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山田と佐藤  作者: うんち
2章
15/23

15話 アンリミテッドブレイドワークス

ー◆不審者視点◆ー





 山中、前方20m程の距離を置いて、樹々の隙間からオークさんの群れを確認できた。





「佐藤さん。宜しくお願いします」


「うん」





 隣に立ったメスショタおじさんにお願いする。

 奴は徹夜明けの直後のようにギラギラとした目をしていた。



 奴が両手に持つ杖を掲げると、僕の2mほど前方の空間から、鈍色(にびいろ)に輝く金属塊が出現した。



 その塊は、重力加速度を得て地面に向かい落下していく。



 しかし、塊は急速に膨れ上がり、ほとんど一瞬と言っていい時間を経て、刀剣へとその形を変えた。



 軽い音を立てて刀剣が地面へと突き立つ。

 鈍い光を放つ、美しいロングソードだ。



 メスショタの魔力で創り出した剣なので、何もせずに放っておくと10秒ほどで消えてしまうのだが、僕はすぐには動かなかった。



 1本目の剣が地面に刺さる間にも、次々と新しい武器が、虚空から生み出されては落ちていく。

 剣だけでなく槍や斧、日本刀とかククリ刀とか、何だか名前がよくわからないものまで矢継ぎ早に突き立った。



 10秒ほどで、目の前には都合40本くらいの得物が並んだ。

 ここからは僕の出番である。



 僕は一気に距離を詰め、両手に剣と斧を掴むと、まず右手に掴んだ剣をオークさんに向かって、投球フォームで放り投げた。



 僕はものを投げるのが得意な方だ。

 当たったかどうかの確認はせず、すぐに空いた手で近くに立っている剣を掴む。



 そのまま寸毫(すんごう)の間も置かず、流れるように左手の斧を目についたオークさんに投げる。

 一瞬途切れた視界には、頭を抑え(うずくま)ったオークさんの姿があった。

 死んでいない。

 どうやら目測を誤ったらしい。

 フォームを微修正してもう一度投げる。



 動きは止めない。

 僕は運動神経がわりといい。

 無呼吸で矢継ぎ早に凶器を(ほお)っていく。



 コマ送りのように時々切れる視界には、時間を経るごとに混乱をきたし、次々と身体から武器を生やすオークさん達。



 すごいぞ僕のメスショタ。

 かっこいいぞメスショタ。

 頭おかしくなった僕のテンションは上がりっぱなしだった。



 僕とメスショタは、次の町に向かう道中で色々脱線した結果、無限の剣製アンリミテッドブレイドワークスごっこをして遊んでいた。






ー◆ー






 コソコソと立ち寄ったマイホームにドルオタ達の気配は無く、僕達は無事に自分達の荷物を回収できた。



 中にはメスショタが丹精込めて作った調理器具などもあり、アナル弱い人に貰った得体の知れないアイテムボックスとやらに、荷物を詰め込めるだけ詰め込んだ。



 大きめのクローゼット2つ分くらいの容量があるとの事だが、具体的にどれほど入るのかよくわからない。

 整理の仕方とかで変わると思うのだが。

 とりあえず持っていきたいものは全部入った。



 縦40cm横25cmサイズの皮袋で、四次元ポケット形式ではなく、中に入れたものを亜空間に転送するタイプである。



 袋の口を閉めて魔力を込めると、中に入れた物が消えるのだ。

 つまり袋の大きさ以上のものは入らない。

 出すときは欲しい物を思い浮かべて魔力を込めると、モリッと袋が膨らんで欲しい物が出てくる。

 出てこなかったら怖いので、一応何回か実験はした。



 そう、このアイテムボックス、出し入れするのに魔力が必要なのだ。

 しかも謎空間を維持するのにも魔力を消費するらしい。

 微々たる量だそうだが、半日程経つと袋が破れて中身が全部出てくる仕様だ。

 よって常に携帯する必要がある。



 僕には使えそうにない。

 しかし僕も触りたくないので都合がいい。

 ウィンウィンである。

 メスショタが必死こいて荷物を詰めているのを、僕はボーッと眺めていた。






ー◆ー






 現在は町を発って1日目、深夜の食事時である。





「佐藤さん。魔力や魔法について、もう少し詳しく教えて頂けませんか?」





 今は食後の軽いティータイムである。

