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不老になって数百年間、ずっと剣を振ってたらいつの間にか剣の神様になってたらしい〜侍を目指す少女と自由に世界を旅します〜  作者: 平元桜央


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自由の象徴

 今日もマリナと立ち合い稽古をしている。


 マリナの攻めは、前よりも確実に鋭さを増していた。


 連撃を持続させる時間も長くなっていった。


 フェイントを混ぜ、攻めの緩急もつけてくる。

 それでも、まだ俺の腕なら難なく防げた。


「……ぐぅ!」


 疲れ切ったマリナが踏み込んだ瞬間、重心が崩れ、軸が甘くなる。


 マリナが前につんのめる。

 俺はその横を抜け、一気に背後へ回った。

 木刀を、がら空きになった右肩へ伸ばす。

 この距離では、振り返って受けることもできない。


 しかし──


「……っ!」


 マリナの体が、わずかに沈んだ。


「……え?」


 体を斜めに傾けて、右足で踏ん張って体勢を保ちながら、木刀を下から背後へ、体を半回転させながら振り上げる。


『ガキンッ!』


 マリナの木刀の側面が、俺の木刀の柄を叩くように斜めに逸らした。


「やっ!」


 間髪入れず、マリナの木刀が真っ直ぐに飛ぶ。

 俺はまたそれを躱し、先ほどよりもさらにスピードを上げてマリナの左横腹を叩いた。


『ドガッ!!』


「ぐぅ……!」


「あ! す、すまん!」


 マリナが苦しみながら倒れる。

 ちょっと力を入れすぎてしまった。


「だ、大丈夫です……参りました……」


 マリナは横腹を抑えながら立ち上がり、頭を下げる。


「まだまだですね……壁は遠いなぁ……」


「そんなことないぞ。間違いなく、今までで一番良かった」


「……! 本当ですか!?」


 その言葉に、マリナは飛び起きる。


「あぁ、一手前の俺の攻撃、どうやって防いだんだ?」


 間合いは完璧。

 相手の剣筋が途切れた瞬間を見逃さなかった、死角からの一撃。

 マリナの虚をついた攻撃だったはずだ。


「え、えーっと、わ、わかんないです……身体が、自然に動いたっていうか……?」


「わかんないのかよ……ん?」


 身体が、勝手に動いた?


「……マリナ、もっと自分の好きなように動いてみていいんじゃないか?」


「好きなように……ですか?」


「あぁ、お前の動きは……なんていうか、基本に忠実すぎる」


「え、えぇ……でも、基本とか、型とか大事じゃないですか」


「もちろんそうだ。でも、それを一度壊してみろ。自分が最も万全な状態で戦える型を、見つけてみるんだ」


 ……我ながら師匠っぽいことを言っている。


「……自分が、万全な状態で戦える、型……」


 マリナが呟いた。


 あの死角からの攻撃を防いだ動きに、マリナの強さがある。そんな気がした。













 夜中。


 ヒュン


「……?」


 風が舞う音が聞こえた。


 その音で俺は目が覚める。


 隣を見ると、マリナはいなかった。


「……こんな夜遅くに、どこへ行ったんだ?」


 マリナを探すため、眠い目を擦りながら、俺は外へ。







 トーン


 ターン


 ヒュ


 踊っていた。


 マリナが、剣舞を。


 俺が一度見せた剣舞。


 ただの自己流で、美しさとか気品なんてあったもんじゃないと思っていたけれど、マリナが踊っているのをみると、様になっていた。


 月明かりに照らされ、どこか現実離れした美しさがあった。


 流れるような剣筋と、旋律を刻むような足運び。


 足が一歩滑る。

 次の瞬間には腰が回り、遅れて真剣が月明かりをなぞる。

 その動きに、淀みはなかった。


 指先から刃の先まで、風と戯れるような流れ。


 それはまるで、心の中にある何かを、ひと振りごとに昇華していくかのようで──


「……!」


 トン、タン!


 リズムが変わった。


 それまでのゆるやかな流れが、一気に激しさを増した。


 足音が跳ねるように地を打ち、マリナの栗毛色の髪が光に揺れていた。


 剣の軌道が一段と大きく弧を描く。


 ヒュン!


 振り抜かれた刃が空気を裂く音は、それまでよりも鋭く、高い。


 そして──






 シュバッ!


 風を切るような一閃。








 音が変わり、空気が変わり、彼女の気迫すらも変化していた。言葉にならない美しさと力強さが、そこにはあった。


「綺麗だ」


 自然と、俺の口からその言葉が出ていた。


「……あ!」


 俺の声に気づいて、マリナの剣舞が止まる。


「ごめんなさい! 起こしてしまいましたか……」


「いや、いいんだけどよ、どうしたんだ? 急に剣舞なんて」


 マリナは照れたように、顔を赤くして俯いた。


「あたし、この剣舞が好きなんです」


「……そう、なのか?」


 マリナは頷く。

 適当に振った剣舞なのに、何がそんなに心を揺さぶったのだろうか。


「神様が、一番最初に、あたしに教えてくれたことですから」


「教えたっていうか、見てただけだろ。学ぶもんなんて、なにも……」


「学ぶものなら、ありましたよ」


 マリナは天を仰いで、空に突き立てるように、剣を掲げた。


「剣って、こんなに『自由』に振っていいんだって」


「……!」


 自由な、剣……


「あたしは騎士団で育てられましたから、今日、神様に言われた通り、実戦の型通りの、真面目な太刀筋しか知りませんでした。変な癖がついたらいけませんからね」


 大切なものを扱うように、彼女はもう一度、大きく弧を描いて、剣を振った。


 シュバッ!


「あたし、本当に感動したんですよ? 神様の剣舞を見た時。こんなにも『自由で、美しい剣』が、この世にあるんだって、本気で思いました」


 そう言ったマリナの瞳はどこまでも澄んでいた。


「あたしからしてみたら、この剣舞は、『自由の象徴』なんです」


 その横顔は、今までのマリナの表情とは違った。


 心の底から剣を振るうのを楽しんでいるかのようだった。


 そこで、マリナは我に帰ったかのようにハッとする。


「あ、ご、ごめんなさい! 神様の剣舞を勝手に象徴にしちゃって……!」


「いや、間違ってねえよ」


「……え?」


「輝いていたぞ、今のお前は」


 俺からしたら、意味もなく振った剣舞が、こんなにも美しく、昇華されていた。






「自由に剣を振るってる今のお前は、綺麗だ。心の底から、そう思った」






『カラン』


 俺がそう言った途端


 マリナが、剣を落としていた。


 顔を真っ赤にして、口をパクパクさせている。


 月明かりに照らされた彼女の顔は、年相応の女の子で、可愛かった。


「な、な、な、なんでそ、そんなこと、平然と言うんですかー!!」


「本当のことだぞ。いいだろ、言ったって」


「眠れなくなったらどうするんですか!? 責任とってくれるんですか!?」


「とらない。ガキには興味ないから」


「じゃあそんなこと言わないでください! 女誑し! 色ボケ神!」


「へいへーい」


 マリナに珍しく罵声を浴びせられながら、俺は小屋は入る。


 小屋へ戻ってからも、瞼を閉じれば、月明かりの下で剣を振るうマリナの姿が浮かんだ。


 型に縛られていた少女が、初めて自分の意思で剣を振っていた。


 本当に、良いものを見ることができた。


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