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山田と佐藤  作者: うんち
1章
6/23

6話 建築

ー◆不審者視点◆ー






 僕の天敵、イケメンと愉快な肉便器たちがやって来た。



 なんでだろって一瞬思ったけど、アレだ、焚き火の煙のせいじゃね?

 風下から来たし、匂いで察知されてしまった感。



 でも見つかった理由はいいとして、なんでコイツらわざわざここに来たの?

 まさか僕を探して来たの?

 なんで?

 前に執拗(しつよう)に追われたせいで恐怖しか感じないわ。



 なにやら笑顔で近づいてくるストーカーの姿に、怖くて震えが止まらないぞ。



 恐怖で固まっていると、僕の頼れるメスショタおじさんが前に進み出た。

 どうやらストーカーの弁護士役を買って出てくれる予感。

 そういう頼もしいとこほんと好き。





『私達に何か用ですか?』





 怖いのでメスショタの陰に隠れる不審者。

 身長が違いすぎるので座ったふりをして、メスショタの服をそっとつまむ。

 何かを察したメスショタが、努めて壁になってくれた。

 頼もしいぞ僕のメスショタ。

 そのままイケメンに魔法でも撃ってくれ。





『いえ、その……』


『活動中の冒険者同士が接触するのは推奨されないと私は教わりましたが、用が無ければ立ち去っては貰えませんか?』





 何言ってるかさっぱりわかんねえけど、何やらキツい口調のメスショタ。

 いいぞいいぞ。

 そのまま必殺のニフラムで、奴の存在をこの世から消し去るんだ。





『いえその! 俺は後ろの方に、ひと言お礼を言いたくて……』


『お礼……?』


『その方に一度危ないところを救われたんです。ですからその、直接ひと言お礼を申し上げたくて』


『通訳しますから少し待ってください。彼はこちらの言葉がわからないので』


『お願いします』





 メスショタが僕に振り向く。





「山田ってあの人達助けたことあんの? なんか礼を言いたいとか言ってるんだけど」


「助けが必要かと思い、手を貸したことはありましたが…」


「それでわざわざこんな所まで来たのか? お前を探して? ここに居るとも限らないのに、なんか変じゃないか? 」





 あっメスショタが男口調だ。

 かなり久々に聞いた気がする。





「いえ、その……。以前彼らと共闘した折に、言葉はわかりませんでしたが、礼らしき事を彼から聞いた覚えはあります」


「それで?」


会釈(えしゃく)して、立ち去ろうとしたところを、何故か執拗に追われまして……」


「はあ?」





 そういう反応になるよな。

 僕もそうなったもん。





「ですから、礼はもう聞いたから気にしないでほしいと伝えて頂ければ」


「わかった……。単に律儀なだけの連中だったらいいけど」


「僕からは何とも」





 ストーカーに向き直るメスショタ。





『礼はもう受け取ったので、気にしなくてもいいと彼は言っています』


『そうですが……。あの、もしよろしければ、食事など(おご)らせては頂けませんか?』


『……少し待ってください』





 眉根を寄せて振り向くメスショタ。





「なんかメシ奢りたいとか言ってるけど」


「はあ」


「あの町で食うつもりで言ってるんだよな? 私は行きたくないぞ。奢りには正直そそられるけど」


「僕も行きたくないです。目立つのは御免ですし、今僕達が行ったら間違いなくそうなりますよね」


「だよな。じゃあ断っていいか?」


「お願いします」





 いいからもう帰ってほしい。





『食事も結構だと言っています』


『そんな、俺の気持ちが収まらないんです』


『ですから結構ですと……』


『いえ、是非とも奢らせてください!』


『…………』





 無言でこちらを向くメスショタ。なんなんだよ。





「なんかすげーしつこく誘ってくんだけど……」


「えぇ……」


「マジでしつこい。なんで絡まれてるかホントに覚えないの? 」


「……わかりません。本当に心当たりが無いんです。彼らには二回しか接触していませんし、その一回目に彼らに追いかけられたんです」


「……」





 半目アヒル口で思案顔をするメスショタ。





「もうさ、入りづらいって言っちゃっていいか? なんか聞かれたら、私の事情をぼんやり話せば大丈夫だろ」


