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山田と佐藤  作者: うんち
2章
23/23

23話 肉便器

ー◆不審者視点◆ー





 面識のない十代女子から一緒に冒険しない?と誘われた。

 彼女の名はにしこくん。本人はステラと名乗っている。

 真っ先に浮かんだのは美人局(つつもたせ)だったが、この場合額面通りに受け取ればいいだろう。

 MMOでいうところのパーティだかグループだかの申請である。



 知らない人と四六時中一緒に過ごすとか、淫乱フレンズで死ぬほど懲りてるわ。

 あの件はメスショタがお世話になっていたのでイヤイヤ請け負ったが、今回はそうする理由もない。

 MMO的に考えてもメスショタと役割が被っている。





「申し訳ないですがお断りさせて頂きます」





 脊髄反射でぶった切ったのだが、メスショタの同時通訳が聞こえてこない。

 横を見ると、奴は顎に手を当てて思案顔をしていた。



 嫌な予感がする。

 やめてよ。

 断ろうよ。





『ステラさん。この辺のモンスターについてどの程度知っていますか?』


『えっ? え、えっと、一応下調べはしてきてるわよ? ほら……』





 何やら2人でのお話が始まってしまった。



 にしこくんが鞄から紙束を取り出しているのを見て、僕はこの世界にも植物製の紙がある事を知ったがそんな事は置いといて、言語翻訳スキルが実装されていない僕は会話に加われず置いてけぼりである。

 なんなんだよ。






ー◆ー






 蚊帳の外にされた為、僕は不貞腐れて少し離れた木陰で三角座りをしていた。

 腕の中のスライムさんだけが僕の癒しである。大人しくてかわいい。ひんやりとしている。



 にしこくんから聞き出した話によれば、なんでもこのスライムさんには彼女の愛犬の魂が実装されているそうだ。

 名前はジョンさんというらしい。

 老衰でほぼ逝きかけていたところを、一縷の望みを賭けて実験の材料にしたとか。



 僕は魂の存在を信じていない。

 魂とかいかにも知性優位の思想から湧いた概念じゃん。この世界ってそんな生き物に優しくないだろ。

 基本的に弱肉強食だし、戦争やら疫病やら天変地異やら頻繁に起こる無常世界である。現代のように死人が減っても人間関係やら経済格差で結局苦しみが絶えないし。

 でも異世界が実在してたので、前世とか憑依とかも普通にあり得るのかもしれない。

 まあどっちでもいいというか、どうでもいいな。どうせ観測できないなら考えても仕方のない話だ。



 魂の有無はともかく、イヌの神経網をスライムに転写したという方が個人的にはしっくりくる。

 まあセンシティブな話題なのであまり追求する気はないが。僕はもれなく動物の話題に弱い。



 しかし五感の再現とかどうやってるんだろうな。

 なんでも僕達を追跡できたのはジョンさんが匂いを辿ったかららしい。

 パッと見触覚はともかく視覚すら無いように見えるんだが、どの辺が感覚器にあたるんだろう。

 全身粘膜って考えたら嗅覚があってもおかしくないのかな。しかしこうして触るとツルツルとしていて湿り気は感じられない。



 なぜか眼球とか口のある、よくあるコミカルなタイプのスライムではなく、リアル寄りのドロドロした感じに近い。

 見た目はアレだが触った感じは弾力があるのにメタリックというか、とりあえず生理的嫌悪感はない。むしろ愛嬌がある。



 脳や内臓はどうなっているのだろう。

 詳しくは知らないが、クラゲのように脳の無い神経だけの原始的な生物の可能性もある。

 だとしたら単純な思考すらできない。長期記憶する海馬どころかワーキングメモリすらない。脊髄反射的な行動しか取れない。昆虫以下である。



 試しに手のひらを出すと、触手を伸ばしてそこにポンと置いてくれた。

 かしこい。お利口さんだなあ。



 一匹くらいウチにも欲しいな。



 作ってくれないかな。

 魂は知らんけど、記憶というデータを取り扱えると考えたら、コピーとかも割と簡単にできそうじゃんね。

 しかし記憶のデータ化とは、テクノロジー的にとてもオーバーしてる事は間違いない。中世の世界観でやっていい事じゃない。

 やはり魂の存在を認めた方がまだしっくりくるかもしれない。



 でも魂、魂ねえ。

 魂があると仮定して、脳や記憶とはまるで関係ない訳じゃん。

 思考や記憶をするのはあくまで脳だ。データの保持はRAM形式で行われるので電源が落ちると揮発する。

 死ねば消えるのだ。当たり前の道理である。そこに魂なる存在は関わっていない。



 うーんでも、失われた情報も魂のどっかに保持されてるとか、なんかそういう都合がいい風に解釈すればいいのかね。

 前世の記憶が引き継がれないのはアクセスできない領域に保存されてるとかそういう。

 今まで輪廻転生してきた記録も全部保持されてんだよきっと。火の鳥だよ火の鳥。

 量子もつれとかいう意味わからん現象もあるし、我々が観測できないだけで情報がどっかに伝達保存されてるという可能性はまあ一応否定はできない。

 でもデータの量とか凄い事になりそう。どういう形式で保存されてんの? 現実に無限とか持ち出されるとグラハム数とかふぃっしゅ数思い出して怖くなるんだけど。

 いやまあ実際は有限だし、宇宙全体の粒子の量とかと比べればそこまでデータ量がかさむ事はないのかな。

 でも結局データはどこに保存されてるんだろ。

 ……えーとパラレルワールドとか多層空間とか持ち出さなければ、例えばミクロスケールで振動にコード変換されてると考えればどうだろう。粒子一個に魂は宿ってるんだよみたいな。スケール的にはほぼ実体がないようなもんだし適当に考えた割にはなんかそれっぽい気がする。

 脳味噌……というかシナプスに書き込まれる記憶はバイナリデータ、つまり0と1の二進数という形式で保存されているらしい。つまり記憶はデジタルな情報として扱う事ができる訳だ。

 振動、つまり波はデジタルデータにも変換できるし色々と都合がいい。レコードやCDだってそうだし、記憶媒体の基本だよな。

 めちゃくちゃな波形になりそうだし色々都合良過ぎて色々とアレだが、振動は多次元空間に折り畳まれてるとか言っとけば何とかなるだろう。なんかほら、十二次元上とか。超ひも理論的な。

 これなら一応エネルギーの総量に変化はないと言い張れるぞ。なんでそんな振動になるのか全然説明になってないが、そこは量子ねじれみたいなもんが働いてるとか言っとけば何とかなる筈だ。

