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不老になって数百年間、ずっと剣を振ってたらいつの間にか剣の神様になってたらしい〜侍を目指す少女と自由に世界を旅します〜  作者: 平元桜央


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決戦の火蓋

 フォンティーヌ家には、広大な訓練場がある。乾いた砂が風に舞い、何百人もの騎士が剣を振るうための場所だ。


 その中央が、今回の決戦の舞台だった。


 訓練場に足を踏み入れた俺たちは、目の前の光景に立ち止まった。


「な、なにこれ……?」


 決闘の場を取り囲むように数十人もの騎士たちが列をなしていた。


 鎧のきらめきと、張り詰めた空気。


 まるで公式の試合が始まる直前のような雰囲気だ。


「あ、来たぞ」

「マリナ様だ」


 マリナの姿を見て、騎士たちがざわつく。


「な、なんでこんなに人が? 今って訓練の時間じゃ……」


「私が午後の訓練を無しにしたのよ」


 マリナが戸惑いながら振り返ると、そこには木刀を携えたナツミがいた。


「この決闘は、貴方が騎士となり、いずれフォンティーヌ騎士団の団長となるか。それとも流浪の侍と成り果てるのかが決まる」


「フォンティーヌ騎士団の未来を決める立ち合いと言っても過言ではない。フォンティーヌ騎士団の団員たちも、決闘の行く末を見守る権利があります」


 そんな重い意味になっているのか。


 だが確かに、この勝負は、もうマリナ自身のみの問題ではないのかもしれない。


「心の準備ができたら、決闘場に上がってきなさい」


 そう言って、ナツミは決闘場の中央に、足を踏み入れた。


「……」


 マリナは、やはりまた、震えていた。

 当たり前だ。

 この戦いで、未来が決まるのだから。


「……マリナ」


 俺が声をかけようとした、その時。


「団長の娘、まだ侍になりたいなんてほざいていたのかよ」


 周りの騎士たちの声が聞こえてきた。


「フォンティーヌ騎士団の名を背負う者なら、騎士として戦うべきだろう」

「どうせこの半年も遊んでいただけだろ。侍なんて堕落した連中目指すぐらいだもんな」

「負けても次期騎士団長になんてならないで欲しいよな。あんなふざけた奴の下につくなんてごめんだよ」

「勝てるわけねえだろ。侍と違って騎士は忙しいんだから、さっさと負けて終わらせて欲しいわ」


「……」


 なんだこいつら


「……! か、神様! 大丈夫です! 慣れっこなんで!」


「……そうか」


 俺が凄い顔をしていたのか、マリナが慌てて俺を止めた。


「でも、一つだけ……神様が、何かをしてくれるなら……」


 マリナは少し俯きながら、スカートを両手でギュッと握った。


「勇気を、ください」


「……」


 そうだ。


 こいつからしてみたら、俺は、神様なんだ。


 剣の加護なんて、ない。

 奇跡を起こす力だって、ない。


 でも、せめて、この瞬間だけは。


「マリナ」


 胸を張れ。


 誇らしく。


 こいつの神様でいるために。


「よく、厳しい修行を乗り切ったな」


「……はい」


「最後に一つ、お前に言っておくことがある」


 俺は右手を、マリナの額にかざした。








「剣の神は、いつだってお前と共にある」


「……!」








 少しだけ曇っていた、赤い瞳が輝きを帯びた。


 ルビーのように、紅く紅く、光っていた。


「行ってこい」


「はい!」


 もう、不安も、迷いも、消し去ったようだ。


「行ってきます!」


 マリナは笑顔で手を振って、決闘場の中央へ足を踏み出した。








 砂塵の匂いが鼻をかすめる。広い訓練場の地面は、無数の足で踏み固められ、所々に削れた跡が残っていた。


「……来たわね」


「おまたせ」


 そして、その輪の中央には、向かい合う2人の姿。

