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不老になって数百年間、ずっと剣を振ってたらいつの間にか剣の神様になってたらしい〜侍を目指す少女と自由に世界を旅します〜  作者: 平元桜央


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王と王女

 俺は苦しそうに息をする成美を背負い、近くの病院へ駆け込んだ。


「頼む! 急患だ! 通してくれ!」


「子供が血を吐いて倒れたんです! 早く診てください!」


 受付に駆け寄り、ナースに訴える。


 だが、ナースは俺たちを一瞥しただけだった。


「……治療費はお持ちですか?」


「は……?」


 思わず聞き返した。


 俺の背中には、血を吐いて倒れた成美がいる。


 それを見ても、この女は眉一つ動かさない。


「治療費の確認が取れてから診察します。治療をした後で、お金がありませんでは困りますので」


「ふざけんな! こいつがどういう状態なのか見えねえのか!」


「神様、落ち着いてください!」


 マリナが俺を制しながら、持っていた袋をカウンターへ置いた。


「お金ならあります!」


 じゃらじゃらと、袋の中で大量の硬貨がぶつかり合う。


「今日、クエストで稼いだお金です。これなら足りますよね!?」


 ナースは袋の中身を覗き込む。


 一瞬だけ目を見開いたが、すぐに無表情へ戻った。


「……少々お待ちください。確認します」


「確認って、何を――」


「本物のお金かどうかですよ」


「……!」


 俺が言葉を失っている間にも、ナースたちは硬貨を調べ始めた。


「こんな大金、本当にあなたたちが持っていたんですか?」


「偽造品ではありませんか?」


「盗品という可能性も――」


「それより先に、この子を診ろ!」


 頭に血が上る。


 目の前で人が苦しんでいるのに、金、金、金。


 この国に来てから、何度この言葉を聞かされたことか。


「おい……!」


 怒鳴りつけようとした、その時だった。


「何を騒いでいる?」


 奥から、白衣を着た中年の男が歩いてきた。


「院長」


 ナースたちが一斉に頭を下げる。


 院長と呼ばれた男は、俺たちを見て鼻を鳴らした。


「旅人か。治療費の支払いで揉めているのか?」


「そうです。ですが、この者たちは――」


 ナースが説明を始めたところで、男は、俺たちを一瞥して鼻を鳴らす。


「よその貧乏人。ここのルールに従えないなら出ていってもら……ん?」


 委員長はそこで言葉を止め、俺の背後を見た。


「……その子は?」


「こいつが患者だ! 血を吐いて倒れたんだ!」


 俺がそう答えると、院長は成美をじっと見つめた。


 数秒。


 いや、ほんの一瞬だったかもしれない。


 だが、確かに院長の表情が変わった。


「……なるほど」


「?」


 院長は俺へ向き直る。


「その子なら、治療費はいりません」


「……は?」


 さっきまで金を要求していた奴が、突然そんなことを言い出した。


「無料で診察します。ですから、その子をこちらへ」


 院長が両手を差し出す。


「……」


 俺は動かなかった。


「どうしました?」


「なんでだ?」


「何がです?」


「さっきまで金が必要だと言っていたのに、こいつを見た途端、無料で診ると言い出した。おかしいだろ」


 院長の目が細くなる。


「緊急の患者だからですよ」


「嘘つけ」


 俺は成美を背負い直した。


「この国の人間が、金を諦めて人助けするところなんて、一度も見てねえぞ」


 院長はしばらく黙っていた。


 やがて、小さくため息をつく。


「……そうですか」


 その口元が、わずかに歪んだ。


「では、仕方ありませんね」


 院長が手を上げる。


「力ずくでも、その子を置いていってもらいなさい」


「……!」


 次の瞬間。


 病院の入口が勢いよく開いた。


「動くな!」


 数人の兵士が、一斉に駆け込んでくる。


「何だコイツら!?」


 兵士たちが剣を抜く。


「マリナ!」


「はい!」


 マリナが瞬時に刀を抜いた。


 迫ってきた兵士の剣を受け流し、そのまま相手を地面へ叩き伏せる。


「逃げます!」


「ああ!」


 俺は成美を背負ったまま、病院の出口へ走った。


 マリナが俺たちの前に立ち、襲いかかる兵士を次々と退けていく。


 だが、倒しても倒しても兵士が現れる。


「くそっ……多すぎる!」


「神様! このままでは囲まれます!」


「だったら、路地へ入るぞ!」


「はい!」


 俺たちは大通りを外れ、ビルとビルの間へ飛び込んだ。


「追え! 絶対に逃がすな!」


 背後から怒号が響く。


 俺たちは入り組んだ路地をひたすら走った。


 やがて追っ手の声が遠ざかり、俺たちは建物の陰に身を隠した。


「はぁ……はぁ……」


