7話 飲み会
ー◆不審者視点◆ー
ヤリサーの人達が困惑している。
彼らの目の前にはログハウスと、開拓途中の庭が景観として広がっていた。
レンガ造りの竈の周りに、木組みの机と丸太の椅子が二つ並ぶ。
ログハウスの下に薪置き場を組み立て、そこに薪を並べて乾かしている。
物干し場も作った。
今はそこに洗濯物が揺れている。
現在は、防衛の為の塀を組んでいる最中だ。
それが終わったら川から支流を引き、手洗い場や水洗トイレを造る計画も立てている。
将来的には地面も舗装したい。
『こ、ここ、前と同じ場所なんだよな……?』
『風景に見覚えがあるので同じかと。ですがこれは……。あれはまるでエルフの住居のような.…』
なんかヤリサーの連中が挙動不審にヒソヒソ話してる。
まあ仕方ないよね。
自分でも調子に乗ってやり過ぎたなと思うもん。
最初は捨てる予定の拠点だったのに、2人して調子こいてたら思いの外愛着が湧いてしまって、もはや捨てる気になれない。
メスショタおじさんにも責任あるとこある。
向こうでどんな生活送ってたかは知らないが、僕が何やっても驚いたり喜んだりする。
ノリがよく、一生懸命働くし、それでいて全力で姫ムーブしてくるので、事情を知ってても脳がバグる。
新手のキャバクラかよっていう。
料理もおいしいし、やたら甲斐甲斐しいからオジサン頑張っちゃったわ。
野郎2人で何してんだろうな。
悪ノリのし過ぎだろ。
まあ楽しかったし特に後悔はしていない。
3人で固まってて全然こっち来ないんだけど、用が無いなら帰れよ。
マイクラの続きしたいんだよ僕は。
痺れを切らしたメスショタおじさんが3人の下へ。
仕方がないので、作業の手を止めついていく。
イケメン対策にメスショタの後方彼氏面をしながら、今後の計画に思いを馳せる。
ー◆ー
妄想してるうちに三人は帰っていった。
僕らがあまりにも汚れた格好なので、身支度の時間を設けたそうだ。
昼頃に町の食堂で集合する予定らしい。
食事がてら、今回の件について報告をするそうだ。
まあその流れは予想していたので覚悟はしていた。
やたら自信満々だったし、なんかあればあいつらが責任持って何とかしてくれるんだろう。
会話の方も、通訳のメスショタおじさんが居るので、特に問題は見当たらない。
2人で川に入って身体を洗い、ついでに洗濯もして、まっさらになって町へと繰り出す。
不安もあるが、今回は結構気楽だ。
奢りだそうで、久々のまともな料理の予感に足取りも軽い。
コイツの作った料理もおいしかったけど、飲食店で注文する料理はまた違うと思う。
材料の幅も桁違いだろうし、期待してもいいだろう。
お酒も出ちゃうだろうな。
僕も奴も、娯楽として飲むお酒はご無沙汰だ。
2人で鼻歌混じりに門を潜る。
門番さんに変な顔されたけど気にしないぞ。
メスショタの案内で食堂へ。
3人が既にテーブルへ陣取り待っていた。
挨拶もそこそこに席へ着く。
早速メニュー表を探すが見当たらない。
キョロキョロしていると、メスショタおじさんが気付いて教えてくれた。
メスショタいわく、識字率の問題なのか、メニュー表という文化が定着していないらしい。
結局3人が店のオススメだというメニューを注文し、料理を待つことに。
テーブルにお酒が並んだぞ。
なんか乾杯に即した挨拶っぽい号令と共に宴が始まった。
お酒だお酒だ。
ー◆メスショタ視点◆ー
『思ったより時間が掛かり申し訳ありませんでした。では、経緯を報告しますね』
イケメンが白い歯を見せて私を見る。
別にもっと時間かけても全然良かったんだけどな。
コイツの顔を見たくないのでお姉さん達を見ると、2人で並んで楽しそうに会話している。
こっちの話に混ざれよ。
何しに来たんだコイツら。
ちびりと酒を舐めると、癖が無くてなかなか飲みやすそうだ。
度の強さから恐らく蒸留酒だろう。
色は着いておらずとろりとした口触りで、魔法で作っただろう氷が入っている。
冷たくて飲みやすい。
『問題の店主についてですが、ギルドを通して自警団に掛け合い、身柄を拘束しました』
酒を噴き出しかける。
『住民から得た証言も併せて、現在余罪を追及中だとか。評判が悪くなったのはここ最近だそうで、恐らく初犯だと思われるそうですが、今回は悪質な為それなりの罰則が課せられるようです』
マジかよ、超スピード逮捕じゃん。
