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山田と佐藤  作者: うんち
1章
4/23

4話 メスショタ







 最初コイツに気付かなかった理由がわかった。

 最後に顔合わせたとき、黒の長髪のウィッグ被って、赤いカラコンも付けてた。

 加えてゴスロリだったので、目の前のコイツと印象が全然違った。



 コイツは大学生だが、普段は女装していない。

 SNS等で密かに姫プレイを楽しんでいる。



 女装は普段と違う自分を演じて楽しむ趣味であり、性嗜好は完全に男性のそれである。

 女装癖と性嗜好のカテゴリは同一ではない。

 故に自分は完全なるノーマルであり、よって性倒錯者ではない。

 みたいな理屈を聞いても無いのに語ったことがある。



 僕は全然信じていない。

 コイツがナルシストなのは疑いようがないし、隠れて前立腺開発とかしてても全然驚かない。

 裏垢でチンポこすりながらアナニー配信とかしてても不思議じゃない。



 不特定多数に見られるの大好きだと思うし、むしろ配信していないと考えるの方が不自然だと思う。

 ヤリチンおじさんのパパとか居ても普通に納得する。



 大体女装して街を練り歩いてる時点で、コートの下素っ裸で徘徊する露出狂おじさんと本質的になんも変わんないよな。

 見られて脳のどっかが気持ち良くなってるのは同じだと思うし、綺麗か汚いかの違いでしかないわ。

 語るに落ちてるだろ。

 本人には言わないけど。



 詳しくは聞いてないけどハーフかなんからしく、パツキンサラサラヘアと青い瞳は自前である。

 女装してなくても女の子然とした洋物ショタおじさんなので、多分大学では女の子にも人気あると思う。



 まあ大学の話とか全く出ないので、普段の生活もなんとなく予想がつくけど。

 顔面偏差値は高いので、密かにお姉さん達に可愛がられてヤリチンとして大学生活を謳歌(おうか)してても不思議には思わない。






ー◆ー






「ちょっと……、ちょっとこっち来い!」



 僕の襟元(えりもと)を引っ張るメスショタおじさん。

 連れの2人は(ほう)けた表情でそれを見ていた。

 推定ホモが2人の様子に気付き、何事かを異世界語で言って聞かせる。



 3人がお互いの安否を確認している間、僕もオークさん達の安否を剣を刺して確認していく。

 10匹以上居たので難儀した。

 終わったら使用したスリングを回収し、付着した血糊(ちのり)脳漿(のうしょう)をぬぐい水で洗う。



 スリングの回収中にふと3人を見ると、僧侶っぽい子のメイスから放たれた光がメスとメスショタを包み込んでいた。

 たぶん回復魔法かなんかだろう。

 その光景が、メスショタの目を閉じた表情と相まってなんか聖属性っぽくて、自分に酔ってる感じがなんとなくキモくて不快だった。



 回復し終えると、3人はオークさんの耳をナイフで切り落とし始めた。

 サイコな光景に一瞬戦慄したが、これはアレだ、ギルドかなんかで換金してくれるシステムがあるのだ。

 よくあるパターンである。

 知ってたら今頃億万長者じゃんねって思ったけど、そもそも集落へ入れないので問題は解決した。



 作業が終わると、メスショタおじさんが目の座った表情をこちらに向ける。





「とりあえず着いて来い」


「承知しました」




 有無を言わせぬ勢いに首肯(しゅこう)し、先行するメスショタおじさんの後を追う。



 集落に向かっているようで、お互いの身の上話より安全地帯に帰ることを優先したのだろう。

 先程集団レイプによる、貞操と生命の危機に陥りかけたばかりだ。



 緊張からか、全員が無言で進む。

 僕は僕の代わりに会話してくれる、頼もしいメスショタおじさんがそばに居るので、いつもよりむしろリラックスしていた。



 警戒もそこそこに集落へ辿り着く。

 門から距離を置いてボーっと突っ立っていると、2人を見送ったメスショタがこちらに戻ってきた。



 僕がコミュ障ゆえに、人の住む聖域に近付けないのを察してくれたのだろう。

 通じてる感がちょっと嬉しかったが、戻ってきた彼はキレ顔をしていた。





「来て」


「はい」





 門から距離をとり、集落の石垣沿いに人気の無い場所まで進む。木陰の下、椅子代わりにするのに具合が良い岩を見つけた。


 向かい合って座り、推定ホモと異世界に転移してからの、お互いの身の上を語り合った。






ー◆メスショタ視点◆ー






 目の前のコイツの姿を半目で上下にマジマジと見る。



 190cmを超える細身の長身に、フード付きのマントで頭ごと膝の辺りまで覆っている。

 濃い暗緑色(あんりょくしょく)のマントは所々()り切れていて、その上からロープで吊った剣を背負っていた。



