謎の少女
「いやぁ凄かったですね! あたし、龍なんて初めて見ました!」
「俺もだ。巫女が踊っていた舞も神秘的だったな」
俺たちは広場から離れ、国の大通りを歩いていた。
この国に来てから暗い気持ちにさせられていたが、あんなに良いものが見られたのなら、少しは気分も晴れるというものだ。
「でも私からしてみたら、神様に見せてもらった剣舞の方が美しかったですけど!」
「ほんとにやめてね?」
まじで比べるのも烏滸がましいレベルだから。
「だが、この国が裕福な謎は解けたな」
つまりここの国の人間が裕福なのは、あの瑞龍とやらが力を貸しているからだと。
「でもここの住人限定なんですねー……どうします? ここに住民登録しちゃいましょうか?」
「バカ言うな」
え? ここで終わりにすんの? 俺たちの旅の終着点ここ?
「冗談ですよー。でも、やっぱりちょっと羨ましいですねー」
「へっ。幸福になっても、性格は悪くなるようだけどな。ここの住人」
そんな会話をしながら歩いていると
ぐぅうーー。
互いの腹から、盛大な音が鳴った。
「あはは、お腹、空いてきちゃいましたね」
さっきレストランに入れなかったからだ。
もうとっくに昼時を過ぎている。体も限界だ。
「どうします? レストランとかには入れないですし……」
「一応保存食として干し肉はあるが……これを食うしかないか」
「うう……しょうがないですね、いただきましょう」
俺たち袋から干し肉を取り出した。
道の端っこに座り、キラキラした服を着た連中が行き交うのを眺めながら、モソモソと干し肉を食べる。
なんだか惨めな気持ちになってきた。
くそう。なんだって新しい国に着いたのに、こんな不自由な想いをしなきゃいけんのだ。
そんな思いに心の中で涙していると、俺たちが隣のレストランの入り口で話し声が聞こえた。
「すまんな嬢ちゃん、ここは嬢ちゃんみたいな貧乏人が来るところじゃないんだよ」
高級レストランの前で、フードを被った女の子が、さっきの俺たちみたいにドアマンから追い払われている。
「金がなきゃ買えねえんだよ。飯が欲しかったらパパかママを呼んできな」
「あ……」
そう言われて、子供は店から追い出された。
周囲を見渡しても、親らしき人間はいない。
迷子だろうか。
入店を断られた少女は、フードの中でしょんぼりとうつむいている。
その時
──ぐぅ……。
小さな腹の音が聞こえた。
どうやら、かなり腹を空かせているらしい。
「ねえねえ、お腹が空いてるの?」
マリナが声をかける。
少女はその声に反応して顔を上げた。
肩まで伸びた、少し緑がかった黒い髪。
そして、黄金の瞳がこちらを見つめている。
「これ、もしよかったら食べて!」
マリナは袋から干し肉を一つ取り出して、その子に差し出した。
少女は驚くが、警戒して受け取らない。
「美味しいよ! ほら、毒なんて入ってないから!」
マリナは目の前で自分の干し肉を食べて、毒がないことをアピールする。
すると少女はおそるおそる、干し肉を受け取った。
その時、マントの袖から覗いた少女の腕が目に入った。
──かなり痩せている。
ここにいる人間には貧富の差がないと、さっきのおばさんは言っていた。
ということは、俺たちと同じ旅人だろうか?
でも、着ているものは多少豪華な気がする。
上質そうなマントにスカート。
──いったい、この子は、何者なんだ?
「……あむ」
少女は干し肉を一口で食べた。
「おお! 豪快な食べ方だね! お水も飲む?」
「……」
マリナが水を差し出すと、少女は黙って受け取り、喉を鳴らしながら飲んだ。
「……あ、ありがとう」
少女はお礼を言った。
その声は小さいが、年にしてはだいぶ理知的で、落ち着いていた。
「どういたしまして! 君、お名前は? もしかして迷子かな?」
「……」
マリナからの質問に答えず、少女は駆け出して行った。
「あ、ちょっと! ……あらら、行っちゃいました……」
「泣いてないし助けも請わないってことは、迷子ってわけじゃないんだろ」
「そうだといいんですが……」
マリナは心配そうな顔で女の子が去っていった方を見つめた。
俺も、その背中を眺める。
何か少し、心の中にひっかかるものがあった。
「それで、この後どうするかだな」
今は俺たち自身の問題もある。
この国で、どうやって今日を過ごすか決めなければならない。
「とりあえず宿とご飯を確保しなきゃいけませんよね」
「そうだな……両方とも値段が高いんじゃ、俺たちには手が出せねえよ。今日は野宿で、飯は外に出て魔物かなんか倒して調達しなきゃな」
「そうですよねー……せっかく今日はお風呂に入れると思ったのに……」
「しょうがない。っていうか、やっぱりこんな国、早く出ようぜ。俺たちには分不相応だろ」
「えー!? でももう来ないかもしれないんですよ!? 高級ホテルの一泊や、高級レストランのフルコース一つくらい堪能したいです!」
「うーん、まぁその気持ちはわかるどよ……」
俺だって正直、なにかしたいとは思っている。
だが、その日暮らしをしていた俺たちに、今のままでは高級ホテルに泊まるなんて無理な話だ。
「それならとにかく金を貯めないとだな。今の俺たちにはこの国のホテルなんて夢のまた夢だ。何日間かクエストを受けて、それで一泊するって感じだな」
「うう……世知辛いですね世の中……」
「まぁがんばろうぜ! 贅沢するためにもよ! ひとまずクエスト紹介所の掲示板見に行こうぜ」
「はーい……」
悲しげに干し肉を頬張るマリナを励まして、俺たちはクエスト紹介所へ足を運んだ。