「……佐藤さんはそれで宜しいのですか?」


「いいよ。事実だしな」





 ニコリと微笑むメスショタ。

 コイツこんなに漢らしいのに女装してるんだよな。



 爽やかイケメンに向き直る。





『あの、事情がありまして、私達は今、町に入れないんです』


『事情、ですか?』


『それって、あなたの借金がどうとかってやつのハナシ?』





 今まで静観してた肉便器その1が、急に会話に加わってきたぞ。

 豊満なムチムチボデーに水色の髪を持つ彼女は、確か魔法使いだった覚えがある。

 イケメンに見劣りしない美貌のお姉さん系っぽい人である。

 この人妙にスカート短いんだけど、野外のプレイにでも備えてるんだろうか。





『借金? なんの事だ?』


『ギルドで何人かの冒険者が大きな声で話しておりました』





 肉便器その2も加わる。

 アナルが弱そうな薄緑色の髪の推定エルフさんだ。

 この人も美人さんだが、もう一人とは対照的にスレンダーである。

 髪色に合ったエルフっぽい装束も好き。

 キツい面差しがオークさんにも好相性。

 寿命が長いと良い肉袋になってくれそうで需要も一入(ひとしお)だよな。





『……ええ。ですから申し訳ないですがここは御遠慮してください』


『なにか事情があるのでしたら、俺達でよければ是非力にならせてください』


『あの、結構です』


『いえ、遠慮せずに! 俺達に任せてください!』





 メスショタがすげー困ってる。

 どんだけしつこいんだよコイツ。





『……あの、何なんですか? 穏便にお断りしているつもりなのですが、伝わらなかったですか?』


『えっ……』


『失礼ですが、彼とも私ともそれほど面識はありませんよね。さきほど助けられたと仰っていましたが、何故彼を追い回したのですか?』


『えっそのっ、それは誤解です!』


『では彼が嘘吐きだと? 礼も食事も結構です。もう帰ってください』


『……』





 メスショタが小さく震えている。

 一体どうしたんだろう。


 メスショタの陰から覗き見ると、何やらイケメンが呆然としている。

 僕のそばに立つスタンドの2人には反応がないし、戦闘の雰囲気ではない。





『……あの、横からごめんね? 彼はその、後ろの彼に憧れてるみたいでさ』


『……憧れ?』


『だからその、ちょっと舞い上がっちゃってるみたいで。先走っちゃったって言うのかな。不快にさせちゃったのなら謝る。本当にごめんなさい。……あなた達も謝って』


『申し訳ありませんでした』


『っ、すいませんでした! 本当に申し訳ない!』


『…………』


『その上で、わたし達に力になれる事があるなら相談して貰えると嬉しい。この彼も、こう見えて結構頼りになるの。勿論、善意の押し売りをするつもりは無いから。……今の今でなんだけど、彼の為にも、仲良くしてくれたらわたしは嬉しいな』


『はあ……』






ー◆ー






「……とか言ってるけど、どうしよう?」


「なるほど……」





 憧れの相手を追いかけ回すとか気が触れてるだろ。

 そんな危ないドルオタみたいなやべー奴とは、是非お近づきになりたくない。



 ていうかこんなイケメンが、僕みたいな底辺に憧れを抱く理由に覚えがない。

 あれかな、ロビー活動のせいかな。

 何であんな事してたんだろうね。

 もう後悔しかないわ。



 話を聞く限り、魔法使いの人はまともな大人の判断力の持ち主なのに、追いかけ回された時の事を鑑みると、パーティの方針はイケメンが握ってるぽいんだよな。

 いまいちコイツらのパワーバランスがどうなってるかわからん。



 まあいい。さて、個人的には関わり合いになりたくないが、どうだろう。

 目下の問題は、借用書とそれに関連する冒険者の噂のふたつだが、良い解決手段があるなら力を借りるのも(やぶさ)かではない。



 さっきは言わなかったけど、ヤクザ屋さんに転売されるケースもある。

 借用書の出来次第なんだろうけど、確認しようにも宿屋のオヤジに変に勘繰られると面倒くさい事になりそうだし。



 借用書の破棄だって、うまいこと住民さんや自警団さんを巻き込めれば首尾よくいくかもしれないけど、発狂した店主が発情したチンピラと口裏合わせとかしたら面倒くさいし。

 あれ、思った以上に面倒くさくない?