 メスショタが酒を飲めなかった腹いせに、お手製のボウルを使って作ったドーナツが目の前にある。



 それをお茶請けに、お茶を(すす)りながらメスショタに、先程の問いを投げかけてみたのだ。





「ん? 急にどうしたの?」


「いえ、少し気になる事がありまして。僕も魔法について少しは知っておこうかと」


「別にいいけど……」





 ドーナツを一口放り、腑に落ちない顔をしながら、咀嚼してお茶を啜るメスショタ。



 この質問をした理由はまあ色々あるのだが、現時点でメスショタに話しても恐らく良い事はない。

 気になる事とは、僕の妄想が生んだ懸念である。






*★*






 アイテムボックスを渡された時から、それに罠が仕掛けられている可能性を色々と考えてみた。



 第一に、僕はアナル弱い人の善意をあまり疑っていない。



 同時に、ドルオタのお家とやらにとって、僕は厄介の種でしかない。

 僕が生きている限り、興奮したドルオタが、今まで平穏だったお家の組織関係をぶち壊しまくる可能性が常にある。



 現状殺すほどでは無いだろうが、最悪の場合を想定して保険を打とうと考えるのは、組織に働く者であれば当然の発想である。

 少なくとも僕はそのように考えるし、サラリーマンであるアナル弱い人も同じような思考をするだろう。



 連絡を取り合う事になったのもその一環だろう。

 手紙を出すには常に互いの居場所を教え合わねばならない。

 いざと言う時にはいつでも始末出来る、という保険が担保できる。



 上司に対する保険という名の「言い訳」を用意した上で、組織人としての彼女、あるいは彼女達は僕達を逃がすという形で便宜を図ってくれている。



 しかし便宜と言えば、アイテムボックスを渡されたのが、僕の疑念を大きくした発端なのだが。



 現代に置き換えればわかりやすいと思うのだが、急に大金を渡してくる奴はヤクザか政治屋と相場が決まっている。

 なにか裏があると考えて当然だろう。



 色々ごちゃごちゃと考えたのだが、僕はアナルの弱いサラさんと、即ハメビッチエミリさんを信じてみる事にした。



 現時点で罠を仕込めるのが彼女達しか居ない以上、仮に仕掛けられていたとしても、それほど悪辣(あくらつ)なものでは無いだろうと思ったのだ。



 バレると見越して渡した可能性すらある。

 僕にバレても問題がなく、上司に言い訳の利く代物を仕掛ければいい。



 彼女達にとって、現時点で僕を敵に回すメリットはほぼ無い。

 信用を失くして僕が姿を(くら)ませれば、用意した保険を失ってしまう。

 故にそのような博打を彼女は打たないと思う。



 僕とアナル弱い人の思考は似ている気がする。



 あの人とは、とても会話がしやすかった。






*★*






 色々妄想した結果、恐らく緊急性は低く見積もっていいと判断した。



 僕達からアナル弱い人との縁を切るデメリットは勿論存在する。

 ドルオタの情報が入ってこなくなるのはとても痛い。

 未来永劫ドルオタの影に怯え続けるなど本当に御免である。



 バレても事情を汲んで、僕達がそれを飲み込める程度の仕掛けが、この場合だと両者にとって最も都合がいいのだ。



 仮に仕掛けがあったとして、例えば居場所を特定する装置である。

 現代のGPSのようなものが仕込まれており、定期的に位置情報を発信して向こう側がそれを受け取るような仕組みだ。



 既に居場所は教え合っている。

 だが保険というものはいくらあってもいい。

 僕が気付いてないとポーズを取るのが肝だ。

 上司に説得力を持たせるには十分な材料だろう。



 しかし僕はそもそも、魔法というものの理屈を全く理解していない。

 メスショタから聞いたほんの触り程度の情報がせいぜいである。



 いずれ調べる必要はあるだろうが、ひとまず罠うんぬんは置いといて、この際魔法について勉強してみようと思ったのだ。

 この世界を動かす仕組みについて、最低限でも理解しとかないとこの先いろいろ危ない気がする。



 それに、僕が魔法を使えるようになる可能性もある。



 まあ僕にはメスショタおじさんがいるので、現状不便を感じてる訳ではないが。

 あと元厨二病罹患者として、魔法に対してがっつきたくないという強い抵抗がある。

 なんか恥ずかしいじゃんね。





