21話 幼女時間
うっかり半年くらい間が開いてしまいました
すいません
ー◆メスショタ視点◆ー
コミュ障を乗りこなしつつ大通りに出る。
そのまま町を出るのかと思ったのだが、何を考えたのかコミュ障は私を下ろしてしまった。
「えっと、町を出るんじゃないの?」
「ギルドに置いたままの資料がありますから」
そうだった。
怒涛の展開にそんな事すっかり忘れていたぜ。
ギルドはちょうど目の前にある。
何やらコミュ障は路地裏をやたらグルグルと走り回っていたが、もともと目的地は決まっていたようだ。
まあコイツは私のようにアホじゃないので当然である。
「まずは速やかに回収しましょう」
「うん」
バタバタと小走りでギルドに入る。
中は閑散としていた。
どうやら飲んだくれのチンピラ連中も、揃って試合観戦の為に出ていったらしい。
カウンターには横柄な態度だった女性職員さんが、ポツンと1人だけ座っている。
何かその光景に物悲しさを覚えた。
今考えると、真面目に働いてたのってこの人だけなんじゃないだろうか。
あの態度だって真面目に仕事していたが故であろう。
試合観戦に来ていた能天気な職員達を思い出し、要領とかコネとかいう言葉が頭に浮かんで悲しい気持ちになった。
とか、そんな事考えている場合じゃない。
木簡を回収してさっさと退散しなければ。いつ連中が戻ってくるかわからないのだ。
ツカツカと早足でカウンターに向かい、職員のお姉さんに声を掛ける。
『あの、先程お借りしたスペースに入りたいのですが、大丈夫でしょうか?』
『ええ、どうぞ』
言質を取って素早く入る。
私達の剣呑な様子に職員さんは訝しげな表情を見せたが、悪いが気にしていられない。
乾いた木簡をアイテムボックスに回収し、広げた資料をまとめていく。
結局、半分程度しかノートに写す事ができなかった。動植物は結構書き写せたが、モンスターの項目がが全く手付かずのままである。クソ野郎のせいで不本意な結果しか出せなくて無性に悔しい。
しかし愚痴を吐く暇もない。大急ぎでまとめた資料を職員さんの所に持っていく。
『スペースと資料を貸して頂きありがとうございました』
早口で慇懃に礼を言って、足早に去ろうとする。
すると背後から待ったが掛かった。
『あの、破損や紛失が無いか確認するので、少々お待ち頂けますか』
その言葉に愕然とする。しかし当たり前だがギルドにとっては必要な確認項目である。
見せ金までしたのだから予想して然るべきなのだが、ちょっと勘弁してほしい。頭おかしくなる。
「佐藤さん、通訳して頂けますか」
私がパニクっていると、横に居たコミュ障が口を開いた。
「う、うん」
「では……。先程の騒ぎをご存じですか? 僕と傭兵の方が手合わせをするという話を発端として起こった騒動なのですが」
『え、ええ……。存じておりますが』
「僕達としては目立つのは本当に不本意なのですが、先の騒動のせいで注目されてしまいました。間もなく彼等は戻ってくるでしょう。宿泊している場所を教えますので、何か粗相があればそちらに連絡して頂けたら対応致します。手前勝手な事情で大変恐縮なのですが、どうかお願いできないでしょうか」
深々と頭を下げるコミュ障。
慌てて私もそれに倣った。
『あの、ですが……』
職員さんは、コミュ障の勢いに押されて戸惑っている様子だ。
「もちろん別に謝礼はお支払い致します。佐藤さん」
「わかった」
財布から適当に貨幣を握ってカウンターに広げた。
パッと見現代換算で5万円くらいあると思う。
『こんなの頂けません!』
『あなたの同僚は訓練所で観戦していましたよ。別にこれくらい許されると思います』
私の言葉に面食らった顔になり、やがて渋々とだが頷いてくれた。
『わ、わかりました』
時代背景を考えたら、もっといい加減でも全然おかしくないのに、すごく真面目な人だ。好感が持てる。
よく見たら神経質そうなお顔も大変エッチだ。
『あとあの、その同僚の方にも私達の情報は漏らさないで欲しいのですが。なんというかその、ちょっと軽そうな人達だったので』
ギルドカードに記載された個人情報を彼女に晒したので念を押しておく。まあ気休めだ。討伐証の換金時に記録を取られたかもしれないが、文書の改竄までは流石に求めていない。
私の発言になにやら共感を得たのか、彼女は苦笑気味に頷いてくれた。
色々納得して頂けたので、私達はダッシュで宿屋へと帰還した。
ー◆ー
向かい合わせにベッドに腰掛けて溜息を吐く。
もう疲れた。
「山田、町を出なくて大丈夫かな?」
「絶対とは言えませんが、店主にも言い含めてあるので恐らく問題ないでしょう」
そうなのだ。
コミュ障は店主にも金を握らせて客人には絶対に対応しない、追い返してくれと頼み込んだ。簡単なお使いにも応じてくれるそうだ。
外に出なくて済むのはいいのだが、どんどん増えていく支出に悲しみが止まらない。
「それに、サラさんに手紙を出さないといけないでしょう」
「……そうだったね。ダメだ、色々抜けちゃってる」
「お疲れ様です」
「山田ほどじゃないと思う」
「流石に疲れましたね。浴びるほど酒を飲みたいです」
たぶん嫌味とか冗談じゃないと思う。
ちょっと笑ってしまった。
「外にお使いを頼めるんでしょ? 手紙を出すついでにお酒も買ってきて貰ったらどう?」
「いいですね。……しかし肴はどうしましょう」
サンドイッチは先程腹に収まってしまった。
「食材は色々買ったから、ここで作っちゃえばいいんじゃない? 匂いは魔法で残らないようにするし。……って流石に難しいかな。食堂で頼んでもいいんだけど、ちょっと節約したいんだよね。山田が獲ってくれたお肉や野菜も残ってるし」
「大きめの換気扇を創ればいいんじゃないですか? こう、窓からパイプを伸ばす感じで」
「ああ、いけるかも。……でもそんな匂い出しちゃったら、マックスさんにバレちゃうんじゃない? 私達の居場所」
「恐らく既にバレていますが問題ないでしょう。その為の金ですから。強引に押し入れば単なる不法侵入ですし、そうしたら自警団のお世話になるだけです。ランスさんに理性があろうとなかろうと問題ありません」
「なるほど。じゃあもう手紙書いちゃおっか。文章はどうしよう。よくわからないし、山田が考えてくれる?」
「そうですね。今考えますのでちょっと待ってください……」
ー◆ー
さて、快適に晩酌をする為にも、調理環境を整えなければならない。
昨日のように風を生み出して窓から逃すだけでは匂いが残ってしまいそうなので、先程コミュ障が言ってように換気扇の製作から始めようと思う。
といってもそんなもの作った経験がない。
話し合った結果、3Dプリンタのようにまず土台を魔法で捻り出し、そこに素材を盛って形にしてみようぜ、というプランになった。
もうこれだけで大盛り上がりである。まず大雑把な図面を描き起こすところから始まり、他のお客さんの迷惑にならないよう、なるべくヒソヒソと声を潜めながら完成まで漕ぎ着けた。
完成した換気扇は、まさに3Dプリンタで出力したかのような造形になった。
部屋の真ん中に位置するテーブルのすぐ上に、浮き輪のような形の吸気口があり、そこから流線形に伸びたパイプが窓まで伸びている。
なんとなくジェットコースターを連想してしまった。
そしてそれを支えるサポート材である。
サポート材とは、3Dプリンタで出力した造形物が、製作過程で崩れないように支える骨組のことだ。
床面からパイプに向かってサポート材が何十本も伸びて、まさにジェットコースターの骨組みたいになっている。