 ……あれ、でも超ひも理論って弦の振動で素粒子の性質が決まるとか、確かそんな感じじゃ……。そもそも脳全部のデータが粒子一個に全部書き込まれてんの? まあセーブする時の周波数がめちゃくちゃ早ければいけるのかな。ていうかそもそも無理があるなこの考え。……あれ、これって虫とかならともかく植物だった場合は? 植物には神経が無い。つまり脳も無い。神経の有無で考えちゃ駄目なんじゃないの? まあ植物も身を守る為に毒出したりするし、僕達とはスケール観違うだけで自我はあるのかも。神経うんぬんも所詮現生人類の定義だし、クオリアは今のところ外側からは観測できないもんね。ん? なら菌は? 演算する素子が物理的に足んないだろ。意識もクソも無いな。菌と言えばウイルスってそもそも生物だっけ。確か生命のバグ扱いだったよな。生命の定義って要するに交……。



 いやいや。やめようこの考え。

 訳わからん。頭おかしくなる。



 えーと魂は置いといて、そもそもイヌの記憶を別の生き物に移すのに無理があると思うんだが。

 思考するのもまた脳だ。まず単純に容量が違う。イヌのデータを昆虫に突っ込んでもちっぽけな脳と神経節じゃうまくいかないと思う。

 よく知らないけどデータの形式も違うと思うしクオリアの問題とかもあるし。



 まあ実現できてる時点で、イヌの脳や五感、運動機能みたいな演算装置や入出力装置を再現できているんだろう。よくわからないが。

 互換性はなさそうだが、謎のブラックボックスでいい感じにエンコードしてると考えるとまあしっくりくる。

 まあ異世界だもんな。アイテムボックスとかよりはなんぼか受け入れやすい。



 スライムさんを下ろし、木の枝を拾って投げると彼はダッと追いかけていった。非常に遅い。



 よくあるピョンピョン跳ねるやつではなくカタツムリのように這うような移動法だ。かわいい。

 しばらく見守っていると、諦めたのか最終的に触手をヒョロヒョロと伸ばして拾った。初期位置からほとんど進んでいない。

 なんだこれは。



 不定形生物ならイヌ型にフォームチェンジとかできないのだろうか。寄生獣ムーブできるならクッソ速いと思うのだが。



 とかなんとかやっているうちに籠が完成。そこら辺に生えていた蔓とかを編んで作った。

 ハンドクラフトに一家言のあるメスショタのアドバイスを取り入れて、初期と違って端っこの処理もちゃんとしてある。飛び出した末端は籠のフチに編み込んでしまえばいいのだ。

 時短で作ったわりにそこそこクオリティ高いと思う。



 鞄から出した大きめのハンカチを敷き、スライムさんを中に入れてみた。

 うむ、しっくりくる。あるべき場所にあるようだ。



 御本尊様を腕に抱えて再び三角座りしていると、ガサガサという音と共に2人が近付いてきた。

 お話が終わったようである。



 メスショタが呆れた表情で僕を見ている。

 羨ましいのかな。

 僕の御本尊様だぞ。






ー◆ー






 何故か困惑しているにしこくんに御本尊様を預けてメスショタと面談する。

 コイツはどういうつもりなんだろう。勘弁してくれないだろうか。





「佐藤さん。彼女の提案を受け入れるのですか?」


「まあ山田が嫌がるのはわかってるけど……話を聞く前から断るのはどうなの」





 メスショタは苦笑気味に呆れている。





「とりあえず、ずっと一緒に旅をしたいとかじゃないみたいだから。少し先に行ったところで依頼をこなして解散って感じになるのかな。移動日数だけで見積もれば最短で一週間かそこらだと思う」


「ああ……はい、なるほど」





 期限付きか。まあそりゃそうか。

 通訳の文言からして、一生一緒にいてくれや宣言に受け取っても仕方ないと思う。

 脊髄反射で断ろうとした僕は悪くない。



 一週間。それでも長い。つらい未来が見える。





「ソニアちゃん達のときみたいに変なイメージ持たれなきゃ大丈夫だと思うんだけど」


「それはまあ、はい。そうですね」





 あの二人はなんていうか僕を崇拝してた感じだったので本当に居た堪れなかった。

 適度に距離を取ってくれたらまあ、それなりにやりやすいと思う。





「話を受けるメリットなんだけど、まず彼女はこの辺のモンスターの資料を持ってる。だから引き返す必要もなくなる。次に依頼をこなせば当然報酬に貰える。詳しくは後で説明するけど、ギルド経由の依頼でそれなりにまとまった額が貰えるみたいなんだよね」





 ふむ。どちらもそれなりに魅力的な提案である。

 特に前者はいい。万が一でも知らない人にエンカウントする可能性は下げたいところだ。



 匂い消ししてもスライムさんに通用しなかったという理由もある。

 恐らくにしこくんがかなり根気よく探した結果なんだと思うが。一度匂いを消しても時間経過で体臭は復活するので、移動ルートを予想しつつ1人ローラー作戦で円を描くように探せば匂いを辿れない事もない。

 そこまで労力を掛けるかどうかは置いといて、ビースターズの主人公も似たような事は出来ると考えた方がいいだろう。万が一もあるのであんまり近寄りたくはない。





「最後にこれが一番重要っていうか山田と相談したい事なんだけど、ある程度私達の正体を明かして、色々教えて貰えばいいと思うんだよね。特に常識とか魔法の事とか」


「それは……」





 考えてもみなかった。

 僕からは絶対に出ない発想だ。





「彼女は新米らしいけど一応冒険者でもあるし、魔法に関しては学生だけど専門家でしょ。私達の相談相手としてはうってつけだと思うの。それに苦学生みたいだし、なら権力者側でもないでしょ。万が一にもアランさんのときみたいなことにはならないはずだし」





