8話 留置場
ー◆不審者視点◆ー
メスショタが自警団の人に聞き取った情報によると、町中で僕はメスショタを抱えながら、冒険者5人を相手に暴れ回ったらしい。
何が起きたんだよ。
言葉を拾っても全然意味がわからん。
何をしたんだろう僕は。
全然記憶にないんだけど。
今から取り調べという事で牢屋から出され、事務室みたいな場所に通される。
取り調べをする自警団さんがお水を持ってきてくれて、メスショタと2人で人心地ついた。
水がとてもうまい。
これから事情聴取するとの事だが、過去の経緯や現場の証言などから、今回の件に関しては大体把握できているらしく、この聞き取りは参考程度のものらしい。
冒険者はメスショタの身体目当てで、僕に対する報復も含めて襲ってきたらしい。
冒険者5人は厳罰が課せられ、僕達は明日にでも釈放されるのだとか。
僕達はどうやら優遇されているようで、実際の取調室というのはもっと殺風景なところのとの事。
普通は武器も取り上げられるらしい。
そりゃそうだ。
そう考えると随分と待遇がいい。
色々状況が飲み込めてくるうちに、記憶が段々と戻ってきた。
酔いが回り、メスショタを抱えて宿屋を探してたときに、チンピラに絡まれたのは何となく思い出せる。
でも絡まれて、1人に頭突きして、僕達の戦いはこれからだをした所までしか覚えていない。
仕方がないので食堂から出たあとから、覚えている所までの流れを正直に話す事にする。
メスショタとかずっと寝ていたので、今回は通訳するだけの係の人になる。
経緯を話そうとしたところ、初っ端から話を止められた。
『待て。何故宿を探すんだ?』
「何故……? ええと、深酒をしていたので、身体を休める為にですが」
「そうではなく、浮浪者にも見えないし、流れの冒険者にしろ旅商人にしろ、何処かに住まいがあるんじゃないのか?」
どうやら町に寝場所があると思われている模様。
門番さんとかと情報共有してないのかと思ったけど、そういえば入出記録とかちゃんと取ってる感じじゃなかったな。
入る時も入門証を提示するだけだし。
紙が貴重であろうこの時代、記録を取るにはお金も掛かるし、保管場所も必要になる筈だ。
主な記録媒体って多分木簡とかだろうし。
現代人の感覚で細かい記録なんか取ってられないんだろう。
浮浪者に見えないのは、毎日身体も洗ってるし、洗濯もちゃんとしているお陰かな。
浮浪者で間違いないんだけどな。
さて、正直に山に住んでますって言って問題ないだろうか。
領有権とかの問題以前に、正気を疑われる気がするんだけど。
でもヤリサーの人達には家まで建てたの見られてるんだよな。
仕方ない、下手に嘘を吐いて痛い所をつくるのも面白くないし、ぼやかして話せば大丈夫な事とする。
「いえ、普段は山の辺りを仮住まいとしておりまして、今回は彼女の身の安全を考えて、宿を取ろうと考えた次第でして」
『…………』
物凄く変なものを見る微妙な顔をしていらっしゃるが、事実しか言ってないので納得してほしい。
その後は概ね問題なく聴取が進んだ。
相手は聞きたい事を一通り聞けたと判断したようで、こちらも聞きたかった質問をする事にする。
「あの、こちらの彼女は一部の冒険者に対して良くない目で見られているようで、同じようなトラブルが以前にも起こったのですが、自警団としてはどのように考えているのでしょうか。また同じような事態が起きる事は考えられるでしょうか?」
『それは我々も懸念している。君達を襲った冒険者は特別ガラが悪いチンピラのような連中で、そんな馬鹿な真似をする冒険者が他に居るとは我々も考えたくないが、実際のところなんとも言えない。こうして見ても彼女は随分と別嬪さんのようだし』
メスショタが通訳しながらニマニマとしている。
渾身の女装が評価されたことに喜んでいるんだろうが、コイツ危機感無さ過ぎだろ。
一連の騒動ってほぼ全てお前が発端だからな。
『冒険者ギルドから得た情報によると、宿屋の店主を巡る事件を契機として、随分と良くない目で彼女を見る冒険者の名前が多数報告されている。直前にも我々は注意を行っていたのだが、今回また事件が起きた事で、それらの冒険者に名指しで厳重に注意し抑止に努めることになる。君達も十分に用心して行動してほしい』
今更青い顔をするメスショタ。
もうさ、チンチン見せながら町を練り歩いて終わりにすればいいんじゃない?