なんか妙に遊園地感ある。
3Dプリンタといえばやはりコレである。
サポート材の骨組って、なんか独特の趣きがあっていいよな。
ー◆ー
ちなみに、この世界の窓は基本的に木製で、ここの窓もガラスは使われていない。パッと見小さ目の扉みたいな感じ。
ガラス自体があんまり普及していないようだ。
なので日光を遮るカーテンが無い。
外から見たら、パイプ内部の奇怪な空洞が見えると思う。まあもう暗いしきっと大丈夫。
魔法で換気口周辺に風の流れを生み出し、同じくガスコンロのような火を灯す。
軽く油を敷いたフライパンに、切った芋を並べて焼いていく。
熱気が湧くのを見て手をかざし、空気の流れを確認する。
換気能力の確認である。
本物の換気扇のように、扇風機のような構造がないので、逆流する恐れがある。
駄目ならどこか弄らなければならない。
とりあえず問題ないようだ。
換気扇製作に入る前から今まで、ボウルで水を張り、そこに塩漬け肉を浸けておいた。
塩漬け肉の塩抜きである。ボウルの何回か水は取り替える。
本当は茹でたりするのだが、もともと塩は強くないのでこれでなんとかなる。
フライパンの芋にある程度火が通ったら、今度は塩漬け肉を並べ、油が出てきたら切っておいた野菜を順に炒め、蓋をして待つ。
蒸し焼きにするのだ。
待っていると少々クラッときた。
私の貧弱な魔力が尽きてきたサインである。
アイテムボックスから、傭兵隊の高級ポーションを取り出し、口をつけずにちょっとだけ飲む。
しばらくすれば回復するだろう。
調理はあと少しで終わるし、残った魔力でも大丈夫なはずだ。
しかし、相性の良さそうな調味料が塩胡椒しかないのが辛いぜ。
酢はあるので、醤油があればポン酢みたいな液体ができたというのに。
魚醤は匂いがキツいんだよなぁ。
熱を通せば気にならなくなるんだが、小皿に盛ってつけダレにするのはちょっとキツい。
魚醤って魚介の発酵食品だから、イカの塩辛に似たテイストがあるんだが、塩辛とキャベツをバターで炒めたやつ、あれ大好きなんだよなあ。
あれはうまい。ハイボール飲みたくなる。
ハイボールといえば柑橘類もいいな。
贅沢言わないから、せめてレモン汁みたいなのがほしい。
まあ今回はアレだ。
魚醤に酢と砂糖入れたのを酒で伸ばして甘酸っぱいエスニックだれにしよう。刻みニンニクも入れる。これで間違いない。
ごちゃごちゃ考えていると、ふとコミュ障が私の作品である換気扇ジェットコースターを、名残惜しそうに眺めていることに気づいた。
今は私が魔力のラインを通して維持してるが、この供給を止めるとすぐに霧散してしまうのだ。
気持ちはわかるぜ。儚いもんだよな。存分に眺めてくれや。
ー◆ー
という訳で出来た。
ホットプレート風焼肉と野菜炒め。
今日買った胡瓜っぽいピクルスもお出ししてみた。
あと鱈と山菜のテリーヌ。
薄切りにした冒険者パン。
最後に主役の酒である。度数のお高い蒸留酒だ。
テリーヌはそれっぽい乾物があったので試しに作ってみた。鱈はいい出汁がとれるのだ。
乾物から出汁をとって塩と魚醤で味を整えたスープを作り、山菜を入れて火を通し、湯煎したゼラチン液を入れて溶かす。それを型に入れて冷やしたら見目麗しい山菜のテリーヌ完成である。
いい感じにオシャレなので焼肉との相性は絶望的だ。
あんまり匂いは出ないと思って、実は換気扇が稼働する前から作っていた。
風送ってるから平気平気。
冷やすための氷は、魔法で出した液体窒素に水をぶち込めば一瞬でできる。
ゼラチンは自作した。
主な原料は動物の皮である。毛皮は何かと入り用になるが、皮なめしもコミュ障がひと狩り行くたびにやってたら大変なので、何か他に使えないかと一回試しに作ってみた。
肉屋のオッサンに聞いたら作り方を丁寧に教えてくれた。得な顔面で助かったぜ。
獣の皮とか耳とか骨を石灰を入れた水に浸けておくと、毛などの不純物が剥がれ落ちる。皮なめしの毛抜き工程と同じだ。
綺麗に洗ったものを半日くらい煮て、それを布で何回か濾すとゼラチン液ができる。
それを天日で乾燥させて固めたものがゼラチン、というか膠である。こうすることで数年は保存が効くらしい。
煮る工程で豚骨ラーメン屋の匂いが発生する。
干すとガチガチに固くなるので、戻すときは細かく砕いて半日くらい水に浸ける。それを湯煎するとゼラチン液ができる。
なので実は今朝から水に浸けて戻していた。原料が原料のせいか、湯煎するとき独特な匂いがする。
ー◆ー
名残惜しいが換気扇は消して、魔法で軽く空気の流れを作って匂いを外へ逃がすようにしてある。
焼肉が暖かいうちはこうしておいた方がいいだろう。
肉をわしっと箸でつかみ、小皿に盛ったタレにつけて口に放り込む。
うん。塩漬け肉はいい具合に下味が付いてグッと味が良くなっている。
文句なしにうまい。
うまいが油がすごい。
キンキンに冷えた蒸留酒の水割りで洗い流す。
こりゃ堪らねえぜ。
「おいしいですね」
コミュ障の、褒め言葉のレパートリーに乏しいのもいつもの事だ。
表情を見る限り満足そうなので、まあ許してやるわ。
ポリポリとピクルスをかじる。
昨日の飲み会で食べたのがおいしくて、市場で見た時つい買ってしまった。保存が効くので旅にも持っていける。
歯応えがいいし、酸味が利いてさっぱりしててうまい。また焼肉に手を伸ばしたくなる。
しかし焼肉といえばアレだ。
「ご飯ほしくなるね」
「それは言わない約束じゃないですか」
まあどうしようもないんだが、焼肉の付け合わせにパンってどうなんだろう。
ステーキだっていつも米で食ってるぞ私は。心は日本人だもんよ。
ふと思いついて、焼き肉をパンで挟んでサンドイッチにした。
うまい。ピクルスも挟もう。
コミュ障が真似してるのを見ながら、咀嚼するにつれて思考があさってに飛んでいく。
魔法を使った武器製作も結構慣れてきたから、そろそろ他のを作ってみてもいいよな。
今回のような唐突なバトル展開にカッコよく対処できるいい感じのツールがほしい。
あれだよ。教室にテロ集団が襲ってきたときにサラッと返り討ちにしたいとかそういうのだよ。
コミュ障とのシナジーも考えると、やはり奴の言うように手榴弾の開発を進めるべきだな。
火薬はたぶん作れる。材料はわかってるので何回かテストすればいけると思う。
しかし手榴弾の構造なんて全く知らないんだが、ピンを引いて爆発するって認識でいいんだよな? 安全レバー的なのもついてた気がする。
まあ最初はシンプルな構造でいい。瓶詰めに導火線でいいだろう。金属片を混ぜればより威力も上がるはずだ。圧力鍋爆弾って男のコだよな。
でも待てよ。私の魔法って現状繊維質のものを出せないんだよな。布とか紙がが出せない。
今後も訓練すればいけるかもしれんが、なんというかイメージが難しい。分子構造とかとは別スケールの複雑なイメージを組み立てるのにちょっと難があるのだ。
現状だと例えばロープ出したいなら、紐状のものをひり出したのちに手動でグルングルンする必要がある。導火線が作れないぞ。
まあ適当な樹脂製のシートでもいいだろう。
着火剤はマッチの原料であるリンを中心に組み立てればいいと思う。赤リンは高温で発火する。赤リンを樹脂シートで包んで折り畳んだものが導火線になるはずだ。
しかしDr‘STONEを流し読みしていたのが本当に悔やまれる。
全然記憶に残ってない。しかも立ち読み勢だったのでセリフとか読み飛ばしてたりしてるし。そもそも読んでない話も結構ある。
アレを異世界に全巻持ち込めていればかなり色々捗ったはずだ。火薬も速攻で再現できたし、他にも……。
