フォンティーヌ騎士団特別講師
話は、少し過去へと戻る。
ここは、フォンティーヌ騎士団本部。
マリナとナツミの決闘が終わって3日が経った。
マリナは怪我のため療養をしている。
そして、俺はというと……
「お願いします! 私たちに剣を教えてください!!」
「……」
目の前で俺に頭を下げる騎士達。
ここ3日間、客室に引きこもっていても、どこにいても声をかけられる。
騎士達から『剣を教えてくれ』と
俺は「またか……」と溜息を吐きながら答える。
「あのな、何回も言ってるよな? 俺にそんなことをする義理はねえし、こんなこと頼んでる暇があるなら素振り一回でも多くしろって」
「ですが我々も強くなりたいのです!」
そう言って、俺の話なんて聞こうとしない。
「マリナお嬢様を騎士団長に勝たせるまでに成長させた、貴方の手腕を見込んでのことなのです!」
「いや、それはマリナが頑張ったからで……」
「お願いします!」
「師匠!」
「先生!」
「コーチ!」
俺は天を仰ぐ。
俺の手腕がどうのとか言ってるが、そもそもマリナがナツミに勝ったのは、試合中にたまたまマリナが才能を開花させたからで。
しかも、俺が適当に踊っていた剣舞から、とんでもない神技を生み出したからで。
俺は自分の功績、なんてほぼないに等しいと思っている。
──そもそも俺は、人に剣を教えるような柄じゃないんだって……
最強の騎士団に俺が教えて、変な癖がついたとか洒落にならない。
断っても断ってもついてくるこの騎士軍団に納得してもらうには……
ナツミを利用しよっと。
「まぁ、俺は教えるのも正直やぶさかではないんだが、君たちの騎士団長がなんて言うかなぁ……? やっぱり部外者に大事な団員の稽古は任せないんじゃ……」
「別に構いませんよ」
「は?」
いきなり後ろからそんな声が聞こえた。ゆっくり振り返ると、そこにいたのは騎士団長のナツミだった。
「団長からのお許しが出たぞ!!」
「これで教えてもらえる……!」
「私たちも団長を超えられるかなぁ……!」
ざわざわと色めき立つ騎士達。
やばーい何言ってんだこの人!
「い、いやいや何言ってんのナツミさぁん? 俺なんかが稽古つけたら世界最強の騎士団の名が傷ついちゃいますって。わかってますぅ?」
「でもマリナは貴方の師事で、私を倒したのですから。そのような方に教えてもらうのであれば、騎士達も光栄だと思います」
「い、いやぁ、でも俺もやっぱり忙しいし、そんなことをする義理は……」
「あら、ここ3日間の宿泊費、飲食費、請求してもよろしいのですよ?」
「はぁ!?」
こいつ、とんでもねえことを言い出しやがった。確かにここに泊まっている間、部屋は豪華絢爛な客室を割り当てられ、飯もシェフのフルコースを堪能している。
一流ホテルさながらの提供を受けているのは事実だ。
「昨日のご飯は美味しかったですか? ふかふかのベッドでよく眠れましたか?? 無料で堪能できて嬉しかったですか???」
ヒクヒクと、俺の口の端が吊り上がっていくのを感じた。
目の前には、許しをもらって犬のように目をキラキラさせている騎士達。
こ、断りたい……! くそ……!
「さぁ皆さん。本日の臨時講師に礼を言いましょう」
「「「「「ありがとうございます!!! 先生!!」」」」」
「だぁわかった! そこに並べ! 稽古つけてやるよ!!」
「よし! やったぁ!」
「剣舞教えてください! 剣舞!!」
「教えるか!! あんなの真似しようなんて絶対思うんじゃねえぞ!!」
こうなりゃヤケだ。こいつらが満足するまでとことん教えてやるわ。
日が暮れ、俺の稽古を受けた騎士達は満足したように笑顔で帰っていく。
「また明日もよろしくお願いします!」
「……気が向いたらな」
途中からどんどん数を増やしやがって。300人くらいいたんじゃねえか? 最終的に。
正直この人数を相手すんのは疲れた。もう2度とやりたくない。
「お疲れ様でした」
背後からナツミが声をかけてきた。
「どうですか? 私の騎士団は」
「全然わからんよ。やっぱり指導者として向いてねえや俺」
「ですが、騎士達も皆良い顔をしています」
「……そうか」
よく騎士達の顔を見てみると、ナツミの言う通り、まぁどいつもこいつも良い顔してやがる。
「力になれたなら良かったが……もうこれきりにしてくれよ」
「あら、そんなこと言わずに。本日のディナーはもっと豪華なものをシェフが作ってくださいますから」
「……考えとくよ」
なんかいいように使われている気がするが。
まぁ、そんな事より──
「それで、何の用だ? 労いに来たわけじゃないんだろ?」
「──気付いてましたか」
当たり前だろ。
こいつ訓練前に近づいてきた時もそうだが、闘気を隠さずに近づいてきた。
「お疲れのところ申し訳ありませんが、少しだけ、付き合ってくれませんか?」
ナツミの腰には、一振りの剣。
いつもの木刀ではない。
俺は小さく息を吐いた。
「つまり、俺と戦いたいってことか」
「はい」
ナツミは真っ直ぐに俺を見た。
「貴方と、真剣で試合がしたい」