ほら、幼児にシーシーさせるときのポジショニングでさ。
親役やりたくないから、ストーカーに頼んで僕は遠くから見てるわ。
そうこうしている内に、別の自警団の人が入ってきて僕達にお茶を出してくれた。
湯気を昇らせるソレは紅茶にも緑茶にも見えない薄暗い緑色をしている。
お礼を言って口にしてみると馴染みのない味で、少し粉っぽくて薬のような苦味もするが、二日酔いの身体に熱さが染み入るようで実にうまい。
『しかし君は本当に強いな。人一人を抱えながら多人数の冒険者を相手にしたとはとても思えない一方的な結果になったぞ。山でも随分と活躍していると耳にしている。モンスターの増加は我々にも悩みの種だからな。大勢の冒険者の命を救ってくれたとも聞いた。町を護る人間の一人として礼を言わせてくれ』
トチ狂ってやってたロビー活動を褒められたので微妙な気持ちになった。
メスショタも微妙な顔なので、僕の気持ちは伝わっているのだろう。
そのあとはちょっとした雑談をした。
記憶にないので冒険者に絡まれた辺りの顛末を訊くと、トチ狂ったアホの一人が火の魔法を放ったところであわや火事になりかけ、大騒ぎになったらしい。
その辺も科刑されるようで、アホ共の将来の展望は暗いようである。
まあきっちりお灸を据えてほしい。
僕達の身の安全の為でもある。
それと、これはずっと内心懸念していた事なので、ついでに済ます事にする。
青髪ポニテの遺品である冒険者カードみたいなやつを取り出し、自警団の人に手渡し経緯を説明する。
死体から装備を剥ぎ取り今も使っている事を話すが、特にお咎めはなく、カードを渡した事に感謝された。
申し訳なくなって心の中で謝ると、側に浮いたロリポニテは少し苦笑をして慰めてくれた。
最高に病んでるぜ。
ー◆ー
それからトイレに案内され、次に医務室らしき場所に案内された。
今日はここで泊まるように言われた模様。
ベッドが4台並んでいて、薬品のような匂いが漂っている。
部屋の角には柄杓の入った水瓶が置かれ、これは自由に飲んでいいらしい。
電気照明など当然無いので部屋は薄暗かったが、自警団さんはランプをひとつ、ベッドの脇にある棚に置いてくれた。
案内してくれた自警団さんが出て行き、2人で向かい合わせにベッドに座ると、示し合わせたようにため息が二つ溢れた。
「申し訳ありません。僕の不手際で留置場などに入れられてしまいました」
「もともと私のせいだから、こっちこそ迷惑掛けてごめんなさい。護ってくれてありがとう。…………お互いお酒には気をつけようね」
「ええ、本当に……」
まさか記憶を失うとは思わなかった。
今考えると、モンスターの出没する山に住まいを構え、更に冒険者に目を付けられている状態で、後先考えず酒に浮かれてしまったのは痛恨の極みである。
本当に気を付けないと危険が危ない。
メスショタおじさんが立ちあがり、備え付けてあったコップを2つ、水を汲んで持ってきてくれた。
1つが手渡される。
「ありがとうございます」
礼を言って一息に煽る。
水がうまい。
再びベッドに座ったメスショタが、苦笑しながら口を開いた。
「まあ気を取り直してさ。町にも入れるようになったし、今度こそ冒険の準備をしようよ。私も色々と見て回りたいし」
冒険とはオークの巣を見つける依頼の事だろう。
「それはいいですね。…………ですがお金は大丈夫なんですか?」
「道中の食糧は山田が調達してくれるんでしょ? だったらだいぶ節約ができるし、山田のお陰で貯まった討伐証もあるから。浮いたお金で前に言った調味料とかを購入するつもり」
おいしいご飯は大歓迎である。
コイツは色々凝った料理を出してくれるので毎日のご飯がうまい。
いつでもチンポついたお嫁さんとして、どっかのヤリチンおじさんの元に立派に嫁げるだろう。
「ついでに雑貨屋も見て回ろうか。調理器具も欲しいのが幾つかあるし、墨出し用の糸も安かったら買っちゃおうよ。あれば他にも使い道ありそうだもんね」
「いいですね。僕も見て回りたい工具があります」
