14話 ドルオタ②
ー◆不審者視点◆ー
なんというか、非常に混乱しているのだが、ともかくオークの巣は出発して3日目に発見し、それから強行軍で歩き通し、1日で僕達は町に帰還した。
ー◆ー
この三ヶ月間達成した者がおらず、また何組も帰ってこないパーティーが出てくるような依頼であるという話だったし、報告の際に騒ぎになるだろう事は簡単に予想できた。
悪目立ちしている僕達は、報告しに行きたくなくて町に近づくごとに鬱々としていたのだが、それを察した淫乱フレンズがその役目を買って出てくれたのだ。
ー◆ー
現在僕はメスショタと共に、ギルドからやや離れた路地の陰にコソコソと隠れている。
2人が中に入ってしばらく経つと、ギルドからドッと大きく響くような騒めきがこちらまで届いてきた。
僕はそれを聞いて辟易とした。
白い目で見られるのも嫌だが、宴だー!みたいなノリに巻き込まれるのも僕は御免である。
今ギルドで何が起きてるか知らないが、注目されてるのは恐らく間違いないだろう。
「うぇ……」
メスショタも眉を寄せ口元を引き攣らせている。
同じような想いを抱えているのだろう。
僕は言うまでもなくアレだが、メスショタも高校時代を鑑みる限り、仮面を被ってなければどうしようもないくらい標準的な唯の陰キャである。
高2くらいから陽キャぶっていたが、あの手のノリに付き合うのはコイツにとって基本的に苦痛であり、反動で姫プレイに走ってはSNSでチヤホヤされるという、暗いんだか何だかよくわからない青春を送ってきたのだ。
「二人共、大丈夫かな……」
「そうですね……」
淫乱フレンズには、報告や手続きが済み次第、すぐ帰ってくるようには言ってある。
しかし鬱陶しいノリに巻き込まれた場合を想定して、10分くらい待っても2人が帰ってこなかったら、颯爽とギルドに不審者がエントリーする算段になっているのだ。
入ったところで僕はどうすればいいのか検討もつかない。
入口で自分が棒立ちになる未来しか予想できないので、こうして今も2人が無事に帰ってくるのを心待ちにしているのだ。
僕の魂胆は言わなくても既に知られている為、さっきからメスショタおじさんが僕の手を強く握って離してくれない。
騒ぎが起こったらこの人が手を引いて、僕をギルドまで引き込んでいく心づもりなのだろう。
頼もしい限りだ。
誰か助けてくれ。
未だにギルドからは、どよどよとした喧騒が聞こえてくる。
報告がガセの可能性とか普通にあると思うんだけど、そこまで尾を引くもんなんだろうか。
あそこのチンピラとか見てると、デマを摑まされる可能性を前提に入れたシステムが構築されてるような気がするじゃんね。
送検済みのホーリーランドのモブの人とか、キャラ的に雑な体制だと適当な報告して小銭稼ぎとかしそう。
今回の場合は、職員が現場まで随伴して確認する、とかそういう事するんじゃないの?