 指折りに条件を挙げていく。

 これは……、奴なりに相当真面目に案を練ってるな。

 やめてほしい。





「私達の間にあるのは単純な利害関係だけだし。ほら、後腐れないじゃない?」





 まずいぞ。

 このままでは反論できずに言いくるめられてしまう。



 昨日までの騒ぎで精神的にとても疲れているのだ。

 僕は切実に休息を求めている。

 道中で適当に水場を確保しながらダラダラ十日か二十日くらい森でのんびり過ごす脳内プランだったのだ。



 正直人里に行くのも御免である。最低限でいい。

 僕に健全な対人関係を構築するというのが土台無理だったのだ。異世界に来て痛感したね。現代でも必死こいて頑張ったけど無理よりの無理だったもん。

 僕は生きるのに向いていない。追加メンバー加入の前にうまいこと死ねないだろうか。



 もう一生人と関らずに過ごしたい。できればスマホや本が欲しいが、人付き合いを避けられるなら無くても構わない。

 幸い山男してれば一定の生活が送れる事は証明されている。

 お金だって稼げる。メスショタが居れば人との交易だって問題ない。

 異世界来たのに言語スキル貰えなかったんだから不可抗力じゃんね。

 神様が全部悪い。僕は悪くない。

 悪いと思ってるなら早く隕石を落としてくれ。





「どう……かな……?」





 幼女おじさんがこちらの機嫌を窺うように見上げてくる。

 よほど僕の顔面が悲壮感に溢れてるのだろう。眉間にシワが寄っているのが自分でもわかる。



 わかっている。わかっているのだ。

 つい先日メスショタに説教をかましたのは他ならぬ僕自身だ。



 このままでは不味い。行く先々で問題を起こしてしまう。早急に常識や立ち振る舞い方を身に付ける必要がある。

 メスショタは正しいのだ。ただ心情的にとてもヤダというだけである。

 僕をこの作戦から外してほしい。君ならきっと1人でも大丈夫だと思う。





「佐藤さん……」


「な、なに?」


「疲れたんです…………!!」





 僕の大胆な告白にメスショタがやや動揺している。

 ちょっとスッキリした。



 まあいい。切り替えていこう。

 おおむね奴の言う通りでいいと思うが、詳細を共有してプランを詰めたい。





「えっ、え、えっとあの……。わ、わかったうん。無理だよねごめん。あ、諦め」


「いえ、依頼の具体的な内容を教えてください」


「え……」





 口をぽっかり開けて呆けた表情をしている。

 幼女然としてとても知性があるようには見えないが、コイツ僕より遥かに頭いいんだよな。





「えっと、さっきのは何なん?」


「いえ、愚痴ぐらい吐きたいじゃないですか」


「そう……」






ー◆ー






 詳しい話を聞いて、色々悩んだが最終的には了承した。

 僕の個人的な感情を棚に上げれば是非もない話だ。



 経験上こういう場合の判断は僕よりメスショタの方が正しい。というか断れない。正論でへし折られる。

 僕の場合こうやって引っ張られるか流されるかしないと延々と一人で過ごす事になる。普段はそれで構わないが、たまにこうやって困るから人生ってほんとクソだよな。

 非常に嫌だがメスショタに従うのは僕にとっていつもの流れだ。



 その後、色々と話を詰めていった。

 にしこくんを待たせている関係上急ぐ事を強いられた。いや別に急かされてる訳でもなんでもないのだが、人を待たせているという状況が非常に落ち着かない。



 とりあえず僕達の設定だが、(この世界の人達から見て)異世界からやってきた、と言っても突飛すぎるのでそこは伏せる事にした。

 情報が少な過ぎてどこに地雷が埋まってるかさっぱりわからない。このカードは慎重に切りたい。



 僕達が常識を知らないカッペなのは、海を渡ったどっかの国の異人という設定でゴリ押しする。

 幸いというか、僕は見た目も中身もキモいモンゴロイドなので説得力があるだろう。メスショタはなんか昔から近所に住んでた人である。

 あまり露骨な嘘を混ぜすぎると設定が破綻しやすいのでそこは真実を流用する。



 異人設定をゴリ押しすれば無詠唱とかの設定もなんとかなるだろう。地元じゃこれが普通だとか言外に匂わせとけばいい。

 色々とガバガバだが、詰め込みすぎてもやっぱり破綻しやすいのでこれくらい適当で丁度いいと思う。



 一応僕の魔法使えない設定も正直に話していいと決めた。

 ただ別に現状困っていないので、方針を決めただけで積極的に話すつもりもない。必要があれば答えればいいだろう。






ー◆ー






 話が済み了承の意を伝える段になって、メスショタがなんかニッコニコしている事に気付いた。

 平静を装っているようだが口角が上がっている。歩幅や腕の振り幅も妙に長いし、なぜかテンション上がっているようだ。



 なんだろう。特に喜ぶ要素は無いはずだ。

 無事に僕を説得できた事は喜ぶところなのだろうが、そこは嬉しいというよりホッとするところだろう。



 そもそもここまでの流れからして疑問がある。

 コイツは魔法陣の偽装だって嫌々やっていた。



 もともと多趣味かつ凝り性で、低コスト高クオリティを突き詰めて仕上げるのが生き甲斐のような男である。

 女装コスを自撮りしてはSNSに晒すという生産性の無い行為を嬉々として行っていた変態だが、版権物のコスチュームなんて普通売ってないので基本的に奴の自作である。趣味が高じて3Dモデリングにまで手を出していた剛の者だ。

 料理やお菓子も自作して晒しては謎の女子力アピールに余念が無かったし、その辺の能力が今日日(きょうび)の食事やら何やらに活かされているのは間違いないと言える。



 その奴が仕上げた魔方陣が白ペンキのパチモンである。これはもう完全にやる気がないのだ。



 そりゃあ何とかしなきゃとは思ってるだろうが、たぶんコイツの中では夏休みの宿題みたいなもので、率先して片付けたい類のもんじゃないんだと思う。

 今回の件に関してコイツが積極的に動くのは、経緯を顧みると少々違和感があるのだ。

 これは何か別の理由があるぞ。



 なんだろう。……ああなるほど。



 少し考えて察した。

 さてはコイツ、異世界で初めて仲間ができたというシチュエーションに浮かれているな。

 厳密に言えば女性の仲間だ。



 異世界に転移して少し歩くと高確率でオナホが落ちているのは、テンプレを通り越して使い古されて擦り切れたパターンである。

 もはや王道というか、金太郎飴のように定型化されてしまった様式美だ。樹に()った林檎が地に落ちるが如く異世界ではオナホが生えている。

 厨二野郎としては喜ぶべきシチュなのかもしれない。喜べない僕の方がおかしいのだろう。



 しかしコイツには淫乱フレンズがいた筈だが。コイツにとってフレンズは女友達であってオナホではないという事か? よくわからない。

 しかし単純に仲間が増えたというだけでこうは喜ばないだろう。チンピラやドルオタに対する反応を見る限り、基本的に野郎はお断りの筈だ。自分が性対象にされるもんな。

 そういう意味ではビースターズの主人公でも良かったのかもしれないが、やはりオナホには敵うまい。オナホは異世界主人公の必需品だ。テンションが上がるのも頷けるというものだ。