 地道に返済していけばいいかもしれないんだけど、メスショタの疲れ果てた顔からして、結構な額になるようである。



 借用書がどうにかなっても、理想の便器を失ったチンピラの集団に絡まれる未来が予想されるし、なんかもう考えるの面倒になってきたな。



 やって出来ないことはないんだろうけど、投げれるなら投げちゃいたい。



 問題はコイツらがどれほど頼れるかである。

 この場合必要なのは発言力か権力だ。





「佐藤さん。彼らはどのような立ち位置の人物なのでしょうか」


「流れの冒険者らしいんだけど、ここに来た時から話題になってた。有名な冒険者達が来たって」


「有名なんですか?」


「らしい。私も良く知らないけど。だからギルドの覚えはいいんじゃないか? 実力はあるみたいで、ここの冒険者の連中も一目置いてる印象だな。あと金遣いが荒い」


「それは単なる(ひが)みでは」


「うるせえ、そうだよ。だからギルドに対してならある程度融通が効くんじゃないか?」





 ギルドに顔が利くなら頼ってもいい気がする。

 なんか自信満々みたいだし、これまでの印象からして悪い結果には転ばないと思う。





「では相談してみましょうか」


「いいのか? お前ああいうキャラ苦手だろ」


「まあそれはそうですか」


「……私の為だよな?」


「いえ、あれから色々と考えたのですが、結構な面倒があると思いまして。彼等が解決できるならそうして頂いた方が早そうだと思ったんです。大口を叩いた手前、申し訳ない限りなのですが」





 最悪オヤジを闇討ちするか、メスショタ連れて逃げればいいだろ。

 保険はあるし大丈夫大丈夫。





「でも、山田はもともと無関係で」


「佐藤さんが居ないと僕が困りますから。ですから本当に気にしないで下さい」


「ありがとな、山田……」





 目を潤ませるメスショタおじさん。

 そういうのされると脳がバグる。





「……でも、本当に大丈夫か? 私の問題とかは置いといて、マジで面倒くさそうな奴だぞ。コイツに借しつくって本当に大丈夫か? 粘着されかねなくないか?」





 マジで迷ってしまいそうだから、そういう事言わないでほしい。





「決心が鈍らない内にどうぞ」


「わかった。……ありがとな」





 イイ女だぜ。

 チンチンついてるのが惜しまれる。






ー◆メスショタ視点◆ー






『なるほど……。そのような事情が』





 私にまつわる事情を一通り解説した。



 目の前には相変わらずのイケメンである。

 正直コイツと会話したくないんだけど、頼りになりそうなお姉さんは、なんでか一歩下がってしまった。



 こういう押しが強い奴本当に苦手。

 さっきはコミュ障が後ろにいたから頑張って反論したけど、こういうのホント慣れない。

 宿屋のクソジジイといいさっきのゴリラといい、最近こういう手合いばっか相手してんのなんだろうって思う。



 舞い上がってたとか言ってたけど、どうせ普段からそんなノリで交尾してんだろ。

 何やっても許される奴は生きてて楽しいんだろうな。

 最近色々あって卑屈になってるから余計にそう思うわ。

 お前の中古でいいからムチムチお姉さんと会話したい。





『なんとかなると思います』


『えっ……』


『これでも色々と顔が利く方です。俺たちに任せてください。数日中にはある程度解決できる目処も立つと思います』





 まさかの有能発言。

 知的キャラが許される言動じゃなかっただろお前。

 会ってから今まで、コミュ障に興奮してるイメージしかないんだけど。





『えっと……、どうやって解決するつもりなんですか?』


『……まだ内緒という事で』


『は?』





 人差し指を口元に、茶目っ気たっぷりにウインクするイケメン。

 思わず「は?」とか言っちゃったけど聞こえてないの?

 難聴系主人公かコイツは。





『不安にならないでください。必ず貴女の不名誉を晴らしてみせます』





 頭ポンされる。

 優しく撫でられる感触にめっちゃゾワッと来た。





『では解決しだい御報告を。ええと、ギルドは今は駄目ですね。どちらにお住まいでしょうか』


『えっと、あの、ここで大丈夫です』





 あっやばい。

 感触がキモくてキョドってたら適当な事言っちゃった。





『わかりました。朗報を期待してください』





 頭からそっと手を離し、爽やかスマイルで去ってゆくイケメン。

 私はしばらく固まっていた。



 ……アレだよ。

 例によって女扱いさたんだよな私は。

 正直さっきは女装してる意識あんまなかった。



 だって魔法使いならローブ着るだろ。

 男女平等の勝負服じゃん。

 町で姫ムーブしてたのは不可抗力の産物だし。



 楽しんでいなかったといえば嘘になるけど。

 女の子として振る舞ってチヤホヤされんの超楽しい。

 脳汁ドクドク出てたもん。



 それにしてもやべえな。

 やっぱリアルで姫ムーブするなら、相手は選ばないとまずいって改めて思った。



 まさかまた身体狙われてる訳じゃないよな。

 あわよくばって思ってそうで本当に怖いんだけど。

 取り巻き含めてヤリチンの波動を感じるぜ。



 その点コミュ障相手なら安心して姫プレイできる。





「えーと、とりあえず何とかしてくれるって……」


「別の問題が発生してませんか?」


「やっぱりそう思う? 頭撫でられんのメッチャゾワッときた……。いくらイケメンでもリアルであの行動は許されなくない?」


「まあここ異世界ですし……。女性の方なら受け取り方も違うのでは? 我々が異性に対してそう感じるのと同じことでは。先程の女性のどちらかが佐藤さんに対して、同じようにされたらどうでしょう」