「佐藤さん?」
「え?」
顔を上げると、コミュ障が不思議そうな表情でこちらを見ていた。
どうやら食事の手が止まっていたらしい。
いいタイミングなので聞いてみよう。
「山田、次に作るならどんな武器がいい? やっぱり手榴弾?」
「んん……そうですね」
顎に手を当てて考えている。
……長いな。
まあ唐突だったししゃーない。
野菜炒め食おう。うまい。
生鮮野菜も購入したので、キャベツや玉ねぎ、ニンジンなど使って野菜炒めも作れた。
肉から出た油を使って炒めたのでたっぷり旨味を吸っている。お高い焼肉屋だとこういう炒め物出てくるよな。香ばしくてうまい。
山菜のテリーヌもうまい。さっぱりした出汁にわらびやゼンマイが歯応えシャッキリねっとりとしてて、噛むと旨味がじわっと溢れる。それにひんやり冷たいのが実にいい。
当然酒にも合う。要は煮凝りだからな。つまみになるよう濃い目に出汁を効かせた。
そうだ。ガーリックオイル作ろう。
唐突にガーリックトーストが食べたくなった。オイルをディップ代わりにして食うのもいい。
オイルに刻みニンニク入れてグツグツ煮込むだけなので1分で作れる。匂いはまあうん、窓の近くで風送りながらやればいいだろう。
早速作ろう。
「閃光弾や催涙弾が欲しいですね。将来的には手榴弾もあった方がいいと思いますが、まずはそちらかなと」
タイミングが悪いコミュ障だな。
まあいい。
魔法で鉄製の皿っぽいものをジージーと作成する。洗い物が面倒くさいという理由から今開発した新魔法だ。
この魔法、実際3Dプリンタっぽいとこある。慣れればナイフみたいに早回ししてパッと出せると思うが、今回は皿の形になってればいいので適当にフィーリングでジージーしている。
それでなんだっけ。
「えーと、それはなんで?」
鉄皿が完成したので、アイテムボックスを引っ張り出して魔力を込める。
これ便利なんだが、欲しいものをいっぺんに取り出せないし、いちいち魔力を取られるのは不便だ。贅沢な悩みだが。
コミュ障は焼肉を咀嚼し、それを酒で流し込むと答えた。
「ええとですね、まず爆発という方法だと、討伐の証となる部位ごと吹き飛ばしてしまう可能性があります。ものによっては毛皮にも価値はあるのでしょうし。非殺傷兵器ならその心配がありません」
なるほど。非の打ち所がない正論。
メシの種は大事にしなければいけない。
「それから、爆発というのはどれだけ損傷を与えるかが不確実です。周囲の樹々などに無用な被害を与えかねませんし、血や臓物が飛び散れば後処理も大変でしょう」
なるほど正論だが、コイツは以前、倒したモンスターをそのまま放置していた過去がある。
死体を放置しとくとモンスターの餌になったり雑菌の温床になって疫病が蔓延する可能性があるので、ギルドでは埋めるか焼くかすることが強く推奨されている。
まあただでさえ命懸けなので絶対ではない。マナーみたいなものだ。だからこそ疎かにしてると顰蹙を買うことは間違いない。
それをコイツは面倒臭がって放置していたのだ。
ギルド云々の話は知りようもなかっただろうが、餌とか疫病の可能性がコイツの頭に全く無かったはずがない。
まあライン作業みたいな感覚でバカスカ倒すので、気持ちはわからんでもないのだが。
コイツと合流してから死体処理は私の役目となった。着火したゲル状のガソリンを噴射してボンボン燃やすのである。
私がサボらないのでコイツも手伝うようになった。朝起きたら処理しやすいよう積み重なった死体の山が出来てたりするのは最早日常である。
「しかしまあ、理想を言えばという話です。手榴弾も十分効果的ですし、火炎瓶や唐辛子の成分を抽出した液をばら撒くカプサイシン弾なら製作もしやすいでしょう」
色々考えるなあ。
流石はコミュ障だぜ。
さて、今のを聞いた上で考えれば、やはりスタングレネードを作るべきだろう。
風向きで効果が左右される催涙弾よりも安定して運用がしやすいだろうし。
非殺傷兵器だから一昨日みたいに発情したチンピラに襲われた際も気軽に使用しやすい。教室に襲撃してきたテロリスト集団もスタイリッシュの制圧できる。
しかもアレだ。化学的な効果だけ抽出して杖からこうパアッと出せれば、私単独でもかなり有効なんじゃないか? 至近距離で使っても自爆になんないし。
光属性で超カッコいいじゃん。やはりコミュ障はコミュ障の分際で冴えている。
しかしスタングレネードって音響弾でもあるんだよね? あんまうるさいと近距離で咄嗟に使いづらいよな。下手すると単なる自爆になりそう。
純粋な閃光弾って作れないかな。ちょっと考えてみよう。
眩しく光るといえばマグネシウムだろうか。反応熱が高く、火を着けると激しく発光しながら燃えるのだ。二酸化炭素の中でも頑張って燃えてくれる頼もしいアレだ。
溶接で使おうと思ってたテルミット反応も思いついたが、あれはちょっと怖すぎる。
しかし前者も結局のところ燃焼である。近距離で使用するパターンを考慮すると、危険が危ないので何らかの保護する手段がほしい。
やはりプラスチックかガラスで包むのが順当だろうか。そういえばストロボとかマグネシウムカメラも構造や原理的はおんなじだよな。ガラスはナイフ製作で散々出したので問題なく使える。
ちょっと出してみよう。とりあえず電球みたいな形にすればいいのかな。
えーと透明度が高い方がいいよな。なら石英ガラスでいいだろう。私の魔法なら超高純度なやつが出せる。組成も単純でややこしくない。ちょっと構造がアモルファスなだけだ。ここ人んちっていうか宿だし、割れないように厚みは十分持たせておこう。
あとは安全面に配慮して、金属製の保護カバーを……。
「佐藤さん、ひとまず食事にしませんか」
声に思考を中断し顔を上げると、わざわざ作っているのだろう、困った表情のコミュ障が私を見ていた。
どうやら長いこと思考に没頭していたらしい。
食事はすっかり冷めているようだし、魔力のパスが途切れたようでせっかく作った鉄皿もいつの間にか消えていた。
「ごめん。ちょっと考え込んじゃって」
とりあえずお詫びではないが食事を温め直して、それからガーリックオイルを作ろう。コミュ障は舌が腐っているのでわかりやすい味付けを好む。……あっ。適当に野菜とか放り込めばアヒージョになるじゃん。絶対うまいやつだろ。パンもあるから無限に食えるやつが作れる。
あとは乾物があるから、時短でいける簡単なスープでも作ろうかな。お酒飲んでるから熱い汁物がほしい。
あっ大麦があるから麦粥ができるじゃん。麦は匂いが鼻につくので炊く際に少量の酢を入れるといいらしい。やったことないけど酸味は熱で飛ぶはず。スープでゆるめに炊いてもいいが、米みたいに炊いてから軽く洗ってスープを注ぐのもいいな。お茶漬けみたいにサラリと食べられる。こりゃシメのラーメンみたいなもんだろ。絶対うまい。これで翌日も安心だな。
よっしゃテンション上がってきた飲もう飲もう。
ー◆ー
「佐藤さん。起きてください」
翌朝、私はまたコミュ障に騎乗位で乗っかっていた。
何故だ。
お酒やめた方がいいのかな。
ー◆ー
ー◆不審者視点◆ー
マウントポジションで跨っていたメスショタを起こし退いてもらった。
二度目だからか、昨日と違って落ち着いていたので転がり落ちずに済んだようだ。
この人酔ってても頑なに僕のベッドに入ろうとする。もう面倒くさいのでそのまま寝たけど。
寝相がいいので普段ならそれでも問題ないが、どうやら酔うとアレなようだ。暑い。
まあいいや。
それより早く動こう。
