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不老になって数百年間、ずっと剣を振ってたらいつの間にか剣の神様になってたらしい〜侍を目指す少女と自由に世界を旅します〜  作者: 平元桜央


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2つのプレゼント

 フォンティーヌ家を旅立った、次の日の昼。


「わぁー! 凄い! 神様! 紅葉がすごく綺麗です!」


「あぁ。すげぇ綺麗だろう?」


 俺たちは戻ってきた。

 俺たちが、これまで暮らしていた山へ。


 山は季節ごとに違う顔を見せる。

 春には桜が咲き、夏には満天の星が広がり、秋には紅葉が山を染め、冬には雪がすべてを白く覆う。


 俺たちに対して、おかえりと、言ってくれているかのようだ。


「……帰ってきましたね」


「とは言っても、もうすぐに出発になるけどなぁ」


 もう十分フォンティーヌ家で休息は取った。

 身支度を整えれば、いつでも出発できる。

 まだ日は高いから、今日中にでも。


「……そ、そうですね」


 俺の言葉を聞いたマリナの顔に、少し翳りがさした。


「どうした? 元気がないぞ?」


 馬車に乗っている時から、どこか様子がおかしかった。

 朝までは侍として旅立てることを喜んでいたのに、この山へ近づくにつれて、だんだん口数が減っていった。


「……神様」


 マリナは目をギュッとつぶって、意を決したように俺に質問してきた。


「神様は、ここを、離れることとか、できたり……しませんか?」


「え、できるよ」


「できれば、貴方と一緒に、旅を……え?」


 それは、一緒についてきてほしいということだろう。


 何を当たり前のことを言ってるんだコイツは。


「何言ってんだ? 一緒に行くに決まってるだろ」


「……え? だ、え?」


 そんなことで悩んでたのか。


 まぁ、正直俺も、マリナの自由な旅の邪魔になるんじゃないかと思った。


 でも、そんなことは関係ない。


 俺が、マリナと一緒にいたいんだから。






「お前と一緒に、自由に世界を見てみたい」


「……っ、……!」







 マリナは両手を口にあて、そして、一雫の涙がこぼれ落ちた。


「マリナ……?」


「ご、ごめんなさい……! でも、と、止まらなくって……」


 次々に出てくる涙をハンカチで拭う。


「こ、これからも、神様の隣にいられることが、うれしくて……!」


 それでも、マリナは幸せそうにしていた。


「侍になれたのは、嬉しいです……でも、もうこの関係も終わって……貴方が、どこか、離れて行っちゃうんじゃないかって……」


「行かねえよ。どこにも」


 俺は安心させるように言う。


「言っただろ? 剣の神は、いつだってお前と共にあるって」


「……──」


 それが本心だった。

 マリナはとびきりの笑顔で、まだ止まらない涙を拭う。


「最近すごい涙脆くなっちゃいました……神様のせいですよ」


「そりゃすまん」


 俺は笑いながら謝って、自分の荷物から風呂敷を取り出した。


「マリナ」


 それを、マリナへと渡す。


 マリナが風呂敷を開くと、そこから出てきたのは、服だった。

 騎士の格好ではない、侍の服。


「……こ、これって」


「誕生日、おめでとう」


 その言葉に、マリナの瞳が輝いた。


 今日は、マリナの誕生日だ。

 それも、16歳で、この世界では成人になる日。


 もちろん勝利した祝いでもあるが、成人祝いも兼ねてのプレゼントだった。


「あ、ありがとうございます! わぁ! すっごい綺麗で……こんなのいつ用意したんですか!?」


「マリナが療養中の時にな。一応ナツミやお世話係のメイドに聞いて、サイズとかは合ってると思うんだが……」


「多分大丈夫です! 早速着て来ます!」


 マリナは爆速で小屋に入って、そして出てくる。


「うん! サイズバッチリです!」


 濃紺の和装の上衣に、淡い灰色のスカート。そして、白い羽織り。


 侍を思わせるその装いは本来なら凛々しく見えるはずなのに、マリナが着るとどこか可愛らしい。


 ゆったりとした袖から覗く華奢な手や、腰で結ばれた白い帯、歩くたびにふわりと揺れるスカートの裾。