 しかしコイツ、どういうスタンスでいくつもりなんだろうな。






ー◆メスショタ視点◆ー






「佐藤さん。性別の設定はどうするんですか? 今は女性と認識されていると思いますが」





 コミュ障の一言で浮き足立った気分が一転した。



 そういえばそうだった。

 私はパッと見超絶美少女なので、性別も当然美少女だと思われる。



 せっかく肉便器が仲間になったのに、これではコミュ障のハーレムパーティではないか。



 別に便器にする予定も度胸もないが、しかし異世界では三種の神器のようにチートと便器が各御家庭に標準配備されるものだ。残る神器はザマァ展開のためのザマァ役だが、これはカタルシスありきというか一度不幸になるのが前提なのでマジでいらない。

 とにかく、ようやく念願の肉便器が仲間になった。これでテンションが上がらない方がおかしいというものである。



 ……まあでも、唐突に性別をカミングアウトするのもおかしい気がするし、なんかこっちが意識してるみたいになるじゃん。言っても言わなくてもどっちでもいいんじゃないかな。言うにしてもタイミングというものがある。

 どちらかと言えば女と思われてた方がラッキードスケベ的な展開が待っている気もする。巡り巡って逆レイプされる未来がなくもない。



 よし、ここはどっちでも取れるスタンスでいこう。

 別に女だと明言した訳ではないし、相手が勝手に勘違いしてるだけなので私に責任は無い。



 これで野郎がコミュ障じゃなかったら業腹にも程があるが、コミュ障はコミュ障なのでハーレムが成立しない。

 コイツがもう少し前向きな性格だったら色々と人生違っただろうが、奴は自分で自分を追い込むことにかけては他の追随を許さないマゾの修行僧か何かだ。ほっとくと勝手に不幸せになる。

 なので寝てる隙に交尾される心配もない。私も安心して姫プレイに邁進できるってもんよ。



 思考から抜けて顔を上げると、コミュ障は律儀に私の返答を待っていた。





「いきなり男だっていうのも変だし、とりあえずこのままでいいんじゃない?」


「……………………なるほど、わかりました」





 随分沈黙が長かったな。

 何か言いたい事でもあるのか?



 そうだよビビってるよ。

 悪いか? メスとして接する方が安牌なんだよ。

 でもちょっとくらい甘酸っぱい思いしたいとかそういうのあるだろ。



 まあいい。

 多少気分に水を差されたが無事に話もまとまった。

 こんな若くて綺麗なチャンネーとパーティ組めるなんてワクワクするぜ。これぞ異世界に来た醍醐味ってやつだ。

 何を血迷ったのか今まで姫プレイしかしてこなかったからな。



 これでコミュ障も少しは人慣れしてくれればいいと思う。高校時代頑張って上げたコミュ力が、ここに来て戦闘力と引き換えに大幅下方修正されてしまった。野山で野生化した弊害だろう。

 これを機に日常会話くらいはできるように鍛えてやろう。目標は初めてのおつかいである。



 私が脳内で教育計画を練っていると、コミュ障が再び口を開いた。





「佐藤さん、承知しているかもしれませんが距離感にだけは注意してください。ステラさんは恐らく奥の手のようなものを持っていると思います」





 私は何も承知していない。

 とりあえず脳死状態でオウム返ししてみた。





「奥の手?」


「はい。面識の無い冒険者達に女性一人で近付いたのですから、自衛する何らかの手段があると考えるべきです」


「それってあのスライムじゃなくて?」


「僕達に知られたら裏を掛けなくなりますから、それがスライムであってもまだ見せていない手でしょうね」


「んー……?」


「まだ冒険者としては拙いようですし、色々口を滑らせてもいましたが、いずれも経験不足や焦燥感からくるものでしょう。彼女は頭が良いです。僕達に接近する際のリスクはきちんと見積もっていて、その対策を立てていると思います」





 私は腕を組んで唸った。

 失礼だがそのような用意周到な感じのイメージは全く浮かばない。



 しかしコミュ障が断定口調で言うのだから何かしらあるのだろう。

 注意はしておくべきだ。





「…………」





 距離感に注意しろってどういう意図で言ったんだろうな。興奮し過ぎて下半身で失敗するなとかそういう意味だろうか。

 コイツに内心見透かされるのはもう今更だが、なんか妙に恥ずかしいぜ。






ー◆ー





 我が家の肉便器こと錬金術師のステラさんは、なんでも単位を取るだかのために冒険者をしているそうだ。そのために決められた基準の依頼をこなす必要があるのだそう。

 本人は純粋な研究員志望らしいのだが、学徒にも戦闘力が求められるのだろうか。世紀末だぜ。



 仲間を募るのは許されるのかと聞くとそこは大丈夫らしい。交渉能力も含めて試されてるとかなんとか。

 いかにも戦闘力だけでなく問題解決能力を問うている御立派な御題目に聞こえるが、そこはかとない闇を感じる。

 だって金持ちめっちゃ有利じゃん。そのように思って突っ込むとめちゃくちゃキレ始めた。





『連中は甘えてんのよ!! 親のコネばっか頼って、自分の道は自分の手で切り開くもんでしょ! だから私に勝てない癖に、努力不足を棚に上げて他人の揚げ足取りしかできない連中よ!! こんなの苦労でもなんでもないんだから!!』


『そ、そうですよ』


「流石ですね」





 まあ普通に貧乏人なんだろう。

 悲しいなあ。



 高難易度のクエストを前に、仲間を集めようにも冒険者として新米の彼女にはロクな伝手も無い。まあたぶん金もコネも無い。

 途方に暮れていたところでコミュ障の戦闘シーンを見ただとか。

 同じ宿に泊まっていたという事もあって声を掛けてみようと思い立ったらしい。そしたら一足遅く、匂いを頼りにここまで追いかけてきたと。



 私はコミュ障にそのような説明をした。

 最終的には承諾したが、奴は基本的にどうしようもない人間不信である。



 コミュ障は肉便器ことステラさんが野盗の類である可能性もまだ捨てていないらしい。

 確かに私達はそれなりに大金を持っているが、それを稼いだのは2つも前の町である。

 依頼達成した直後に道が封鎖されたので情報が伝わってるとも思えないし、単なる物取りが私達を狙ってわざわざ追いかけてくるとは考えにくい。



 そのように反論したところ、偶然が重なって適当に嘘をでっちあげただけの可能性もあります、息をするように虚言を吐いて物を盗む人間もいるんですとか返された。

 そうでなくても全て本当のことを言っているとは限らないとか、別の狙いがあるかもとかなんとか。

 挙げ句の果てにヤリチンの手先説まで出してきた。



 言ってることはわかるがちょっと穿ちすぎなんじゃないか。

 だからコイツ社会で生きづらいんだろうか。そこまで疑ってかかると身動き取れなくなるだろ。



 今のコイツは明らかに精神を病んでるしなあ。

 常時見えてる幻覚のせいか知らんがいつも目がなんかキマってるし、早めに言葉を仕込まんとマジで危ない気がする。

 ほっといたら一生山に篭りそう。中途半端に自給自足で生きていけるのが逆にまずい。



 根っこは昔と変わってないが環境が大きく変わったのだ。大きく足を引っ張ってるのはほとんど言葉の壁だと思う。今までは小手先でなんとか誤魔化せてはいた。その小手先のコミュニケーションが奴にとって全てだったのだと思う。