 フードから覗いた顔は影が掛かり、目元から上の様子はあまり判然としない。



 パッと見は完全に不審者だった。

 夜道で出くわしたら間違いなく逃げ出すと思う。





「じゃあやっぱり同じタイミングでこっちに来てたんだね」


「そうみたいですね。佐藤さんが居てくれて安心しました」





 まあそうなんだろうと思う。



 同じタイミングで同じ場所に来ていたのなら、何故今まで会えなかったというのか。



 私はコイツがコミュ障を(こじ)らせたからという理由以外に思い当たるものがない。






*★*






 コイツは運動能力が高いだけの陰キャであり、輪を掛けた駄目人間であり人間の屑である。



 コイツとは高校生からの付き合いだが、コイツの第一印象はでかいゴミだった。

 妙な丁寧語も陰キャゆえのものだろう。

 前に家族相手にもその口調で話すとか言っていた。



 高校入学当初、私はカースト下位だったので、同じクラスで陰キャのコイツと時々話すようになった。

 話してみると考えが面白いし、たまに妙な毒を吐くので誤解されやすいが、よくよく話を聞くと気の良い奴だとわかったので、私はすぐにコイツの事が気に入った。



 高校1年生、一学期後半の時点で既にコイツはカースト最底辺だった。話しかけるのが(はばか)られて一時期疎遠になったが、おおよそ同時期に始めた女装自撮りアカウントの作成を切っ掛けに、私はジェンダーについて悩むようになった。



 その手の話を安心して出来そうな相手がコイツしか居らず、放課後、喫茶店に誘ってたまに相談をした。

 喫茶店には何度も通ったが、いつまで経っても慣れないのか、来る度にコイツはテンパっていたと思う。



 初めて二人で喫茶店に入った時、私達は互いに向き合って席に付いた。

 注文を取ってからしばらく、私は緊張で何も言えず、口を開いては閉じて言葉を探していたのだが、目の前のコイツが余りにも挙動不審だったので、その姿に笑ってしまい緊張がほぐれた。



 女装SNSを見せ、これは自分だとカミングアウトする。

 じっと画面を見つめスクロールする奴の姿に緊張するが、すぐに理解を示し、むしろ何かに得心(とくしん)していた。



 私がどうして女装に興味を持ったのか、コイツは既に何らかの答えを持っており、私の話を聞いた上で自分の考えを私に語った。

 腑に落ちるという表現が適切だと思うのだが、奴の話は妙に筋が通って聞こえて、ひとつひとつ、自分の心の(おり)というものがほどけていくのがわかった。



 そもそも何故コイツに相談しようと思ったのか。

 私にとって当時のコイツの印象は人間の屑だった。

 つまり女装野郎の私と似たようなもんである。



 コイツはカマトトぶったムッツリスケベであり、元厨二病患者で、心理学とか哲学にハマっていたクチなのだ。

 その上負のクソオタクで、分析する自分が大好きであり、同時にそんな自分が大嫌いなのだ。



 出逢った当初からそこまで奴を理解していた訳では無いが、一学期間の短い付き合いでも、会話の時々で奴の内面というものが伝わって、当初から私はシンパシーを感じていた。



 奴がそんな調子なので弱みを見せても安心できた。

 喫茶店で何度も何度も話をした。



 奴は論理の組み立てが早く、同時に深く掘り下げて、妙な雑学も豊富だった。

 感情の機微にも敏感で、何かと私の考えを察してくれた。

 奴との会話は面白かった。






ー◆ー






 そんな感じで時が流れた。私は自分の性との折り合いを付けつつあった。

 その頃には進級して、私達は2年生になった。



 その頃に私はキャラ作りを覚え、明るく振る舞うようになった。

 すると我ながら高い顔面偏差値も相まって、すぐにカースト上位に上がった。

 同クラスの奴は相変わらず底辺だった。



 対人関係の(かなめ)はフォーム修正とキャッチボールの回数なのだ。

 奴は負け犬根性の極まった持ち主なので、ボールを投げることを既に諦めている。

 その上テンパった時の奴は。ボールを投げるのがド下手クソだ。



 私は教室でも積極的に話しかけた。

 カースト上位がそうすると誰かしら寄ってくる。

 当然奴はパニくるのだが、奴にも自分がクソという自覚はあったのだろう。

 嫌がる事もなく、隠キャは陰キャなりに頑張っていた。



 コイツは運動神経が抜群に良くて、細身過ぎず身長も高く、顔面偏差値も私が見る限り、雰囲気に騙されずよくよく見れば、上の下から中くらいはある。

 モテ要素が詰まっている筈なのに、何が間違ってこのような哀しきモンスターが誕生したのだろう。



 運動能力を見せる場面では、他人の目を気にして積極的に動かず、たまに見せる激しいムーブはキモがられ、人前では極端な猫背になり、目線は常に下を向き、表情筋は完全に死んでいた。