 そんな一つ一つが、マリナの愛らしさを際立たせていた。


 長い栗色の髪に、紺の上衣はよく映えた。


「ど、どうですか?」


「あぁ、すごく似合ってるよ」


 俺の言葉に、マリナの顔は一瞬輝いたが、すぐさま頰を膨らませて顰めっ面をした。


「……もうちょっとほしいです」


「へ?」


「ほら! いつもの女誑しめいた言葉はどうしたんですか!? こういう時こそ、そういった言葉の使い所でしょう!」


 コイツ俺を何だと思ってるんだ。

 とりあえず頭の中の言葉を口に出すか。


「……」


 あれ、あんまり出てこん。というか、思ってるんだが、恥ずかしい。


「……? 神様?」


 輝いたルビー色の瞳で俺のことを覗き込んでくる。俺は咄嗟に目を逸らした。


「……可愛いよ」


「なんでそっぽ向きながら言うんですか! もっといつもみたいに堂々と……」


 そこで、マリナははたと気づいた。


「神様もしかして照れてます?」


「……」


 沈黙してしまった。アホか否定しろよ俺。これじゃ肯定してるようなもんじゃねえか。


「へぇー?」


 とたん、マリナの顔がニヤニヤし始めた。


「そうですよねー? このスカートと着物って、神様の好みってことですよねー? どうですか? 愛弟子を自分色に染め上げた感想はいだだだだだだだぁ!!! アイアンクローはダメですって!」


「調子乗ってる悪い奴へのお仕置きは必要だろ?」


「すいませんすいません! もう言いませんから許して!」


「たくっ……どうだ? 動けるか?」


「はい! 思ったより動きやすくって」


 これからも剣舞を戦いの中でするのであれば、なるべく動きやすい服の方が良いだろう。

 だから侍にしては軽装にした。


 トントンと嬉しそうに剣舞のステップを踏む。


「ありがとうございます! 大切にします! ずっとずっと!」


「そりゃ嬉しいもんだ。だがな? 満足するのは早いぜ?」


「え?」


「プレゼント第二弾だ」


 俺は荷物の中から箱を取り出す。


「そ、それってまさか」


「そう、酒だ」


 マリナはもう、酒が飲める年になったのだ。

 もちろんこの世界で、だが。


「ご、ご一緒に、飲んで良いんですか!?」


「あぁもちろん。俺が相手で良ければな」


「やったぁ!! こんなものまで用意してくださるなんて……」


 その言葉に俺は首を振る。


「この酒は、ナツミがくれたんだ」


「……!」


「マリナに呑ませてやってくれと」


「ママが……」


 マリナは噛み締めるように、その酒を見つめた。

 かなり高価な酒らしい。

 大切にとっておいたものなのだそうだ。


「旅から帰ってきたら、ナツミとも呑んでやってくれよ。お前と呑むの、楽しみしていたからよ」


「はい……! きっといつか、絶対!」


 また、マリナが一端の侍になった時に。


「さて、それじゃ早速飲んでみるか。初酒」


「そうですね! 一緒に飲みましょう! ちょっとお昼ご飯には早いですが、肴を作りますか?」


「いや、それなんだが……」


 俺は少し言うのが照れくさくて、頰を掻いた。


「師弟の契りでも交わすか」


「……! 師弟の、契りを……! 神様と、あたし、が?」


「おう、もうとっくに師弟のつもりだけど、まぁ、やったことなかったしな」


「やった……! やった!」


 今日1番嬉しそうに飛び上がった。


「そんなに嬉しいか?」


「もちろん! これで正式に、神様の弟子を名乗れるんですよね!? 最高の誕生日プレゼントですよ!」


 俺との関係をもてることをそこまで喜ぶとは思っていなかったので、多少面を食らう。


 でも、やはり嬉しい。俺の顔も、綻んでいくのを感じた。


「で、でも……なんだかこんなに頂いちゃって、あたしから返せるものも、何もないですけど……」


「いいんだよ。今日はお前のための日なんだから」


 それに、俺はもう、お前からいろんなものをもらってる。


 俺は酒の箱を開けた。


「だから、今日で終わりにしようぜ」


「……?」


「曖昧な師匠と弟子の関係を」


 マリナが、目を見開く。


「ちゃんと、師弟の契りを交わそう」


「……!」


 その瞬間、マリナの顔が、今日一番の笑顔になった。

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