流石に報告ひとつで現ナマは拝めねえだろ。
そういえばテンパっててその辺なにも聞いてないな。
また来る必要あるんだろうか。
やだなあ。
「佐藤さん、あの……」
「あっ」
陰から覗いていたメスショタが声を上げた。
表情や声の調子からして、どうやら2人は無事に戻ってきたようだ。
しばらくして路地から顔を出した2人は、共に笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
何やらメスショタと会話しながら、淫乱シスターが手にしていた茶色い袋を渡している。
ずっしりと重たそうだ。
ひょっとしてあれは報酬金だろうか。
もう出るとは思わなかった。
もしくは前金とかそういうものだろうか。
ふと淫乱ピンクがこちらを見て、控えめにニコリと笑っている事に気づいた。
それに応じて僕は機械的に笑顔を作る。
すごく慣れないが、初日に比べれば遥かにやりやすい。
そして話が一通り済んだのか、淫乱フレンズは少々慇懃な態度で、揃って僕に感謝らしき言葉を述べた。
顔を上げた彼女達は出会ったときのように真っ直ぐな目で僕を見ている。
とても胃にくる目だ。
僕は通訳を通して返事を返した。
「いえ、こちらこそ。今回は本当にお疲れ様でした。お二人共、ご家族の事も勿論ですが、ご自身の事も労ってあげてくださいね」
ー◆ー
「いや、今回は疲れました」
「山田、今回はごめん。本当に大変だったよね」
「ああ、いえ、選んだのは僕ですから。少しでもお二人の力になれたなら僕も嬉しいです」
「ありがとう、山田」
話によると、今回の報酬で耕作機だかなんだかを共同で購入する予定だそうで、今後淫乱ファミリーに対する仕送りも必要なくなるかもしれないらしい。
結構な事だろう。
個人的には本当に惜しいが、淫乱フレンズが淫乱ハウスを出る日も近いのかもしれない。
この過酷な4日間を思い出す。
淫乱フレンズはやはり淫乱だった。
そのあまりの淫乱さに、僕は立ち向かう術を全く持ち合わせていなかった。
メスショタと3人で話をした翌日から、僕に対する2人の態度が変わった。
言語化しにくいのだが、なんというか発せられる圧力が明らかに減じた。
常に感じていた、胃に穴の開きそうな圧が無くなったのだ。
それでいて、いじらしいというか、3歩分距離を置いてずっと背中についてくるような、2人共そういう感じなのだ。
キャラの違いだろうが、淫乱ピンクは特に顕著だった。
淫乱シスターも休憩中におずおずと手を上げて質問してきたりしてさ。
もうすごいエッチじゃん。
服装も相まってイメクラかよっていう。
メスショタの言う事を信じるならば、2人は僕を慕っているという事になるのだろうが、僕にそれを処理できるようなメソッドは当然無いので、どっちにしろずっと腰が落ち着かなかった。
童貞には心臓に悪い。
視姦する余裕も全くなかった。
余裕が無さすぎてほとんど記憶に無いが、薄っすら残ったものを掘り起こすと、淫乱シスターみたいな武士系の困ったような上目遣いはそれはそれは良かったし、淫乱ピンクは素直におまんこを舐めたくなる顔をしていた。
僕に経験や胆力というものが備わっていたなら、あるいは彼女のおまんこを舐める未来もあったのかもしれない。
それくらい許してくれそうなママみを僕は感じたのだ。
まあしかし、やはり遠くから視姦するのが僕には一番だろう。
底辺とはそういうものだ。
正直もう勘弁してほしい。
少なくとも時間を置きたい。
向こう2年くらいは音沙汰なく、平穏無事に過ごしてくれればいいと思う。
別れ際の台詞とか、思い返すと死にたくなる。
アレ貧乏なのが目に触るからどうにかしろって意図の発言じゃんね。
本当に何様なんだよって思うわ。
ほんと死にたい。
いかんいかん止めようループする。
禁止禁止。
もう早く山に引き篭もりたい。
ていうか今どこに向かってるんだろう。
町では僕の方向感覚は失われるし、メスショタに手を引かれたままずっと下向いてたからわかんなかったんだけど、よく考えたら影の向きがおかしい。
マイホームに帰るんじゃないの?