自警団には私だって相談したのに、全然動いてくれなかったぞ。
『あの、どうやって……? 私も自警団には相談したんですが、あまり……』
『そこはやり方の問題ですかね。既にギルドで噂になってましたから。話を聞くまで俺は気付かなかったんですが……。まあともかく、結構大きい噂でしたからギルドもそれを把握していたので、俺が貴方から聴き取りした証言と併せてギルドに動いてもらい、自警団に通報を行いました』
『……』
『ギルドの証言には力がありますから、すぐに自警団は動いてくれました。家宅捜索を行うと、貴女の証言通りの証文が出たようです。今は尋問と証言を集めて、証拠固めをしている最中みたいですね。証言の聞き取りに併せて、件の冒険者達には注意指導が為されたそうですから、貴女の身の安全も保証される事になるかと』
『それは、なんというか……』
マジかよコイツ超有能じゃん。
問題が全部綺麗に片付いたわ。
コミュ障の追っかけしてた時の面影が全然ないんだけど。
『あの、ありがとうございました。それと先日は失礼な態度をとってしまい申し訳ありません』
『いえ、それは……。俺の方こそ申し訳ありません。あの後彼女達にも怒られてしまいました』
恥ずかしそうに照れながら頬を掻いて笑うイケメン。
本当に恥ずかしいわ。
そりゃ怒られて当然だろ。
もっと前の段階で止めろよな。
『ともかく、これで貴女はもう大丈夫です。安心してお過ごしください』
私を見つめ微笑すると、遊ばせていた私の手にイケメンの両手がそっと添えられた。
背筋にゾワッとくる。
嘘だろ。
焦ってキョドる。
さっきから私はコミュ障のピを匂わせて動いてたつもりなんだけど、なんでこういう事すんの?
お姉さん達に睨まれてるぞお前。
ていうかコミュ障は何してんだよ。
ピとしてのロールプレイに徹しろよ。
……下を向いてナッツをかじっている。
しかももうグラスが空いていた。
物欲しそうに氷の入った杯を弄っている。
一人だけ会話してないのでペースが早いのだろう。
お前マジでそういう所だぞ。
「山田、彼氏面彼氏面」
「…………えっ?」
殺すぞ。
「……なるほど」
なるほどじゃねえよ。
こういうとき本当に使い物にならねえなコイツ。
そんで何を思ったのか、グラスを持つ方の私の手に、奴の手がチョンと添えられた。
何がしたいんだよ。
もっと他に肩を抱き寄せるとか、するべきアピールの方法があるだろ。
そんで下向いたままだし。
反対の手には大事そうにグラス持ってるし。
何もかも中途半端で、何がしたいのか伝わらない。
『……? あっグラスが空ですね。同じものでいいですか?』
なんか勝手に勘違いしたイケメンの手が離れる。
まあ結果オーライだし許してやるわ。
ー◆ー
一連の報告も済み、それをコミュ障に解説しているうちに料理が並ぶ。
気を利かせたイケメンが頼んだ、赤ワインのピッチャーと蒸留酒の瓶も卓上につく。
バケツに入った氷もあった。
飲み放題だ。
テンションの高まりを感じるぜ。
籠に収まったバケットらしきものを手に取り、小皿に添えられたオイルに浸けていただく。
塩が利いており、ニンニクっぽい風味が感じられて実にうまい。
思わずワインを傾ける。
うまいうまい。
『あの、繰り返しになりますが、あの時助けて頂いて本当にありがとうございました』
熱の篭った目でコミュ障を見つめるイケメン。
ホモかよ、
相変わらずキモいな。
まあいいや。
謎の白いディップを付けてもパンがうまい。
タマネギっぽいのとオイルと……、何だろうな。
クリーミーさを感じる。
ポテトかな。
…………あっ、これ私が通訳しなきゃなんないのか。
何だよ面倒臭いな。
まあストーカーにとってはこれが本題だろうし、奢られてる身分だししゃーない。
通訳に徹する事にする。
同じくバケットを楽しんで、ストーカーの熱っぽい視線に気付かなかったコミュ障に通訳をする。
「本当にたまたま通り掛かっただけですから。むしろ邪魔になりませんでしたか? それだけが心配で」
ようやくエンジンの温まってきたコミュ障が、渾身の営業トークを披露する。
機嫌良さそうなのは酒のおかげだろう。
『とんでもない! ……貴方の噂を耳にして、本当にそんな人物が居るのかと思っていたのですが、あの時は本当に驚いたんです。……俺は冒険者としての名を上げ、正直天狗になっていたのですが、魔法や魔道具を全く使わずにあれ程の動きを……! 俺は本当に感動したんです!』