窓を見ると、まだ外は朝日も昇っておらず真っ暗だ。
昨日早めに寝たお陰で、大体予想した時間通りに起きられたようである。
メスショタには言っていないが、昨日やはり予想していた通り、宿まで知らない人達がやって来たのである。僕のゴーストに反応があった。
ビースターズの主人公に追わせたんだろう。
門前払いさせとけば大丈夫だと思ったが、正規の客として宿に入り込み接触を図ってくる可能性がある事に直前で気付いてヒヤヒヤした。
しかし結局知らない人は宿の前でしばらくウロウロした後、大人しく帰っていった。
勝手な印象だが、知らない人はドルオタほど頭おかしくないと思う。
傭兵稼業なんてしてたら、2年ちょいしか働いた事のない僕よりもよっぽど人生経験豊富だろう。推しと出逢って舞い上がったドルオタのようなストーカーまがいの行動なんてそうそうするまい。
しかしそれが故に、彼の立ち回りは飄々としていてやりにくい。
恐らくまた接触を図ろうとしている筈だ。
何食わぬ顔で出待ちとかして、立ち合いをしてくれた御礼に朝飯でも奢りましょうとか言ってきてさ、なんだかんだ言って連絡先交換しましょうとか言ってくるに違いないのだ。
旅の安全を祈願して〜とか言って異世界特有の便利アイテムとか渡されたら実利を取って貰わざるを得ないし、そうやってズブズブと関係を深める腹積りだろう。
宗教勧誘やマルチ商法のやり口はネットで予習済みなのだ。僕みたいな人間不信の駄目人間に、そんなありきたりな手が通用すると思うなよ。
そもそもエンカウントしなければ、ヤリチンお得意の話術も通じないって寸法よ。
これで何もなかったら恥ずかしいが、宿まで着けられてる時点で相応の対応だと思う。
という訳で、日が昇らないうちに出発である。
流石にこの時間から出待ちはしていないだろう。
ー◆ー
「眠い……」
「頑張ってください」
ぐずるメスショタをあやしながら、手を引いて真っ暗な町を歩く。
別に寝かせたまま抱えていってもいいのだが、夜警の自警団の人とか門番さんに見られたら職質間違いなしである。
故にこうして歩かせている。
日の出前の町は本当に暗い。
僕は夜目が利くので問題ないが、メスショタはほとんど周囲を判別出来ないようだ。
怖くて目が覚めたのか、握った手はやたら固く握り込まれている。
メスショタいわく、イヌ科の動物もかなり夜目が利くそうだ。眼球に反射板が備わっており、それで少ない光を集めて増幅させてものを見るらしい。
そういう理由でネコとかオオカミは夜に目が光って見えるそうだ。
なので暗闇の中、目の高さで二対の光が浮かんでいたらそれがビースターズの主人公である。
奴は動物にも結構詳しい。理科の授業中とかに、暇つぶしで教科書のコラムとかを読んで覚えたそうだ。
僕とは地頭が違う。子供の頃の記憶とか嫌な事しか残ってない。
大通りを避けてすぐ角を曲がり、一度路地裏に入る。
道幅が狭くなった関係上採光が制限されて更に暗くなったが、僕は特に問題なく動ける。深夜の山も同程度に暗かった。腰元に張り付いたメスショタが非常に邪魔くさいが動くのに支障はない。
ビースターズの主人公がどこまでアニマルな能力をお持ちなのかはわからないが、危険度は多めに見積もっておいて損はないだろう。
よってこのように人目を忍んでコソコソと歩いている。
まあ念の為ってだけで多分大丈夫だ。もう門の近くまで来たが、僕のスタンドには何の反応もない。
眠そうな顔の門番さんに挨拶をして、僕達は無事に門を抜け、おちんちんランドを後にする事ができた。
危惧していたような事態は何も起こらず一安心である。
字面だけ見るとなんか自由な感じのな傭兵稼業と言えど、彼等も所詮雇われであり集団に属する身である。
今後そうそう会う事もあるまい。
「佐藤さん、まだ眠いようならおぶさりますが」
「じゃあお願い……」
ぶっちゃけ足下のおぼつかないメスショタに合わせて歩くよりそっちの方が早い。
しゃがむと首に手を回してきたので、膝を抱えて前傾姿勢で立ち上がる。
さて、街道はそれなりに整備されているので迷う事もない。ゆっくり歩いていこう。
首筋に生暖かい吐息を感じながら次の目的地を目指した。
日が昇ったら叩き起こそう。
ー◆ー
町を出て以降、延々と森っぽい風景が続いた。
今は小休止中である。ビースターズの主人公に追跡される可能性を鑑みて、メスショタおじさんに全身丸洗いを2回ほど行って貰った。これで匂いが消えた筈だ。安心して休む事ができる。
それに日が昇ってから街道を外れて歩いている。森の中で行動するのは慣れてるし、わざわざ目立つところを歩いてやる理由もない。
ある程度距離を置いたし特に急ぐ理由もない。お昼過ぎという事もあり、小休止だったつもりがメスショタが本格的にごはんを作り始めた。
まあ朝食も食べずに歩き通しだったので、お酒で弱ったお腹にも何か入れた方がいい。
僕は奴の書き起こした木簡に目を通しているところだ。イラストにやたら力を注いでくれているので特徴が妙にわかりやすい。
頭いいし料理上手だし絵も描けちゃうし常に女装してるし流石だぜ僕のメスショタ。
ただ、なぜか資料ごとでイラストのクオリティに物凄い差がある。子供の落書きが7;3くらいの割合で混じっている。落書きが7のほう。
これはあれだ、メスショタが参考にした資料のクオリティがそもそも低いと思われる。載ってる情報の量もマチマチだし多分そういう事だろう。資料ごとの完成度に差があるのだ。
まあ編纂された図鑑という訳でもないので当然と言えば当然である。色々な人が資料を作ってくれてるんだろう。こうやって見れるだけありがたい。
毒性を持つ動物、食べられる野草、個人的に関心のあった薬草についての植生や効能など特に興味深い。
詳しくはないけど、地球上の似た植物の相違点があるのかと想像すると面白い。
わざわざ野草とかの名前も書いてくれてあるが特に覚える気はない。地球にいた頃だって地理を覚えられなかったし、名詞を頭に入れるのってダルくない?すごい苦手。メスショタに覚えさせときゃいいだろ。
どうせ今後十年くらい異世界語なんざ覚えられる気がしないし、翻訳スキルもどっかそこら辺に生えてるだろ。大丈夫大丈夫。
ひと通り目を通したところで、僕は資料を鞄に入れて立ち上がった。
「ちょっとその辺を見てきます。近くには居ますので」
「うん、わかった」
近辺を散策して植生を観察するのだ。
これはなかなか楽しみだぞ。
ー◆ー
ちょっと歩いただけでもなかなかの収穫があった。
食べられる野草もたくさん見つけたし、新しく覚えた薬草もちょこちょこ発見した。
お昼寝中だった蛇さんと狸さんも仕留めてある。近いうちメスショタの手によって食卓に並ぶ事だろう。
そしてとうとう発見してしまった。
先駆者であった幼女先輩がパンツ見せながら摘んでいた、いわゆる『薬草』である。MPポーションの原料になるらしい。
大量に生えていたので、環境に配慮して三分の一ほど摘んできた。もちろん根っこは残してある。体操着入れサイズの皮袋が薬草だけでパンパンである。
しかし下調べしたとは言え、こうもポンポン初見の草を発見できるとは、山籠りのおかげで僕の野草摘みスキルも育ってきているのではないか。
これは薬草摘みを専業にしてもいいかもしれない。
森の奥深くまで入れる僕なら、商売相手の幼女さんとも競合せずに済むだろう。
何しろ幼女さんは社会的強者だからな。冒険者とかいう不審者そのものの自身とは比較対象にすらならない。防犯ブザーひとつで相手を社会的に殺せる最強職である。もう完全になろうのタイトルだよな。
