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山田と佐藤  作者: うんち
2章
22/23

22話 小さな森のレイプ屋さん

ー◆不審者視点◆ー






 現在早朝である。

 森の中の道なき道をメスショタと共に歩いている。



 昨日から現在に掛けてモンスターと4回遭遇している。

 それ自体は別に問題ないのだが、倒した死骸のどの部位をお持ち帰りすればいいのかわからない。サイコさん用語でいうところのスーベニアである。直訳でお土産。

 そのような理由で僕達は困っていた。



 要はモンスターの身体の一部をギルドに持っていくと換金してくれるサイコなシステムがあるのだ。討伐証というやつである。基本的には右耳でいいらしい。

 今までは森のレイプ屋さんことゴブリンとオークにしか出会っておらず、耳を集めてはギルドに行き金銭に換えるという、ふと冷静になると正気を失うようなやり取りをして日銭を稼いでいた。



 しかし相手が哺乳類ベースでない場合、そのやり方が通用しない。



 昨晩寝静まった頃にモンスターが現れた。

 妙な気配に叩き起こされてコソコソ現場に伺ったらマジでビビった。



 バカみたいにでかいムカデさんが居たのだ。

 体長は2〜3mほどもあり、全身真っ黒で脚は短く、ムカデというより体長を伸ばしたダンゴムシと言った方が適切かもしれない。

 所々赤く発光する紋様が走っていて、頭部は鎧兜のような造形であり、見ようによってはメカニカルで妙に格好いい。

 そんなムカデさん達が5匹、樹々や地面をワシャワシャと元気に高速で這い回っていた。



 どうやってこの環境下でここまで大きいサイズの昆虫が育つのだろう。酸素濃度は現代地球と変わらないと思うが、また魔力とかいうアレがアレしてるとかそういう理由なのだろうか。

 脳が激しくバグるのを感じつつ、とりあえず投石してみたところ外骨格に弾かれたので、仕方なく触角とか狙いつつ投石して倒した。

 そして回収すべき耳が存在しない事に気付き、とりあえず日が昇ったらメスショタと相談する事にしたのだ。






ー◆ー






 そして現在に至る。



 僕はムカデさんの首に穴を開けて、そこに紐を通した蛮族ネックレスを首にぶら下げて歩いていた。

 頭部を持ち帰れば間違いないだろうという判断からこのような形になった。

 首級を装飾に使うのは勝者の証でもある。何もおかしい事はしていない。



 件のムカデさんはメスショタいわく、地球上で三億年以上前に生息していたアースロプレウラとかいう生物に似ているとかなんとか。ちょっと目をキラキラさせて話していた。

 元ネタを全く知らないのでよくわからないが、コイツの厨二病的琴線に引っ掛かったのだろうか。



 そのメスショタが呆れたような目でこちらを見ている。

 しかしコイツも先程までノリノリで蛮族ネックレスを作っていたのだ。ムカデさんの額にウォーターカッターで穴を開けたのは他ならぬコイツである。



 だってこんなの僕の鞄にも入らないし、アイテムボックスに入れてって頼んだら汚いからヤダって拒否ったのはメスショタだもん。どうしようもないじゃんね。





「ごめんね。私のせいで」





 一転してメスショタが申し訳なさそうに謝ってきた。

 モンスターの資料の写しを取れなかった件についてだろう。

 どの部位が討伐証になるのかも記載があったそうで、写しが取れていれば確かに今のような状況にはならなかった。





「佐藤さんのせいじゃありませんよ。僕こそ佐藤さんにばかり負担を掛けてしてしまい申し訳ありません」





 大体知らない人のせいである。

 そもそも夜逃げしてまで縁を切る判断をしたのは僕なのだから、コイツに謝られても本当に困る。



 コイツは一度見聞きした事はそうそう忘れる事はないのだが、写しを取る事を優先して全て目を通していなかったのだろう。

 しかしあそこで知らない人が現れるなど予想できる訳がない。

 酔って約束を取り付けてしまった事も含めて謝ってるのかもしれないが、強く止めることができなかった僕にも責任がある。



 あまり引きずって欲しくもない。

 だって慰めるの面倒くさいじゃんね。雰囲気悪いの普通に嫌だし。



 しかし、今後もこの調子で蛮族ネックレスの飾りを増やしていく訳にはいくまい。 メスショタに折れて貰ってアイテムボックスを使ったとして、奴の言うように衛生面をどうにかする必要がある。よくある時間停止機能なんて付いてないし、防腐のために干したり燻したりするのも量がかさめば手間は増える。ぶっちゃけやりたくない。