同時通訳なんてできないから、あんま長台詞喋るのやめてほしい。
内容がとっ散らかってるし。
適当に要約してコミュ障に伝える。
「買い被りですよ。僕も貴方達の連携の巧みさには驚きました」
温度差あるな。
まあコイツにしてみれば当然のことだが。
その後も興奮したストーカーの熱いトークが延々と続く。
コミュ障のどこが凄いと思っただとか、高潔な精神に感銘を受けただとか、どんな修行をしてきたんだとか、なんかそんな感じの勘違いを暑苦しく語ってみせた。
私は通訳するのに忙しくて全然酒が楽しめないし、コミュ障も貼り付けたような笑顔になって全く酒が進んでいない。
口から出る内容は完全に営業用のソレである。
15分くらい経って、もう帰りたいなぁとか思っていると、空気を読んだ魔法使いのお姉さんからストップが掛かった。
申し訳なさそうに私達を見るお姉さん。
普段からストーカーのガス抜きに苦労している様子が窺える。
そこからお姉さん1と2がストーカーをうまいこと捕まえておいてくれたので、落ち着いて食事を楽しめるようになった。
ー◆ー
だいぶ酔いが回ってきた。
ピリッとした味付けの、真っ赤なチキンっぽい何かの肉が、パリパリして辛くてうまい。
「佐藤さん、ワインで宜しいですか?」
真っ赤な顔のコミュ障が話しかけてきた。
見ると私の手元のグラスが空いている。
「うん……」
「かしこまりました。……っと、どうぞ」
「ありがとう」
残り少ないバケットに手を付ける。
これワインと合わせると、無限に食えて最強だよな。
「いや、久しぶりに飲むと実に楽しいですね。お金を稼ごうという気持ちが湧いてきました」
「そうらね」
「だいぶ酔ってられますね。大丈夫ですか?」
「らいじょうぶ」
うるせーな。
フレームが小さいんだから、アルコールの代謝能力に差があって当然だろうが。
大体お前も十分酔ってるだろ。
顔真っ赤じゃねーか。
私よりもずっとカパカパ空けてんの知ってんだぞ。
会話しろ会話を。
気持ちよくてちょっと眠たくなってきた。
…………そういや帰りのこと全然考えてなかったな。
え、どうしよう。
こっから一時間くらい歩くぞ……。
すげえ面倒臭くなってきた。
「やまら」
「………………………………はい? なんでしょうか?」
コイツも意識落ちかけてるじゃねーか。
「どうらってかえる? 」
まずい。
滑舌だけじゃなくて語彙まで死んできてるわ。
「あるいれかえるろ?」
「……………………そうですね」
私のゴミみたいな滑舌でもなんとか伝わったらしい。
今気づいた顔のコミュ障。
そうだよな。
二人して久しぶりに酒飲めることしか頭になかったもんな。
ちょっとこれは無いわ。
お互い浮かれ過ぎだろ。
「ちょっと待ってください………………。そうですね。大変恐縮なのですが、宿に泊まるお金はありますか?」
「らいじょうぶらとおもう……」
たぶん素泊まりで一部屋なら泊まれる金はあると思う。
…………ダメだマジで眠い。
「酔いが残った状態であちらで過ごすのは大変危険でしょうから、酔いが覚めるまで何処かで休ませて貰った方がいいでしょうね」
「うん……」
「では申し訳ありませんが、帰るとひと言、彼らに伝えて頂けますか?」
「うん……」
駄目だ。
ここで私が潰れたら、コミュ障が一人異国に取り残されてしまう。
人里で遭難する未来が確定する。
イケメンに向かって何か言おうとしたはずだが、私の記憶はそこで途切れている。
ー◆不審者視点◆ー
やべー事態が発生した。
僕の大切なメスショタおじさんがお酒に敗北してしまった。
酔ったメスショタの肩を揺する。
頼むから起きてくれ。
「佐藤さん? 佐藤さん?」
「……ん〜? やまらぁ……?」
「起きてください佐藤さん」
「んぅ……」
潤んだ瞳に上気した顔で、徐々に瞼が落ちてゆくメスショタおじさん。
これはお持ち帰り酔姦レイプ待ったなしですわ。
オプションでハメ撮りもついてくるコース。
一気に酔いが引いてくる。
異世界リンガルおじさんが居ないと、僕は誰ともコミュニケーションが取れない。
ソロプレイで一生宿屋に辿り着けないクソゲーが始まってしまう。
待てよ。
目の前のコイツらに宿をとってもらうのはどうだろうか?
