだっ!」
#焔__ホムラ__#は怒面の緊張を保ったまま、全身の筋肉で圧力に抗う。
投げかけた声に返事はなく、聞こえるのは蠢く触手の音だけ。
「はぁ……はぁ……まさか死んだか……? おい……無事なら返事をしてくれっ……!」
目の前を通過していく触手たちの中に、千切れた頭皮の一部を見た。
表面に残る髪の色から察するに、おそらく春梅のものだろう。
(ああ、これは確実に死んでいるな。この場で他人に頼れないし、誰かに頼られることもない)
焔は僅かに目を細め、動揺を静かに押し殺す。
仲間を失った状態から気持ちを切り替えることなど、焔にとっては造作もないことだった。
(……とにかく、体勢を正しい状態へ戻さなければ。頭に血が上れば意識を失う)
上下の確認をするために、焔は舌を突き出し唾液を垂らそうと試みた。
唾液の落ちる方向を確かめながら、少しずつ身体を動かして、体勢を正しい位置に戻していく。
やがて眼下に白い雪が見え、片足のつま先が凍った雪を踏んだ。
(脚に触手が絡まない。地面の付近は寒いから、動きが幾分か鈍いのか?)
どんなに身体を沈めても、地面にはつま先しか届かない。
焔は腕を持っていかれないように、細心の注意を払いながら目の前の触手を掻き分けた。
「姉さん、どこに隠れているんだ! 僕の声が聞こえてるんでしょう!?」
たちまち、激しい耳鳴りが焔を襲う。
呼びかけに反応するかのように、焔の脳に直接言葉が流れ込んだ。
――家へ帰る……役目の解放……それ自体に何の意味がある?
――墓に入って終われるほど、我らの未練は弱くない……!
――今更、何をしたところで……生への未練は晴らせない。
複数人――あるいは、それ以上。大勢の声。
赤羊峰で生贄となり、命を落とした歴代英雄の嘆きと怒り。
(甘かった……春梅さんは、怒りを買ってしまったんだ……)
#赤羊峰__せきようほう__#からの帰還だけが、#战斗羊__ジャンドゥーヤン__#の救済ではない。
生きることへの執着、果たせなかった夢、家族や食、恋への未練。
誰一人として同じ嘆きは存在しない。
積み重なった犠牲者たちの、異なる価値観が窺えた。
生きたい、殺したい、暴れたいと――
#战斗羊__ジャンドゥーヤン__#の強い未練が、衝動となって焔の脳へと流れ込む。
「……っ、うああっ、うるさい黙れぇ……っ! 姉さんの声が聞けないじゃないかぁっ!」
焔は手のひらにセルを流し、触手を焼いて引き千切った。
しかし、黒い粒子を纏った触手は、千切った傍から再生を繰り返す。
何度千切って藻掻いても、次から次へと襲い来る。
これでは無駄に体力を奪われる一方だ。
「はあ……はぁ……クソ……せめて武器があれば……!」
焔は一旦抵抗をやめ、どうするか考えた。
鉄扇があれば引き千切るよりも簡単に刈れる。
しかし、自身の鉄扇は肩から胸に深く突き刺さったまま。
全身の筋肉を硬く強張らせる怒面を保っていなければ、とうに失血死している。
「……いや、抜けるか? 触手に締められている、この状態なら……」
まるで他人事のように呟いてから、焔は柄頭に手を添える。
そうして、あえて脇を開いて、自らの肩口に触手を意図的に絡ませた。
「はぁ……はぁ……よし、抜いてみよう……! 足掻けず無駄死にするくらいなら……っ!」
親指と人差し指で輪を作り、僅かに露出した柄頭を掴む。
何度か深く呼吸をした後、覚悟を決めて目を閉じた。
「ふぐっ、うう、ふう……うううっ!!」
くぐもった声で唸りながら、息を吐くのに合わせて鉄扇を引き抜く。
怒面は解除できない。全身は固く強張らせたまま。
柄が握れる程度に露出したことを確認すると、焔は柄を握る手を逆手に持ち替えた。
手を止めたいという意思をすべて無視して、真っすぐ鉄扇を引き抜いていく。
「……っ、ぐ……あ、あああ、ああああーーーーっ!!」
断末魔とも呼べるほどの叫びと共に、鉄扇は焔の肩から抜けた。
気絶した拍子に落とさないよう、焔は目の前の触手に向けて鉄扇を思い切り突き立てる。
悲痛な焔の叫びは、塔にセルを流す#岳__ユエ__#の耳にも届いていた。
繭から数十メートル離れた塔からは、中の様子は窺えない。
今や、焔という男の存在は最後の頼みの綱でもある。
岳は忽ち不安に駆られ、繭に向かって大声で叫んだ。
「おい焔ァッ! 静かになったけど大丈夫かっ!? お前、ちゃんと生きてんだろうなぁっ!?」
いつもの調子で投げかけられた、荒々しい親友の声が、気を失った焔の耳に届く。
「……ぐ……がはっ! はぁっ、ふはっ……オエェェッ!」
焔は覚醒すると同時に、胃の中のものをすべて地面に吐き戻した。
激痛の余韻に慄きながらも、目の前に突き刺した鉄扇を引き抜く。