 だからといって自らの食い扶持をただ捨て置く訳にはいかない。現状僕達の収入源は他にない。



 蛮族ごっこして遊んでいる場合じゃないかもしれない。






ー◆ー





 つらつらと思考を巡らせながら森の中を歩く。



 アイテムボックス内に入れたとして、あの謎空間の中ってどうなってるかわかんないよな。

 当然だが、メスショタも仕組みがよくわからんと言っていた。



 仮に『押入れくらいの空間にあり、そこに物を出し入れできる』という具体的なイメージを立ててみよう。しまったものが同一空間に収まっているイメージだ。整理整頓は親切な妖精さんが最大効率でやってくれる感じ。

 もしくはノヴさんの念能力でもいい。能力名と能力の詳細は覚えてないけどあんな感じで収まっているものとする。



 このように仮定して考えると、ボックス内で雑菌が蔓延したら食中毒一直線だよな。

 生の食材はもちろん、大量に買い込んだ小麦粉も調味料や香辛料もまとめて台無しである。たぶん瓶詰めとか以外全滅するんじゃないだろうか。

 確かにこれはメスショタの懸念するところが正しい。



 間仕切りされてるか実験でもすればよかったのだが今更遅いし、今からやるにしてもちょっと現実的な方法が思い付かない。

 例えばアイテムボックスに直接水を入れて他の荷物が濡れるかどうか、とかテストしても確実に区切られてると言えないじゃん。カラーボックスみたいなガバガバな構造だったら水分の流出は防げても気密性は担保されない。

 じゃあまあ例えば、カレーの入った鍋を入れて匂いが移るか、とか実験すれば気密性は大体わかるとしよう。でも荷物が大量に入っているし、それにカレーの匂いついたらヤだし、中身を全部出して実験しようとすると半日とか平気で取られると思う。

 ぶっちゃけこんなんもう面倒である。



 そもそもこの手の謎原理で動く謎マターは好きになれないのだ。脳が理解を拒否する。

 僕の人生は学歴コンプと劣等感でできている。高等教育の敗北者そのものであるがゆえに、僕を苦しめてきた学問を真っ向から否定するような現象はちょっと耐えがたい。偉人の格言から引用すると、嫌いすぎてもうむしろ好きというやつだ。



 まあ事実だけ繋ぎ合わせて無理矢理そういうもんだと納得したとしよう。

 どこでもドアの哲学的思考実験じゃないが、中で出たり消えたりしてどこまで連続性が保たれてるか知れたもんじゃないじゃんね。

 まあ食べ物がスワンプマンしてようが別にどうでもいいんだけど。いややっぱ良くない。キモいわ。どっから生えてくんだよ。知らない内に僕達ヨモツヘグイとかしてない?