 便器の加入もコミュ障的にギリギリだと思うし、これ以上追い詰めたら本格的に壊れるかもしれない。



 まあ奴は若干病んでる人間不信の不審者だが、よく周囲を観察していて私よりはるかに頭が回るので、奴の言うことは基本的に間違いがない。

 一応私も気をつけよう。



 ぶっちゃけコミュ障がいれば何が起きても大丈夫だろうという打算もある。

 この世界の推定強者であるクソ野郎の猛攻を身体能力だけで凌いだ実績の持ち主だ。

 コイツには奇襲も通じない。夜間のトラブルにも対応した完璧な自宅警備員である。



 さて、幸い進路は変わらない。

 というか戻るようならたぶん話を受けていない。私達はヤリチンのテリトリーから少しでも離れなければならないのだ。今もコミュ障を探して徘徊してるのかと思うとマジでゾッとする。

 オーク騒ぎで山道が封鎖されてる今のうちに足取りを眩ませたい。例え生ハメのチャンスが転がってても私は安全策を選ぶぜ。



 目指すは北東だ。

 王都に向けて前進である。






ー◆ー






 とか言いつつ王都には入らないが。

 ヤリチンがやんごとなき立場だったり王都に居を構える一族だった場合、私達がレミングの自殺めいた感じで自動的に死ぬからである。

 目的地がなんとなく王都に向いているというだけだ。



 まあ出発する前に戦後処理をしなければならない。まずは倒したレイプ犬の討伐証を取り毛皮を剥がす。

 肉便器に指摘されるまですっかり失念していたのだが、モンスターの皮は金になるのだ。

 今までメインターゲットにしていたゴブリンやオークの皮は需要がなくて全て捨ていたので全く使わない知識だった。



 しかも耳が討伐証にならないかもしれないと指摘された。

 このヤリチンレイプ犬の場合、四本の犬歯が一匹分の討伐証として見なされるらしい。彼女から借りた資料を見ると確かにそう書いてある。

 よくわからないが、例えば毛皮に需要があると考えると腑に落ちる。虎だって全身の毛皮を剥いで剥製を作る。そこで耳を落としたら価値は落ちるだろう。とにかく私が知っていたのは半端な知識だった訳だ。色々とガッカリである。



 気を取り直してムカデの討伐部位も調べる。

 いい加減奴の首飾りがうっとうしい。何故か渋るコミュ障にクソデカい顎をもぎ取らせて首飾りを捨てさせた。気に入ってんじゃねえよ。



 ヤリチンレイプ犬の毛皮を剥ぐのには少々の時間を要した。

 流石にコミュ障はかなり手早い。腕力もそうだが捌いてきた数がそもそも違う。奴は三ヶ月も山籠りして生きていくためにひたすら肉を捌いてた男である。

 私もたまに練習しているが全然だ。最近はもうコミュ障に任せればいいやと思ってほとんど手を出していない。



 肉便器は毛皮を剥いだ経験がないらしく、ややテンション高めに教えて欲しそうな目をしてきた。

 面倒くさいので私は通訳に徹してコミュ障に指導を任せた。適材適所である。コミュ障が目で何かを訴えてきたが、私はコナン君ばりのムカつく態度でよくわからないフリをして流した。

 どうせ何週間か一緒に過ごすんだから今から頑張ってくれ。というかいい加減言葉を覚えようとする姿勢だけでも見せてほしい。



 魔法で身体を綺麗に洗い、死体を燃やしたら多分やり残したことはない。火の始末もちゃんとした。

 今度こそ出発である。






ー◆ー






「真北ってあっち?」


「ええ、しばらく進めば左手に山が見えてくるんでしたっけ?」


「そうそう」





 大体の経路はわかっているので、森の中を突っ切って進む。

 コミュ障は日の傾きから大体の方角が読めるし、私も地図は頭に入っているので方角さえわかれば迷わない。ときどきその辺を擦り合わせながら歩いていく。

 歩き始めてしばらく、背後で歩く暫定肉便器がなにやら騒ぎ始めた。





『あっあっ、アナタ達道に迷ったんじゃないの?』


『? ……ああ、大丈夫ですよ。ちゃんと方角を見て進んでますから』





 一瞬何のことかと思ったがすぐにわかった。

 まあ彼女がそう思うのも無理はないと思う。



 彼女は方位磁石と地図を持っていた。

 舗装された街道を目指していると思ったのだろうが、そこから方向が外れているとわかったのだろう。

 まあ普通は街道沿いを進む。



 最初に旅程を相談しないのも不味かった。

 私達が地図も見ずに自信満々に歩き出したので、不安に思いながらも律儀についてきたのだろうか。

 悪いことをしてしまった。逆の立場だったら内心めちゃくちゃキレてると思う。





『あの、ステラさん。朝食は食べましたか?』


『え? あ、た、食べてないけど』





 ちょうど私達も食べていない。

 昼ごはんには少々早いが、一度腰を据えて話し合った方がいいだろう。






ー◆ー






 唐突に食事の準備を始める私達を見て、我が家の肉便器はかなり面食らっていた。





『こ、こ、こんな所で煮炊きを始めたらモンスターが寄ってくるわ!』


『大丈夫ですよ。ずっとこうしてましたから』





 教科書的な理由から問い詰めてきたので反論を述べておく。俗に言う経験者マウントである。

 冒険初心者の彼女はそれで黙った。私も三ヶ月しか冒険者してないので詐欺みたいなことをしている。野営に関してはひと月しか経験がない。しかも炊事洗濯以外はほぼコミュ障任せである。



