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第16話:査問会という名の茶番

 翌日。私とルシアン様は、重苦しい空気が漂う王宮の「真実の広間」に立っていた。

 円形に作られた広間を取り囲むように、国王陛下をはじめとする高位の貴族たちが並び座り、その視線はすべて中央に立つ私たちへと向けられている。

 そして、国王陛下の傍らには、エドワード殿下とミア、そして私の父の姿があった。


(お父様……)


 すがるような思いで父を見たが、父はやはり私からスッと目を逸らした。

 代わりに、エドワード殿下が勝ち誇ったような笑みを浮かべて私を見下ろしている。


「よくぞ参った、フロストバイン公爵、そしてアメリア嬢」


 玉座に座る国王陛下が、重々しく口を開いた。


「事の経緯はエドワードから聞いている。公爵、其方はアメリア嬢を武力で脅し、無理やり邸に留め置いているというのは真実か?」

「事実無根です、陛下」


 ルシアン様は微塵も動じず、氷のように冷ややかな声で即答した。


「私は陛下のご命令通り、国を氷河期から救うため、アメリア嬢を保護し、誠心誠意もてなしただけです。彼女が現在、我が邸で心穏やかに過ごしていることは、ここ数週間の王都の快晴が何よりの証拠でしょう」

「嘘をつけ!」


 エドワード殿下が声を荒げた。


「アメリアは俺の婚約者だ! 機嫌が直ったのなら、速やかに王宮へ戻すのが筋だろう! それを拒むなど、公爵、貴様はアメリアの天候を操る特異体質を我が物にし、王家を脅かそうと企んでいるに違いない!」

「……殿下。天候を操る彼女の特異体質を『国を豊かにする道具』としてしか見ていないのは、貴方の方ではありませんか?」


 ルシアン様の鋭い指摘に、殿下は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに顔を真っ赤にして反論した。


「黙れ! アメリア、お前からも言ってやれ! こんな無骨な男の屋敷に押し込められて、さぞかし不愉快だっただろう! もう大丈夫だ、私が守ってやるから、こちらへ来なさい」


 殿下が、芝居がかった手つきで私に向かって手を差し伸べる。

 ミアも、殿下の腕にすがりつきながら「お姉様、怖かったでしょう? 早く私たちのところへ戻ってきて」と、白々しい涙を浮かべていた。

 この人たちは、本当に何も分かっていない。

 私が何を悲しみ、何に絶望したのかを。


「……お断りします」


 私は、震える手をぎゅっと握りしめ、はっきりと声に出した。


「なっ……!?」

「私は、ルシアン様から脅されてなどいません。むしろ、王宮にいた頃よりもずっと自由で、幸せな日々を送っています」

「アメリア! 貴様、何を血迷って……!」

「血迷ってなどいません!」


 私は殿下の言葉を遮り、初めて彼を真っ直ぐに睨みつけた。


「殿下は、あの夜会で私を『陰気で不気味な女』と仰いました。そんな私を、ルシアン様は『春の妖精』だと言ってくださった。私が悲しめば一緒に悩み、私が笑えば、誰よりも嬉しそうに微笑んでくれた。……私は、私を一人の人間として大切にしてくださるルシアン様の傍にいたいです!」


 言い切った瞬間、広間がシンッと静まり返った。

 同時に、私の昂る感情――ルシアン様への絶対的な信頼と、愛の証として、広間の高い天井にある明かり取りの窓から、眩いほどの陽の光がパーッと差し込み、私とルシアン様を包み込んだ。


「おお……! なんという神々しい光だ!」

「アメリア嬢は、心から公爵閣下を慕っておられるのだな!」


 周囲の貴族たちから、どよめきと感嘆の声が漏れる。

 私が無理やり従わされているわけではないことは、この光を見れば一目瞭然だった。


「ふ、ふざけるな! お前は次期王妃になる女だ! 俺の命令が聞けないというのか!」


 面目を丸潰れにされた殿下は、顔を真っ赤に怒張させ、ついに腰の剣を引き抜いた。


「エドワード! 剣を収めよ!」

「うるさい! 俺をコケにしおって! こうなったら、その忌まわしい体質ごと、俺が切り刻んでやる!」


 狂乱した殿下が、刃を振り上げて私に向かって飛びかかってくる。


 「ひっ……!」と身を縮めた瞬間。


 ガキィィィンッ!!!


 甲高い金属音が広間に響き渡った。

 ルシアン様が、瞬きする間もない速さで剣を抜き、殿下の一撃を軽々と受け止めていたのだ。


「……私の妻に刃を向けるとは。万死に値するな」


 ルシアン様の瞳から、本気の殺気が放たれた。

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