 こういうの目の前に出されるとマジで困る。処理しきれない。メスショタの魔法だって本当は受け入れがたいのに。

 素直にこういうもんなんですねと受け入れる事ができたら僕の人生こんなに苦しくなかった。

 つらい。



 まあいいや。深く考えると妄想癖とコンプレックスが爆死するのでとりあえずこれは放置する。

 ひとまず現実を見よう。



 もう一度ギルドに行って資料を集める必要がある。

 一度町に戻ることを検討した方がいいかもしれない。もしくは強行軍で次の目的地に急ぐかだ。



 旅程は普通に歩いて四〜五日と聞いている。



 個人的にはのんびり行きたい。

 どうせ文通の返事待ちしなきゃだし、だったら森で過ごしてた方がトラブル無くて済みそうじゃんね。

 ここ20日間くらいで嫌になるくらい身に染みたわ。



 戻るとなると問題なのは知らない人達だが、彼等は僕達が既に町を去ったと思い込んでいる筈だ。

 ならやりようはあると思う。



 ちょっと相談してみよう。






ー◆ー






 メスショタも同じような事を思っていたらしい。

 僕達は取って返す運びとなった。



 無駄足を踏んだとも言えるが、どのみち時間を置いた方が知らない人達の警戒も緩む。

 希望的観測だが町を去った可能性もあるだろう。





「あの鬼畜王死ねクッソ……」





 メスショタは知らない人に腹を立てているようだ。あの人の本名ランスさんだっけ。

 まあ無理もない。愚痴ってるだけで特に害はないので適当に流しておく。自虐に向かうよりよっぽどマシである。



 適当にあやしながらしばらく歩いていると、イマジナリーフレンドのゴブリンさんから緊急のメッセが届いた。






ー◆ー




 前方15mくらいにモンスターさんが居るらしい。

 愚痴っていたメスショタの顔の前で軽く手を振って黙らせる。



 かなり接近するまで気付かなかったが、どうやら相手が気配を殺していたようである。

 それでも僅かな息遣いや身じろぎから出た音は隠せなかったようだ。

 僕のスタンドマジで優秀だよな。これやっぱスキルだろ。



 メスショタも大声で喋っていた訳ではないが、相手がこちらの存在に気付いてもおかしくない。

 まずは出方を窺いたい。



 樹々の隙間から覗いてみると、大体の位置は掴めていたのですぐに焦点が合う。例のチンチン大きい犬が三匹、じっと伏せていた。

 明後日の方向を見ている様子から、どうやら僕達には気付いていないようである。



 モンスターの生態を知る事は、この世界に来てから培った僕の生存戦略のひとつである。

 今回もじっくり観察させてもらおう。



 しばらく見ていると、別方向から数匹からなる野犬の鳴き声が聞こえてきた。

 葉擦れや足音からサーモグラフィーのように姿が浮き上がって見える。スケスケだぜ。

 何かが野犬に追われている。吠え立てるような様子や全体の動きを吟味するに、なるほどこれは典型的な狩りであるようだ。



 追う役と待ち伏せ役によって獲物を四方から囲って仕留めるやり口だろう。

 追い立て役が近付くのに呼応して、待ち伏せ役のチンチン大きい犬が身を深く沈めて臨戦態勢に入った。



 興味深く窺っているとゴブリンさんから追加でメッセが入った。

 どうやら追われているのは人間で、しかも女性らしい。そしてかなり切羽詰まったご様子。



 待ち伏せ役であり竿役でもあった犬が、次々と駆け出して視界から消えていった。



 これは大変だ。

 レイプ案件である。しかも貴重な獣姦だ。

 今すぐ見に行かねば。





「佐藤さん、失礼します」





 緊急事態なので有無を言わさずメスショタを抱えた。

 なるべく足音を殺しつつ、全力疾走で現場に向かう。






ー◆ー






 15mほど距離を置いて、遠巻きに様子を窺っている。



 本来ならすぐ助けに入る場面なのだが、女性が魔法を使って結構善戦していたのだ。

 ソロで頑張っている冒険者だったら横入りするのは野暮である。



 しかも何やら、見た事ない種類の魔法を使っている。というかこれは魔法だろうか。



 僕がロビー活動中などに目にしてきた攻撃魔法は炎や氷、土塊などを飛ばすなどが主だった。要するにメラやヒャド、ジバリアである。

 メスショタは色々と器用だが、やってる事自体は彼等と変わらない。

 つまるところ何かしら飛ばすか、あるいは設置してダメージを与えている。



 この人はスライムっぽいなにかを操っていた。

 一抱えほどある銀色のモチモチした流体が、一部を鞭や棘などに変形させて竿役と戦っている。

 なんか既視感があると思ったら寄生獣だった。



 襲われている女性は如何にも魔術師っぽい女性である。

 それっぽい高そうな黒いローブを着た女性だ。青い髪は複雑に編み込まれており、なんとなく宮廷魔術師感ある。

 両手で持った杖を竿役達に向けてぎゃーぎゃーと喚いていた。