「て言っても、何から説明すればいいのかな……」


「そうですね……、では具体的なところから。この世界の通信技術はどうなっているのですか?」


「うーん。私もよく知らないんだけど、ギルドで拾った話では、魔法だか魔道具だかで遠くの相手と通信してる、ってニュアンスの話を横でチラッと聞いたことはあるよ。基本的な通信媒体は手紙みたいだけど」


「では、電波やアンテナのような理屈で情報の送受信を行っているんでしょうか」





 音声通話でなくても、ONとOFFさえ判断できれば、モールスのように情報のやり取りをすることは可能だ。





「……色々見聞きした上で、私が勝手に作った仮説なんだけど、それに従えばおおむねその理解で合ってると思う」


「仮説ですか?」


「私が聞く限りなんだけど、色々な宗派があって、それぞれが色んな説を主張してる段階で、まだ理論が統一されてないみたいなんだよね。でも聞いててもピンと来ないし。だから私が納得しやすい理屈で勝手に筋道立ててみた」


「なるほど」


「今回の件で言えば、どの宗派が言ってる事も根っこの理屈は同じだと思うんだ。魔力を波のように飛ばして、周波数を合わせた人がそれを受け取ってるんだと思う。根拠としては……」





 それから長ったらしい話になった。

 時々現代の知識を持ち出しては、波や電波の性質やら電磁界がどうたらとか絡めて、奴が自分なりに検証して組み立てた、魔力の性質の理論というものを延々と展開した。



 メスショタも僕の事はわかっているので、語り口はわりと易しいのだが、ちょくちょく挟まれる魔道具とかの厨二ワードが鼻につくし、長引きそうな上に学歴コンプで憤死しそうになったので、エーテル仮説がどうたらとか言い始めた辺りで話を戻す事にした。





「では佐藤さんの仮説では、魔力とは電波のような性質も併せ持っているという事ですか。魔法による通信とは、トランシーバーのように人間が魔力の波を飛ばし、それをまた人間が受け取るという流れなのですね?」


「うん。まあ通信に関してはそもそも既存のものを知らないからほとんど憶測なんだけど、魔力が波の性質を持ってるっていうのはそんなに外れてないと思う」





 喋り疲れたのか、お茶を一口飲むメスショタ。

 勢いの良い飲みっぷりから、どうやらすっかり冷めているようだ。



 メスショタの言う事なので、この話には一定の信頼が置ける。



 それに現代に於ける、先人によって積み重ねられた科学の発想とは、僕が想像している以上に果てしなく大きいものだろう。

 地球上でもウジは腐った肉塊などが変質して発生するものと永らく信じられ、虚数は自然法則に反する実態の無いものだと禁忌のように扱われてきたのだ。

 天動説などはその最たるものだろう。

 宗教などの権威が絡むと、簡単に道理が捻じ曲がるのだ。



 この世界の人達を軽んじる訳ではないし、魔法があるので実際のところの知識水準はよくわからないが、自然科学の隠された性質に気付いてなくても何も不思議ではない。

 思い込みとは崩し(がた)く、また権威に縛られる。

 それを覆した発想の飛躍とは、それだけ偉大なものなのだろう。



 新しい常識を受け入れるには、それに相応しい土壌が必要だ。

 転換点を迎えるには、多大な時間が必要なのだ。

 培った常識は変えがたい故に常識と言うのだ。

 人間なら誰だってそうだ。

 僕だって人の事は言えない。



 とかなんとか、何やら遠大な事をつらつらと考えつつ、意識を目の前に戻す。

 モソモソとドーナツを食っているメスショタ。

 じゃあコイツも電波とか受信できるのかな。

 結構メンヘラの素質がありそうだし、キャラに即してはいると思うが。





「では佐藤さんも……、便宜上電波としましょう。電波を受信する事は出来るのですか?」


「理屈としては出来るし、何なら今からでも出来ると思うけど……」





 そう言って目を閉じたメスショタ。



 しばらく待ってみると、何やら難しい顔をし始め、少し経ったところで、水中から顔を出したように目を開けた。

 集中したからか疲れているようだ。





「やっぱり無理。感度をめちゃめちゃに上げれば色々拾えるんだけど、小さすぎるし意味のある情報として拾えない。妙なノイズも大きくなるし、そもそも電波がほとんど届いて無いんだと思う」


