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第17話:雷鳴の断罪と、決別の宣言

「……私の妻に刃を向けるとは。万死に値するな」


 広間に響き渡ったのは、絶対零度の冷気を纏ったルシアン様の声だった。

 ガキィィィンッ! と凄まじい火花が散る。ルシアン様が片手で軽く剣を弾き返しただけで、エドワード殿下は体勢を崩し、無様な音を立てて大理石の床に尻餅をついた。


「ひぃっ……!」

「エドワード様!」


 尻餅をついた殿下に、ミアが悲鳴を上げて駆け寄る。

 玉座の国王陛下も、周りの貴族たちも、ルシアン様から放たれる本気の殺気に圧倒され、声一つ出せないでいた。


「ル、ルシアン公爵! 貴様、王族に向かって剣を向ける気か!」

「先に剣を抜いたのは貴方です、殿下」


 ルシアン様は剣の切っ先を下げたまま、虫けらを見るような目で殿下を見下ろした。


「丸腰の令嬢に斬りかかろうとするなど、騎士の風上にも置けない下劣な振る舞い。我が妻に危害を加えるというのなら、相手が誰であろうと斬り捨てる。それが私の誓いだ」

「つ、妻だと……!? ふざけるな、アメリアは俺の……!」

「いい加減になさってください!!」


 私はたまらず、ルシアン様の背中から一歩前へと進み出た。

 今までずっと、父や殿下の顔色を窺い、自分の意見を押し殺してきた。でも、もう我慢の限界だった。ルシアン様を「脅した悪人」扱いし、挙句の果てに剣まで向けるこの男を、私はもう絶対に許せなかった。


「殿下はご自分のことしか考えていらっしゃらない! 私が絶望して国が凍りついた時も、貴方は私を心配するどころか『早く泣き止め』と罵倒しただけでした!」

「な、なにを……」

「国が晴れた途端に『迎えに来てやった』だなんて、都合が良すぎます! 私は貴方の天候操作の道具でも、人形でもありません!」


 胸の奥底で、かつてないほどの激しい怒りがマグマのように煮え滾るのを感じた。


(許さない。私の大切な人を、私の居場所を、壊そうとするなんて絶対に許さない!)


 その時だった。

 広間の高い天井にある明かり取りの窓から差し込んでいた陽の光が、急速に黒く塗り潰されていく。

 外の空が、昼間だというのに真夜中のように暗くなり始めたのだ。


 ゴロゴロ……!

 ピシャァァァンッ!!!


 広間のガラス窓がビリビリと震えるほどの、凄まじい雷鳴。

 私の()()()()()に呼応して、王都の上空に特大の雷雲が発生したのだ。


「ひっ!?」

「怒りを鎮めろ! このままでは王宮に雷が落ちるぞ!」


 国王陛下が玉座から立ち上がり、青ざめた顔で叫んだ。

 しかし、私の怒りは収まらない。ルシアン様と出会って知った()()()を守るためなら、私はどんな雷だって落としてみせる。


「エドワード殿下! そしてお父様!」


 私は広間に響き渡る声で、はっきりと宣言した。


「私はもう、貴方たちの言いなりにはなりません! 私の心は、私の感情は、私を大切にしてくださるルシアン様だけのものです!」


 ピシャァァァァァンッ!!!!


 私の宣言と同時に、これまでで一番大きな落雷の音が轟いた。

 直後、広間の大窓ガラスがパリンッと音を立てて割れ、そこから信じられないほど太い雷光が、一直線に広間の中へと飛び込んできたのだ。


「うわぁぁぁぁっ!?」


 雷光が直撃したのは、腰を抜かして床に座り込んでいたエドワード殿下の――見事にセットされた金髪の頭の真上(というか、数センチずれた床)だった。


 バチバチッ! と激しい火花が散り、広間は焦げ臭い匂いに包まれる。

 黒焦げになったのは殿下の足元の絨毯と、殿下の髪の毛の先だけだったが、そのあまりの恐怖に、殿下は白目を剥いてその場にバタリと気絶してしまった。


「え、エドワード様ぁぁぁっ!」

「ひぃぃっ! アメリア、お前、王族に雷を……っ!」


 ミアが泣き叫び、父は信じられないものを見るような顔で腰を抜かしている。

 私は大きく息を吐き出し、静かに彼らを見下ろした。


「……私の意思は、お伝えしました」


 静まり返る広間の中で、ルシアン様だけが、誇らしげに、そしてひどく愛おしそうに私を見て微笑んでいた。

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