↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不老になって数百年間、ずっと剣を振ってたらいつの間にか剣の神様になってたらしい〜侍を目指す少女と自由に世界を旅します〜  作者: 平元桜央


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/34

自分がなりたいもの

 夕暮れ時


 マリナへの稽古も終わって、俺は外のベンチで沈む夕日をボーッと眺めていた。


 茶色の浴衣を着たマリナが、湯呑みを二つ置いたお盆を持って近づいてくる。


「お茶です。神様」


「あぁ、ありがとう。もうお風呂上がったのか」


「はい! いいお湯でした! あとで神様も入ってください」


「あぁ」


「……」


 マリナは少し顔を赤くして、モジモジしていた。


 手には、もう一つの湯呑み。


 ……一緒に飲みたいのだろうか?


 別に遠慮することないだろうに。


「一緒に飲むか?」


「……! はい! お隣、失礼しますね!」


 湯呑みを持ってベンチに座る。


 誰かと一緒に飲む茶は、なぜか少しうまく感じた。


 人付き合いがあまり好きではなくて、不老不死になってからずっと引きこもっていたけれど、

 人と関わるのも、悪くはないのかもしれない。


 マリナの茶を飲む姿を、俺は見つめる。


 マリナは訓練中以外は俺が貸した浴衣を着ている。

 最初は慣れなさそうにしていたけど、だいぶ慣れたようだ。


 意外とコイツ、姿勢とか振る舞いとか、ちゃんとしてるんだよな。


 今の茶を飲んでる姿も、背筋がしっかり伸びて。


 良いところのお嬢様な気がしてくる。


「ふぅ……」


 隣でマリナが吐息を漏らす。


 15歳で、まだ子どものはずなのに、どこかその姿はいつもより大人びていた。


 長く美しい栗色の髪が、少し濡れて光っていた。


「……え、えっと、あたしの顔、なんか変です?」


「いや……」


 じーっと見すぎてしまったのか、マリナは顔を赤くして目を逸らす。


 こんなどこにでもいそうな女の子が、どうして俺のところを訪ねてきたんだろうか。


「マリナは、なんで、強くなりたいんだ?」


「……」


 俺がそう聞くと、マリナは湯呑みを少し見つめた。


「……マリナ・フォンティーヌって名前で、もう気づいているかもしれませんが、あたしの母、騎士団長なんです」


「いや、気づいてなかったよ」


「ええ!? フォンティーヌって名前も聞いたことないですか!?」


「うん知らねえ」


 なるほど、だから、マリナの作法とか姿勢とかが妙に美しいのか。

 本当にいいところの嬢ちゃんなんだな。


「つまり親みたいな騎士団長になるのが夢ってことね」


「えっと、それがですね……」


 マリナは頰を掻いた。


「あたし、『侍』になるのが夢なんです」


「侍?」


 この世界、騎士も侍もいるのか。


 侍を目指す騎士って、なんか西洋と東洋がごっちゃになって変な感じだな。


「でも……騎士団長の母は、反対してるんです。『お前は騎士の子だ。侍になるなど何事だ』って……」


 まぁ、そりゃ母からしてみたらそういう気持ちかもな。


「それでずっと母とは揉めてたんですけど……この間、『侍になりたいのであれば、半年以内に私を倒してみろ』って言ってきて……」


 ……ん?


「え、ちょっと待て、お前、親は死んだって最初言ってなかったか?」


「あぁ、死んだのは父です。母はちゃんと生きてますよ。というかやっぱり勘違いしてたんですね。訂正したら『やっぱり帰れ』って言われそうだったので黙ってましたけどいたたたたたたたたたたた!!! 痛い痛い! アイアンクローはやめてください!」