「ああ、生きてる! 死ぬかもだけど……辛うじて……!」
溢れ出る血潮と熱い体温に反応しているのだろうか――
繭の中の触手は、焔の傷口に集い、帯のように纏わりつく。
肩口を締める強い力が、今は逆に有難い。
「ふう……よし、いいぞ……そのまま強く縛っててくれ……!」
セルを流した鉄扇で、目の前の道を切り開く。
前方から響く大きな鼓動と、赤く輝く光の方へ。
赤い光が明滅し、心臓のように一定のリズムを刻んで脈打つ。
繭玉の中心には、細かな血管が張り巡らされた厚い膜が存在した。
まるで胎児が子宮の中で、産まれる瞬間を待ち望むように――
一糸纏わぬ裸の#煙__イェン__#が、黒い羊に抱かれるように揺蕩っている。
「姉さん……! 姉さん、起きて……迎えに来たよ……っ!」
煙の身体をよく見ると、白い肌と黒い羊の境界が酷く曖昧であった。
#战斗羊__ジャンドゥーヤン__#の巨大な鉤爪や鋭い角が、煙から生えているように見える。
「今出してあげるから! ごめんね、すぐに来てやれなくて!」
焔は右腕を前に伸ばし、鉄扇の切っ先を膜に当てる。
その瞬間、再び激しい耳鳴りと共に、焔の脳に声が響いた。
――強くなりたい。大きくなりたい。我も焔や岳のように。
「……姉さん!?」
絶対に間違えようがない馴染みのある声。
言葉ではなく感情として、焔の脳に流れ込む。
焔の脳裏に浮かんだのは、#霧恩寺__きおんじ__#へと向かう輝かしい春の日。
神輿に乗り込む周の背後で、母に抱きついて泣き喚く春梅。
――我も周の兄者のように、楽面の舞いで強くなりたい。
「春梅さんだ……僕は気が付かなかったけど、姉さんの視界では春梅さんを捉えてたんだな……」
それはまさしく、あの日、あの時の煙の気持ち。
煙が見たままの眺望が、焔自身の記憶となって、色鮮やかに呼び起こされる。
――分かってる……みんなが弟しか見ていないことを。所詮、我は女であり、虎の威を借る狐なのだ。
次に脳裏に浮かんだのは、笑顔で語りかける郷の人々。
皆が口々に呼ぶ《ムー・イェン》は、すべて焔へ投げかけられていた。
手を引いて走る煙に対して、呼び掛けられる言葉はひとつもない。
「なんだこれは……知らなかった……! ムー・イェンという名で、僕らふたりを呼んでるのかと……!」
他人に対して興味のない焔にとって、煙の見ていた景色は恐ろしいまでに残酷であった。
同じ時間、同じ場所を、共に歩いていたはずなのに、見えていたものがまるで違う。
――我も焔や岳のように、底なしに飯を食べられたら……もっと頼もしくなれたのだろうか。
次に脳裏に浮かんだのは、小さな手に握られた、冷めた椀。
視界の端に映るのは、修行で通った滝だろうか。
「そんな……今のまま十分に頼もしいよ……! 姉さんが傍にいるだけで、僕は心強かったんだ……!」
成長と共に食べる量が増えたのは自覚していた。
鉛のような筋肉を維持するためには、必要不可欠なことだからだ。
煙がそんなことを気にしていたとは、露ほども知らなかった。
次に脳裏に浮かんだのは、三人で歩いた霧恩寺への帰り道。
修行に明け暮れる日々の中で、束の間に訪れる穏やかな時間。
――足が短くて置いていかれる。もっと大きな身体なら、歩幅を合わせて歩けただろうか。
視界に映るのは、細いつま先。
転びそうになりながらも、半ば駆けるように必死に歩く。
横を向いて見上げた先に、楽しそうに笑う岳と焔自身の姿が見えた。
ふたりは煙の方を見ることもなく、美しい夕日を見つめている。
「綺麗だね……そう言ったのを覚えてる。どうして言ってくれなかったの!? 姉さんが軽やかに歩くから、僕らは何とも思わなかった!」
息を弾ませて駆ける煙が、あまりにも楽しそうだったから。
まさか追いかけているとは知らず、何も考えずに歩いていた。
次に脳裏に浮かんだのは、舞台の上で舞う岳と焔の優美な姿。
張り詰めた筋肉が四面舞闘戯の舞動作を確固たる武術に昇華している。
――どんなに必死に頑張っても、影を踏んで置いていかれる。我がもしも男ならば、同じ舞台に立てたのだろうか。
戦いたいという気持ち以上に、負ける恐怖が込み上げてくる。
同じ化粧、同じ衣装を纏う、自らの理想の生き写しに対して。
姉の視界越しに見る自分の姿は、姿見で見るよりも恐ろしく見えた。
「違うよ……置いてかれてなんかないっ……! 姉さんに置いていかれないよう、僕の方がずっと追いかけてたんだ……!」
次に脳裏に浮かんだのは、甘く香る桃園にて、乱れた醜い男の姿。
熱に浮かされた男の瞳に、尊厳を砕かれて涙を流す、哀れな女の泣き顔が映る。
――厚い舌、大きな腕、押してもビクともしない胸。力強く律動する熱が、心の内側を掻き乱す……!