DIYって男の子だよな。
ホームセンターとか色々見てるだけで超楽しいもん。
コイツのウォーターカッターには無限の可能性が秘められている。
「あはは。そこまで買っちゃうと多分予算オーバーかな。まあ見るだけでも楽しいもんね。先に細かい依頼を受けて、お金を稼いでから出発してもいいけど、工具は後回しでいいんじゃない? 」
「確かにそうですね」
「…………ところでさ、道中のことなんだけど、野営のときに焚き火するのは不味いと思うんだよね。オークの巣が近くにあったら危ないし。私が魔法で石を温めるから、調理はそれで何とかなると思うんだけど」
「なるほど。……佐藤さんは魔法で照明を創れたりはしますか? 夜間の備えを考えなくてはなりません」
明日以降の予定など話しつつ、また明日という事で灯りを消して床につく。
モンスターが現れる心配もなく、久々に気を抜いて横になる事ができそうだ。
ー◆メスショタ視点◆ー
自警団の人にお礼を言って町へと繰り出す。
今日は昨晩話した通り、食料店や雑貨屋を見て回るつもりだ。
雑貨屋は冒険者としての装備を整える為に入ったことがあるので場所を知っているが、食事はギルドか宿でしか摂ったことがなく、活動中の携帯食もギルドで購入していたので、食料を取り扱っている店舗に対し知見がない。
食とは生命活動を維持するものであると同時に娯楽でもあり、それを追求するような余裕は今までは無かった。
コミュ障のお陰でその辺も存分に追求できそうだ。
昨日うまいメシ食って随分と刺激を受けたし、今日は色々買っちゃうぜ。
醤油とか味噌とか売ってねーかな。
出発する前に、自警団の人に食料品を取り扱っているお店の場所を尋ねると、宿屋や飲食店向けの市場のようなものがあるらしく、大まかな場所を教えて貰った。
その際に不思議そうな顔をされた。
思うに彼らにとって、食事とは外食が一般的なのではなかろうか。
歴史を鑑みても、都市部に近づくほど自炊する事は少なくなり、外食が主となる傾向にあったと何かの文献で読んだことがある。
古代ローマや江戸なんかはそうだったらしい。
市場に向かう前に一度ギルドに寄る。
討伐の証拠品であるモンスターの耳を換金する為だ。
拠点の周りでモンスターが湧くたび、コミュ障が片手間にポンポン殲滅していたので結構な量が溜まっていた。
直視すると蛮族チックで最高にキモい。
早朝のギルドは閑散としており、妙なトラブルも起きそうにないと私はホッとした。
平常運転の不審者を連れて受付に向かう。
職員さんはチラチラと不審者に目を向けていたが、今更の事である。
不審者について特に何か聞かれる事もなく、滞りなく手続きは進み、私達は結構な額を手にした。
これで色々な買い物ができる。
挙動不審な不審者を連れて、私はホクホク顔でギルドを後にした。
充実したお財布を持って市場へ向かう。
市場は地図でいうところの、町の南側のあるらしい。
私が生活していたのは主にコミュ障の住む山に面した北側の地区で、商人や冒険者などが住まう為の施設が集中した場所である。
方向が真逆で生活範囲に入っていないので、今まで全く馴染みがなかったのだ。
この世界に呼び出され、初めてこの町を訪れた際にも一度通った筈だが、あの時は周りを見る余裕などなく、記憶は朧げである。
普段通ることの無かった通りをコミュ障と2人で練り歩く。
視界に入る中世チックな景観が物珍しく、私はお上りさんのようにあちこちに首を動かした。
この世界も大分慣れたと思ったが、落ち着いて何かを楽しむ余裕はやはり無かったようだ。
どこを見ても新鮮で面白い。
ふとコミュ障が随分と静かな事に気付いて様子を伺うと、視線を足元に向けたコミュ障が私の左後方にぴったりと寄り添っていて超ビビった。
隙間10cm位しかねーし、全然意識してなかったけど普通に歩きづらいだろ。
「山田……。ほら、折角の異世界なんだし、もっと楽しもうよ」
「いえ、大丈夫です」
「…………」
何が大丈夫なんだよ。