異世界でも似たようなもんだろう。僕にできるせめてもの抵抗はこっそりパンツ覗くくらいである。
「できたよー」
幼女さんについて想いを馳せていると、幼女おじさんの幼女ボイスが森にこだました。幼女おててで作られた幼女ごはんをいただく幼女時間である。
戻ろう戻ろう。
ー◆ー
幼女時間の前に仕留めた獲物を冷やす。雑菌の繁殖を防ぐ為だ。
内臓は既に抜いてあるので、メスショタに魔法で氷を作ってもらい獲物ごとタライに浸けておく。
軽くならした地面に、手頃な岩をテーブルに代わりにテーブルクロスを敷き、そこにお料理が並べられていた。適当な岩を椅子にして腰掛ける。
本日の昼食はサンドイッチに具沢山のスープだった。
手にしたお椀から何やら既視感のあるフレーバーが漂ってくるぞ。
これはアレだ。
「エスニック風ですね」
「うん」
何やらメスショタが自信なさげだ。微妙に眉を八の字に歪めている。
味見して美味しくなかったのだろうか。スプーンで掬って一口いただく。
うん、うまい。
ミントに生姜やニンニク、唐辛子に胡椒、あとたぶんナンプラーも入ってると思う。
ごろごろ入った鮭と野菜のお出汁も効いてる。エスニック風の粕汁やアラ汁のようだ。
とてもおいしい。パンにも間違いなく合うだろう。スーッと鼻に抜ける香りが心地いい。
サンドイッチも工夫が感じられる。
硬かったパンは蒸すか何かしてあるようで、非常に柔らかくしっとりしている。
塩漬け肉は塩抜きの時間が足りなかったのか少々塩辛いが、分量を少なくしたり野菜を多くしてバランスをとっている。
とてもおいしい。
一緒に挟んであるのは僕が今朝摘んできた野草の茎で、パンにも合うように一手間掛けてオイル煮にしたものだ。ほろ苦くて辛味が効いていてとてもおいしい。
それにオイル煮と合わせる為に、肉は蒸すか茹でるかしてノンオイルだ。
オイルにバジルっぽいハーブなども合わせてあるようで、ねっとりとした旨味が後に引く。
とてもおいしい。
「とてもおいしいですよ」
「そう?」
不満そうだ。
何が気に入らないんだろう。
「どうしたんですか?」
「えっと、思うような食材が手に入らないなって。贅沢な悩みなんだけど」
「ああ、そういう事ですか」
「本当は牛乳を入れて洋風のスープにしたかったんだよね。エスニック風にしてもココナッツミルクを使うことが多いし。作りたい料理を作れないのがストレスになってくるの」
「麦は買ってましたよね?」
「うん」
「代用品でいいなら作れると思いますよ」
「……マジで?」
表情が能面のようになった。
声も2段階くらい低い。
普段から声作ってんだよな。
身を乗り出して尋ねてくるメスショタ。
「え? どうやって?」
「あの、話しますから食べながらで構いませんか。折角の食事が冷めますから」
「う、うん」
幼女おじさんの幼女ブレインは優れている反面、その幼女アイは視野狭窄を起こしやすい。
また昨日みたいに考え込まれたら厄介なので釘を刺しておいた。
いわゆるヴィーガン向けの代用牛乳というものがあるのだ。麦とか豆をなんかすれば牛乳的なサムシングができる筈。
こちらから説明するとか言っておいてなんだが、だいぶ昔に動画で一度見たきりなのでめちゃくちゃ記憶があやふやである。
結局ごはんを食べた後に実演する事になった。期待が重いが、まあ例によってフィーリングでなんとかなるだろう。
ー◆ー
なんとかなった。
まあ蒸して水と一緒にすり潰して布で濾すだけなので失敗しようがない。
動画ではミキサーでやってた筈だが当然そんなもんは無いので、すり鉢で頑張って潰した。
「ミルクだ……」
メスショタは僕のひり出したミルクをテイスティングしている。
成分無調整なのでうまいもんでもないと思うが、なんか感慨深げなので満足しているんだろう。
手を動かしているうちに色々思い出したので付け加えておく。
若干妄想で保管してたりするので間違っているかもしれないが、まあきっと大丈夫大丈夫。
「詳しくは忘れましたが、酢や油を加えて冷やし固める事で代用バターも作れるそうです。絞りカスも食べられますよ。乾煎りして挽肉と混ぜてかさ増しにしたり、クッキーの種にもなるそうです。汁物に入れても美味しくなると思います。基本的にはおからと同じです」
「あの、山田って普段料理しないんだよね? なんでそんなに詳しいの? ミルクにしたってどこでこんな知識を……」
「ネットで調べただけですよ」
聞くんじゃない。
知識を集める事でしかマウントを取れた気になれない人種というものがこの世には居るのだ。
しかも僕の場合、マウントを取る相手に実態が無い。存在しない相手と常に戦い続けるどこに出しても恥ずかしくない毒電波サイコ野郎である。
あとは現実逃避にネットでひたすらザッピングしてたとか、大体そんなどうしようもなくしょうもない理由である。特に深いエピソードなんて無い。
まあ根底にあるのは基本的に現実逃避と人間不信と学歴コンプである。無駄に厚い学術書とかに手を出してよく挫折してるし。
ヴィーガン用の代用牛乳だって、一部の危ない政治団体とか宗教関連の情報を無意味に漁った末に辿りついた情報だったと思う。
たまにああいう知識を集めるのってなんか無性に捗るじゃんね。いや別にニュース見るのがルーティンに組み込まれてるとかそういう訳じゃないんだけど。むしろ人より一般情勢を知らない。
無駄にメイキング動画とか見るのも好き。全然賢くないのに賢くなった気分になれるもん。睡眠導入剤としても優れている。
サイエンス系とかライフハック系とか、あとサバイバル動画も好き。やはり無人島に行きたい気持ちが影響しているのかもしれない。
暇さえあればその手の動画を見ては使わない知識を溜め込んでいる。
むしろそういうのが好ましいというか。
だって職場で話の種になりそうな話題ってパチンコか風俗しかないじゃん。スマホゲーはやらんし政治は地雷だし。
僕に現実を感じさせるな。
「なんか色々隠してない? もっと持ってるでしょそういうの」
「ええと……」
メスショタが鋭い目つきで睨んでくる。かわいそうなくらい全然迫力が無い。
隠してるってなんだよ。
積極的に開示する気がないだけだ。
現状ただでさえ悪目立ちしてるのに、ろくに後ろ盾もない状態で現代知識無双とかしてたら危険極まりないだろう。組織立った連中に本格的に狙われたら確実に詰む。
その辺は君も同じ見解だと思ったんだが。今回は食欲が勝ってるのかな。
第一メスショタの作るごはんに不満なんてない。作ってくれるだけで有難いのに、ああすれば良いこうすれば良いって横から口出すとか凄い失礼じゃんね。
自分で作れよってなるじゃん。碌に料理もした事ないのにそんな真似恥ずかしくてできないわ。
仕方がないので、とりあえず自家製イーストの作り方だけ教えておいた。
ビールがあるなら発酵パンもあるだろうし、万が一他人に見られてもあまり問題ないだろう。酒税とかが絡んでる場合ちょっと厄介だが、売ったりしなければたぶん大丈夫だと思う。
僕の話を聞いたメスショタはめっちゃ興奮していた。
市場でカチカチのパンを購入していたのは単に面倒くさいからかと思っていたのだが、どうやら普通に知らなかったようである。
意外だ。コイツなら種から粉からこだわってシャレオツなスイーツ(笑)作ってそうなのに。
まあコイツも僕と違って多趣味である。時間は有限である以上知識が偏るのも当然といえば当然だろう。
作ってくれるなら僕もご相伴に預かりたい。
俄然楽しみになってきた。