 それは全く問題ないな。

 だから話相手代わって欲しかったんだよ私は。

 今ならパイオツガン見しても特に何も言われないし。





「えーっと、まあ改めて報告するね。とりあえず何とかするとは言ってたけど、どうやって解決するかはまだ内緒ですよって。こんな感じで」





 キメ顔でウインクする。

 唇に人差し指を添えるのも忘れない。

 自分でやってて最高にキモいな。





「……ええと、まあイケメン無罪なんでしょうね。女性相手であれば」


「女性相手であれば」


「まあ心中はお察しします。お疲れ様でした」


「疲れたよホント……。それでね? 一応終わったらここに報告しに来るって。だから山田には悪いんだけど、終わるまでここで泊まらせて貰っていい?」


「それは……」





 ホームレスが思案顔になる。

 でもこれが、多分一番マシな選択肢だと思うのだ。



 現状私の身の上だと、山だろうが町だろうが、どこに拠点を置くにしても、コミュ障とセットで動かないと私の生活が成り立たない。



 町では住むだけでお金も掛かるし、あそこで有名人のコイツも、町を拠点にはしたくないだろう。



 おんぶに抱っこで申し訳ないが、ここで生活するのがコイツには一番楽な選択肢だと思う。



 コイツが躊躇してるのは、私がここで生活できるかどうかを気にしてるからだろう。

 そこは私も覚悟を決めるしかない。





「あのね、山田……。一応察してるだろうけど、貧乏人の町での生活って、そんなに快適なもんじゃないからね?」


「ですが安全は保証されているのでは」


「最近はそうでも無かったよ……。最終的に宿屋のおじさんから逃げ回って、知り合いの家をずっと転々としてたし。正直山で冒険者してた時の方が安心できてた……」





 社会的に追い回される恐怖は、モンスターに襲われるのとはベクトルの違う恐怖がある。

 ヤクザに弱味を握られると、常に不安に襲われて、眠れなくなってご飯の味がしなくなるのだ。


 体重計がないからわからないが、このひと月で何キロかは落ちたと思う。





「それはまた、なんとも、凄まじいですね……」


「私もここに来てから、最初はお腹壊してたし、食事も山田が思ってるほど衛生的じゃないよ。だからそんなに心配しないで大丈夫。…………色々頼っちゃうと思うし、迷惑もかけると思うけど、私も頑張るから、どうかよろしくお願いします」





