第2話:クオン、戦技教官になる
聖オルトリンデ女学園を前に、クオンはまず唖然とした。
驚愕……それも、過去一番といっても過言ではない。
「なんだ、これは……学園? これが?」
「あの、そんなに驚くところありましたか?」
「……嘘だろ」
不可思議そうにする少女に、クオンは更なる驚愕に苛まれる。
学園とは名ばかりで、その全容は言うなれば居城だ。
白亜の外観ときたら、それこそ要塞に近しい。
そこに、年端もいかぬ少女たちが和気藹々と入っていく。
はっきりといって、すべてが異様だった。
――俺の知ってる学び舎と全然違う……。
――設備もなにもかも、こっちが圧倒的に上だ。
目に見えた文明の差に、クオンは素直に感嘆の息をほっと吐いた。
「――、はじめまして。あなたが生徒たちが言っていた人ですね」
「……アンタがこの学園の理事長とやらか?」
「はい。わたくしが有栖川レイナと申します。まずは、我が生徒たちを守ってくださ
りありがとうございます」
温厚にして端正な顔立ちに、柔らかな物腰。
紡がれる言葉の節々には、慈愛だけが満ちている。
大人だからこそある貫禄に、クオンは内心でホッと安堵の息を吐いた。
この女性とならば、少なくとも有益な情報交換ができよう。
「俺はクオン。クオン・フツミだ――早速だが、色々と聞きたいことがある」
「えぇ、それはわたくしも同じです――ですが、その前にお茶でもいかがですか?」
「毒なら効かんぞ? でもまぁ、美人からの誘いとなれば話は別だがな」
「まぁ、お上手な方ですね」
他愛もない会話を二、三事交えてからようやく――
「それではお尋ねします」
と、レイナが先に口火を切った。
口調も表情も柔らかなままなのに、目だけが真剣のようにとても鋭い。
「あなたは、いったい何者なのですか?」
「何者だ、と言われてもな……用心棒としか言いようがないぞ」
「では、質問を変えましょう――どうして、レギオンを倒すことができるのですか?」
「それはさっき、あの子どもたちにも同じことを聞かれたな――はっきり言って、知
らん」
あっけらかんと返すクオン。一方でレイナは、豆鉄砲を喰らった鳩のような顔を示
す。
――どうやって言われてもなぁ……どう説明したらいいかなんてわからないぞ。
気が付いた時から、普通に斬れた。
別段そこに、なにか特別なことをやった自覚もクオンにはこれっぽっちもない。
「斬れるから、ただ斬っているだけだな。そうとしか言いようがない」
「そ、そうですか……」
「……頭の悪い回答ですまないな」
「い、いえ私は決してそんなことは思ってませんよ!?」
「どうだかなぁ……」
クオンとレイナは互いに質問を投げ合う。
ここがどこで、どうしてここにいるのか。
しばし会話をしていく中で、やがて一つの結論にたどり着く。
この頃には両者の口からは小さな溜息がそろってもれた。
「――、つまりお互いによくわからないってことだな」
「そう、なりますわね……」
「そうかぁ……まぁ、最初からそこまで期待はしてなかったが。いざそうなると、やはりくるものがあるな」
なんの成果のないという状況に、クオンは片手で顔を覆った。
――それにしても、レギオン……ねぇ。
一つ確かな情報は、レギオンと禍鬼は似ているということ。
そしてある仮説が、クオンの脳裏にふとよぎる。
――昔に聞いた、袂を分かったっていう種族……。
――科学が発展した世界……ここが、もしかしてそうなのか?
確固たる証拠などなく、それを証明する術もない。
しかしクオンにとっては、実に些細なことだった。
試練を超える。そのためならば場所も人も、別段どうだっていい。
――しかし、肝心の試練ってのはいったいなにをやればいいんだ?
内心でうんうんと唸るクオンを、まるで見越したかのようにレイナがそっと口火を切る。
「ところでクオンさん、一つお願いがあります」
「お願い? 俺にいったいなんのお願いがあるんだ?」
「……クオンさん、その力を貸してはいただけませんか?」
レイナからの申し出に、クオンは一瞬だけ呆気に取られた。
異世界でよもや、用心棒をやるとは夢にも思ってなかったのだ。
これもなにかの縁に違いない。いや、これこそがきっと試練だ。
「別にいいぞ、今は特に依頼は受けてないからな――ただし、条件がある」
「はい、すでに承知しております」
「さすがは理事長だ。話が早くて助か――」
「特別に……本当に特別ですよ? この学園の生徒との交際を認めます」
「全然違った! 誰がそんなこと要求するかよ!」
クオンは、折れた愛刀を見せた。
「これだけすごい文明があるんだ。なら、相応の地鉄があるんじゃないのか?」
「この剣の修理ですか……それなら、特に問題はないかと思います」
「本当か!?」
「では、修理をする代わりにクオンさん――この学園の戦技教官になってくださいませんか?」
レイナの言葉に、クオンは眉をしかめた。
――俺が、戦技教官ねぇ……。
――……いや普通に無理じゃないか?
人に対して教えることを、クオンはあまり得意としない。
ましてやそれが幼気な子どもで、女児ともなれば尚更のことだった。
――しかし……ここで断ったら愛刀も直らないだろうし。
――それに、これが試練だったらやるしかないわなぁ。
しばし悩んだ末、ようやくクオンが首をゆっくりと縦に振った。
「……やれるだけ、やってみよう」
「では、決まりですね」
「だが、どうなっても知らんぞ?」
「クオンさんが思っているほど、我が学園の生徒たちは軟ではありませんわ」
自信たっぷりな言動に、ほんの少しだけ安心感が戻ってくる。
レイナがそこまで言うのだから、きっと大丈夫に違いない。
「それで? 俺は具体的に何をすればいいんだ?」
「クオンさんには、ある生徒たちを主に指導していただきたいのです」
「ある生徒?」
レイナの一言に、クオンははて、と小首をひねった。