 彼女の様子から、恐らくこういう戦闘自体あまり慣れていないんだろうという印象を受けた。

 なんというのだろう、冒険者ニュービーさんだろうか。



 しばらく見ていたが、彼女の操るスライムさんは非常に強力だ。チンチン達の攻撃をものともしていない。

 飛び掛かった竿役が噛み付いたところ、頭部から銀色の棘が無数に生えてきてお亡くなりになった。恐らく物理攻撃無効とかそういう属性持ちなのだろう。



 無敵の前衛が一人居るようなものだ。

 別の1匹が鞭の餌食となって胴体が泣き別れとなり、今も高速で振り回して竿役達を牽制している。

 スライムさんは攻守共にとても優秀だ。

 しかし彼女当人の立ち回りがよくない。



 竿役達もスライムさんを警戒して距離を保つようになった。五mほどの間隔を保ちながら九匹の竿役達が徐々に包囲するように分散して動いている。

 一方囲まれつつある本人は棒立ちしていた。せめて木を背にするとかすればいいのに、杖を両手で握りしめてガチガチに固まっている。

 壁役のスライムさんを自身から遠ざけられないのだろうが、明らかにジリ貧である。

 反転攻勢に出て包囲を破るなりする様子もなさそうだ。



 包囲網を完成させつつある竿役達は己がチンチンをムクムクと膨張させ、脈動に合わせてそれをビクビクと動かしていた。

 やはりエロゲ準拠した仕様なのだろうか。

 これは期待ができそうだ。



 僕がワクワクしていると、横にいるメスショタが袖をクイクイと引いてきた。

 見ると眉を歪めて僕を見上げている。





「ねえ、もうヤバくない……?」





 どうやら見ていて不安になったようだ。

 まあヤバいと言えばヤバいが、チンチン的に考えてまだ大丈夫だと思う。

 ファルネーゼがお馬さんと憑依合体するフレーズでも、ガッツが助けに入るまでにまあまあ余裕あったじゃんね。膜が破れるまでは処女なのでセーフという格言もある。



 今も投石紐に弾をスタンバイしてるし、野生動物相手だからこの場で奇声上げるだけでも十分牽制になると思う。

 ゴブリンさんみたいに人質取る知能も無いだろうし。



 まあ万が一もあるし突っ込むか。見てみたい気持ちに嘘はないが、実際本番に持ち込まれても色々と困る。





「佐藤さん、僕が先行しますのでついてきて下さい」


「うん」





 僕は右手の投石紐を大きく振って、そのまま射出した。






ー◆ー






 高速で飛んだ石は竿役の頭部に着弾して鈍い音を立てた。うめき声すら上がらない。恐らくは即死だろう。

 竿役が倒れるのを待たず、剣を左手で抜きながら樹々の隙間をぬって現場へ突入する。





『だ、誰!?』





 突然のアンブッシュと不審者のエントリーに、女性も竿役も驚いていた。

 構うことなく右手側に大回りして走る。

 空いた手で脇腹のホルダーからナイフを二本取り出し、手近な竿役二匹に続けざまに放った。

 練習の成果が出たのか、上手いことそれぞれ肩と腹に深々と突き立った。甲高い悲鳴が上がる。



 動きが鈍ったところに前脚を狙って剣を振り、もう一匹は鼻面を思い切り蹴り上げた。また大きく悲鳴が上がる。死んでなくても戦闘力は奪えただろう。

 他の竿役達は、僕の動きに合わせて逃げるように距離を取った。

 ここでようやくメスショタが現場にやってきた。20mも走ってないのにハァハァと荒く息を吐いている。流石だぜ僕のメスショタ。



 大回りしたことで、狙い通り相手を誘導できたようだ。ホウキで一箇所に集めるイメージである。

 残り六匹の竿役達は十mほど距離を開けて一塊(ひとかたまり)となり、唸り声を上げてこちらを警戒している。



 普通の野生動物なら既に逃げ出してもおかしくはないと思うのだが、空腹なのだろうか。あるいはモンスターは好戦的だとか、そういうよくある設定があるのかもしれない。

 個人的にはライフワークの獣姦レイプを諦めていない説を推したい。死を前にした竿役の保存本能というやつだ。職業意識の高さが窺える。



 まあ固まってくれるのは好都合ではある。

 余裕でメスショタの攻撃射程内だ。



 呼吸を整えたメスショタが大魔法峠エンディング2番のAメロ冒頭部分を口ずさむと、地面に白い魔法陣が描かれ始めた。

 昨日編み出した魔方陣を描く魔法である。他人に見せる以外の用途は特にない。棒読みで歌っているのは皆やってる詠唱のつもりらしい。

 この世界の魔法は基本的に魔方陣による演出が入るので、このような形に落ち着いた。



 魔方陣は塗料で描いている。なんでも白いラッカー塗料に反射材やらを混ぜて作っているらしい。

 慣れていないというか、普通に文字を書くような感覚で描いているらしいので完成がやたら遅い。ゆっくり十秒ほど掛けてようやく仕上がった。

 夜間に見るとそれらしかったが、日中だとわかりやすい白ペンキでパチモン感が凄い。ところどころ垂れたり途切れたりしてるし。その上なんかシンナーくさい。これで本当に大丈夫かと非常に不安である。