 深々と頭を下げる。礼儀を忘れてはいけない。





「そうですね。二人で頑張っていきましょう。どうせなら楽しくやりましょうか」


「ありがとう、山田」






ー◆ー






 という事で、しばしの間の予定だが、私達の新生活が幕を開けた。



 驚いた事に、コミュ障はあっという間に食糧を調達してきた。

 もはや生活のルーチンに組み込まれているのだろう。

 魚や芋、山菜に果物などがすぐに集まった。



 時間が有り余るので、寝床を豪華にしようと提案。

 数日後には放棄する予定の拠点だが、楽しくやろうとコイツも言ったし、折角なら快適に過ごせるようにしたい。



 あと自分で家を建ててみたいという願望が私の中にあった。

 DIYで別荘建てたいと思うのは、男児なら普遍的に持つ欲望だろ。



 ホームレスはノリノリでこの提案に便乗した。

 話し合った結果、高床式の住居を造ろうという事に。

 モンスターや野生動物への危険性を加味した結果だ。






ー◆ー






 早朝から2人でハウス造りに精を出す。



 適当な木を選別し、ウォーターカッターのような魔法で切断し、枝を切り木肌を削りとって形を整えていく。

 ノコギリを使うより格段に早い。

 私の魔法にコミュ障は驚いていた。



 現代知識を着想に、面白いと思って開発した魔法だが、有効射程がかなり短かったので一度も使う機会は無かった。

 使い道は何処かにあるものだ。

 コイツにはずっとおんぶに抱っこだったので、ここへ来て初めて役に立てた気がして嬉しい。



 私が木を切り、コミュ障が拠点へと運ぶ。

 奴の腕力は恵まれた運動能力と比較して、実はそれほど高くはないのだが、私とは比べるまでもない。

 運搬することを考慮し、あまり太くない木を選別して加工、それを奴の持ち前の持久力で次々と運び込む。

 適材適所で作業を進める。



 思っていた以上に早く材料が集まり、どのように組むか2人で話し合う。

 まずは基礎となる枠組みを、樹木を土台に組むことになった。



 完成形のイメージは、4本の樹を土台にして建つ、高床式のログハウスである。



 基礎となる木材は、用意したものでは長さが足りず、ロープで距離を測ってもう一度調達しに行く事に。

 行き当たりばったりで申し訳ないが非常に楽しい。



 しかし選定した樹は少々大き過ぎた。

 とても真っ直ぐでいい樹が見つかったと、2人で舞い上がってしまったのだ。



 ロープで安全対策はしたが、それでも切り倒したときは戦々恐々としたし、切っておいて今更だが、この大きさではコミュ障も運べないだろう。

 既に加工済みだが、1本で4m以上ありそうだ。

 比重を加味すると恐らく100kg前後はある。

 下手したら200kg近い。



 荷車でも作れないかと頭を悩ませていると、コミュ障はロープを取り出して何やら作業を始めた。



 時に木材を転がしながらロープをグルグルと巻き付けていき、中央から少し外れた所に、ランドセルのような背負い紐を形作る。

 背負い紐はロープを何重にもして太くしていた。

 慣れていないのか、作業には少し手間取っていた。



 ふと、自分の背の辺りに手をやって何かを確認している。

 なんだろう。





歩荷(ぼっか)という職業があると聞いたことがありまして。真似をしてみました」





 そう言って樹の片側を持ち上げて一度立たせると、背負い紐に身体を入れ、やや前傾した姿勢で木材を持ち上げた。

 身体を揺らしたり回したりして具合を確かめると、そのままおんぶでもするかのように拠点へ歩いていった。

 どうやら問題ないようだ。

 流石コミュ障だぜ。






ー◆ー






 材料も集まったところで軽く休憩に入った。

 丁度いいので少し早いが昼食にする。



 川魚と芋と山菜があったので、適当にアクアパッツァの出来損ないみたいなものを作ったらコミュ障がとても喜んだ。



 めちゃくちゃ褒めてくる。

 おいおい照れるぜ。

