海と成美
瑞龍の巫女
それは、瑞龍の舞の継承者。
瑞龍の舞を踊ることで、瑞龍の力は一層強大になり、この国の住人に幸運を与えることができるようになる。
瑞龍の巫女の継承者である私は、幼い頃からそう聞かされてきた。
私が12歳になる頃。
「初めまして! 貴方が瑞龍様ですね、よろしくお願いしますね!」
私が担当することとなった瑞龍様と、初めて出会うことになった。
「私が瑞龍の巫女、海です!」
目の前にいたのは、私よりももっと幼くて、それでいて、どこか知性的な瞳をした女の子だった。
「……成美。よろしく……」
少し緑がかった黒い髪。
鹿の角のように伸びた、二本の神聖なるツノ。
そして、黄金の綺麗な瞳が私を見つめた。
その瞬間、一目惚れにも似た感情が、私の心を揺さぶった。
なんて美しい子なんだろうって、心の底から思った。
***
「成美様! おはようございます!!」
朝早く、元気よく私は成美様の部屋を訪れる。
私は成美様の侍女なので、身の回りの世話をするためだ。
「……」
成美様は布団の中に潜って出ようとしない。
「ほーら! ダメですよー! 早く起きて陽の光をたくさん浴びないと大きくなりません!」
私は成美様を無理やり布団から引き出して、勝手に身支度を整えた。
顔を拭いて、着替えさせて、髪をセットして。
「今日はいい天気ですよ! お庭でピクニック気分でも味わいませんか??」
「……」
成美様は私の言うことなんて気にしない。
身支度を整えて終わったら、私なんていないかのように、スタスタと部屋を後にする。
ポツンと部屋に取り残された私は顎に手をやった。
「……むむ、これは勝負ですね……」
まだまだ、成美様の心を開くには時間がかかるみたいだ。
「負けませんよ! 成美様!」
私は成美様を追いかける。
「ついて、こないで」
「そんなこと言わないでください! 私と成美様はパートナーじゃないですか!」
「……いや」
「えー!?」
明確に拒絶されて、普通にショックを受ける。
「そんな……私の、成美様とお友達になりたいのに……」
「友達……?」
成美様が足を止めた。
「あ、いえいえ! すいません! 国王様の娘に恐れ多いんですけど……」
「ともだちなんて、いらない」
成美様は振り返って私を見る。
すごく冷たくて、誰も信じていないような、そんな瞳だった。
「あなたが、舞を踊りさえすれば、それで、みんな幸せになれる」
「……それは、そうかもしれませんが……」
「じゃあ、もう、私に構わないで」
そう言って成美様は、私の前から逃げるように去っていった。
一人ぼっちな、とても小さい背中だった。
***
次の日。
「おはようございます!!」
「……!!」
私は今日も元気に成美様の部屋へ現れた。
成美様はベッドから飛び起き、驚いた目でこちらを見つめる。
「今日はいい天気ですよ成美様!! お昼に散歩にでも出かけませんか!?」
「……???」
「今日のお着替えは何にしましょう? あ! せっかくですしワンピースとか着てみます??」
私の台詞に目を回す成美様。
私の言葉が理解できなくて、本気で怖がってる感じ。
あら、悲しい。
「な、なんで……?」
「はい? なんで、とは……?」
「き、昨日の、話……した」
「あぁ、お友達なんていらないって話ですよね。それでも私は、成美様のお世話係ですから! そばにはいなきゃいけません!」
「……」
警戒したように、布団をぎゅっと握っている。
私はなんとか成美様の警戒をときたくて、目線を合わせるようにしゃがんだ。
「今は私のこと、なんでもないただの人間だって思ってるかもしれませんが……私、諦めませんよ!」
「ほんの少しでも、成美様の支えになりたいですから」
私は本心を伝えることにした。
それでも、まだ、成美様の瞳は暗く、私を見ていないようだった。
成美様は俯いて、なにかうんざりするように言葉を発した。
「幸福が、ほしいの?」
「え?」
言っている意味がわからず、私は聞き返した。
「昔から、いる。私に、近づいて、『幸福にしてほしい』って、言ってくる人」
「……!」
その言葉を聞いて、私はハッとした。
成美様の幸運を与える力を、自分だけのために利用しようとしている人間も、いるんだ。
成美様の今までの態度も、友達なんていらないって言葉も、だからこそ出てきた言葉なんだ。
目の前のこの子は、いったいどれだけ、裏切られてきたんだろう。
『自分の周りにいる人間は、全員、幸運になりたいから、私の周りにいる』
幼いながらも、そう思えてしまうくらい、この子は裏切られてきたんだ。
「あなたも、そう、なんでしょ?」
「ううん。いらないよ」
私はキッパリ断言した。
「……なんで?」
怪訝そうな顔をする成美様に、私は胸を張って答えた。
「だって、貴方の巫女になれたこと。それだけで、私の人生最大の幸福なんだもん!」
私がそう言うと、成美様は目を見開いた。
「……変」
「ぐはっ! シンプルな罵倒が1番傷つく!」
「……ふふっ」
そこで、私は成美様の笑顔を初めて見た。
「あ! 成美様笑いましたね!」
「やっぱり、可愛いんですから笑顔が似合いますよ!」
「……!」
少しだけ顔が赤くなる。
「……うるさい」
照れながらそっぽを向く成美様。その姿が、なんだか私と変わらない、普通の少女の姿みたいで。
なんだか、私の目を見てくれたような気がした。
読んでくださり、ありがとうございます。
新作の執筆のため、こちらの小説は週一投稿とさせていただきます。
よろしくお願いします。