子供のように乞い縋る腕に、太い血管が克明に浮く。
脂肪に包まれた柔らかな腕では、引き離せないほど強い力。
思い起こされる光景に、思わず焔は絶句した。
ふたりの甘酸い思い出まで、まるで違う出来事のよう。
「……姉さん……そんなことを思っていたの……? 僕が喜んでいた時も、悲しい思いをしてたの……!?」
焔が感じていたことと、煙の認識は何もかもが違っていた。
他人の気持ちに興味が持てなかった自分自身を、嫌悪で殺したくなるほどに。
――羨ましい、妬ましい、強くなりたい、負けたくない、影を踏むな、馬鹿にするなッ!
慟哭にも似た感情が焔の心に流れ込んだ。
愛と憎しみで燻る想いは、燃え実のように胸を焦がす。
「誰も馬鹿にしてなんかないよっ! 僕は昔から姉さんだけを、心から愛しているんだからっ!!」
感情に応えるかの如く、焔は目の前の煙に向けて大声で叫んだ。
泣き声と怒号が混然一体となった咆哮は、遠くの山々に木霊する。
声が煙にまで届いたのか、眠っていた煙が瞼を開いた。
大きく見開かれた赤い瞳が、血塗れの焔を真っすぐに射貫く。
――愛している……? 我もなのだ。強いうぬを愛している。
威嚇や牽制とは別次元の緊張が、焔の身体を縛りつける。
それは、愛しさと恐怖が混ぜこぜになった、魅了とも言える奇妙な感覚だった。
「はぁ……はぁ……姉さん……っ……!」
目の前で、煙を包む膜が緩やかに割れて、花弁のように開いていく。
その様はまるで、燃え実の花が美しく赤く咲き#綻__ほころ__#ぶかのよう。
まるで#褥__しとね__#に誘うように、煙は焔に手を伸ばした。
『焔、我とひとつになろう。闘志を燃やす強き者を、#战斗羊__コンスエロ__#は歓迎する』
差し出された鋭い鉤爪に、血濡れた焔の指が触れた。
たちまち、無数のツタが焔の身体を絡め取り、その身体を煙の胸元へと引き寄せる。
『うぬは二度と苦しまなくていい。悲しむことも、悩むことも、飢えることもなく、痛みもない……』
煙は白く柔らかな小振りの胸で、焔の頭を優しく抱く。
まるで溶かされていくような、原始的な安堵感が胸に満ちた。
「姉さんの肌、すごく冷たい……花の蜜の匂いがする……僕の身体……汗臭くてごめんね……」
『#美味__うま__#そうな雄の濃い香り。我を前に怯えているのか? それとも歓喜に昂っているのか?』
鉤爪に隠れた冷たい五指が、熱く震える下肢を撫でた。
あまりの冷たさに声を漏らし、恐怖と多幸感が全身を静かに戦慄かせる。
『焔よ、決して怯えるな。完全な姿に戻るだけ……我らは元よりひとつなのだ』
「怖くないよ……夢みたいだ……姉さんとひとつになれるんだから……」
姉さんの内側に溶けてしまいたい――
思えばずっと昔から、こうなることを望んでいた。
そんなことは無理だと早々に諦めて、前を歩く姉を必死に追った。
いつの間にか追い抜いていたことすら気付かないまま、一心不乱に前へ、先へ。
姉と共に在り続けるには強くなるしかないのだと、自らの関心をその目的だけに向けていた。
『眠れ……我はうぬの揺り籠なのだ。#穆焔__ムー・イェン__#となって生きてやろう』
「姉さんの中はどんな景色……? 暗闇だったら少し怖いな」
『おそらく、理想の眺望だ。強く勇ましい#穆焔__ムー・イェン__#が……#战斗羊__ジャンドゥーヤン__#として君臨する』
強く勇ましい穆焔が、#战斗羊__ジャンドゥーヤン__#として君臨する――
母親の腹の中で別れなければ、こんなに回りくどいことをしなくても良かったのだろう。
焔は安堵に微笑んで、ゆっくり両の瞼を閉じる。
繭の内側に響くのは、絶えず繰り返す鼓動の音だけ。
一方、繭の外側では――
岳が焔の動向を固唾を呑んで見守っていた。
「……ううっ、くそ……身体が固まって動けねぇ……!」