 魔方陣の完成に合わせ、竿役のすぐ頭上に豪雨が発生した。遅れてジーッという音と共に赤白い電光が弾ける。

 見慣れた感電死コンボだが、何気に殺傷力高めにバージョンアップしているようだ。

 煙を立てて転がった竿役達はピクリとも動かない。サイズから考えても即死だろう。

 無事に戦闘は終了した。






ー◆ー






「佐藤さん、お疲れ様です」


「うん、山田もお疲れ」





 ニコリと微笑んでいるがコイツは今表情を作っている。非常にイラついているのが一目でわかる。

 知らない人との一件で引き返す事になったのもそうなった一因だと思うが、直近の原因は恐らく件の魔方陣である。どうやら魔方陣を描くのが心底面倒くさいらしい。



 昨夜、発注した魔方陣の出来を確認させてもらった時点でクソみてぇな低クオリティは判明していた訳だが、僕は突っ込むに突っ込めなかった。

 あまりの出来にやや呆然としてしまったのだが、横に立つメスショタが不自然なくらいやたらニコニコしていて、これ冗談ですよね?とか言ったら発狂してキレ散らかしそうな気配がプンプンしていたからだ。



 先程魔法を撃つ際も目に見えてイライラしていた。まあ当然っちゃあ当然である。本来なら3秒もあれば撃てた魔法を、15秒か20秒かチンタラ時間を掛ける羽目になったのだ。

 もちろん真面目に練習すればタイムも短くなるんだろうが、あのクオリティの魔法を練習する意味があるかという話ではある。ならクオリティを上げろという話に戻るのだがそこを言及すれば奴は発狂する。つまり詰んでいる。

 つまるところそもそもやる気が無いのだ。外野がくしゃくしゃ言っても何もいい事はないので、しばらく様子を見るしかあるまい。



 つまりここは反応しないで流すのが正解である。

 イラついてるとか知らない知らない。





「それで山田、あの娘はどうするの?」





 首を振って指し示すメスショタ。



 あの娘とやらは地面にへたり込み、両手に持った杖を胸に引き寄せビクビクと怯えている。表情は恐怖で引き攣り歯をカチカチと鳴らしていた。

 その視線は僕に向いていた。僕に。



 これはどうした事だろう。確かに僕はあからさまな変質者だが、ここまで警戒されなければいけない罪を犯したのだろうか。身に覚えは沢山あるが彼女とは初対面の筈だ。

 自分の身体を検めようと視線を下げると、その原因がわかった。



 蛮族ネックレスだ。でかい虫さんの首級をジャラジャラと五つもぶら下げている。

 手首でも切断できそうな大きな顎と、長く太い触角、機械的な角ばった甲殻に覆われたムカデさんの造形は、機甲虫隊ビートラスみたいで男心をくすぐるものがあるが、確かに女子受けはあんまりよくないと思う。



 怪しげな黒いフード付きマントと相まって、やばい部族か邪教徒のように見えてしまったかもしれない。薄暗い森の中というシチュエーションもマリアージュして怪しさを増している。