「テメェ!! ついて良い嘘と悪い嘘があるよなぁ!?」


「う、嘘はついてないですよ!? ちゃんと父は死んでますし!」


「お前あの時『親はもういません』って言ったよな!? じゃあ半分嘘じゃねえか!! 小賢しい真似しやがってコラァ!! さっさと帰れよ母親が心配してんだろうが!」


「だ、大丈夫ですよ! 母と約束しましたから! 『修行してくるから待ってろ! ママを倒せるくらい強くなってみせる!』って!」


「……ほんとか?」


「……勝手に約束して、了承もなく出てきちゃいましたいたたただだだだ!!! めり込んでる! 指が顔にめり込んでます!!」


「それを約束とは言わねえんだよ!!」


「で、でも! 神様の力でも借りないと半年でママには勝つなんて無理なんですよ! だからここに……!」


「そういう話してんじゃねえよ! 親を心配させんなって言ってんだ!!」


「大丈夫です! 週に1回手紙を書いて出してますから! あたしが無事なのは知ってます!」


 そういうところはちゃっかりしてるな。

 大丈夫かこの状況。

 誘拐とかにならないだろうな。


「たく……『神に会えなかったら死のうと思っていた』って言ってたのも嘘か」


「いいえ、それはホントですよ」


「……は?」


 あっけらかんと言ったマリナに俺は一瞬言葉を失う。


「侍になることは、あたしにとって、命をかけるくらい、大切なことなんです」


 俺も少し、マリナと共に過ごしてきたからわかる。


 今、マリナは嘘をついていない。


「……なんで、騎士じゃなくて、そうまでして侍になりたいんだ?」


 そう質問したら、マリナは狼狽した。


「え、い、言わなきゃダメですか?」


「……まぁ、言いたくなければ良いけどよ。別に……」


「い、いえ……言いたくない……というか、これを言うと、大抵の人は軽蔑した目で見てくるので……」


「なにそれ?」


 軽蔑される理由とか、どんな理由だよ。


「別に軽蔑しねえよ。人を殺したいとか、人道に反してなきゃな」


 そう言うとマリナは少し下を向いて考えた。


 そして、恐る恐る、顔を上げて、ポツリポツリと、話し始めた。


「……あたし、ずーっと、レールの上を歩いてきてたんです」


「レール?」


「はい。生まれた時から、あたしの将来は決まっていました。騎士団長の娘だから、騎士になるんだって、周りの人も、それを期待してて」


 少しだけ、マリナの湯呑みを持つ手に、力が入った。


「それがずっと、息苦しかったんです」


 その表情は、寂しさと、ほんの少し、どこに向けたら良いのかわからない苛立ちが混ざっているようだった。


「なんとなくそんなふうに、『窮屈なままあたしの人生終わるんだろうなー』って思っていた時にですね、1人の侍の女の子に出会ったんです」


「侍の、女の子?」


「はい。でもそんな劇的な出会いじゃなくて、旅行先で会っただけなんですけど……その子は、あたしと全然違いました。次はどこへ行こうとか、もっと強い魔物と戦いたいとか、楽しそうに話していた」


 この場にいない誰かを懐かしむように、マリナは語った。


「騎士は王や領主に仕えて、そのために剣を振るいます。誰かを守るために、誰かの期待に応えるために。でも、侍は違うんです」


 その時、マリナの声が少しだけ弾んだ。


「侍は、どこまでも『自由』で……自分が望んだから剣を振るう。自分が強くなりたいから、強くなる。誰に決められるでもなく、自分で自分の道を選べる」


 侍を語るマリナの目は、どこまでも輝いていた。


「そんな自由に憧れたから。あたしは、侍になりたいんです」


「……騎士も、素晴らしい職だと思うが、それでも、自分で選んだ道を行きたいのか?」


「……そうですね。騎士という職業も、騎士団長の母も尊敬しています。他の人があたしの立場だったら、喜んで騎士になるって人が多いんでしょうね」


 それができたら、どれだけ良かったか……と、マリナは呟いた。


「でも、あたしはそれが、どうしようもなく嫌だった」


 彼女の瞳に、静かな炎が燃えていた。






「あたしは、自分のなりたいものになりたい」







 マリナはいつの間にかぬるくなっていたお茶をあおった。

 飲み干したあと、マリナはいつもの調子に戻っていた。


「って、まぁ、ワガママ言ってるだけなんですけどね! だから他の騎士から軽蔑した目で見られるんだって話で……」


「いいんじゃねーの」


「え?」


「自由を求めるのは、別に悪いことじゃない」


 まぁ、日本基準で考えたらかもしれねえけど。

 この世界では、職は自由に選べないんだろう。

 その辛さは、俺にはわからん。


「け、軽蔑……しないんですか?」


「なんで?」


「い、いやいや、だ、だって、あたし、ワガママ言ってるだけなんですよ?」


 マリナは慌てたように俺を見た。


「自分の責務を放棄して、他の人の迷惑とか、期待とか、そういうの全部、自分の夢のために投げ出そうとしてるんですよ!?」


「ガキが責務とか一丁前に言ってんじゃないよ」


「あいたッ!」


 生意気言ってるマリナに俺はデコピンをする。


「お前はまだ子どもだ。大人に迷惑かけて当然だろ」


「こ、子どもって言っても、あと半年で成人しますけど……」


「それでもだ。俺からみたら15歳はガキもガキなんだよ」


 おでこを抑えて涙目になってるマリナに、俺は思ったことを口にする。


「自分の夢にそぐわない期待なんて知ったこっちゃない。夢をもってるなら、それに向かって、ただひたすらに走ればいい」


 そう言う俺を見て、マリナは少し困惑したように俯く。


「……神様はどうして、あたしの自分勝手な夢に、寄り添ってくれるんですか?」


「だって、お前からしたら、『命を賭けても良いくらいの夢』なんだろ?」


「……!」


「じゃあ、俺はその夢を笑わないし、軽蔑もしねえよ」


 俺はマリナの頭を撫でる。


「お前の夢を、俺は応援するからよ」


 マリナは驚いた後、少し顔を赤くして、目を細めた。

 心地良さそうに、撫でられていた。


「でも強い侍になりたいなら、俺から一本くらいとってもらわないとな」


 俺から一本取れないようじゃ、騎士団長に勝つなんて到底無理だろう。


「ははっ冗談お上手ですね。でも、頑張りますよ」


 マリナは拳を握って、俺に向かって突き出した。


「必ず、母を倒して、自由になってみせます」


「おう」


 俺もその拳に合わせた。


 心地よい風が、今日も吹いていた。


「……ん?」


 というか、待って?


 今気づいたけど、コイツ、母親に負けて侍になれなかったら、死ぬ気なんだよな?


 つまりコイツが生きるか死ぬかって、俺との修行次第ってこと?


「……」


「……? どうしました? 神様?」


「マリナ! 今日からもっとシゴくぞ! ついてこいよ!」


「──! はい!」


 心地よい風が、少し冷たくなったのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。