コンセミア化によって得た膨大なセルエネルギーも、いよいよ底が見えてきた。
生命力を塔に流し込むことで、瑞々しく張りのあった肌は、古木のようにひび割れている。
弾力のあった肉体は、今や結晶のように所々透き通り硬くなっていた。
切断された左腕の断面は、すっかり乾いて血の一滴すら零さない。
「やべぇ……このままじゃ時間がねぇ……!」
このままでは全身が結晶と化し、植物同様の眠り人になる――
岳に残された手段は、繭の中にいる親友たちに、自らの声を届けることのみ。
「くそ……死にたくない……死にたくねぇけど……っ……!」
思えば、岳は獰植物に目を抉られた時点で、小満のように#獰植物__ゾンビ__#と化してもおかしくはなかった。
獰植物ではなくコンセミアに罹患したのは、何が原因か定かではないが、心の準備をする時間は十分にあった。
「俺の命運を分けたのは……#女神__コンスエロ__#とやらの気まぐれか、それとも粋な計らいか……」
岳は天を仰ぎ、星空を揺蕩う蒼い薔薇の花を見上げる。
そして深く息を吸い、喉が張り裂ける勢いで怒鳴り声を上げた。
「焔ァーーッ! 俺の声が聞こえるかぁぁーーっ!!!?」
「……っ……岳……?」
幸福に沈みかけた意識の底で、鼓膜を揺らす親友の声。
焔の意識は再び浮上し、重い瞼を僅かに開いた。
「おいっ、生きてんだろ!? #战斗羊__ジャンドゥーヤン__#に#唆__そそのか__#されてんじゃねぇだろうなぁ!?」
赤羊峰の塔を抱きながら、岳は繭に向かって言葉を投げ続ける。
自分が追い続けた好敵手も、想い続けた女も、こんなところで終わるほど弱い人間ではないと。
「よく聞け焔ッ! 周とかいう男の様子を見る限り……#战斗羊__ジャンドゥーヤン__#に取り込まれれば、その時点で煙は人類の敵だ!」
岳は力を振り絞り、塔の表面へ残された右手を押しつける。
「しかし……赤羊峰にセルを流して、それが煙まで届いたならば! 煙の#霞__かすみ__#が晴れるかもしれねぇ!」
両腕と胴を切断されて、繭と繋がるツタをすべて毟り取られた状態の周は、一時的に正気に戻っていた。
煙に大量のセルを流せば、完全とは言わずとも、心を覆う黒い霞を晴らせるかもしれない。
岳の言葉が、深く沈んでいた焔の意識を強く引き上げた。
「姉さんに……セルを流せれば……?」
焔は煙に回した手に、セルを流そうと力を込める。
しかし、思うようにセルが流れない。
乞い縋るように伸ばした腕は、末端から赤黒い粒子に浸食されていた。
今この瞬間も、焔は煙と共に恐ろしい化け物に姿を変えようとしている。
「お前のことだ……どうせセルを流せねぇだろ。お前は何もしなくていい。お前は煙を死ぬ気で抱いてろ!」
焔は岳の言葉通り、煙の身体を両腕で強く抱きしめた。
異変に気が付いた煙が身動ぎし、焔の拘束から抜け出そうとする。
「岳っ! 姉さんを抱いてるから急いでくれっ!」
「……おっ、返事有りだな。地面に足付けて踏ん張れよ。お前は煙への伝導体だ! 俺がここからセルを流して、繭の中まで届けてやる!」
焔は言われた通り、片足でツタを蹴り破り、地面に足を突き立てた。
「足付けたぞォーーっ! 岳っ、思い切りセルを流してくれぇぇーーっ!」
「ああ。焔……煙を頼むぜ。お前には、煙を守る責任があるっ!!」
藻掻く煙を抑え込むため、焔は再び全身の筋肉を強張らせる。
そうして煙の小さな身体を、正面から抱え込むように拘束した。
「――ごめん姉さん! 怒面、地獄門ッ!!」
「――いくぞ焔ぁッ! エンゲーージッ!!」
岳と焔の声がひとつに重なり、忽ち、繭の中が蒼く染まる。
稲妻のような閃光が、頂上の塔から大地を伝い、焔を通して煙へ。
赤羊峰の頂上から巨大なセル光が迸り、衝撃波と共に雲海を吹き飛ばした。




