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不老になって数百年間、ずっと剣を振ってたらいつの間にか剣の神様になってたらしい〜侍を目指す少女と自由に世界を旅します〜  作者: 平元桜央


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魚の骨

 すっかり暗くなってしまった龍星国の大通りを、俺たちは歩いていた。


 その足取りは重い。


 高級ホテルへ行く気にもなれなかった。


「成美ちゃん……大丈夫でしょうか?」


 マリナが呟く。


「……」


 俺には答えられなかった。


 結果だけを見れば、成美を親の元へ帰した。それだけのことだ。


 なのに、胸の奥に引っかかったものが消えない。


 まるで、魚の骨が喉に刺さったままになっているような、不快な感覚だった。


 マリナも同じなのだろう。


 成美のことが、どうしても気になっている。


「……どうしましょうか、これから」


「……」


 もう、このまま龍星国を出てもいい。


 だが、俺たちはその決断を下せずにいた。


 このまま本当に出てしまっていいのか。


 成美は、本当に大丈夫なのだろうか。


 そんな思いが、俺たちの足を止めていた。


 その時だった。


「すみません。そこのお二人」


 背後から声をかけられた。


 俺たちは振り返る。


 そこには、フードを深く被った女が1人立っていた。


 いかにも身分を隠している、といった格好だ。


「誰だ?」


 俺が尋ねると、女はゆっくりとフードを取った。


「……あんた」


 その顔には、見覚えがあった。


 間違いない。


 昼間、『瑞龍の舞』で舞を披露していた女性だ。


 瑞龍の巫女。


 彼女は俺たちに深々と頭を下げた。


「私は瑞龍の巫女を務めております。そして、成美様の侍女でもあります。海と申します」


「成美の……お世話係ってことか?」


「はい」


 海は静かに頷いた。


「あなた方に、お話ししたいことがございます」


 その瞳には、何かを決意したような強い炎が宿っていた。


 目的を達成するためにはなんでもするような、危うく、激しい炎が。


 なぜか、この女なら。


 俺たちに刺さった魚の骨を、取り除く答えを知っている。


 そんな気がした。


「……わかった。話を聞こう」


 俺たちは海の後についていった。


 案内されたのは、海が選んだ高級料理店だった。


「この個室は防音になっております。外に声が漏れる心配はありません」


 テーブルの上には、見るからに高級そうな料理が所狭しと並べられている。


 だが、俺もマリナも料理に手をつける気にはなれなかった。


 成美のことで、気になることが多すぎる。


「それで?」


 俺は海を見る。


「話したいことっていうのは、何なんだ?」


「成美様のことです」


 海は静かに答えた。


「勝手ながら、あなた方のことは影から見ておりました。成美様を守ろうとしてくださっていたことも」


「……守るって言ってもな」


 俺は苦笑する。


「結局、成美を守れなかった。最後には、あいつ自身に俺たちを守ってもらったようなもんだ」


 海は首を横に振った。


「それでも、あなた方が成美様を大切にしてくださったことに変わりはありません」


 そして、海は俺たちを真っ直ぐに見つめた。


「だからこそ、お願いしたいことがあるのです」


「お願い……?」


「あなた方に、成美様を助けてほしいのです」


「……!」


 その言葉に、胸がざわついた。


「助けるって……誰から?」


 海はすぐには答えなかった。


 一度だけ視線を伏せ、それから俺たちを見る。


「……国王陛下から」


「……!」


 だが、海は首を横に振った。


「いえ」


「……?」


「正確には――」


 海の声が、わずかに低くなる。


「この国からです」


「この国から……?」


 マリナが戸惑ったように聞き返す。


「どういうことですか?」


 俺も海を見つめた。


 その時、海が口を開いた。


「あの子のフードの下は、見ましたか?」


「……ああ」


 俺は頷く。


「ツノが2本生えていた。あれは、まさか……」


「はい」


 海は静かに答えた。


「あなたの予想通りです」


「……そうか」


 やっぱり、そういうことか。


「成美は……瑞龍なのか?」


「はい」


 海は迷うことなく頷いた。


「え……!?」


 マリナが目を見開く。


「瑞龍って、あの『瑞龍の舞』の時に出てきた、あの大きな龍ですよね!?」


「その通りです」


「じゃあ、成美ちゃんが……あの瑞龍なんですか!?」


「はい」


 海の答えに、マリナは絶句する。


「神様、知ってたんですか!? 成美ちゃんが瑞龍だって!」


「確信したのは、ツノを見た時だ」


 俺は答える。


「その前にも、もしかしたらっていう疑いはあった」


「疑いですか?」


「ああ」


 俺は今日1日の出来事を思い返す。


「成美と一緒に行動して、何度も幸運に恵まれただろ?」


「え、そうでしたっけ?」


 マリナは首を傾げる。


「隣の山に案内されたら、目的の薬草が大量に生えていた。夕食の手頃な魔物が欲しいと思ったら、目の前にトロ牛が現れた」


「……確かに」


「俺たちの身に起きた幸運には、成美が関わっていたんだと思う」


 俺は拳を握る。


「それでも、わからないことが山ほどある」


 瑞龍である成美が、なぜ1人でレストラン街にいたのか。


 なぜ、俺たちについてきたのか。


 なぜ、あれほど大量の血を吐いたのか。


 そして――。


 この国と、瑞龍と、瑞龍の巫女。


 何もかもが、まだ繋がっていない。


「全部聞かせてくれ」


 俺は海を見据えた。


「成美のことも、この国のことも。俺が知りたいことを、全部だ」


「……わかりました」


 海は、静かに頷く。


「あなた方に、全て、お話しいたします」

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