 そういえば血糊のついた剣も手にしたままだった。今人生で一番不審者してるかもしれない。



 まあ僕が不審者なのは今に始まった話でもない。

 どうせ会話をするのはメスショタである。





「ひとまず事情を伺いましょう。迷い込んだという事もないでしょうが、彼女が望むようであれば僕達が町まで送れば宜しいかと」


「わかった。……山田の格好の理由とかも話しちゃっていいよね?」





 微妙な顔でそう尋ねてきた。

 そう長考した訳ではないが、どうやら僕の思考は筒抜けだったらしい。

 特に問題ないので了承する。





「申し訳ありませんが、そのようにお願いします。……少し離れて見ています。彼女が野盗の類という可能性も一応ありますので警戒はしておいてください」


「あー……うん、わかった」






ー◆ー






 メスショタが事情聴取を行なっているあいだ、僕はやる事もなく樹に背を預けていた。

 討伐証を回収しようにも、ここで邪教徒たる僕がナイフで耳を切り取り始めようものなら、そこの人を無意味に警戒させそうである。



 暇なので、使い終わった剣とナイフの手入れをする。



 既に血糊は綺麗に拭いてある。

 鞄からボロ布を取り出し、水筒の水を少量使って水拭きをして、更に別の布で念入りに乾拭きをする。最後に油を塗って鞘に収めた。

 剣はそろそろ研いでおきたいが、流石に今はできない。暇を見つけて近日中に行う。



 血液には塩分が含まれている。放置すれば当然錆びるので、こうして定期的に手入れを行う必要がある。

 面倒だが一度錆びるとその後が大変なのだ。時間がなくても血糊だけは丁寧に拭き取らなければならない。少し考えればわかるが鞘まで使い物にならなくなる。

 油を差してあるのですぐに悪くなる事はないが、毎日使うものなので時折こうして面倒をみる。



 そして本当にやる事がなくなってしまった。



 鎖帷子(くさりかたびら)の手入れも出来るっちゃあ出来るが、ここでおもむろに脱ぎだす勇気は僕にはない。

 そもそも自分でやろうとするとマジで大変なので、いつもメスショタに魔法でやって貰っている。

 だって小さい鎖の集合体である。まず拭くのが死ぬほど手間な上に、毎日着てるので頻繁に手入れが必要なのだ。説明するまでもなく自明だが、汗には塩分が含まれるのでほっとくとすぐサビる。



