旅立ち
3日後
「……」
「……」
本当に色々とあった。
体力が尽き、気づけば俺たちは家の中で倒れるように眠っていた。
そして目を覚ました時には、すでに3日が経っていた。
2人で何も言わずに片付け、そして身支度を整えて、家を出た。
家の玄関の前で、俺たちは顔を伏せたまま一言も話さない。
何喋っていいかわかんねえよ。
ってかなんで完全に師弟になった数分後にまた違う関係になっちまったんだよ。
これから楽しい自由な旅のはずだろ?
何でこんな気まずい状態で出発なんだよ。
マリナの方に視線を向けると、赤い瞳と目が合った。
「けだもの」
「どっちがだコラァ!!」
マリナから聞き捨てならない言葉が聞こえて俺は突っ込んだ。
「先に誘って来たのお前だよな!?」
「あ、あたしは酔っていたんです! 酔ってなかった神様の我慢が足りないんじゃないんですか!?」
「はい残念! 酔いが明らかに覚めた後もお前はノリノリでしたー! 酔っていたは言い訳になりませーん!」
「ってことは我慢が足りなかったのは本当なんですね! そんなにあたしの色気が凄かったんですか!? 理性が吹き飛んじゃったんですか!?」
「あぁそうだね! ちょっと前までガキだったとは思えないくらいの色気だったね! もう我慢ができなくなるくらいドスケベな表情してたね!」
「神様こそ全然敵わないくらい力強くて男らしくて! でもときどき優しくしてくれるのが、ほ、本当に……か、かっこよ……かった……です……」
次第に、マリナの顔がどんどん赤くなっていった。
俺の顔も赤くなっているかもしれんが。
「「……」」
互いに視線を逸らす。
出発だって時に、こんな浮ついた気持ちでいいんだろうか。
俺は顔を手で覆い、深いため息を吐いた。
「とにかく、ここ3日間のことは忘れろ」
「……え?」
「ナツミとの約束通り、お前はこれから最強の侍になるんだ。そんなお前の人生を、俺との関係で曖昧にしたくない。俺も忘れるから、あれは酒の勢いで起きた過ちだったってことで、無かったことに……」
「ダメです」
「……!」
マリナは、俺の言葉を遮るように、はっきりと首を振った。
「忘れないでください。たとえお酒の勢いだったとしても、あたし、後悔はしてませんから」
その紅い瞳には、有無を言わせぬ意思が宿っていた。
「わかってます。あたしは世界一強い侍になります」
一度、言葉を区切る。
そしてマリナは、自分の胸に手を当てた。
「そして、世界一自由な侍にも」
まっすぐに、俺を見据える。
「だから、この気持ちだって、否定したくありません」
その顔は、もう、半年前の少女の顔では無かった。
「貴方のことを、愛しているこの気持ちは、愛し合ったあの時間は、絶対忘れません」
その言葉が、俺の胸に深く響いた。
彼女は、半年の間で少女から女性へと成長していた。
自分がなりたいものを選び。
自分が守りたいものを決め。
たとえ俺に反対されても、自分の意思を貫こうとしている。
……全ての気持ちや想いを捨てないことも、自由なのかもしれない。
「……神様が、どうしても忘れたいなら、仕方ないですけど……」
「……わかった」
目の前の女性の言葉に、俺は頷いた。
もう、子供として扱うのはやめよう。
自分の意思で選び、自分の人生を歩こうとしている一人の大人として、向き合いたい。
「俺も、責任は取る」
「……!」
俺も、本心を伝えたい。
「俺は、お前が世界で1番大切だから」
その言葉に、マリナの顔が一段と綻んだ。
「はい……!」
多少の紆余曲折はあったかもしれないが、こう来て俺たちは旅立ちの瞬間を迎えた。
「さて、最初はどこに向かうんだ?」
「さぁ、風の向くまま……」
マリナが瞳を閉じる。
すると、吹き抜けた風が南東へと流れていった。
「おぉ! こっちですって!」
「いいのかよ、そんな適当で」
「どこでもいいんですよ! 目的地なんて!」
俺の手をマリナは引き、そして走り出す。
「あたしたちは自由なんですから!」
見果てぬ先まで続く、目的のない、気ままな旅。
俺たちの門出を祈るかのように
爽やかな風が、俺たちの背中を押した。




