吐血
ゲートを通り、俺たちは外から龍星国の中に入る。
クエスト紹介所の中に入ると、俺たちはとある違和感にすぐ気がついた。
「おい! 発見したか!」
「いやまだだ……くそ、どこ行きやがったんだ!?」
クエスト紹介所内がめちゃくちゃ騒がしい。
いや……待て。
耳を澄ませば、外からも怒鳴り声が聞こえてくる。
もしかして、騒ぎはここだけじゃないのか?
「ど、どうしたんですかね?」
「さぁ……とりあえずとっとと報酬受け取ろうぜ」
この国の守銭奴たちが何で困ろうが、俺たちには関係のないことだ。
知らぬ存ぜぬで、受付へ。大量の薬草を置く。
職員は誰も受付に座っていなかったので、奥の職員へ聞こえるように呼ぶ。
「採取クエストの報酬を受け取りに来た。薬草50個だ」
しかし、俺の声に職員は答えない。
受付の奥は、職員が慌ただしく動いている。スーツを着た人間が何人か入って、職員に対して怒鳴り散らしているのが見えた。
「……? 何してんだ?」
何かただ事ではないことが起こっているらしいが、すまんが俺はそんなの気にしない。
「おーい、報酬を受け取りに来たぞ」
「あぁ!? こっちは今それどころじゃないんだよ!」
奥の方にいた職員がキレながら俺の方へ向かってズカズカと歩いてきた。
「は? いやいや何言ってんだ? こっちは仕事してきたんだから報酬はくれよ」
「チッ! さっさと持ってけ!」
ダンッと、職員が報酬をテーブルへ叩きつける。
なんなんだコイツら。
せっかく大金が手に入ったというのに、俺たちは嫌な気分になる。
金を受け取って、俺たちは踵を返した。
「なぁマリナ、今日はホテルに泊まって、明日になったらこの国出ないか? ここの人間と顔を合わせていたら、毎日すり減っちまうよ」
「そうですね……なーんかあたしももう嫌になってきちゃいました……」
金は高いが、国の人間は守銭奴で性格が悪いわ。
この国に少し嫌気がさしてきた。
成美はこの国出身なのに、ちゃんとした性格に成長しているようで良かったが……って
「あれ? 成美は?」
「え? さっきまで後ろに着いてきていたのに……」
辺りを見回すが成美はいない。
おいおい、まだ金も渡してないのに、帰ったんじゃないだろうな?
心配して辺りを捜索していると、成美はクエスト紹介所を出たところの端っこに小さくしゃがんでいた。
「あ、いた! 成美ちゃん!」
「……!」
成美はびっくりして顔を上げる。
俺たちの顔を見て、安心したようにため息をついた。
「どうしたの? 急にいなくなって……探したよ?」
「……」
成美は何も答えない。
さっきから様子が変だ。
何か言おうとして言わなかったり、今も急に姿を眩ませて隠れたり。
今も先ほどよりフードを深く被っている。
まるで、何かに怯えているような……
「何をそんなに怖がっているんだ?」
「……」
成美は目をギュッと瞑る。
そして、何も言わずに逃げ出した。
『ダッ!』
「あ、おい!」
俺が手を伸ばした瞬間、成美が被っていたフードに、指が触れてしまった。
「……!」
フードが脱げ、成美の顔と、頭が顕になる。
「……え?」
俺たちは息を呑んだ。
黒い髪の毛、黄金の瞳、そして、頭にはツノが2本生えていたのだ。
「お前、それは……」
「え!? ツノ……!?」
成美は急いでフードを被り直す。
俺たちが呆然としていると、成美が何かに気づいたように、目を見開いた。
「……! う……」
「ど、どうした!」
苦しそうに胸を抑える成美に、俺は駆け寄ろうとした。
「だ、ダメ……!」
その時、成美の声に呼応するように
『ビュウウウウウ!!!』
突如、俺たちの周りに暴風が吹き荒れた。
「うおっ!」
「きゃあ! か、風……!?」
暴風が襲い、俺の体は数歩後ろへよろけてしまった。
その瞬間
『ドガアアアアアン!!!』
「「……!」」
俺の正面から、衝撃音。
土埃が宙を舞った。
何が起きたか、俺も、隣にいたマリナも一瞬わからなかった。
音がした地面を見ると、そこにあったのは鉄骨。
クエスト案内所の増設工事の鉄骨が降って来たのだ。
俺が、さっきまで立っていた場所に。
「か、神様! 大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……」
危なかった。あと数センチ俺の方へずれて落ちてきたいたら、命はなかった。
というより、あの『突如吹き荒れた暴風で、よろけなければ……』
「うぅ……ぁ……」
「……! 成美!?」
成美が苦しそうに口元を抑える。そして……
「ぐぇ……!」
『びぢゃ!!』
「……!」
俺は目を見張った。
成美が、血を吐いたのだ。
成美の手が血で汚れ、地面へと滴り落ちる。
「お、おい! 大丈夫か!?」
「血がこんなに……!」
「ぅ……」
『ドサッ』
「……! 成美!」
倒れた成美を、俺は抱え起こす。
呼びかけるが、返事はない。
成美の様子、2本のツノ、そして、突風。
「コイツはまさか……」
成美の謎に、俺は、ようやく気づき始めていた。
息の荒い少女の手を俺はギュッと握った。