 奴と再会するまで自分で手入れしていたので、結構錆びさせてしまった。謎の知識で簡単に錆を取ってくれた時は驚いた。

 最近は滅多に被弾していないが、いつかゴブリンさんの集団に手痛い目にあわされた経験があるのであまり脱ぐ気にはなれない。メスショタが簡単に手入れしてくれるし。



 ナイフ投げの練習も邪教徒的な理由からできないし、仕方がないので視姦をする事にする。



 未だに座り込んだ彼女は、膝を抱えてメスショタと会話をしていた。

 淫乱フレンズと同世代くらいだろうか。

 顔面の造形は異世界仕様だからというか、まあコーカソイドなので目鼻がぱっちりとした美人さんだ。もっさりした服装のせいで体型はよくわからない。

 軽くそばかすが浮いており、服装や髪型のせいか野暮ったさも感じるが、ギャルゲーだとこういうヒロインが一人くらい居るんじゃねーかな、とかそういう感じである。

 委員長系かオドオド系だろう。やや吊り目なので委員長か風紀委員かなあ。まあこのステレオタイプなイメージはもう既に少し古い気もするが。



 傍らには銀色のスライムさんがいらっしゃる。

 魔法由来ならメスショタいわく、魔力のパスを切れば消滅するらしいが、僕達に対してまだ警戒を解いていないという事だろうか。

 まあ当然だろう。この邪教徒スタイル密かに気に入っていたのだが。



 しかしスライムさんを操るとは、相当なスケベである事に疑いようはないだろう。

 よく見ればスケベそうな顔をしている。

 一見大人しい優等生が裏では援交しまくっているなんていうのは実にテンプレートでよく聞く話だ。ソースはAVと成人向け漫画である。



 そんな少女がこんな森の奥深くまでやってきて、スライムさんをお供に連れている時点でやる事は一つしかない。言うまでもないが触手プレイだ。

 いや、スライム姦なら下半身丸呑みからの挿入が一番興奮するな。透明じゃない所が個人的にポイント高い。



 パッと見社交性低そうだし、そういう溜め込むタイプの人は性癖も拗れるものだ。メスショタがいい例である。そんな彼女が出会ったのがモンスター姦なのだろう。

 とすると、竿役とも合意の上でのやり取りだったのでは? 間を割って入ったのはとんだ野暮だったのかもしれない。

 これは悪い事をした。今からでも謝るべきだろうか。



 しかしまあ、竿役には襲われていたようなのでやはりこれは無いか。

 そのようなイメージプレイだった可能性もあるが、テイムとかモンスター言語翻訳スキルとかない限りこれも違うだろう。

 しかしこの世界に来て、未だにスキル持ちとか出会った事ないな。そういう設定はないのだろうか。



 さっきから見てるんだが、テイムはあるのかもしれない。

 あのスライムさんはとても活きがいい。

 ファンタジーで言うところのいわゆるゴーレムの類なら基本的に直立不動だろう。

 融けたハンダのような銀色の流体が蠢いてモチモチと歩いている。かわいい。なんというか自由意志をお持ちのように思える。



 テイムの対価はやはり定番のバルトリン腺液だろうか。

 しかし待てよ。テイムがあるという事はまじゅう語アビリティもあるという事になる。

 マジかよ。FFTじゃん。

 これはテンションが上がってきたぞ。ブレイブ上げたりできるのかな。





「山田ー」





 僕が一人で盛り上がっているとメスショタが声を掛けてきた。

 聞き取りが終わったようである。






ー◆ー






 二人の下へ赴く。

 知らない人は怖いのでメスショタに視線を固定すると、女児おじさんがちっちゃいお口を開いた。





「この人はステラさん。王都にある学院の学生さんなんだって」





 おっと思いがけず新情報だ。

 この世界にも王政は存在するらしい。

 メスショタが誤訳した可能性もあるが、まあ普通に考えて文化文明の水準的に君主制である方が自然だとは思う。



 そういえばメスショタが居るのにその辺の知識全く仕入れてないな。

 細かい地名とかはともかく、簡単な地歴公民くらいは知ってないと色々まずい気がする。

 でも今更改めて聞くのなんか恥ずかしい。

 そもそも社会って科目が僕はあんまり好きじゃない。まあ後で気が向いた時においおい聞けばいいだろ。





「学生さんですか。……冒険者ではなく? こんな森の奥深くまでどのようなご用事が?」


「それがその……、山田を探してたらしいんだけど」


「…………僕をですか?」


「そう言ってる。何かの間違いかと思ったんだけど」





 困惑顔のメスショタ。既に疑問を投げたのだろう、彼女が探している人物とは僕で間違いないようだ。

 事情聴取はまだ途中のようだが、僕を呼ばないと話が進まないとメスショタは判断したのだろう。



 流れ的に僕が直接聞くしかないようである。

 やだなあ。






ー◆ー






「なるほど……。僕とランスさんの戦いを見ていらしたんですね」


『ええ。そうよ』





 腕を組んでそう言う知らない人。

 目の前の知らない人は、僕と知らない人ことランスさんとのチャンバラごっこを野次馬していた人だったらしい。



 最初は怯えを含んだ態度でかなり警戒されていたが、多少慣れたのかよくわからないが若干のふてぶてしさすら感じさせる。

 僕はぼんやりとした視界からそれを認識した。



 知らない人と話すときのコツは少し薄目にすることと、目の焦点を合わせない事だ。

 我々は目のピント調整を無意識に行っているが、眼筋は随意筋なので意識してズラすことは当然可能である。なるべく近くを見るのがコツだ。





『ていうかアナタとは一応初対面じゃないでしょ? まあ会釈しただけだけど』


「……って、そうなの?」


「いえ、心当たりがないのですが」





 なんの話だろう。普段からあんまり人の顔を見ていないのでわからない。

 そもそも僕単品を指定して初対面じゃないと言うのがおかしい。メスショタ挟まないとまともにコミュニケーション取れないのに。





『一昨日廊下で顔を合わせたでしょ。ほら、宿の水汲み場で』


「……ああ、なるほど。覚えがあります」





 いたなあそんな人。

 確かにしこくんだ。

 あれってどこのゆるキャラだったっけ。千葉?



 にしこくんの中の人ってこんな感じだったのか。足下しか見ていなかったので顔がわからないのは当然である。

 同じ宿に泊まっていた人だったらしい。





『昨日貴方達に声を掛けようと思って町中散々探したんだけど、宿に戻って店主に訊いたらもうとっくに出ていったって言うじゃない。慌てて追いかける羽目になったんだから』





 朝イチというか日の出前に出発したのでニアミスした模様。

 探しに行く前に店主さんに確認しない辺り、この人はコミュ障かうっかりさんの気がある。





「すると、お一人で野宿されたのですか?」


『そうよ。すぐ追いつくと思ったのに……』





 なんか勝手にぷりぷり怒っている。

 まあこういうキャラなのだろう。なんというか生きづらそうな性格だと思ったがお互い様なので何も言えない。



 この人が一人で野宿とか自殺行為そのものだと思うのだが、そこは仕掛けがある筈だ。

 やはりスライムさんは自律行動が取れるのだろう。野営のお供にもなる訳だ。

 あるいは他にも手札があるのかもしれない。



 それにしても、そもそも彼女がここまで僕達を追跡できた理由が謎だ。

 よしんば門番に尋ねてどっち方面に向かったか程度の情報は掴めるにしても、ここは既に森の奥深くである。川縁(かわべり)に沿って移動した訳でもないので、闇雲に探して見つけだせる確率は皆無に等しい。