 私も便器と同じようなことを教わったが、野営で焚き火を起こす時点で似たような状況は起こっている。



 傭兵のお犬様やおしゃべりゴミカスクソ野郎も似たような経験があったようで、盗賊を捕まえるために少人数で行動した際に野外で炊事を行ったそうだ。

 携帯食糧はあるが温かいものが食べたかったらしい。罠を仕掛けて捕まえた獣をその場で捌き、野草を摘んで鍋にしたというエピソードを飲み会で聞いた。

 傭兵には珍しいことではないそうだ。冒険者も同じだと思う。



 要は心構えができているかどうかだろう。

 私にそんなものは当然できていないが、我が家には最強の自宅警備員がいるので強気発言もペラペラ出せる。

 こういうのは堂々と言った奴の勝ちだ。





『…………』





 炊事に手を動かしつつ、ソワソワと立っている便器の身なりをチラチラと横目でチェックする。

 背負っていたリュックサックはそこまで大きくもない。アイテムボックスの類は持っているのだろうか。



 何の相談もなく目的地に向かってしまったが、よくよく考えたら彼女にも都合や予定があるだろう。

 買いたい物があれば一度町へ引き返さねばならない。

 便器は貧乏人っぽいし、私達は物資が潤沢にあるので食糧に関しては融通するつもり満々だったが、その辺りも擦り合わせておかなければならないだろう。



 コミュ障と2人で簡単に竈を組んだら、奴に薪と椅子代わりの岩を人数分集めてもらい、その間に私が調理の準備を行う。



 レジャーシートを広げ、そこにアイテムボックスから取り出した調理器具や食材を並べていると、暫定肉便器は未だに所在なさげに突っ立っていた。やることがないのだろう。

 こちらの作業を見ながら、時折居心地悪そうにキョロキョロと周囲を警戒している。



 コミュ障が人数分岩を運んできたので、毛皮を敷いてそこに座って貰う。

 奴にはそのまま薪と野草の調達をお願いした。





『ステラさん、調理の経験はありますか?』


『な、ないわ……』


『ではいい機会ですから覚えてみませんか? 見ているだけでも違いますから』





 肉便器はおずおずと頷いた。

 こうやって順当に好感度稼ぎしとこう。いつか彼女が股を開いてくれると信じて。






ー◆ー






 芋の皮を剥いていると、手持ち無沙汰な肉便器が声を上げた。





『あの、迷ってる訳じゃないのよね? 結局どこに向かうつもりなの?』


『森を突っ切って最短距離を進むつもりです』





 そう言うと何やら目をまん丸にして愕然としていた。アホ面で口をパクパクさせている。

 まあ無理もないと思うが。



 変顔をしたのち、眉間に皺を寄せながら口元に手をやって何やら考えている。

 しばらく間を置いて口を開いた。





『……色々言いたい事があるけど、一度町に寄らないと仲間が集められないじゃない』


『三人でいいじゃないですか』





 また変顔になった。頭痛を抑えるように片手で頭を抑えている。

 とりあえず反論される前に論破しとこう。





『そもそも仲間を集めるのが難しかったんでしょう?』


『そ、それはそうだけど……、行き先は“魔の森”よ? 入るだけでも銀の一位が推奨等級の場所なのよ。自殺行為だわ』






*★*





 この世界にも例のテンプレ等級システムがある。

 金銀銅鉄の一〜三位まであって、金の一位が一番偉い。便器はペーペーなので、一番下の鉄の三位だ。



 鉄の一位からじゃないとオークを狩るのは難しいですよ!みたいな推奨等級というシステムも一応ある。受付のお姉さんに聞けば自分の等級に合ったモンスターを教えてくれる。

 しかし討伐証を持っていけば本人の等級に関係なく買い取ってくれるし、ちゃんと評価にも反映してくれる。

 なので私も最初の頃は等級とか無視してゴブリンとかオークを狩っていた。死にほど金が無かったのだ。最終的に借金までしてたし。



 そんな訳で、私とコミュ障はいつのまにか銅の三位になっていた。大体はコミュ障のおかげである。

 この間のオークの巣捜索依頼が評価されて等級が上がったっぽい。ついでに耳を大量に持ってったのが効いたのかもしれない。



 かの有名な冒険放浪者ヤリチンは金の三位だと聞いている。

 本来ならゴブリンとかオークを相手にするレベルじゃないらしいが、たぶん装備を制限するとかして縛りプレイをして遊んでたんじゃあるまいか。

 この世界には魔道具という概念があので、物理的にあり得ない強度の鎧とかも存在するらしい。

 伝聞調なのは、身近に使ってる人がいないのでよく知らないからだ。当然だがズッ友達も経済的な事情から所持していない。



 ちなみにコミュ障にはギルド関連のシステムを説明していない。

 どうせ厨二ワードの羅列に変な反応をして、話してるこっちが恥ずかしくなるのが目に見えている。

 だから奴は自分の等級すら知らない。奴のギルドカードも私が持っている。

 魔の森とかいう厨二臭い場所を目指してるのも恥ずかしいので言っていない。






*★*






 今回は、厨二フォレストに行ってグリフォンの羽根を持ち帰るというオーダーで、素材の買取りは常駐依頼のため等級と関係なく私達でも請けられますよ、ランクも上がりますよとか、まとめるとそんな感じ。

 そんで厨二フォレストは等級から考えてスゲー危ないから仲間をもっと集めようぜ、と肉便器が喚いてるのが現在の状況。



 まあいい。便器を説得しよう。

 普通に考えて、便器が身銭を切れない以上仲間を増やすのは現実的ではないだろう。今回が例外立っただけだ。私達が資金を出せば別だがそうしてやる義理もない。

 第一これ以上人が増えたらキャパオーバーしてコミュ障が本格的に発狂する。今でも狂ってるのにこれ以上病まれたら私達も詰む。





『大丈夫です。山田の戦闘力は見たでしょう?』


『で、でも、人数が揃わないと周囲の警戒だって難しくなるわ。夜間の見張りだって必要だし』





 1人でモンスターの出没する森をウロウロしてたコイツがそれを言うのか。

 まあ正論だしいちいち指摘したりしないが。





『山田ならたぶん大丈夫ですよ』





 私はコミュ障の壊れっぷりを詳しく説明した。

 奴はしょぼい人格と精神の脆弱性に反比例して各種能力が異様に高い。



 山や森での観察力が高く、道中で獣を仕留めたり野草や果物をどこからともなく調達してくるので食糧も困らない。

 熟練の狩人のごとく周囲の痕跡を読み取って、獲物の行動や生態を看破する追跡者でもある。



 頭脳も明晰である。限られた情報から推論をいくつも立てるのが得意だ。観察力も高く、他人の癖や行動から思考を読んで先読みをする。

 対人だと常にテンパるが、テンパってても私より頭が回るし冷静で判断力も高い。最近そういう場面で私もテンパってるので(とみ)にそう思う。



 野生動物やモンスターよりも早く相手に気がつく超感覚じみた能力も持っている。しかも本人が寝ていようが問題なく稼働する。

 そのおかげで唐突なエンカウントや不意打ちに怯えて神経を磨り減らすこともなく、リラックスして旅を続けることができた。

 能力を得た代償として奴は発狂しており常に幻覚が見えている。戦場ノイローゼ(PTSD)とか偏執病(パラノイア)も患ってるかもしれない。どう控えめに見ても正常ではない。