「あ、でもオーブンがほしいよね。魔法でどうにかなりそうだけど。土でもオーブン作れそう」
「フライパンでも出来ると思いますよ。例によって作った事はないんですけど。ちぎりパンって知りませんか?」
まあ確かに、自分達で楽しむ分には問題ないだろう。
メスショタの魔法だって表に出せない技術が使われてるし、あまり気にし過ぎるのも良くないかもしれない。
もう開き直ってうどんとかラーメンとか作ってもいいんじゃないかな。お店でも開けばいいと思う。なろうの王道じゃんね。
その手の妄想はこの世界に来てから何度もしていた。
頑張れば化学的に合成して醤油っぽいものは作れるとは思うが、味噌は麹菌が見つからないと難しいと思う。
まあこの辺には居ないと思う。地球上では確か東アジア圏にしかいない。似たような菌はいるかな? 要するにタンパク質やデンプンを、糖とかアミノ酸とかメラノイジンとかに醸してくれる菌の人が近場にいれば味噌が作れる。
それっぽい環境を整えて検証する事は今からでもできるな。種麹を一から作る方法ってどうだったっけな。お粥を作ってカビを生やしたら灰を撒くんだっけ。
ペーハーで雑菌の繁殖がどうとか。菌の人こと何たらオリゼーさんはアルカリに強いらしい。確かそういう理屈。詳しくは忘れた。まあ仮に菌の人がいても味噌の製造には一年くらい掛かる。
あるいは豆類等を煮潰して適当に旨味成分やアルコールを添加すれば味噌っぽい物体になるかもしれない。いや難しいかな、ちょっとわからない。
まあ穀醤や魚醤以外にも草醤とか肉醤とかあるので、要するになんかを適当に塩に漬けとけば調味料的なサムシングは作れると思う。
草醤は要するに漬け物の汁なのだが、旨味や香味成分がいい感じに出るらしい。乳酸菌とかで発酵させてもいい。
肉醤は液化させるのにタンパク質分解能を持つ麹菌こと菌の人が必要だが、代わりに内臓ごと漬ければ消化酵素だかが働いて、お肉のタンパク質を溶かしてアミノ酸等に変えてくれるらしい。
魚醤が液化するのもこういう理屈だとか。
この手の醤はその名の通り、醤油の代わりに掛けたり、スープや鍋のお出汁にも使える万能調味料になる。らしい。
まあ肉醤は結構ハードルが高いが、たぶんこれが一番現実的な方法だと思う。僕は既製品の魚醤も十分おいしいと思うけど。
日本古来の卓上調味料である煎り酒という選択肢もある。梅干しに近いものってこの辺にもあるんだろうか。塩漬けのプラムとか? 代用品でも近いものは作れる気がする。
あと煎り酒といえば鰹節か。ラーメンには使わんけどうどんには欲しいよな。
鰹節もちょっと難しいと思うが、でも鰹節を作るメイキング動画は見たことあるし頑張れば似たようなものは作れるかもしれない。鰹節のカビはなんだっけ、カワキコウジカビ?はこの辺にもいると思う。モルディブフィッシュみたいなのも探せば売ってるかもしれない。
まあ普通の乾物でも出汁は取れるだろう。鮎の煮干しとかラーメンハゲがやってたし、頑張れば自作もできる気がする。そこら辺の川魚で自家製煮干しみたいなのがワンチャンいけるのでは。
昆布は相当厳しいと思う。この国をヨーロッパベースだと考えるとまずお店には売ってない。
海外でも養殖してるらしいので物自体は海に行けばあるかもしれないが、採集〜製品化するまでのメソッドを自力でこなすのは相当面倒くさそう。鰹節をDIYするよりは簡単だと思うが。
まあ昆布も鰹節と同じく適当なもので代用してもいいだろう。よく知らないが、まあ海藻なら大体似たような出汁が取れるのではないか。旨味はグルタミン酸とかイノシン酸を適当に添加すれば何とかなるだろう。
スタンダードな日本のラーメンからは外れる気がするけどドライトマトとかの干し野菜を使ってもおいしくなる気がする。生より乾物の方が旨味が豊富らしい。
豚骨スープとか鶏ガラスープは似たようなものを現状メスショタがたまに作っている。
具は置いといて後は麺か。麺は粉の種類とかもあるだろうが、まあ似たようなものは作れると思う。
白い小麦粉をメスショタが買ってたな。でもあれお高いんじゃない? お店でチラ見したけど全体的に粉が粗いというか汚い。なんか色々混ざってそう。
庶民相手に商売するなら原価率もっと下げないと売れないのでは。三割以下が理想だっけ。粉を引き直せばどうにかなるのかな。もしくは色々ブレンドするとか。
まあどうせ妄想だし適当でいいや。テンプレでは金持ち相手に商売するのもよくあるパターンだし。細かいハックはメスショタに任せとけばどうにでもなるだろう。
うどんは手打ちでいけるし、かん水って確か重曹で代用できたよな。圧延機とパスタマシンがあればラーメンもできるじゃん。
一人親方であるメスショタなら設計から加工、組立までこなせると思うし、奴なら僕の曖昧かつ適当な要望を形にする事ができるだろう。パスタマシンの出口に波型成形する機構を作ればちぢれ麺の自動化も可能だぞ。
工業化とは言わないが、自家製麺のラーメン屋もこれで異世界オープンできるじゃんね。こうして考えると普通に実現できそうな気がする。
まあ何も言わないが。
ー◆ー
結局その日はもう移動せず、その場でダラダラとする事になった。
メスショタが魔法の研究に凝り始めたからだ。どうやら昨日話していた手榴弾の製作してみたいらしい。剣とかナイフみたいに魔法でポンポン手榴弾を生み出すのが目標のようである。
なんて危険な奴だろう。やはり幼女はみんな危ない。
僕は魔法をごまかす魔法の開発を優先するようにお願いした。
要するにこの世界では詠唱したり魔方陣を出したりするのが一般的なので、その辺をうまい事ごまかすというか欺瞞するというか、またオレ何かやっちゃいました? という事態にならないようにしてほしいのだ。
メスショタはなんか面倒くさそうに生返事をしていたが、まあたぶん大丈夫だろう。
奴に急かされたのでイースト菌の仕込みも既に終わっている。煮沸消毒した容器に水と果物を皮ごと切った入れて蓋をしてある。
細かい段取りなどほぼ記憶から消えているが、基本的な理屈は酒や酢の仕込みとそう変わらなかった筈だ。
細かい穴は妄想で補完できるし、話してるうちに色々思い出してきた。
イースト菌に必要なのは糖である。葡萄や米が酒作りに適しているのはそのような理由だ。なので果物の甘さが足りないなら直接お砂糖を添加してやればより発酵しやすい。糖度が高いと雑菌も繁殖しにくくなる。
果物の皮に天然酵母さんが付いていれば、後は勝手に糖をごはんにして増えてくれると思う。一日一回くらい蓋を開けて攪拌して、何日かすればおいしいお酒ができる筈だ。濾してパン種に使おう。
天然酵母さんは最強なので、冷凍保存でもフリーズドライでも死なないぞ。弱点は火属性だ。確か25〜40度くらいが酵母さんが元気になれる温度帯なので、その辺はうまいこと調整しよう。多少のブレはまあたぶん大丈夫。
あったかくなり過ぎると乳酸菌さんと酢酸菌さんが元気になって、アルコールがお酢になったりする。この人達が元気なのは30度より上くらい。菌の培養は陣取りゲームなので、この人達が元気だと酵母さん達の人数が減る。
酵母さんがデンプンや糖をアルコールと二酸化炭素に分解するのだが、パン種が膨らむ理由がこの炭酸ガスのおかげだとか確かそういう理屈だったと思う。
揮発性の違いからアルコールは焼くと飛ぶが、お酢は残るので酸っぱいパンになる。酸っぱいのは酵母さん達の人数が少ない証拠なので、そういうパンは膨らみも悪くなる。ちなみにパンの発酵中も温度が高いと酢酸菌さんは元気になるので、温度管理は気をつけようね!