流れから状況は伝わる筈だし、悪くない手だろう。
ただコイツらもめっちゃ酔っ払っていて、使い物にないのが問題である。
イケメンは泣いてるし、エルフの人とかめっちゃ寡黙だったのに、爆笑しながら魔法使いの人の乳を揉んでいる。
揉まれている当人は寝ていた。
そういや未だにコイツらの名前知らねーな。
もうクソの役にも立ちそうにないので、このまま店を出る事にする。
メスショタを背負おうとするが、おんぶって相手側の協力が必要なんだってちょっと考えてわかった。
仕方がないので野郎をお姫様抱っこして、会釈して外に出た。
酔い覚ましに歩きつつ宿を探し、無理なら諦めて森に帰る方針を決定。
歩けば酔いもそのうち醒めるだろう。
僕らのメスショタおじさんを胸に抱き、ダラダラと町を練り歩く。
どうせ識字率低い世界だし、看板は文字じゃなくてシンボルで描かれてる筈だから、看板見れば宿屋もわかるだろって完璧な作戦を立てる。
どうやら何とかなりそうだ。
安心したら酔いも手伝い気分が良い。
風が火照った肌に心地良くて、鼻歌でも歌いたい気分だ。
胸元でうわ言を呟くメスショタをあやしながら、その辺に放置したらどうなるか観察したい欲求に駆られる。
どうせ開発済みだろうし、その辺にポップしているレイパーともウィンウィンの関係を築くこともできるだろう。
ギルドにもそれっぽいのが居たな。
ギルドってどこだったっけ。
前に来た時はパニクってて全然覚えてないわ。
酔ってるのが功を奏したのか、住民にめっちゃ見られてるけど知らねーよそんなのってなる。
そこのけそこのけ不審者様のお通りだってもんよ。
胸のメスショタが僕の不審さに拍車を掛けるぜ。
もう最強コンボじゃん。
今の僕過去一で最強だな。
誰にも負ける気がしないわ。
傍らに浮いた青髪ポニテが、心配そうな顔して僕を見つめてくるが、どうしてそんな顔をするのかわからない。
大丈夫大丈夫。
心配しないで。
今の僕最強だから。
それより君のマンスジを見せてよ。
そしたらもっと最強になれるから。
ポニテロリにたくし上げを要求したところで、ゴブリンさんからの緊急のメッセが届く。
なんかチンピラが5人、まっすぐこっちに向かっているらしい。
なんだろう、なんか用事でもあるのかな。
ゴブリンさんが指差した方向を向くと、確かになんか早足で来てるな。
……なんか見たことある気がする。
誰だっけ…………。
ああ、ギルドに居たホーリーランドの不良モブみたいな人だ。
あの時は勢いで顎殴っちゃったけど、アレは本人の行動に問題あったし、僕は謝らないぞ。
動物園に居る気分でボーッと見てたら囲まれた。
『堂々と歩きやがって。舐められたもんだな、あぁ?』
『……酔ってんのかコイツ?』
『ん? その女は……。ハッ、お持ち帰りとは羨ましいじゃねーか』
なんか言ってきてるけど何言ってるのか全然わからん。
表情から友好的ではないようだけど、まあ相手はチンピラだもんな。
チンピラがチンピラムーブするのは当然であって驚くに値しない。
ここは僕が大人にならねば、最強の名が泣いてしまう。
「申し訳ないのですが、宿屋がどこかご存知ではないですか?」
『ああ? 何言ってんだコイツ』
知らないゴリラがウホウホ言ってるけど何言ってるかわかんない。
そりゃゴリラだもんなって一瞬思ったけど違った。
そういや言葉が伝わらないんだった。
いかん、思ったよりだいぶ酔っている。
『いやコイツ、異人だから言葉わかんねーって前にその女が言ってただろ』
『あぁ? ……そんなこと言ってたか?』
『いやお前……。まあいい、さっさと連れてこうぜ。おい』
ホーリーランドの不良モブとゴリラが何やら会話をしている。
不良モブが話し終えた直後、青髪ポニテの導きに、全身が反射的に駆動した。
僕は運動神経がわりといい。
後ろの人が肩を掴もうとしているらしいので、姿勢を低くしながら相手に向かい、体を入れ替えてやり過ごすように身体が動く。
『なっ……! このっ….、ギャッ!!』
