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第11話:空前絶後の大虹と、極上のディナー

 空を覆い尽くすほどの、見事な三重の大虹。

 それが自分のときめきの証明だと知っている私は、温室の床にしゃがみ込んだまま、両手で顔を覆ってぷるぷると震えていた。


「だ、大丈夫か? 顔が赤い。やはり少し熱があるのでは……」

「ち、違いますっ! 熱じゃありません!  お願いですから、今は私を見ないでください……っ」


 心配そうに顔を覗き込んでくるルシアン様に、私は悲鳴のような声を上げた。

 彼の真っ直ぐな瞳に見つめられるだけで、胸の奥が締め付けられて、空の虹がさらに輝きを増してしまいそうだったからだ。


「そうか? ……しかし、見事な虹だな。王都の民もずいぶんと喜んでいるようだ」


 ルシアン様は眩しそうに空を見上げ、満足げに頷いている。

 私の恥ずかしさなど露知らず、彼は本気で「自分のエスコートの成果だ」と誇らしく思っているらしい。その少しずれた真面目に、また胸がトクンと鳴った。


「これほど美しい空を見せてくれたのだ。今夜は、王都の平和を祝って特別なディナーにしよう」

「と、特別なディナー……ですか?」

「ああ。君の心をさらに満たすために、料理長に腕によりをかけさせる。楽しみにしていてくれ」


 そう言って微笑むルシアン様の顔があまりにも綺麗で、私はまたしても真っ赤になって頷くことしかできなかった。


 ◇◇◇


 そして、その日の夜。

 案内されたダイニングのテーブルには、見たこともないほど豪奢な料理の数々が並べられていた。

 色とりどりの前菜や、透き通るようなスープ。そしてメインディッシュとして私の前に運ばれてきたのは、熱々の鉄板に乗せられた、分厚いステーキだった。


「これは……?」

「東方の豊かな牧草地で育てられた、最高級の黒毛牛の肉だ。美しい霜降りの部位だけを厳選し、専用の氷室でじっくりと時間をかけて熟成させてある。旨味が極限まで凝縮されているはずだ」


 ルシアン様がパチンと指を鳴らすと、使用人が手際よく私の肉を一口大に切り分けてくれた。

 口に運んだ瞬間、私は思わず目を見開いた。


「美味しい……っ!」


 お肉は驚くほど柔らかく、噛むたびに芳醇な香りと濃厚な旨味が口いっぱいに広がる。上質な脂は少しも重くなく、舌の上でとろけるようだった。


 実家では、こんなに素晴らしいお料理を食べたことは一度もなかった。


「ふふっ、本当に美味しいです。ルシアン様、ありがとうございます」


 心からの笑顔でそう伝えると、ルシアン様はグラスを傾けながら、ふっと表情を和らげた。


「君が喜んでくれるなら、最高級の肉でもなんでも用意しよう。……君には、常に最高のものを与えたいからな」


 その低く甘い声と、私を真っ直ぐに見つめる熱を帯びた瞳に、心臓がまた大きく跳ねる。


 「任務だから」ではなく、「私に笑ってほしいから」と言ってくれた彼の言葉が蘇り、顔が熱くなった。


「……ん? 外が明るいな」


 ルシアン様がふと窓の外に目を向けた。

 私も釣られて窓の外を見ると、夜空が、信じられないほどの数の星々で埋め尽くされていたのだ。

 まるで、空いっぱいにダイヤモンドを散りばめたような満天の星空。

 そして、その星々はピカピカと、まるで私の激しい心音に合わせるように、リズミカルに瞬いている。


「すごい星空だ……。まるで、星々が喜んで踊っているようだな」

「っ〜〜〜!」


 私はナイフとフォークを置き、再び両手で顔を覆った。

 大虹の次は、満天の星空。

 私が彼にときめくたびに、天候がこれでもかと私の気持ちを代弁してしまう。


「……? また顔が赤いぞ。やはりどこか具合が……」

「な、なんでもありません! お肉が美味しくて、体が温まっただけですっ!」


 慌てて誤魔化す私の頭の上で、プリマが「にゃあ」と呆れたような鳴き声を上げた。

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