「そうですか……」


「増幅するとか周波数を合わせるとか、暗号化されたのをデコードするみたいな手順が必要だと思うんだけど、私の使える魔法でそれをするやり方がわからないの」


「なるほど」





 道理である。



 もう少し話を進めてもいいのだが、メスショタも疲れているようだし、別段急ぐ話でもない。

 別の方向に水を向けよう。





「では話は変わるのですが、佐藤さんが戦闘に使用する魔法に関して……」





 それからいくらか話をして、僕達はおねんねする事になった。






ー◆ー






 ところで、巣の探索に出発してからなのだが、メスショタが執拗に僕のハンモックに入り込もうとする。



 淫乱フレンズと別れ、町を出て以降もなぜか延々と手を繋いでくるし、ひょっとしなくても時系列的に、百合学園な理由が発端だろうか。

 フレンズと関わってから奴の様子がおかしい。



 僕も詳しくは聞いたりしないので、コイツの抱える屈折した事情はわからないが、僕の寝床に執着する奴の強張(こわば)った表情からして、決して愉快な理由からそうしようと考えた訳ではないのはわかる。



 これでメスショタの容姿が、四十代の脂ぎったオッサンとかだったら僕も御免なのだが、コイツは純度99%の洋物幼女なので、チンチンがついている以外に特に拒む理由がない。



 もう連日これなので、既に脳もバグらなくなってきた。

 ただ暑いので、初日以降はハンモックを合体させる事で妥協して貰っている。



 奴の生暖かいおてての感触を背筋に感じながら、青髪ポニテとゴブリンさんに見守られて僕は眠りについた。






ー◆ー






 話の流れで、翌日から移動をしつつ、並行して魔法の実験というか、研究をする事になった。



 というのも、奴はこれまで火炎放射や電撃、爆破、放水などの、実戦で必要な魔法しか使ってこなかったらしい。



 本人的には色々試してみたかったそうだが、なんでも魔力とは基本的に食物から得るものらしく、貧困の極みにあった奴にはそのような事をする余裕がなかったようだ。

 格差とは拡がるばかりで、縮まらないのは異世界でも同じらしい。

 世知辛(せちがら)いなあ。

 相変わらず現実はクソである。



 道中で小休止したとき、とりあえず攻撃魔法を一通り見せて貰った。



 もう半月以上も共に生活しているので本当に今更なのだが、今までモンスターは僕が全部倒してきたので、出会った以降からメスショタはそもそも戦闘に加わっていない。



 見せて貰った結果、僕のテンションは爆上がりした。



 爆破魔法が完全にマスタング大佐じゃんね。

 僕が奴をチラ見すると、ドヤ顔でメスガキムーブしてきたので、やはりコイツもハガレンを意識していたようだ。

 なんか悔しいぜ。



 恐らく、爆破点に可燃性の粒子とかを大量発生させ、その中に火種かなんかを作ったのだろう。

 そのようなエフェクトがあった。

 指パッチンがないのがとても惜しいが、基本的な原理はまるっきり同じである。



 直径5m程にわたり、その範囲にあったものが粗方(あらかた)消し飛んでいる。

 爆心地は大きく抉れており、その威力の高さを物語っていた。





「凄まじい威力ですね……。これではオークなどひとたまりもないのでは?」


「これ、凄く集中力がいるの。屋外で使うと粒子が散っちゃうから、なるべく早く全工程を終わらせないといけないし。威力も高すぎて気軽に使えないし。調整にも神経使うし。あと耳がすごい痛い」