更に掴もうとしてきたので、思わず勢いで顔面に頭突きしてしまった。
めっちゃ痛いんだけど。
何この人。
掴もうとしてきたチンピラ屋さんが、顔を押さえて地面に転がり悶絶している。
ていうかアレだな。
痛くてちょっと目が覚めた。
今チンピラに囲まれてるのか。
え? ヤバいじゃん。
超ピンチだろ。
今僕の胸にみんな大好きメスショタおじさんが居るし。
このままではメスショタのハメ撮りが全世界に流出してしまう。
「佐藤さん。あなたの名誉は必ず護ります」
「やまらぁ……? ぅんん……」
寝惚けて首に纏わりつくメスショタおじさん。
首元に顔を猫のように擦り付けてくる。
密着した状態から発せられる酒とミルクが混じったような甘い吐息が完成度高くて最高にキモいぜ。
酔っていても姫プレイを忘れないその姿勢は、何処に出しても恥ずかしくない女装おじさんの理想というべき尊い姿だ。
異世界に来てコイツも成長している。
僕も負けてられないな。
奇声を上げたチンピラ屋さんが編隊飛行で駆けてくる。
よく考えると腕の中のメスショタがすごい邪魔じゃんね。
チンピラが相手だし、くにおくん方式で投げるとかして運用すればいいのだろうか。
まあ今の僕最強だし、別にこのままでも大丈夫だろ。
ゴーストの囁きに身を任せようぜ。
ー◆ー
「……まだ!山田!」
「…………ん」
声が頭の芯に響く。身体が激しく揺さ振られている。
「山田! 起きて!」
「佐藤さん……?」
メスショタの声に、ゆっくりと意識が浮上する。
何故か非常に頭が痛む。
チカチカと目が霞む。
夜なのだろうか、辺りは真っ暗だ。
何故メスショタは僕を起こしたのだろう。
まだ寝足りないのか目が霞む。
……………………おかしい。
何故こんなに寝覚めが悪いのか。
これはいけない。
この体たらくではモンスターに対応できない。
頭が痛い。
酷く喉が乾く。
久しぶりに身体を壊してしまったのだろうか。
「山田、ここが何処だかわかる?」
拠点のログハウスではないようだ。
床が石畳か何かなのか、少なくともマイホームのそれではない。
「…………いえ、わかりません。何が起きたのでしょうか」
喉から出た声は酷く掠れていた。
酷くだるい身体を起こす。
右手側に見える小窓からは、ぼんやりとした月明かりが入ってくるのがわかる。
どうやら室内のようだが、頼りない小さな光源だけでは鍛えた筈の夜目が利かず、ほとんど周囲の様子が窺えない。
下水か暗渠のような、何やら据えたような匂いが漂っている。
すぐ近くに身を寄せているメスショタの、怯える様子が伝わる。
思わず装備を検める。
…………一通り装備に問題はない。
……スタンドの知らせが届く。
周囲に何人もの人が居るようだ。
等間隔に身じろぎもせず点在している。
いよいよここが何処だかわからなくなってくる。
そして、誰かがこちらに向かっているのをゴーストが囁いてくれた。
思わずメスショタの肩を引き寄せ、歩いてくる方向に向き直る。
何が起きても即応できるよう、身体が勝手に準備を始めた。
即座に立ち上がれる姿勢を作る。
まだ微睡んでいた意識が急速に覚醒し、体調の悪さを身体は数瞬にして忘れていった。
鞄から使い捨てのスリングを取り出し、それを持ったまま剣の柄に手を置いた。
僕のゴーストが近づく者の様子を細かく伝えてくれる。
階段を降りて、やはりこちらに向かって来ている。
手に何か持っているようだ。
ゆっくりと歩き、辺りを見渡している。
しばらくして、カツン、カツン、という断続的な音が徐々に近づいてきた。
メスショタが震え出す。
肩に置いた手に力を込めた。
音が近付くにつれ、やがて辺りがぼんやりと照らされ、周囲の様子が窺えるようになった。
僕達が居たのは牢屋だった。
固まっていたら近づいてきたのはランプを持った自警団の人で、僕達を見てお前らようやく起きたのか、みたいな呆れた顔をしてらっしゃる。
メスショタが自警団の人と何やら会話をして、僕に通訳してくれた。
「ここ留置場だって」
そうなんだ。