 肝心の戦闘能力だが奴のメインウエポンは投石である。あいつはなんで異世界に来ている石持って戦ってるんだろうな。

 私は奴が投石を外したところを見たことがない。飛ぶ鳥だろうが関係なく当たるしゴリゴリのオークだろうが大体一撃で死ぬ。



 そんで近接戦もバカ強いので寄られても問題がない。先日のクソ野郎との闘いもそうだったが、異世界で初めて会ったときのオークとの戦闘が個人的に印象深い。

 ゴブリンは武装した小学三年生だが、オークは鈍器を持ったアメフト部の大学生である。ポジションはライン。スクールカーストはジョック。

 そんな連中十体以上の集団に囲まれてもコミュ障は普通に戦えていた。ブレイクダンスみたいな動きで四方から飛んでくる攻撃を全部避けるのだ。しかも避けながら普通に反撃もしていた。

 あの時は私やズッ友達もいたが、正直奴一人でもなんとかなってたと思う。



 こうして並べてみると改めてバケモンだと実感するわ。

 何なんだアイツ。



 身体強化魔法が使えないので力負けするし紙装甲なのがネックだが他のスペックで補えている。

 後は……現状で最大威力の攻撃手段が投石ってくらい? 私の火力でカバーしてるし、別にそれで困ったことってないな。

 対人関係の構築に難があることと精神を病んでいる点に目を瞑れば、特に弱点は無いと言っていいだろう。



 病んでることとか、コミュ障にしか見えない妖精さんとか地球特有のワードはぼかしながら話した。

 奴が魔法を使えないのもとりあえず黙っとこう。





『す、凄いわね……』





 言葉とは裏腹に便器は半信半疑という顔をしている。

 全然盛っていないのだが、まあ自分で言ってて胡散臭く聞こえるだろうなとは思った。

 しかし便器もコミュ障の戦闘シーンは見ていたのである程度は飲み込めたようだ。今は五割も信じてくれれば上々だろう。どうせそのうち信じざるを得なくなる、





『まあ、すぐに判断するのは無理でしょうから、とりあえずこのメンバーで回しませんか? それで無理そうなら一度引き返して、改めて仲間を募ればいいと思います』


『ああ……まあ、うん、それもそうね。わかったわ』





 よっしゃ言いくるめ成功。

 やべー場所らしいがコミュ障がいるし、無理そうなら言った通り引き返せばいい。



 コイツを逃がすつもりはない。



 人前で碌に魔法を使えないって凄まじいストレスだ。意味不明な理由で携帯電話を使用禁止にされたり、チャリを取り上げられて徒歩通学を強制された時に覚える感覚に近い。

 何が地雷なのかもわからん。正当防衛で咄嗟に魔法撃ったら白い目で見られた時は耐えがたい怒りを覚えたわ。たまに勢いで全員殺したくなる時がある。



 コミュ障に急かされて魔方陣の偽装とかも取り組んでみたが、普通に考えて順序が逆である。

 そもそも私達が常識を知らねーからトラブルが絶えないのだ。上っ面だけ取り繕ったところでいつかボロが出るに決まっている。

 ちょうどいいところに都合のいい相談相手が現れてくれた。



 依頼は多少面倒だがこっちにも十分メリットはあるし、期間限定の仲間というのが最高にいい。

 何よりエッチだしな。野郎だったらハナからお断りしている。私に都合のいい肉便器である。



 一度必要な情報を引き出せればこっちのもんよ。引き返すにしたってどうせ仲間を増やすのなんか無理だし、そしたらバイバイである。

 万が一仲間が増えた場合は私の魔法の誤魔化すのが面倒くさいが、まあそれも今回の道中で便器から学んでいけばいい。都合が悪くなったら逃げればいいしな。簡単に言いくるめられるから後腐れもねーし。

 へっへっへ、やっぱり若いチャンネーは最高だぜ。






ー◆ー






 ダラダラ雑談しながら調理を完成させた。



 コミュ障が先日仕留めた狸があり、今日食べる分の仕込みは1時間ほど前に済ませてある。

 初めて扱う食材で、コミュ障いわく狸肉は匂いがヤバいかもとの情報があったので匂い消しに重点を置いた。

 まあジビエは基本的に臭いものが多いのですることは普段とあまり変わらない。



 適当に切り分けた肉を塩胡椒とニンニク、ショウガを少々。すり下ろし玉ねぎ、同じくすり下ろした果物と一緒によく洗った胃袋に入れて、口に串をさしてひねり紐で縛って封をする。

 胃袋はビニール袋代わりだ。それを氷と一緒に壺に入れてアイテムボックスに放り込んでおいた。



 今回は簡単に、それをフライパンで油を敷かずにじっくりと焼き、先に炒めておいた付け合わせの芋、キノコ、変な形のアスパラと一緒に人数分を皿に盛りつけて休ませておく。

 残った肉汁に蜂蜜と魚醤を少々入れ酒で伸ばし、それを煮詰めて塩胡椒で味を整え小麦粉でとろみをつけてグレイビーソースを作る。肉に下味をつけているので味見して塩具合を調整した。

 ソースをタヌキ肉にかければステーキの完成だ。



 基本一日二食だから結構分厚いステーキ肉だ。

 スネ肉を骨つきで丸ごとと、バラなどの色々な部位を乗せて一人前500gはある。

 便器もまあ若いからたくさん食べられるだろう。

 私は胃の容量的に半分の250gだ。うまいもんは好きだが量が食えなくて悲しい。



 主食もめちゃくちゃ適当だ。

 大麦をクズ肉やクズ野菜と共に鍋で炊いてお粥にした。甘くないポリッジというやつ。

 オリーブオイルと塩で軽く味つけしてあるが、お好みで魚醤をかけて食べてもよい。

 ニンニクを入れてもいいのだがメインと被るので今回はやめた。代わりにという訳ではないが、鱈っぽい乾物を細かく裂き加えて魚介系の出汁を取っている。



 鍋を中心に車座に座っていただきますをする。

 お椀にたっぷり盛ったあつあつのお粥を(さじ)ですくって一口含んだ。

 ほふほふと口内の熱気を逃がす。





「あふっ……うん、おいしいね」


「とてもおいしいです。麦のお粥は初めて食べましたが、なんだかお米みたいですね」


「炊いたご飯みたいにもできるみたいだよ。今度やってみるね」





 そう言うとコミュ障は嬉しそうにした。目や表情筋が死んだまま微笑んでいる。



 今回はシンプルなお粥にしたが、現代にもオーツ麦やもち麦を使った代用ごはんのダイエットレシピがある。麦を炊いて食べるのは別段珍しいことではない。

 レシピや分量は頭に入ってる。道具やら何やら色々不足してるのでその辺の知識がどこまで役に立つかちょっと怪しいが、ガチればアルミ缶やジップロックでも炊けるって聞くし多分なんとかなるだろう。あとは慣れだ慣れ。