 確かにクッソうるさかった。

 マスタング大佐の鼓膜は凄い。





「咄嗟に撃つならやっぱり放水銃になっちゃうかな。他のは事故が怖くて気軽に使えないよ」


「暴徒鎮圧用の放水ような魔法ですね。牽制にはあれで充分でしょう」


「うん。それでミーナちゃんに前に出て貰って、私が後ろから電撃で一匹づつ仕留めるってパターンが多かったかな」


「なるほど」





 先程見たのは杖から飛ばす感じじゃなく、攻撃点にピンポイントで青白い電気がバチンと発生している感じだった。

 原理はよくわからないが、静電気みたいに負帯電した物体かなんかを近くに出すとかしたのだろうか。



 特筆すべきは、距離に囚われずに魔法を行使している点である。



 何となく杖から出すイメージだったのだが、爆破や電撃の魔法はそれでは説明ができない。

 これは新たな発見である。






ー◆ー






 とりあえず、次にモンスターを見つけたらメスショタに仕留めて貰うことになった。

 山の王たる僕が居れば確実に先制が取れるので、十分に集中する時間が確保できるだろう。





「ほんと山田は斥候として破格の性能だよね。私があの子達と仕事してたときは、こんなにのんびり歩いてられなかったもん」


「どうでしょう。僕がこの山に慣れているのもあるのでしょうが、種族獣人の方や探知魔法みたいなものもあるんじゃないですか?」





 そんな感じでダラダラと歩きながら、モンスターを発見してはメスショタおじさんに狩って貰った。


 どうやら集中する時間さえあれば、結構な規模の行使にも支障はないようだ。

 10匹からなるゴブリンさんの集団が、電撃による心肺停止で一斉にお亡くなりになったりした。

 頭上に水塊を発生させ、全身水浸しにした直後に感電させるという、合理的かつ凶悪なやり口である。



 証拠は残らないし、暗殺者とか向いてそう。

 魔法使いって皆こんなやばい連中なんだろうか。



 ただ、燃費があまりよくないらしい。

 本日4回目のモンスターさんとの遭遇のあと、本人から魔力が残り少ないと自己申告があった。



 さっきお昼ごはん食べたばっかりなのだが、どうやら魔力を消化吸収するのに時間が必要なようだ。

 まあ生物である以上当たり前である。



 とか思っていると、メスショタは陶器の瓶を取り出してゴクゴク飲み始めた。



 それはなんだと尋ねると、案の定MPポーションという答えが返ってきた。

 しかもよくよく尋ねてみると、僕の幼女達が摘んでいたあの薬草が原料らしい。

 なら頑張れば自作できそうじゃんね。





ー◆ー





 まあ横道に逸れるので、今は魔法の研究に集中しよう。

 休憩がてら色々質問してみる。

 テーマは燃費の向上だ。



 岩に腰掛けて水を飲むメスショタ先生に質問してみた。





「どのような条件で、必要となる魔力が増えてしまうのでしょう。やはり規模や距離に依存してくるのでしょうか?」


「うん。感覚的には距離があればあるほど魔力を持っていかれる感じがするね。あとは……、たぶん創ったものの総質量とか熱量とかと比例関係にあると思う。その日の調子もあるし、感覚的なものだから定量化しにくいんだけど」


「なるほど」


「それと運動エネルギーを持たせるかどうかかな。だから放水銃って実はコスパがあんまり良くないの。気軽に使える点は便利なんだけどね」


「佐藤さんの魔法で創った物は、消える条件に距離は関わらないんですよね?」





 放水銃で出した水は、綺麗な放物線を描いて遠くまで飛んでいった。

 つまり魔法で出した物質は時間経過で消えるが、消えるまでに遠くに飛ばす事はできるという事だ。





「うん」


「では、僕が投げて運用するのはどうでしょうか」


「例えばどんな物を?」


「ええと、では手榴弾のような……」


「えっ、う〜ん……」





 幼女おじさんが考え込んでいる。

 こうして見ると知性とは無縁そうなのに、人間外見ではわからないものだ。





「黒色火薬の原料って硫黄と木炭と硝石? 割合もわかんないし、火薬の実物って花火ぐらいしか見た事ないからなあ……。あと、着火する機構を作んなきゃいけないよね。模型を作って、それで時間を掛ければ……?」