 我ながらうまい。



 さて、基礎の取り付け高さは地上2m程と話し合って決まった。

 これは地上からコミュ障の手が無理なく届く高さである。

 作業の利便性からそのようになった。



 程々に作業を再開する。

 私はウォーターカッターで木を彫刻し、木釘(きくぎ)木槌(きづち)、滑車を加工している。



 木釘は建材に下穴を開ければ、鉄釘と同じように使用できる。

 用途に合わせた太さと長さの円柱を彫刻すればいい。

 穴に入りやすいよう、端に近づくにつれやや細くなっていくよう形作る。

 今回は基礎と土台を繋げる用途なので、結構な大きさの物だ。



 木槌は木釘を打つために作る。

 円柱に穴を開けて棒を通すだけだが、外れたら台無しなのでコミュ障に協力して貰う。

 先端を細くした棒に、円柱を石でガンガン打ち込むのだ。

 通常サイズと大サイズの2種類を作る。



 滑車は言わずもがな、重量物の持ち上げに使うのだ。

 側面に溝を掘った円柱の中央に穴を開け、そこに少々拝借したロープを通せば滑車の完成だ。

 これは2つ作る。



 奴が樹の上へ昇り、滑車をくくり付けて貰い、溝にロープを通して地上へと落とす。

 これで滑車による昇降機構ができた。



 その下に、基礎の木材をごろごろと転がして持ってくる。



 基礎の端っこにロープをくくり、反対側のロープを2人で綱引きすると、徐々にナナメに持ち上がっていく。

 大体の高さまで上がったら、適当な樹にロープをグルリと巻き付けて縛るのだ。

 これでひとまず仮固定できた。



 もう一本の樹に同様の作業を行い、基礎がだいたいの高さまで持ち上がったら、仮固定してひとまず完了である。

 巻いたロープをほどけば高さの微調整が利く。

 今度はこの基礎を、所定の高さで水平になるよう調整するのだ。



 水平器も作ろうと思えば多分作れるが、基礎の木材がガタガタなので作っても無意味だ。

 私が遠くから見て、水平かどうかを目視でざっくりと確認する。

 ハンドサインで指示を出して、コミュ障に微調整して貰うのだ。



 その作業に少々時間を要し、終わって奴の下に行くとちょっと疲れた顔をしていた。

 神経質でごめんね。

 でも家が傾いてたら嫌じゃん。






ー◆ー






 もう2本の樹にも同様の作業を行いたいのだが、ロープが2本しかないので無理だ。

 先にこちらの基礎を、木釘を打ち込んで固定することに。



 まずは基礎に下穴を掘る。

 基礎を貫通して、土台も貫通させるくらいの勢いで深掘りをする。

 そこに木釘を打ち込めばしっかりと固定できる。



 ナイフで木釘の形を下書きし、奴におんぶをして貰った私が、ウォーターカッターで下穴を掘るのだ。



 いざ作業を始めてみると水飛沫が凄まじく舞う。

 地上では騙し騙しやったが、190cmもある奴におんぶされた状態ではちょっと怖すぎる。

 全く前が見えねえ。



 仕方がないので一旦作業をやめ、とりあえず保護メガネを作ることにした。



 適当な厚みと大きさの湾曲(わんきょく)した板を加工し、目の位置に小さな穴をいくつも開けていく。

 鼻に沿うようにUの字の形に削り、バリをナイフでかりかりと落として石で磨き、布に砂をつけて更に磨いていく。

 両端に穴を開けて蔓草(つるくさ)で編んだ紐を通せば、保護メガネの完成である。

 紐を頭の後ろで巻いて使う。



 メガネをかけて、ついでに頭と口元をハンカチで覆って手袋もして、作業を再開する。

 飛沫が舞って相変わらず怖いものは怖いが、顔を保護したことで心持ちマシになった。

 時々手頃な枝を突っ込んで深さを確認して、問題なければ下穴掘りの終了である。



 終わったらそこに木釘を打ち込んでいくのだが、これがなかなか難航した。



 コミュ障がデカい木槌でガンガンと木釘を打ち込むのだが、うまく入っていかず、かと言って抜くことも出来ず、最終的に太めの木釘をもう一本作り、最初に開けた下穴を再利用し穴を慎重に拡げ、今度は無事に入ってくれた。