 並ぶ、赤と青の騎士。


「立ち合いの形式は、あなたが私に一撃でも入れたらあなたの勝ち。あなたがギブアップを申し出るか、戦闘継続が不可能になった場合、あなたの負け。いいわね?」


「うん」


 静かに、2人の木剣が構えられる。


 2人の影が、まるで一対の彫像のように中央で対峙する。


「いくわよ」


「いつでも」


 審判が手を上げる


「始め!!」


 訓練場の空気が、ピンと張り詰めた。






「……」


「……」


 誰も動かない。


 砂を踏む音すらなく、2人は剣を構えたまま、ただ互いを見据えていた。互いの呼吸すら探るかのように。


「……どうしたの?」


 重苦しい沈黙のなかで、ナツミが声を発する。


「打ってこないのかしら」


「……ママこそ」


 マリナは表情を崩さずに答える。


 ナツミはふっと小さく息を吐く。


「あなたに先手を譲ってあげているの」


 低く、冷ややかな声が空気を切り裂いた。


「来なさい」


「……!」


 マリナが地を蹴る。


 砂塵を巻き上げて、マリナの影が弾丸のようにナツミへと向かう。




『ガギンッ!!!』




 木剣が激突する甲高い音が、訓練場に響き渡った。


「……ッ!!」


 鋼のように鍛え上げられた腕から放たれた一太刀が、マリナの剣を押し返した。


「腕は上げたみたいね。格段に強くなってるわ」


 その言葉には、軽蔑も怒りもない。ただ静かに、淡々と事実を突きつける冷たい強さがあった。


「でも、それで終わりなの?」


 マリナの喉が小さく鳴った。


「なら、こちらからいくわよ」


 次の瞬間、視界からナツミの姿が消える。


 ──速い!


 疾風のような踏み込みからの一閃。咄嗟に木剣をかざしたマリナが受け止めると、金属のような硬質な音と共に、周囲の砂が弾け飛んだ。


 だが終わらない。間髪入れずに、今度は横からもう一太刀。


 再び受け止め、その直後、三度目の剣が斜め下から迫る。


 重く、鋭く、容赦のない連撃。嵐の中に放り込まれたような、圧倒的な剣圧がマリナを飲み込む。


「あれは……」


 マリナと同じ型だ。


 でも、完成度は格段に違う。


 マリナが長年かけて叩き込まれてきた型を、そのまま極限まで磨き上げた姿が、あのナツミ・フォンティーヌなのだ。


 無駄な動きが一切なく、ただ純粋な力と速さだけで相手を圧倒している。


「……よし」


 ここまでは、予想通りだ。










 数ヶ月前。


「母ちゃんがマリナと同じ、連撃を得意としてるなら、破り方は単純だ。俺がいつもやっているやり方をすればいい」


「いつもやってるやり方って……連撃を受けて受けて、相手が疲れたところの隙をつくってことですか?」


「あぁ。連撃って言っちゃえば無呼吸運動だ。続ければいつものマリナみたいに著しく体力を消耗する」


「で、でも、ママは騎士団長ですから、体力なんて無尽蔵にありますよ!」


「それでもやるしかない」


 他の方法もあるっちゃあるが、騎士団長相手となると、この方法が一番現実味があるだろう。


「重要なのは体力、そして相手の連撃を捌き切る対応力だ。決戦までの数ヶ月、死ぬほど厳しいハードトレーニングをするから覚悟しておけ」


「は、はい! よろしくお願いします!」


「それではこれから、マリナさんに連撃をたくさん浴びせるので、受け切ってくださーい。まずは1時間からな」


「へ?」





 てな感じで、マリナの剣の腕もそうだが、守りと体力を相当鍛えた。


「鬼〜」とか「悪魔〜」とか、この数ヶ月で何度聞いたことか。


 圧倒的な力量差。

 まともにやり合えば勝ち目なんてあるはずがない。


 だから狙うのは、一瞬。


 ナツミ・フォンティーヌの剣が途切れる、その瞬間を。


 なんとか、食らいつけよ。


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