 彼女がここにいる事自体、僕達が向かった方向はもちろん大まかな所在に関して把握できている証左である。



 足跡などの痕跡は遺さないよう気を使った筈だが、上手く辿られたのだろうか。

 風体はいかにも魔法使いで、そのような猟師めいた手管に長けているようには見えない。

 では魔法だろうか。



 先日飲み会で得た情報によると、探知魔法の有効範囲は熟練者でも30m程度らしい。あの場面で知らない人が適当な事を言うメリットはほぼ無いので、彼の経験値も踏まえてソースの信憑性は高いと見積もっていい。

 まあノブナガさんとピトーのような極端な例もあるが、この場合は常識的に判断すればいいだろう。

 出会った経緯を鑑みれば探知魔法の類ではなく別の方法であると考えた方が妥当だ。

 例えば魔力の残滓を辿るような未知の魔法があるのかもしれない。



 つらつらと適当に思考を並べつつ、警戒レベルを引き上げるべきかどうか迷った。

 色々と得体が知れないのは確かだが、当人の立ち振る舞いは年相応に見える。先程も普通に追い込まれていたように見えた。





『……なによ。何か言いたい事でもあるの?』




 なんか居心地悪そうにモジモジし始めた。

 僕は数秒黙っていただけである。





「いえ、お若いのにとても洗練された魔法をお使いになるのだなと思いまして。いささか驚いてしまいました」


『……そう? 貴方の方がよっぽど凄いと思うけど』


「そんな事はありません。何かの魔法で僕達の居場所を突き止めたのでしょう? そのような方法は寡聞にして存じません。どこか御高明な方に教えを受けたのですか?」





 同時通訳が進行するに従って、にしこくんの顔面筋がピクピクし始めた。





『ま、まあ? で、でもこれは殆ど私の研究だから……』


「それはますます凄いですね。ええとその、学院で研究なさった成果という事でしょうか?」


『ええ。一定の成績を修めれば貴重な魔術書の閲覧が許されるようになるの。この子もそれを参考にして私が造ったのよ』


「なるほど。では僕達を追跡できた仕掛けももしかしてその彼ですか?」


『よ、よくわかったわね』


「少し動きを拝見させて頂きましたが彼はとても優秀ですね。極めればステラさんは冒険者としても大成できるのではないのでしょうか。……彼はどのようにして僕達を見つけたのですか?」


『そそそそれはね……』





 これはなんというか、警戒し過ぎただけなのかもしれない。



 思い返すと先程も僕達が助けに入らなかったらわくわく輪姦学校が始まっていた筈だ。

 学力はともかく計画性とか含めて、なんというか彼女はちょっとアホなのだろう。そういう人はいる。



 まあ気を取り直して聞き取りを続けよう。

 僕も異世界に来ておよそ四ヶ月、メスショタと再会して他者と交流を持つようになってからほんの二十日程度しか経っていない。

 知らない事なんていくらでもあるのだ。

 これは情報を得るいい機会である。






ー◆ー






 色々聞き出せそうな予感がしたが、あまりにも親御さんに申し訳なくて早々に切り上げた。



 相手が中学生か高校生程度なので犯罪臭が凄くて、僕のグラスハートではとてもではないが耐えられない。

 僕って当時、初対面の相手にこんなペラペラ個人情報垂れ流しちゃうくらい頭がゆるゆるだっただろうか。

 冷や汗で背中がとてもしっとりしている。胃がキリキリ鳴いてとても痛い。吐きそう。





「話を戻しますが、僕に何か御用ですか?」





 直前まで機嫌よくインフォーマルな情報を晒していた表情が、僕の言葉で一変して固くなった。



 きっと言いにくい話なのだろう。ライフワークであるモンスター姦の話でもカミングアウトするつもりだろうか。

 興奮しないと言えばそれは嘘になるが、だからといってそれを僕に相談されても困る。

 歪んだ性癖同士、メスショタにでも話せばいいと思うのだが。お互い変態だしきっと盛り上がるだろう。僕を巻き込まないでほしい。



 ていうかさっきからメスショタが通訳に徹して会話に加わってこない。

 そろそろ代わってくれないだろうか。もうおなか痛い。





『あの、えっと。わ、わ、わ、わ私と冒険してくれない?』


「……………………」





 おなか痛い。吐きそう。

 未成年連れ回すとか犯罪者じゃんね。

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