「時間を掛けると消えてしまうのでは?」


「あ、ええとね。つい最近気づいたんだけど、魔力を流し続ければ消えずに維持できるみたいなの。料理してるとき、面倒になってえいって試したら出来た」


「なるほど」


「だから複雑な形のものでも、見本があれば粘土細工みたいにできるんじゃないかなって」


「では……、こういった物から試してみましょうか?」





 僕は鞄からナイフと、背負っていた剣をメスショタの前に置いてみた。





「……なるほど。スローイングダガーってあるもんね。剣も投げられない事はないだろうし」


「ええ。投石も気に入ってるんですが、適当な石を見つけるのに手間取ったりしますし。佐藤さんに創って頂ければ残弾数を気にする必要もなくなります。費用対効果にもよりますが、選択肢の一つとしてはアリかと」


「……わかった。とりあえずやってみるね」





 そういう事になった。






ー◆ー






 それから数日ほど、僕達は色々やってみた。



 メスショタがナイフ1本ひり出すのにえらい時間掛かったり、ひり出したナイフがやけに脆かったり、魔力が切れ掛かってアヘアヘしたり。

 僕が投げナイフの練習をして肩が死んだり、格好つけて両手投げの練習して左肩が死んだり、剣が投げるには重過ぎてやっぱり肩が死んだりした。



 そこで僕は、素材をガラスにする事を提案してみた。



 例によって出所(でどころ)はネットなのだが、ガラスナイフというものがある。

 鋭いガラスは切れ味がとても良い。

 衝撃には弱いがどうせすぐに消えるし、今回の運用に至っては特に問題にならないだろう。



 鉄より比重が軽いので、質量によって必要となる魔力量が左右されるメスショタの負担は減るだろうし、投げる僕も楽になる。

 一石二鳥のアイデアではないか。



 でもガラス製だと、投げて使うにはあんまり向いてなかった。

 皮肉にも重みが足りなくて刺さりにくい。

 色々試すうちに、悪ノリしたメスショタが槍を作り始めたので、負けじと僕もそれを投げてみた。

 的から跳ね返ってとても怖い思いをした。



 それからまた二人でアヘアヘしながら色々とこなし、また数日が過ぎていった。

 テンションがおかしくなった僕達は、気がついたらオークさん相手に無限の剣製ごっこをしていた。






ー◆ー






 今やメスショタの武器の生成速度は、最初とは比較にもならない。

 イラストレーターが何も見ず、素早く車の絵を描けるように、奴の脳裏には様々な武具の像が深く刻まれているのだろう。



 初めはナイフひとつ投げるのにも苦労をしていたのだが、コツというものは大凡(おおよそ)あらゆる道理に通ずるものがある。

 得物の形や重心で、それに適した投げ方というものがあるのを、身体が教えてくれるのだ。



 刀や斧は回転させて投げる。

 運動エネルギーを高く保持できるので威力が出るが、回転しているが故に刀身を当てるのに技術がいる。

 槍は全身を使って投げる。

 距離が近いので当てるのが非常に楽だ。

 貫通力が高いので、身体の中心に当てれば一撃で致命傷になる。



 全身が熱くなってきた。

 意味のない全身運動や無呼吸運動などする必要はないと、僕の冷静な部分が訴えている。



 しかし、見栄え重視なのが最高に楽しいのだ。

 投げるポーズにだって気を使うし、メスショタ謹製(きんせい)の厨二装備超カッコいい。

 見ろよ、奴も楽しそうにはしゃいでるぞ。

 口が半開きでコロンビアのポーズ取ってるし、ずっと目の焦点が僕と同じで合ってないもん。



 あっという間にオークさん達はバタバタと倒れていく。

 7割ほど減らした辺りで、ようやくアホ共は撤退行動に移ろうとしていたが、もう遅いので全員無事死亡した。



 終わった終わった。

 荒く息をつく。

 全身が熱いがいい気分だ。

 流れる汗も僕にしたら爽やかだぜ。

 身体をほぐして水筒を取り出す。

 水がとてもうまい。



 メスショタと二人、異様なテンションでオークさんの元に向かう。

 勝者の証である、右耳を千切り取るためだ。






ー◆ー






 現場に(おもむ)き、倒れたオークさん達の姿を眺めて、僕はちょっと冷静になった。



 豚さんチックな造形のためわかりづらいが、苦しんだだろう表情を浮かべるオークさん達。