 もう一箇所は何事も無く打ち込めた。

 思わずホッと息を吐く。



 強度に問題ないか確認する為、コミュ障が高度2mの基礎の上に乗り、歩いたり揺すったりジャンプしたりしていた。

 コイツなら問題ないだろうが、私は見ててハラハラした。

 木釘がバキッといったら怖すぎる。






ー◆ー






 滑車とロープを取り外して、次の作業に移る。



 土台となるもう二本の樹で、先程まで行った一連と同様の作業を行い、こちらの土台にも基礎を取り付けるのだ。



 地上に基礎を配置し、同じ手順でとりあえず片側づつざっくりと持ち上げる。

 ここから高さ調整に入るのだが、手順を話し合い、施行済みの基礎を基準に、同じ高さにすることなった。



 基礎同士の高さが違うと、結局床が傾いてしまう。

 頑張って水平にした意味がない。



 基礎と基礎のあいだに、なるべく真っ直ぐな木材を通して、この木材が水平になるよう高さ調整を行うのだ。

 理屈の上では、これでだいたい水平になる。



 例によって私が遠目で見て指示を出す役だ。

 やはり時間を要し、全ての作業が終わった頃には、コミュ障はかなり疲れた顔になった。



 苦笑いしながら、さて今度は下穴を掘ろうと話していると、いつの間にか辺りはだいぶ暗くなっていた。

 今日はもう、作業をやめたほうがよさそうだ。



 そう思うと今頃疲れがきたのか急に眠たくなってきた。

 コミュ障に同意を取って休む準備に入る。

 川に入り簡単に汚れを落とすと、食事もそこそこにすぐ就寝した。


 ハンモックが一つしかないのに途中で気づいたが、今日はもう動きたくないと言って、2人でそこに寝た。

 すぐ眠気が訪れる。

 私は再び日が出るまで目覚めなかった。






ー◆ー






 翌日、朝日と共にすっきりと目を覚ました。

 朝の身支度を済ませ、すぐに作業に入る。

 そういえばロビー活動はもういいのかと聞くと非常に微妙な顔をされた。



 昨日の続きの作業を進めていく。

 基礎に下穴を開ける直前で作業を中止したはずだ。

 保護メガネをかけ布巾を被り、所定の位置につく。

 コミュ障におんぶして貰い作業を再開する。



 下穴を開けるのに相当神経を使ったが、何度も木釘を軽く差し込んで確認しながら作業を進め、なんとか2箇所とも無事に打ち込めた。

 失敗すると必然的にコミュ障の腕が死ぬのだ。

 無事に終わるとスゲーホッとする。

 これで基礎の施工が完了である。



 今度は床を張っていく。

 基礎と基礎のあいだに木材を並べて、それを床とするのだ。



 私が下から木材を手渡して、上に登ったコミュ障がそれを基礎の上に並べていく流れだ。

 この作業は私には本当にキツかった。



 材木として選定した木は、針葉樹のような真っ直ぐな木で、太さも握り拳ほどでそれほど重くはないのだが、貧弱な小学生並の体躯である私は早々に根を上げた。

 腕が痛くてダルい。



 ヒーヒー言っていると奴が上から降りてきて、地上から直接木材を並べ始めた。

 最初は木材の重さに少し難儀していたが、すぐに何かしらのコツを掴んだようで、淀みのない動きで持ち上げてはパカパカ並べていく。

 使えない私が悪いのだが、できるなら最初からそうしろよ。



 奴の作業を見ながらダラダラ一休みする。

 水がうまいぜ。






ー◆ー






 休みながら、木釘の加工と一緒に、端材でドアストッパーのような形のものをいくつか、色々な大きさで加工した。



 適当なところで作業を再開する。

 奴が床材を並べ終えたら、今度はそれを基礎に固定するのだ。

 現状基礎の上に丸太が並べてあるだけなので、勢いをつけて歩くと床材がごろごろと転がってしまう。



 とりあえず両端の床材を基礎に組み込んでいく。

 今までのように木釘を打ち込み固定するのだ。



 また慎重に慎重に下穴を掘り、木釘を打ち込む。

 2点打ち終わったら、もう反対側も同様の作業を行い、これで両端の床材が基礎に組込(くみこみ)された。



 あとは適当な箇所に何点か、先程製作したストッパーを(くさび)としてガンガンと打ち込むのだ。

 これで床材が互いに押し合って動かなくなる……、と思ったのだが、床材が丸いせいか、どうしても浮き上がってしまう床材が出る。



 また何か手を考えなければならない。

 しかしこうして試行錯誤するのも楽しいものだ。

 コミュ障も悩んでいるが、見る限り奴も作業を楽しんでいるようである。

 いい事だ。

 私も案を考えなければ。






ー◆ー






 なんとか床材を固定して、それから草を編んで紐を作ったり、ハシゴを作ったり、柱を立てたり、壁となる木材を並べたり。

 最後は屋根に日干しレンガの瓦を並べて、やっと私達の新居は完成した。

 施工日数なんと5日である。

 自分達でもビックリのスピード施工だ。



 地上から泥や木屑まみれのまま、私達の造ったログハウスを2人で眺める。



 外観はログハウスだが、行き当たりばったりで造ったので、よくよく見るとほんのちょっと傾いてたり隙間があったりする。

 まるでよく出来た秘密基地のような趣きだが、それでも大したものができたと2人で自画自賛した。



 内装はまだ何もないので、これから順次追加していく予定だ。



 (わら)のような枯れ草をたっぷり敷いて、そこに毛皮を敷けば、なかなか快適な柔らかいベッドになった。