このような説明をしたらメスショタはうんうんと頷きながら考え込み始めたので、後は勝手に上手くやるだろう。ノウハウが欠けてただけで、もともと基礎的な知識はあったと思うし。
無論作った事などないので実際に出来るかどうかなど知らない。僕は基本的に知識を集めただけで満足するタイプの屑である。
ちなみに発酵関連の知識はもやしもんで覚えた。あとは大体ネット情報で補完している。酒を作ろうとして結局何もしなかった経験も今こうして活きている。
ー◆ー
一人でシコシコしているメスショタおじさんは放置して、僕は拠点製作を開始した。
竈は作ってあるので燃料の薪をそこら辺から集めて仕分けして置いておく。湿気った薪は火に当てて乾燥させないと使えない。あらかじめ段取りを整えておく。
手頃な場所を探してハンモックを吊るし、ロープを使って革製の屋根を張る。
ミントの葉を煮詰めて除虫液を作り寝床の周辺に撒く。これで大体完了だ。もうルーティンと化しているので気がついたら終わっている。
仕留めた動物の後処理もしておく。メスショタにも声を掛けて手伝って貰った。
皮を剥いで部位ごとにバラし、水で洗ったら保存容器に放り込んで、その容器ごと氷水の入ったタライに入れてしばらく放置する。
もちろん保存の為の処置なのだが、なんにしろ捌いた直後の肉はすぐには食べない。氷を換えながら何日かは置いておく。
メスショタが肉の熟成という概念を導入した結果このような形となった。
低温を保つ必要があるが、時間を置いた方が肉がおいしいらしい。時間経過で酵素の働きによってタンパク質が旨味成分のグルタミン酸とかイノシン酸に分解されるとかそういう理屈。
死後硬直なんかも一応考慮している。死んでからあまり時間の経ってないお肉は死後硬直が解けてないので硬くてまずいらしい。
ものによっては解けるまで数日掛かったりするとかなんとか。基本的に個体のサイズに比例して伸びるみたい。
知識はともかく、僕は正直その辺の区別があんまりついていない。
僕の調理はかなり適当で雑だったし、メスショタが食材の管理や調理を担当するようになってからは何を食べても全部うまいし、今まで特に意識する機会がなかった。
僕は今でも三枚おろしがうまくできない。遭難中、内臓を取らず川魚を串焼きにして酷い目にあったこともある。だってサンマも鮎もワタまで食べられるし、ああいうアウトドアの焼き魚って包丁使うイメージじゃなかったんだもん。
メスショタは手つき鮮やかに三枚おろしができるし、包丁で綺麗にウロコを取るし、スタイリッシュに切れ目とか入れて焼き目をつけるし、なんか高い位置から塩振ったりする。
調理スキルの差なんだろうか。お店で食べる肉よりも、メスショタの調理した肉の方が明らかにおいしい気がする。
肉だけじゃない。僕は貧乏舌だしあまりこだわりはないけど、お店の料理よりメスショタの料理の方が総じて味はかなり上だと思う。
なんだろう、基本的に地元で手に入る食材しか使ってない筈だが。やっぱり熟成とかその辺の問題なんだろうか。好みの味付けとかそういう次元ではない気がするし。
さて、剥いだ皮がある。これになめし処理を行うのだが、これが作業工程が多くて大変なのだ。
毛皮には汚れやダニ、ノミが付着しているので石鹸を使ってお洗濯をする。この作業もメスショタにやってもらった。ここを任せられるだけでもだいぶ楽になる。
本来なら洗い終わったら干して乾かすのだが、魔法で出した水なので一瞬で揮発する。三種の神器より便利だぜ。すごいぜ流石だぜ僕のメスショタ。
そしたら皮に残った肉や脂肪をナイフでひたすらこそげ落とすのだ。一日で片付かない場合、塩をすり込んでおけば腐らせずに済む。
なめし革など異世界に来て初めて作ったので、最初は乏しい知識とフィーリングでやっていた。駄目にしてしまった皮も多い。
メスショタに情報を仕入れて貰って、現在でも色々やり方を研究している。
ちなみに今回は水場が近くに無い。しかし飲み水には出来ないがメスショタが魔法で水やお湯を出せる。手洗いや風呂、洗濯などはこれでまかなえる。
それに僕達にはアイテムボックスなる原理不明の謎マターがある。今回の旅のために20リッター程度の井戸水を水筒に詰めておいた。それを謎マターの謎スペースにしまってある。これは飲み水として利用する。
水は腐るものだが腐りにくくする事はできる。一度煮沸し、気休めだが殺菌効果のある炭を入れ、雑菌が舞う空気に触れないよう水を隙間なく詰める。
アイテムボックス内は外界から隔離されているのかひんやりとしていてちょうど冷暗所のように機能しているようだ。
そのままでも五日から一週間くらいは保つだろう。更にメスショタ作った氷で冷やしているのでもはや保存期間はあまり気にしなくてもいい。悪くなる前に使い切るだろう。
ー◆ー
適当になめし革の作業を切り上げて、ナイフ投げの練習に入る。
昨日知らない人と戦った際にナイフを投げたがが、これが本当に心臓に悪かった。
もう気が付いたら投げてたのだが、手元が狂ってたら普通に殺人犯じゃんね。あの決闘?が法的にどう処理されるか知らんけど、こちとら甘っちょろい世界で生きてきた生粋の現代日本人である。オークさん感覚で気軽に人殺しするにはまだちょっと信心が足りない。
同じような機会があるとは思いたくないが、今後は安心して投げられるように練習をするのだ。
最近はあんまり使ってないが、あらかじめ石に紐を結びつけた簡易のスリングも僕は装備している。でもこれ鞄の容量を地味に取るのだ。2つしか入ってないのに存在感が凄い。打撃武器としても使えるので使い勝手はそこそこいいが、投げたらもう終わりだし。
この際中〜近距離の手札をナイフに切り替えちゃおうという。
女装山脈のマイホームから持ってきた木材が少々ある。それをいくつも吊り下げて的とし、距離を変えながら投げては回収してを繰り返す。
どのような投げ方をするとどのような軌道を描いて飛んでいくのか、ひたすら繰り返す事で身体に刷り込ませるのだ。
ベルトホルダーからナイフをひき出し狙いを定めて投げる。一連の動きを素早く行っていつでも正確に当てられるのが理想だ。なので毎回ホルダーにいちいちしまい直している。
今回購入したナイフは切れ味が大変宜しくないのだがスローイング用のナイフとはどうもそういうものらしい。
確かにメスショタナイフと違って簡単に折れたりしない。奴の製作したものとは方向性が真逆だ。まあちゃんと刺さるので用は満たしている。
同じく購入した手斧も試してみる。メスショタいわくこれはハチェットもしくはトマホークでフランキスカとは違うらしいが、何言ってるかよくわからない。全部斧って言えばいいと思う。
