何もできない
時刻は昼過ぎ、まずはどこかしらで飯を食おうという話になったのだが……俺たちはレストランの前で門前払いを喰らっていた。
レストランの前にいた、ジャケットを着た男は、入ろうとした俺たちを止め、嫌な視線を向けてくる。
「おい、レストランに入ろうとすんじゃねえよ。ここはお前らみたいな貧乏人が来るようなところじゃねえんだよ」
「あ? 誰だアンタ」
「俺はこのレストランのドアマンだ。残念だが貧乏人の入店はお断りさせてもらってるんだ」
なんだこいつ。スネ夫みたいなこと言いやがって。
「見ただけでわかる。お前たち他所から来た旅人だろ? 貧乏臭い匂いがぷんぷんする。そんな奴らにはレストランに入店する資格がねえのよ」
「何言ってんだテメェ? 貧乏貧乏うるせえなさっきから。その頭、横からしか描写できないギザギザヘアーにしてやろうか?」
「ま、まぁまぁ神様……」
マリナが俺の袖を慌てて引っ張る。
「えっと、ドレスコード必須ってことですか?」
「いや」
マリナの質問に、ドアマンは鼻で笑う。
「ドレスコードをしてきたとしても、アンタらに食わす飯はねえよ」
「は? どういうことだ?」
「見てみるか? うちの飯の値段だ」
男はメニューを俺たちに見せる。
それを見た俺たちは目ん玉が飛び出た。
「……たっか!!」
そこに並んでいたのは、目を疑いたくなるような金額ばかりだった。
軽く食事をするだけでも10万円くらいは飛んでいきそうな値段だ。
「お、お水一杯5,000ゴールドするんですか!?」
1ゴールドの価値は1円と同じだ。
このレストランでは水一杯5000円で売られている。
「この値段なのはココだけじゃない。この国にある他のものも同じさ。レストランだけじゃなく、スーパーやコンビニ、宿泊施設も全て、お前ら貧乏人の旅人じゃ手が届かない値段になってんのさ」
「「……」」
俺たちはその瞬間、あの商人が言っていたことの意味がわかった。
この国にあるもの全てが高級品
金を持った人間だけが、この国の豊かさを享受できる。
だから俺たちには、『何もできない』のだ。
「わかったか? 龍星国はお前たち貧乏人の旅人が来るようなところじゃないんだよ。さっさと帰って、故郷の不味い飯でも食ってろ」
「あんだと?」
「ま、まぁまぁ! すいませんでした! またの機会にー!」
ドアマンのあまりの態度に切れかれた俺の腕をマリナは引っ張り、そのままレストランから離れていった。
それから俺たちは、別のレストランや商業施設、コンビニまで回ってみた。
だが、結果は同じだった。
コンビニのパン1つ7,000ゴールド。
飲み物6,000ゴールド。
ホテル一泊数十万ゴールド。
どこへ行っても、馬鹿げた値段の商品ばかり。
「ったく! なんなんだこの国! どこもかしこも値段が高すぎるんだが!?」
「こんなの手が出せませんよ……せっかく新しい国に来たのに何もできないなんてー……」
俺たちは道の端で肩を落とし、大きなため息を吐いた。
「しかも……この国の人間、態度が最悪すぎないか?」
「そうですね……なんか、旅人というか、お金持ってない人への当たりがきついです」
『貧乏人のあなた方に払えますか?』
『寄り付かないでください。ここは一流のホテルです。あなた方には縁のないようなね』
店員からそんなことばっかり言われる。
龍星国に入ったときの高揚感は、すっかり消え失せていた。
「でも確かに……」
マリナが国を見回す。
「よくよく見たら、この国にいる人たち、誰も彼も裕福そうですね」
恰幅の良い男や、ドレスや宝石を身につけた女性たちが、当たり前のように国を行き交っている。
「お金持ちの国ってことですか」
「本当だな……」
俺も改めて街を見回した。
「この国は、なんでこんなに栄えているんだ?」
フォンティーヌ騎士団があるオルデバラン王国は、よくて中世ヨーロッパ程度の発展具合だった。
それなのに、この龍星国は違う。
高層ビルが立ち並び、道路は整備され、店は日本と比べても何ら変わらないレベルのもの。
住人たちも裕福そうで、金に困っている様子など微塵もない。
一体、どうしてここまで発展している?
そう疑問に思った、その時だった。
『ピンポンパンポーン』
国全体にアナウンスが鳴り響いた。
『これより、“瑞龍の舞”が始まります。ご利益を受けたい方は、中央広場へお集まりください』
「……?」
なんだ? 瑞龍の舞?
その放送を聞いた瞬間だった。
街を歩いていた人々が、まるで示し合わせたかのように足を止めた。
そして、次の瞬間、目の色を変えた。
「おい! 瑞龍の舞が始まるぞ!」
「早く行くぞ! 幸運を与えてくださる瑞龍様を見るんだ!」
道を歩いていた人だけではない。
店を開いていた従業員も、街を行き交っていた会社員も、仕事を放り出すようにして一斉に走り始めた。
まるで、何かに急かされているかのように。
「いったいなんだ……?」
「わかんないですけど、さっきの放送が原因ですかね?」
ご利益とか聞こえたが、なんか神社的な場所でイベントでもやっているのだろうか?
「行ってみるか?」
「はい!」
俺たちも人の流れに身を任せた。