 靴を脱いでそこへ寝るのだ。



 明かり取りに窓を開けたので風通しもいい。

 戸や窓には(すだれ)もつけて、虫も防げるようにしよう。

 壁や床の隙間は泥か何かで埋めればいいと思うのだが、何か手を考えてみよう。



 寝る前にはハシゴを外す。

 主にゴブリンなどへの対策だが、ちょっとトイレに行きにくいのが難点だ。



 火事がちょっと心配だが囲炉裏(いろり)も追加したい。

 天井にはランプも吊るそう。

 中でお茶を飲んだり晩餐をとったりするのだ。

 滑車を使った搬送用のエレベーターを作れば、重い水だって簡単に持ち込める。






ー◆ー






 反省点や、今後欲しい物を話す。



 今回は、直線や直角を引く墨引き用の糸や、定規の類が手元に無かったので、材料の加工など色々と雑になってしまった。

 壁や床にも隙間が目立つ。

 定規はともかく、糸はすぐにでも買えそうなので是非購入したい。

 糸はうまく使えば定規にもコンパスにもなる。



 私が作った滑車などガタガタだったので、材料を加工するのに水平な台作業や万力、旋盤(せんばん)なんかも欲しいと冗談混じりに2人で話した。

 こういうのは考えるだけで楽しいが、あれが欲しいこれが欲しいと際限がない。

 目下のところ購入するのは恐らく糸だけだ。



 食事も存分に楽しんだ。

 下の町に住んでた頃よりよっぽど贅沢できた。

 材料も充実してて気合いが入るぜ。



 採集に向かったホームレスが、ときどき獣を狩ってくる日もあり、夕飯が豪華になった。

 気まぐれで料理に凝る日もある。

 コミュ障は料理があまり得意ではないと言うので、私が主導で調理を行う。



 魚を三枚に下ろし粗めに刻んで、匂い消しに行者ニンニクを混ぜてよく揉み、つみれを作る。

 それを芋や山菜と一緒に煮て鍋にする。

 味付けは塩しかないが、具材から出汁が染み出てホクホクでとてもうまい。



 私の持ち込んだ冒険者パンを削ってパン粉を作り、獣の脂身を煮込んで獣脂を取り、肉を揚げ焼きにしカツもどきも作った。

 冒険者パンを薄く切って、葉物も()じてカツサンドにして食べた。

 ザクザクでジューシーで非常にうまい。



 材料が足りないが、工夫すれば何とかなる。

 香味づけに山菜や葉を揉み込み、味付けにも工夫を凝らす。

 ホームレスは食事の楽しみが増えたと大層喜んだ。

 私もうまいメシが食えて満足である。



 塩が底をつきそうなので、今度買いに行こうと話す。

 コミュ障はほとんど塩を持ってなかったし、私の持ち込んだ分も大した量ではないのだ。

 買い物に行くならついでに調味料も充実させたい。

 片栗粉があれば芋餅なども作りたかったし、調味料や食材のひとつで構想の幅はいくらでも広がる。



 衛生面などこちらの方がよほど清潔で驚いた。

 なんと石鹸があったのだ。

 川に入り全身を石鹸で泡立たせて洗うと、サッパリして気持ちがいい。



 ただ石鹸で洗うと髪がゴワつく。

 オイルでもあれば違うのだろうか?

 奴と相談し、油が取れる椿やオリーブのような実を探そうと計画を立てる。

 ギルドへ行って調べてもいいだろう。



 ある日私が洗濯をしていると、コミュ障がそれを呆然と見ていた。

 タライに石鹸水と洗濯物を入れ、魔法でグルグルと水流を作り洗濯していたのだ。

 今まで手洗いだったのだろう。

 やってみるとわかるが、毎日洗濯したくないと思うくらいにはまあまあ大変なのだ。

 今後は任せればいいと思う。



 木材で細々とした小物を作るのも楽しい。

 自分の魔法がここまで便利だとは思わなかった。

 箸やコップ、柄杓(ひしゃく)、ヘラ、お玉、(くし)(おけ)、タライ、鍋の蓋など、こういうのがあると便利だと思ったものはどんどん作る。

 物作りは面白いし、生活が豊かになる。



 現在は仕上げとして、布に砂をつけて磨いているのだが、魔法で解決できそうな気もする。

 今は無いがニスも塗って大事に使いたい。



 モンスターが気掛かりだったが、サイコさんの妖怪アンテナの性能は極めて高く、また戦闘力も同様だった。

 作業中突然、少し失礼しますと言って森の奥へ向かい、数分で戻ってきた奴に何をしていたのか聞くと、オークが出たので倒したと言う。



 慌てて現場に行くと、5体のオークが顔を半壊させて転がっており、私は恐々としながら討伐の証となる右耳を切り落とした。

 2体目に取り掛かろうとした所で奴もそれに(なら)い始める。

 どうやら金になる事を失念していたらしい。



 寝ている時でも妖怪アンテナは問題なく働くらしく、朝目が覚めたら、寝床から少し距離を置いた所で、ゴブリンが数体転がっていた事もあった。

 万事そんな調子なので、私は何か腑に落ちない気持ちを抱えながらも、安心して眠る事ができた。



 正直町に居た頃より生活がよほど快適で、毎日が非常に楽しい。

 充実した日々をホームレスと2人で満喫した。






ー◆ー






 新生活の開始から10日ほど過ぎて、その日も私達が健康的に作業を進めていると、例の3人組がやってきた。





『な、何してるんですか……?』





 何って庭の周りの塀組んでんだよ。

 見りゃわかんだろ。







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