 高身長は完全に(あだ)となっていた。



 中学生の頃の話は聞いても教えてくれない。

 まあなんとなく想像はつく。

 きっと、どうでもいい失敗を重ねてきたのだろう。






*★*






 私達の努力は功を奏し、コイツのコミュ力は高校卒業時にはかなり改善されていた。



 もともと頭の回転が速くて人の機微にも聡い。

 丁寧語は治らなかったが、卒業後は社会人になったので問題はない筈だった。



 なぜ三ヶ月もニアミスが続いたのか。



 町の自警団や冒険者から聞いた話と、現在のコイツとを統合する。



 恐らくコイツは日本語が通じない段階で(つまず)き、人とのコミュニケーションを諦めたのだ。



 社会に揉まれ(つちか)った筈のコミュ力が全く活かされていない。

 まあメッキが剥がれただけだ。

 コイツは基本的に、高校1年生の頃と何も変わっていない。



 何故最初の段階で頑張ろうとしなかったのだろう。

 コイツも頭ではわかっているんだろうが、最初から逃げていたら転がり落ちていくばかりで、失点を取り戻すのがどんどん困難になるのは一つの真理だろう。



 私も異世界来訪一ヶ月目には山に入っていて、何度かコイツに危ない場面で助けられている。



 つまりニアミスがあったわけだが、私からは目深に被ったフードで顔が見えなかったし、奴も奴で人の顔がなかなか覚えられない。

 基本的に目線が足元を向いているので、そもそも人の顔を見ていない傾向がある。

 前に私を助けたことも覚えてないのだろう。





「……え? 待ってよ、おかしくない?」


「何がですか?」





 辻褄(つじつま)があわない。





「一ヶ月ズレてるでしょ。私は三ヶ月前にはここに居たもん。山田が現れたのって、確か二ヶ月くらい前だったでしょ?」





 冒険者の人達がそんな噂話をしていた。





「ああ……、その……」


「?」


「佐藤さんとは転送位置がズレていたんでしょうか? 佐藤さんはこの集落の近くに?」


「ああ、うん……。結構離れてたよ? ずっと向こう側に飛ばされててね。この町は見えてたから、歩いてここまで来たの」





 私が飛ばされたのは、町を挟んで山とは逆方向の草原だった。



 何時間歩いたかわからないが、当時はまだ長時間歩くことに慣れてなくて、クタクタになって辿り着いたら、今度は言葉が通じなくて途方に暮れたのを覚えている。





「なるほど……。ではやはり、転送位置に大幅なズレがあったようですね。僕も佐藤さんと同じく、三ヶ月前にはここに居ました」


「……? じゃあ一ヶ月間どこに居たの?」


「ずっとあの山で遭難していました」


「……………………?」





 なんて言ったのか一瞬飲み込めなかった。





「……遭難って、じゃあ今までどうやって生きて、食糧とか、モンスターだって出るし……。え!? ていうかなんで!? まだ山に居るの!? ひょっとして住んでるの!?」


「落ち着いてください。一から説明します」





 そのようにしてもらった。






ー◆ー






 まとめると、山で遭難して何度も死にかけたけど、だんだん環境に身体が適応して、何とか町を見つけたけど今度は会話が通じなくて、人が恋しいけど自分から話しかける勇気もないから、山に住みつつヒーローごっこして、一方的に住民の好感度を稼いで今に至ると。



 人との接点が無さ過ぎて、脳にウジでも湧いたのだろうか。

 そこまでトンチンカンな行動を、スカした丁寧語で話すの恥ずかしくならないのかな。



 遭難してたのはどうしようもないが、その後の行動がちょっとよくわからない。

 自分でも迷走している自覚があるのだろう。

 そういう表情をしている。

 表情筋が微かに動いて微笑んでいる。

 多分ツッコミ待ちなんだろう。



 あと話し始めてから暫くして気付いたんだけど、なんか目の焦点が合っていない。

 たまに唐突に変な方向に視線が動くし。

 部屋で謎空間見つめる猫かよ。





「あのさ、時々変な方向見つめるのはなんなの? なにも無いでしょ? なにか見えてるの?」


「はい」





 まさか肯定が返ってくるとは思わなかった。





「常に幻覚が見えるようになりました」





 相変わらず奴は微かに微笑んでいる。



 私は両手で顔を覆った。







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