 俺は成美を背負ったまま、壁に寄りかかる。


「いったい何なんだ、あいつら……。なんで俺たちを襲ってくる?」


「わかりません……」


 マリナも息を整えながら、周囲を警戒する。


「ですが、成美ちゃんを狙っていることだけは間違いありません」


「……ああ」


 背中から伝わってくる成美の体は、まだ熱かった。


 顔色も悪い。


「くそ……。病院には連れていけない。でも、このままじゃ成美が……」


「他の病院を探すのも難しそうですね」


「どうすりゃいいんだ……」


 その時だった。


「いたぞ!」


「こっちだ!」


「……!」


 追っ手の声が、すぐ近くから聞こえた。


「まずい! 行くぞ!」


 俺たちは再び路地の奥へ走る。


 そして――


『キラッ』


 暗闇の中で、何かが光った。


「……!」


 マリナが俺の前へ飛び出す。


「神様、下がって!」


『パァンッ!』


 乾いた破裂音が響いた。


 同時に、


『キンッ!』


 マリナの刀が何かを弾き飛ばす。


「……何だ!?」


 路地の向こうから現れたのは、黒い服にサングラスをかけた男たち。


 その手には、見覚えのあるものが握られていた。


「……銃だと?」


 銃口が、こちらを向いている。


「まずいな……」


 俺は成美を背負っている。


 マリナがどれだけ強くても、俺と成美を守りながら、この数を相手にするのは厳しい。


 その時、黒服の男の一人が口を開いた。


「おいおい。女のガキ1人を追い回すにしちゃ、鬼が多すぎねえか?」


 別の男が答える。


「違う。鬼は貴様らだ」


「……!」


 黒服たちが左右へ退く。


 その奥から、一人の男が歩いてきた。


 仰々しい虎柄のスーツ。


 白髪の混じった髪。


 鋭い目つき。


「なんだお前、何者だ」


 俺が聞くと、男は俺たちを見据え、低い声で言った。


「俺はこの国の国王、九頭龍だ」


「……国王?」


 まさか。


 こんなところに、国王本人が?


 九頭龍は俺を見た。


 正確には、俺の背中にいる成美を。


「成美は俺の娘だ」


「……!」


「成美ちゃんが……王様の娘!?」


 マリナが驚きの声を上げる。


 俺も言葉が出なかった。


 王女。


 つまり、成美はこの国の王族だったのか。


 だったら、どうしてあんな場所で一人で……。


「成美の所在がわからなくなり、探していた」


 九頭龍は、俺たちを冷たく見つめる。


「その娘をこちらへ渡せ」


 国王が右手を上げる。


 周囲の黒服たちが、一斉に銃を構えた。


「……」


 まずい。


 成美を渡したら、俺たちも用済みになる可能性がある。


 だが、渡さなければ――。


「待ってください!」


 マリナが声を上げた。


「私たちは成美ちゃんを助けただけです! この子が一人で街を歩いていたので、保護していただけです!」


「そうだぜ。それに、こんなに大事な娘なら、そもそも一人にするなよ」


 九頭龍の眉間に皺が寄る。


「……」


 そのときだった。


「ま……って……」


「……!」


 背中から、かすかな声が聞こえた。


「成美ちゃん!?」


「成美!」


 成美がゆっくりと目を開けていた。


 苦しそうに咳き込みながら、成美は九頭龍を見る。


 そして、小さく口を開いた。


「帰る……」


「成美ちゃん……?」


「帰るから……この人たちには……何もしないで……」


「……」


 九頭龍は黙って成美を見つめる。


「大丈夫……家に、帰るだけ……だから……」


 成美は俺たちを安心させるように、かすかに笑った。


「私の……お願い……聞いてくれる……でしょう?」


 九頭龍はしばらく黙っていた。


 やがて、ゆっくりと右手を上げる。


「……いいだろう」


 国王の合図とともに、周囲の銃が一斉に下ろされた。


「成美をこちらへ」


「……」


 俺は成美をゆっくりと背中から降ろした。


 成美はまだ足元がおぼつかない。


 それでも、ふらつきながら九頭龍のもとへ歩いていく。


「成美ちゃん……!」


 マリナの声に、成美の足が止まった。


 成美は振り返った。


 俺は成美を見つめる。


「……本当に、それでいいのか?」


「……」


「家に帰って、大丈夫なのか?」


 成美は答えなかった。


 ただ、しばらく俺たちを見つめていた。


 そして――


「今日は、とても楽しかった」


 成美は笑った。


「ありがとう」


 その笑顔は、俺が今日初めて見た、成美の笑顔だった。


 なのに。


 その笑顔を見た瞬間、俺の胸には妙な不安が残った。


 まるで――


 もう二度と、この笑顔を見ることができないような。


 そんな気がした。

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