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第18話:王の決断と、完全なる決着

 焦げ臭い匂いと、静寂が支配する「真実の広間」。

 床には、頭の先をチリチリに焦がして白目を剥き、完全に気絶しているエドワード殿下が転がっている。


「ひぐっ、えぐっ……エドワード様ぁ……!」

「ああ、なんということだ……私の、私の輝かしい未来が……」


 すがりついて泣くミアと、完全に腰を抜かして頭を抱えているお父様。

 その無様な姿を見下ろしながら、私は不思議なくらい冷静だった。今まで私を縛り付けていた家族や王家という鎖が、先ほどの雷鳴と共に粉々に砕け散ったのを感じていた。


「……衛兵。その愚か者を連れ出せ。直ちに治療を行い、目を覚ましたら地下牢へ放り込んでおけ」


 沈黙を破ったのは、玉座から重々しく立ち上がった国王陛下だった。


「へ、陛下!?」

「アメリア嬢に刃を向けた上、彼女の心をそこまで傷つけ、我が国を再び滅亡の危機に陥れかけた罪は重い。……エドワードは第一王子の身分を剥奪し、廃嫡とする。以後は北の極寒の地にある鉱山にて、生涯をかけて国のために労働させる」

「そ、そんな!」

「そして、レインスォース侯爵」


 陛下の鋭い視線が、ビクッと肩を跳ねさせた父へと向けられた。


「其方も同罪だ。アメリア嬢という国の至宝の価値に気づかず、虐げ続けた愚かさ。侯爵家の領地の一部を没収し、今後一切、アメリア嬢に関わることを禁ずる」

「あ、ああ……」


 父は顔面を蒼白にし、その場に崩れ落ちた。

 私を散々「不気味な女」と虐げ、ミアばかりを可愛がってきた父の自業自得の末路だった。彼らは衛兵に両脇を抱えられ、無惨に広間から引きずり出されていった。

 厄介者たちが消え、広間に再び静寂が戻る。

 すると、ルシアン様が剣を鞘に納め、国王陛下に向かって真っ直ぐに進み出た。そして、優雅に片膝をつき、臣下の礼をとる。


「陛下。ご覧の通り、アメリアの心は既に私の手の中にあります」

「……うむ。あの落雷を見れば、嫌でも理解できる。エドワードの愚行、王の責任として詫びよう。公爵よ」

「はい」

「其方に、アメリア嬢を正式に託す。国のため……いや、彼女自身のために、どうか生涯をかけて彼女を幸せにしてやってくれ。これが王としての、私からの唯一の頼みだ」


 国王陛下のその言葉を聞いた瞬間。

 私の中で、ずっと張り詰めていた最後の緊張の糸が、ふつりと解けた。

 もう、誰も私を縛らない。誰も私を虐げない。

 私は、私が選んだ人の傍に、ずっといていいのだ。


(ああ……よかった)


 胸の奥底から、じんわりと温かくて、甘い感情が湧き上がってくる。

 「嬉しい」「幸せだ」「ルシアン様が大好き」。

 そんな純粋な思いが、私の中を満たしていく。

 すると――。

 先ほどまで、雷を落としていた分厚い暗雲が、まるで嘘のようにパァァァッ! と一瞬で四散したのだ。


「おおっ!」

「見ろ、空が!」


 割れた広間の大窓から、まるで祝福するかのように、キラキラと輝く金色の陽の光が降り注いだ。

 ただの晴れではない。光の中には、淡いピンクや黄色の小さな花びらが混じって風に舞い、広間中がうっとりとするような甘い春の香りに包まれる。

 怒れば雷を落とす恐ろしい令嬢から、一瞬にして『春をもたらす女神』へと変わった私を見て、貴族たちは感嘆のため息を漏らし、その場に跪いて祈りを捧げ始めた。


「見事だな」


 ルシアン様が立ち上がり、私の方へと振り返った。

 その顔には、先ほどまでの冷酷な『氷の公爵』の面影は欠片もなく。ただただ、愛しいものを見つめるような、甘く優しい微笑みが浮かんでいた。

 彼は私のもとへ歩み寄ると、私の手を取り、その甲に恭しく口付けを落とした。


「帰ろう、アメリア」

「……はい、ルシアン様!」


 私は、今までで一番の笑顔で頷いた。

 降り注ぐ陽の光と花吹雪の中、私たちは手を繋ぎ、堂々と王宮の広間を後にした。

 もう、過去を振り返る必要はない。私の前には、ルシアン様と共に歩む、温かくて眩しい未来だけが広がっていた。

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