 米を食いたいがちょっと難しそうなので、堅実に麦ご飯を研究してみることにした。

 微妙にモドキだが実現すればステーキを米で食えるし、チャーハンやカツ丼、リゾットだって作れるようになる。夢が広がるぜ。

 一時期闇雲にその手の知識やレシピを漁った経験が活きたな。過去の自分を褒めたい。



 とはいえお粥もうまい。古代ローマ人がこればっか食ってたってセスタスに書いてあったけど、それも納得できる強さがある。

 トロトロに柔らかく炊いたのだがプチプチした食感が残っている。うまい。



 時短も狙ってクズ肉やクズ野菜を使ったのだが、短時間の炊き込みでもしっかり出汁が出ていて非常にうまい。絶品である。〆の雑炊みたいなもんだからまずい訳がない。

 ちょっと魚醤をかけてみる。クセがあるがこれもうまい。これはかき込みたくなってしまう。



 でもうまいけど、舌触りに若干違和感がある気がする。

 やっぱあれかな、精米というか精麦というか、研ぎが足んないのかな。見た感じ薄皮が残ってる気はしたのだ。もう色からして違ったもん。

 米の研ぎってどうやるんだっけ……一升瓶に詰めて棒でガスガス突くんだったか。流石に面倒くさいな。なんか適当にハックできないか考えてみよう。



 メインの肉も食べよう。

 なんとなく盛りつけもお店のステーキっぽくした。



 うん。最高にうまい。仕込むときに包丁の裏でよく叩いて筋切りしておいた。

 食中毒や寄生虫が怖いのでほとんどウェルダンなのだが、柔らかくて超うまい。臭みも全然感じない。

 下味をつけて時間を置くと肉がとてもおいしくなる。肉と一緒に調味料とか野菜を適当にぶっ込んで冷凍庫に放り込む手は私もよく使っていた。



 ブライン液というのだが、薄い塩水に漬けるだけでも肉をジューシーにする効果がある。

 低濃度の食塩水はタンパク質を分解したり逆に凝固させる作用があり、焼いても肉汁が逃げない柔らかくておいしいお肉になるという理屈らしい。

 浸透圧で旨味や肉汁が逃げるような気がするが、これがやってみると全然違ってびっくりする。ササミみたいなパサパサ肉がしっとり柔らかジューシーになる。



 すり下ろした玉ねぎやリンゴにも肉を柔らかくする効果がある。

 玉ねぎやパインはタンパク質分解酵素であるプロテアーゼによって肉を柔らかくするし、リンゴに含まれる酸は同じような働きをしてくれる。

 この漬け汁と肉汁を煮詰めたソースもうまい。

 すりおろしリンゴを入れたおかげでほどよく酸っぱいフルーティーなバーベキューソースっぽく仕上がっている。玉ねぎの香りと甘味もいい。

 肉が重くなり過ぎずいい塩梅にさっぱり頂ける。うまい。



 変なアスパラも塩胡椒が利いていてうまい。酒がほしくなる。

 キノコもうまい。ブナシメジに似て噛むとジュワッと旨味が出てくる。これは便器が食べられると教えてくれた。昨日も採って食べたそうだ。これを知れただけでもコイツと組んだ価値がある。

 キノコ採りなんて仮に資料があっても怖くてやろうとも思わないが、経験のある現地民の言うことならある程度信頼できる。



 全部うまい。酒が飲みたい。



 コミュ障の箸の進みも早い。まあ使ってるのはスプーンだが。

 作ったメシをおいしく食べて貰えると私も気分がいい。



 そして肉便器はもっと早い。

 既に器を空にして、お粥の入った鍋を物欲しそうに眺めている。相当熱かっただろうに。



 同じくそれに気づいていたコミュ障と顔を見合わせた。軽く頷きあう。

 私はとてもいい笑顔を作って右手にお玉を持った。





『あの、おかわりしてくださいね』


『あ、あ、あ、ありがと……。い、頂くわ』





 恥ずかしそうにお椀を差し出してきた。おかわりを盛って渡してやる。

 観察すると二杯目は味わって食べているようだ。しかしもりもり食べている。実に幸せそうで見ていて気分がいい。



 まるで飢餓状態の子供のようだが、私はなんとなく腑に落ちた気分になった。






ー◆ー






 私達が宿泊したのはそれなりにお高い宿だ。

 最初便器が同じ宿に泊まっていたと聞いたときは別に何も思わなかった。



 だが話が進むにつれ、どうもコイツは金が無さそうだぞと訝しむようになった。

 今はもう確信している。



 冒険者に依頼するなら普通前金くらい用意する。別にそこら辺の事情に詳しい訳じゃないが、常識的に考えればそのようになるだろう。



 一緒に冒険をするという(てい)であるが、彼女は冒険者としては新米もいいとこでベテランと組むには釣り合わない。

 順当に新米同士で組めばいい話なのだが、そうすると今度は目標が実力と釣り合わなくなる。

 そういう無理筋を通そうとするなら金かコネでどうにかする以外ない。なのに便器は見せ金すら使わなかった。



 極めつけは彼女の服や後頭部に砂埃や(わら)が付着していたことだ。

 私達と同じ宿に泊まっていたらしいが、たぶん定番の馬小屋とか納屋を借りて寝泊まりしていたのだ。

 昨日は野宿していたらしいので多少汚れてても別に不自然ではないのだが、なんというかたぶん間違いないと思う。



 服もよく見れば結構くたびれているし、髪や肌のツヤもない。転んで怪我をしたという様子でもないし、経験上一日くらい野宿したところでこうはならない。

 しばらく風呂にも入ってなさそう。体臭がどうなってるか気になるところだ。試しに胸元か股に顔突っ込んでみたい。



 まあ全部推測である。八割くらい当たってると思うが。



 便器が自分は貧乏だとかは一言も言ってない。

 ちょっとは同情引いた方が交渉が楽になりそうなもんだが。



 ほぼ初対面だがコイツの人となりは大体把握できた気がする。結構残念なタイプのツンデレだ。しょっちゅう貧乏くじ引いてそう。

 なんか仲良くなれそうな気がする。



 もっと仲良くなれたらドサクサに抱きついて思いっきり深呼吸してみよう。目標は今日中だ。

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