長さは柄を含めて25cm程と少々小振りだ。
筒状のホルダーに柄を入れて取り回す。安全、保全上の観点から革製のカバーで刃先を保護してあり、使用する際にはこれを外すというアクションを挟む事になる。
早速投げてみる。
的が砕けた。
気を取り直して、続けざまに別の的へ投げる。
ナイフと比べて重いので刺さりやすいし、威力も全然違う。なんというか非常に楽である。
わかってはいたが、やっぱスローイングダガーってロマン武器だよな。斧と比べてかさばらなくて軽いってくらいしか利点がない。
まあ腐らずに練習していこう。毎日やってればそのうち慣れてくると思う。
僕もメスショタ程ではないがロマン勢である。ナイフ投げるの楽しい。
単調にならないようダーツのように無回転で投げたり、サイドスローやアンダースローなど色々な投げ方を距離を変えながら試す。
延々と作業してると、脳がいらない事を考え始める。
振り向きざまに放ってみるとか、走りながらとか前転しながらとか、烈海王の真似をしたり、ガン=カタを意識して特に意味もなくくるくる回るモーションを挿入したり、素晴らしきヒィッツカラルドみたいに例のポーズで投げてみるとかそういう事をする。衝撃のアルベルトの真似をしながら投げるのは無理だった。
脳が悪いのであって僕は悪くない。基本的に人間は同じ作業に耐えられるように出来ていない。つまり人類が悪いのだ。
しばらくそうやって遊んでいると、僕の対物センサーがビンビンに反応した。
ー◆ー
イマジナリーフレンドの青髪ポニテ曰く、なんだかよくわからない生き物が近付いているらしい。
研究に邁進するメスショタが近くにいるため少々都合が悪い。
僕は草木がよく茂ったところを探してこっそりと隠れた。暗がりに紛れて相手が寄って来るのを待つ。未知の生物らしいのでひとまず観察だ。
草をかき分け、遠目に見えてきたのはワンちゃんだった。
ただ全く可愛くない。あのビースターズの主人公の持つ、賢さと愛らしさの同居した御尊顔とは似ても似つかない造形だ。
全体的にずんぐりとして筋肉質で、灰色の肌には体毛が全く生えてないようだ。鼻と眉間にシワを寄せ、長い舌をダラリと垂らしている。ネットでああいうステロイド使ってそうな犬見たことある。
眉間に大きな角が生えているのが地球のイヌとの相違点だろう。
そしてチンチンが大きかった。その威容に危うくため息が漏れそうになる。
これはメスショタとエンカウントさせてどうなるか推移を見守りたいところだ。
オークやゴブリンがそうだったように、異世界産の野犬にもレイプ属性が付いている可能性は大いにあるだろう。
あのチンチンならこれまでかなりの御活躍をしてきた筈である。これは期待が持てそうだ。
どんな子供が生まれてくるのかな。
まあ野郎が受けの獣姦レイプは流石に目の毒なので大人しく迎撃に努めよう。
追い払ってもいいが群れだった場合かなり面倒な事になる。チンチンの事もある。仕留めておいた方がいいだろう。
モンスターの生態など知らないが、野生動物は無闇に人間や他の動物に近寄る事はない。
特に人間などほとんどの野生動物からすれば未知の生き物だろう。何をしてくるかわからない。積極的に近寄りたくはない筈だ。
例外は空腹の時である。
ヒクヒクとしきりに鼻を動かす動作から、僕達の匂いを辿っているのに間違いは無いだろうが、僕の存在にはまだ気付いていないだろう。
犬の動体視力は高いが、反面動きのないものは捉えにくい。
距離や威力の関係から投石で仕留めるのが一番手っ取り早いだろうが、今回はナイフの練習とさせて貰おう。
命で遊ぶような真似は自分でもあまり愉快ではないのだが、実践で試すのが一番上達する。
なんの許しにもならないがせめて真剣にやろう。
まだ20m程の距離がある。
音を立てないよう徐々に姿勢を低くして、ほとんど胸が地面に接するような、腕立て伏せのような体勢でじっと待つ。
哺乳類の骨格構造は種類に関わらずおおよそ共通している。
このナイフで骨を貫通させる事は無理だろう。
頭部は頭蓋骨で覆われていて胸は肋骨に守られている。腹では即死させる事ができない。
致命傷を狙うなら気道や大動脈が通っている首や喉だ。ただし高い位置からだと頭部が邪魔で狙えない。そのための超低姿勢である。
アンダースローで投げられるよう構えをとる。先程していた闇雲な練習が早速活かせそうだ。
ただ犬の動体視力は高い。人間並のゴブリンやオークとは違う。意識の虚を突かなければ避けられるだろう。当てるには工夫が必要だ。
静かに深く息を吸い、じっと相手を観察する。
仕草から、やはり匂いを頼りに追っているのが見てとれた。僕達の残した匂いに反応しているのだろう。徐々にこちらへ近づいてくる。
現在はほぼ無風で湿度もそれほど高くない。匂いのもととなる揮発性物質は水分と結びつきやすく、湿度が高いほど空気中に滞留しやすい。現在は真逆だ。乾燥した空気は匂いをすぐ霧散させる。隠れた僕を見つけるのは困難だろう。
7mまで近付いた。
呼吸を止める。
相手がこちらを向いたのに反応して腕が動いた。
ナイフは肘のスナップで投げる。姿勢の関係上可動域が上手く取れないが、僕の関節は人より柔らかい。
向こうからは影に紛れて僕の動きは見えない。真正面から飛ぶナイフのシルエットは捉えられない。
僅かな風切り音が僕の耳に届いた。
回転して飛んだナイフは、ちょうど喉の下あたりに突き立った。
驚いたようにキャンと鳴き、逆方向へ逃げるように勢いよく走り出したが、十数メートルも走らないうちに彼は倒れた。
草陰から身を出して近くに行くと、弱々しく動いてこちらを見上げている。この瞬間はいつになっても苦手だ。
僕は心臓部にナイフを突き立てて速やかにとどめを刺した。手を合わせて黙祷する。
大きく息を吐く。上手くいった。
上手くいったのはいいが、やっぱナイフはスナイプに向かないわ。威力がうんち。オークさんの群れに突っ込んだ方がまだ中距離戦の練習になりそう。
普通に斧使えばよかった。
とりあえず野犬さんを担いでメスショタのところまで行く。
ところで犬ってモンスターなのかな。どこで線引きすんだろう。
ー◆ー
「これは大きいね……」
「ですよね」
「すごいね。こう……、根元が膨らむんだっけ。それにもっと大きくなるんだよね? 裂けちゃいそう。……うわ血管すご」
「この力強いデザインがいいと思うんですよ。突起した先端が人間にはない魅力です」
幼女おじさんとチンチンを見た所感を言い合う。
しばらく盛り上がった。




