師弟の契り
赤く染まった紅葉が、秋風に揺れている。
俺は紅葉の木の下で、赤いシートを広げる。
小屋の中にあった盃を二つ、シートの上に置いた。
感極まった様子のマリナが、紅い瞳を輝かせながら周囲の紅葉を見渡した。
「わぁ……紅葉に囲まれながらお酒飲んで、素敵な服も貰って、しかも神様の正式な弟子になれるなんて……なんか、もう、胸がいっぱいです!」
「いいだろ。俺たちの門出にぴったりだ」
俺たちはシートに向かい合って座った。
「贅沢だぜ? こんな美しい紅葉を肴に酒なんて」
最初にこんな場所での酒を堪能したら、もう他の酒じゃ満足できなくなっちまうんじゃねーか?
俺は2人分の盃に酒を注ぐ。
1つを、マリナへと差し出した。
「いいか? この盃を受け取ったら、俺とお前はもう他人じゃない。一蓮托生の存在になる」
兄弟、親子、そのどれとも違うが、それと同じくらいに強い絆で結ばれる存在になる。
俺は最後の確認のつもりで、聞いた。
「それでもいいか?」
マリナは少しだけ、紅葉を見上げ、そして、三つ指を突いて、俺に深々とお辞儀をした。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
そして顔を上げたマリナの顔は、晴れやかだった。
差し出した盃を、マリナは両手で受け取って、再びお辞儀をする。
俺は、盃を掲げた。
「マリナ」
「はい」
「お前は俺の弟子として、その剣を俺に預けるか?」
「はい」
「いかなる時も、俺と共に歩むことを誓うか?」
「はい」
「なら、俺も誓おう」
水面に、秋の紅葉が舞う。
「俺はお前の師として、そして……神として、お前と共にあることを」
その言葉に呼応するように、マリナの瞳が赤く輝いた。
「寛大な御言葉、誠に、ありがとうございます」
マリナも、盃を掲げた。
「私、マリナ・フォンティーヌはいついかなる時も、神様の剣となり、盾となる。この度のご恩に報い、弟子の盃、ここに頂戴いたします」
『カチン』
俺たちは盃を合わせ、唇へと運ぶ。
その瞬間、秋風が庭を吹き抜けた。
枝を揺らされた紅葉が、俺たちの頭上から一斉に舞い落ちる。
赤い葉が、一枚、また一枚と。
まるで天から降る祝福のように。
俺は酒を飲み干した。
「……ふぅ」
美味い酒だ。さすが騎士団長のオススメ。
こんなにも、晴れやかな気分は初めてだ。
愛弟子と共に、酒を飲んで契りを交わすなんざ。
目の前のマリナも酒を飲み干し、盃が空になった。
「どうだ? 初めての酒の味は?」
「ひっく」
「へ?」
気のせいか?
マリナからしゃっくりが聞こえてきたような。
え、いやいや、そんなベタな展開ないって。
「さて、それじゃ片付けて早々と出発するか〜! どこ行きたいー?」
「ん」
マリナは盃を俺によこしてきた。
まるで酒を注げと言ってるような。
「ど、どうしたマリ……」
「注いでください」
間違ってなかった。
「あー、もう、いいんじゃね?」
「注いでください」
「いや、ほら、もう師弟にはなったわけだし、儀式は終わりっていうか……」
「注いでくらさい」
「これ以上飲む必要はないから……」
「そんなの関係ないんれすよ!!!」
「ふぁ?」
顔がいつの間にか真っ赤になっていたマリナがデカい声を出した。
え? 一杯で?
「飲みたいから飲んで何が悪いんれすか!? 注いでくらさい!!」
「は、はい!」
なんか敬語になっちまった。
盃に注がれた2杯目を、マリナは豪快に飲み干す。
「かぁー……ありぇ? かみひゃまは飲まないんれふか?」
「い、いやいやもう出発した方がいいんじゃない? これ以上飲んだら旅に差し支え……」
「いいんれすよ! 明日になってもぉ! ほら飲んれ!」
「は、はい……!」
俺も盃に酒をなみなみ注がれる。
コイツこんなに酒癖が悪かったとは想像もしなかった。
しかもゲロ弱い。
「そんな旅とかぁ……それよりもぉ……かみひゃまぁ……」
「なん……ぶっ!」
マリナは着ている上衣を脱いだ。
サラシが露わになって、年に見合わない大きな2つの山が顔をのぞかせる。
「お前何してんの!? ここ外なんだけど!?」
「あたし、16になりまひだけどぉ? もう成人、しまひたけど?」
質問に質問で返すんじゃねえよ。
「そ、それがどうしたよ?」
「子供にゃ、興味、ないんれすよねぇ? でももう、子供じゃ、なくなりまひだけど?」
「は、は? な、何が言いてえんだ?」
「……とぼけるんれすね」
マリナは空になった盃を置いて、四つん這いの姿勢で俺に近づいてくる。
「ちょ、ちょ、なんで近づいてくんの?」
なんかわからんが、女豹を思い浮かべた。
獲物を狙っている、女豹を。
マリナの手が、俺の胸に触れた。
「お、おいまて! 悪酒がすぎるぞ!」
俺が危機を感じ、その場から逃げようとする。しかし
「にがひまへん」
『ガシッ』
「は?」
マリナに腕を掴まれ、そのまま押し倒された。
「ぐえッ! ちょ、マリナ!」
なんでこんなに力強えんだ!?
全然振り解けねぇ!!
俺の上に馬乗りになったマリナは、なんか妖艶な顔をしながら舌で唇を舐めた。
「そんな悪い大人には、バツ、与えないとれすよねぇ?」
マリナの顔が、近づいてくる。
「だめだめだめだって! お前も後悔するよ!? 酔った勢いでってのもダメだし、初っ端で外はヤバいから! 黒歴史になるから!」
「そんにゃの関係ありましぇん! あらしがどんだけ我慢ひたと……!」
やばい! このままだと本当に一線を越える!
「い、いい加減に、しとけぇ!」
「──!!」
俺はマリナの腕を掴み、強引に体を回転させて、逆に地面に押し倒す。
「ふぅー。どうだコラァ! 大人を舐め……る、な……よ?」
「……❤︎」
マリナの顔がすぐ下にある。
その顔は、組み付された女の顔じゃなくて。
──お、おいおいやめろってその、エロい表情……
マリナの腕を掴んでいる手の力が緩むくらい、今のコイツは色気を出していた。
でも、拘束が緩んでも、マリナはもう、俺を襲おうとはしなかった。
逆に、襲われることを望んでいる。
──お、落ち着け、コイツは成人したばっかで、なんなら日本基準だとまだ子供で……
マリナの赤い瞳が、こちらを見つめる。
「きて、ください」
あ、や、やば……
マリナの顔が、近づいて……
「おとなに、してください」
「──」
そこから先は、あんまり覚えていない。