 刺さった凶器が消えているため血液が壮大に流れ、そこかしこに大きな血溜まりを作っている。

 数も15程いて、ここだけ戦場か何かのような有り様である。

 一方的な虐殺と言った方がより適切だろう。



 メスショタ謹製の、鋭く硬く重量のある刃物でも、刃先が上手く入らないと骨を貫通させる事は難しい。

 中には全身に数ヶ所傷を負った個体が居た。

 苦しんで逝った筈だ。



 もちろん彼等は人類の敵だし、異種姦レイプの現場だって何度も見ている。

 何より僕自身幾度も殺し合ってきた仲で、結果的に僕が生き残っただけだ。

 今更殺すのに躊躇は無いし、殺した数だって、もはや百や二百では足りないだろう。



 しかし、先程のように楽しんで殺すのは違うと思う。

 非常によくない。

 オナニーと何も変わらないじゃんね。

 しかも相手がメスショタとはいえ他人の前ではしゃいじゃったし。

 何やってんだろう。



 とてもテンションが下がってきた。

 無言で淡々とお耳を切り取る作業に入る。

 僕の感傷に意味など無いが、これ以上彼等の亡骸の前で阿呆のようにはしゃぐ気持ちにはとてもなれない。



 メスショタも無言で作業に移っていた。

 僕を見て合わせたのか、しかしテンションは低そうだ。

 ただ、魔法で出したガラスナイフを使っていた。



 研ぎの問題もあると思うが、切れ味が普段使いのものとは比較にならないほど良いのだ。

 軽く触れただけで気付かないうちに肌を切ってしまう程である。

 これだけ見ても今回の研究の成果は大きい。



 それを思うと少し持ち直してきた。

 妙なテンションになったのはアレだが、とてもいい研究ができたと思う。






ー◆ー






 作業を終え、一度山道に出て総括(そうかつ)を行う。





「普段使うには、スローイングダガーのような方式で運用するのが一番でしょうか」


「さっきのは完全にロマン技だもんね。山田、ちょっと左手出してみて」





 言われた通りにすると、手の平に小さな金属片がいくつか出現し、急速に膨らんだそれらが5本のダガーに形を成した。



 わざわざメスショタが、木製の模型まで作って完成させた逸品である。

 両刃でありクナイに近い造形で、(つか)には軽量化の為か単にデザインの為か、いい感じの肉抜きが施されている。



 研究の結果、重心が中央にないと変な軌道で飛ぶという事がわかったので、その辺は考慮されているんだろう。

 とにかく厨二的に格好いいダガーなのだ。

 FFに出てきそう。



 次いで杖を構えると、僕達から15m程の距離を置いて、魔法で的らしきものを生み出した。



 茶色で木製にも見えるが、素材はよくわからない。

 創り慣れていないためか、完成まで相当な時間を要した上に、遠目に見ても造形が極めて適当だ。

 ドラえもんの生首を置いただけみたいな。



 まあ言いたい事はわかったので投げてみる。



 放物線を描いて飛んだナイフは一応的に当たったのだが、当たりどころが悪かったのか弾かれた。

 折れてしまったようだがよくある事だ。

 どうせ消えるので特に問題としていない。



 フォームを微修正して次を投げると、今度は無事に刺さった。

 それから矢継ぎ早に投げ、残り全てが的に当たった。

 しかもほぼ中央に集中する集弾率である。



 しかしやはり難しい。

 距離を正確に測らないと、先程のように弾かれてしまう。

 回転して飛ぶナイフの先端を当てなければ刺さらないのだ。

 その上、軸が少しブレただけでも弾かれる。



 ダーツのように無回転で投げる事もできるが威力は下がる。

 実用性を持たせるには、もう少し工夫や慣れが必要だろう。


 まあナイフ投げ自体、ロマン技みたいなとこある。

 僕もロマンを求めて必死こいて練習したけど、正直投石の方が威力あるし楽だと思う。





「放水銃に比べたら負担がかなり少ないし、結構使えそうだよね」





 でもメスショタのキラッキラした目を見ると何も言えないじゃんね。

 コイツ僕がなんでもできると思ってる節がある。





「補充が容易ですし、投石と違って連射も可能なので使い所はあると思います。烈海王みたいなスタイルで戦えるのは面白いですよね。……ちなみにこれ、佐藤さんならゲートオブバビロンみたいに運用できるんじゃないですか?」


「えっ!?」





 虚を突かれたという顔をしたメスショタ。

 むしろ真っ先に思い付きそうなもんだと思うのだが。



 メスショタの魔法は生成時、指定した方向に運動エネルギーを持たせる事ができる筈だ。

 そうでないと放水銃が実現できない。

 杖から出た水がダバダバと足元に溢れるだけになってしまう。



 よってダガーや剣も、理屈の上ではバビロンできる筈なのだ。

 僕が投げるよりも速度が出せると思うし、軸をブレらさずに撃つのも容易だろう。



 しばらく悩んだメスショタは杖を構え、消えてしまったアンパンマンの顔をもう一度出すと、そのまま構えた杖から金属塊を飛ばした。



 やはり凄まじい速度だ。

 それは目標のだいぶ上方を直線軌道で飛んで、そのまま視界から高速で消えていった。





「……」





 無言になったメスショタが、今度は本家っぽく背後から大量に射出し始めた。

 一斉に飛来したそれらが生首目掛け勢いよく飛んでいく。



 しかし、得物同士が空中で衝突したり、見当違いの方向に飛んでいったり地面に刺さったりして、目標には1本も当たらなかった。

 流石メスショタだぜ。

 使い物にならねえ。

 運動神経が悪いと射撃のセンスも悪くなるのか。

 のび太君見習えよ。



 などと思っていたら、スコンという小気味のいい音がした。

 見れば、槍が一本的に刺さっている。



 しかしタイミングがおかしいし、ずっと見ていたが何か飛んでいった様子もなかった。

 ……なるほど野郎ズルしやがった。

 恐らく目標のすぐ近くで槍を生成したのだ。

 それでも当たったのが端っこなのが、絶望的なセンスの無さを否応無しに見せつけてくる。





「……どうですか?」


「うるせえこの野郎……。これだと電撃よりコストが掛かりそうだし、やっぱり山田に使って貰うのが一番良さそうかな」


「佐藤さんは既に範囲マップ攻撃を使えますしね。もともと僕が投げて運用するという趣旨ですし、初期製作としては十分過ぎる成果かと」


「次はどうしよう? 前に言ってたみたいに手榴弾でも作ってみる? 今回ので色々勉強になったから、次はもっと複雑なものでも大丈夫だと思うの」





 メスショタがワクワクしていらっしゃる。

 武器製作が楽しくて仕方ないようだ。

 厨二武器の木製等身大スケールの模型も大量製作してたし、DIYの件といいお前こういうの好きだよね。

 僕もだけど。





「いえ、考えたのですが……」





 僕のゴーストから緊急のメッセが入った。

 誰か近付いてくるようだ。



 無言でメスショタの腕を引き、身を隠す為に山道から外れた樹々の中に入っていく。

 慣れたもので、最早奴もこういうときに何か抵抗したりする愚を(おか)さない。



 通りからやや離れたところにコソコソと身を隠す。

 木の陰でしゃがんだメスショタが小さく口を開いた。





「アランさん?」


「いえ、来る方向が町とは真逆です。しかし、この人数は……」





 次々と届くメッセから、どうやら人の塊が列を為して、延々と続いているらしい。

 最初は商隊かと思ったが、それにしては数が多過ぎる。



 これでは軍隊のようだ。

 ていうかまさしく軍隊である。





「あの、佐藤さん。僕達が山に入ってから何日経ちましたっけ」


「え? えっと、9日。…………あ」





 メスショタも気付いてしまった。

 やっちまったという表情をしている。



 オークの討伐軍とやらにかち合ってしまったようだ。







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