「あの、佐藤さん。今どちらに向かっているんですか?」
「え? 前に行った食堂だよ」
「…………飲み会をやろうというお話ですか?」
確かに出発前そんな話をしていた。
「うん! 山田のお陰で無事にお金も入ったからね」
「ええ、まあ」
「今回の予算ならお店のすぐ近くの宿も取れちゃうし、前みたいなメニューも全然注文できるよ! ていうかなんでも選び放題だよ!」
とてもイイ笑顔だ。
おじさんウッキウキである。
少し前にも行ったばかりなのだが、コイツは相当な極貧生活を送っていたらしいし、恐らくはその反動なのだろう。
人にも寄るのだろうが、コイツは奢りでパパ活おじさんの目を気にしながら飲むよりも、自分の金で自由に飲むのを好む性格だと思う。
前回の欲求不満が溜まっているようだ。
大金を手にした事で、好きに散財してみたい気持ちもあるに違いない。
まあしかし、これは紛う事なき打ち上げな訳で、流れからすれば淫乱メンバー達と共に行くのが然るべきだろう。
コイツなりに、大事な友達よりも僕を優先してくれたのだ。
別れたその足で飲み屋に行くのは正直どうかと思うが、そのように考えるとなかなか無碍にもしづらい。
などとつらつら思考していると、そう長い時間黙っていた訳でもないのだが、メスショタが一転して少し不安気な顔で僕を見上げてきた。
「あの、ごめん山田。もしかして乗り気じゃなかった?」
「いえ」
飲みたい気持ちが無い訳じゃない。
「今回は身内だけですし、気が済むまで飲み明かしましょうか」
むしろお酒が大変飲みたい。
とてもストレスが溜まっているのだ。
ギルドのチンピラ達の様子や自警団で聞いた話を踏まえれば、僕達に絡む輩はまず居ないだろう。
その辺はコイツも織り込み済みの筈だ。
前回の反省もバッチリ踏まえてるし、一晩中だって飲み明かせそうだぞ。
僕の発言にメスショタもニッコリだ。
心なしか手を引く歩幅も長くなった。
2人で鼻歌混じりに歩いていると、青髪ポニテからのメッセが届いた。
なんだろう。
ー◆メスショタ視点◆ー
不審者が突然背後を振り返ると、そちら側に手招きをしながら、私を近くの路地裏に引き摺り込んできた。
なんだなんだ。
町中でモンスターでもあるまいし、コミュ障が手招きをするような相手に心当たりが無いぞ。
コミュ障は私を、路地の奥へ奥へと連れていく。
「ちょっとちょっと山田、どうしたの」
そこでコミュ障の足がようやく止まった。
「サラさんです。恐らく内密に伝えたい話があるのかと」
サラさんとはヤリチンの飼い主さんの一人だ。
スレンダーでエッチな弓使いのエルフさんである。
コミュ障がどうやってそれを察したのかわからないが、コイツはそういう奴なのでそれはいい。
それよりも嫌な予感がする。
またぞろトラブルかよ。
しばらくすると、10mくらい前方に見える大通りから、言った通りブリーダーさんが姿を現した。
路地裏に入る前に一度来た道を振り返り、それからこちらに早足で近づいてくる。
確かに背後を気にしている風だ。
なるほど、コイツの言いたい事がわかった。
こちらに寄ってきた彼女は、キツい目元に剣呑な表情を浮かべていた。
『もう少し奥まった場所へ行きましょう』
「わかりました」
通訳も通してないのに会話が成立している。
混乱している私を他所に、あれよあれよと2人に連れて行かれてしまった。
ー◆ー
『この辺ならば大丈夫でしょう』
先行していた飼育員さんが止まった。
冒険者ギルドや食堂を面した目抜き通りからはかなり離れている、
少し寂れたところだ。
その更に物陰で私達は立っていた。
『突然申し訳ありません。すぐに事情を察して下さり助かりました』
飼育係さんが私達に向き直って言う。
私は展開についていけなくて、3秒くらいフリーズしていたが、返答の必要性を感じ慌てて通訳した。
私には事情とやらがよくわからんし、今回は全部コミュ障に任せて、私は異世界語リンガルやってればいいだろうか。
「いえ、事情の方はさっぱりです。ですが緊急を要するようでしたから。なにかありましたか」
『はい……。あの……』
パイオツ薄い人は何やら言いにくそうだ。
固い表情にほんの少しだけ眉を寄せている。
しかし相変わらずの美人さんだぜ。
口中でベロリと舌舐めずりしつつ、上から下まで舐め回すように眺める。
この人の着てる薄いベールみたいな衣装、私はAVでしか見たことがない。
妖精の住む泉のほとりで男優に前から後ろから犯されてそう。
普段使いするにはちょいとエッチなコーデだよな。
「アランさんが僕達に対してなにか仕掛けているのですか?」
目線を固定したまま、どうでもいいヤリチンの話を適当に翻訳する。
飲み会の時も思ったけど、この人ちょっと乳首浮いてるんだよな。
乳バンドを決して使用してはならないというエルフ族に伝わる古い因習でもあるのだろうか。
なんてスケベな種族なんだ。
自己主張する先端はぷっくり小粒で大変エッチなんだけど、ヤリチンはともかくお姉さんは指摘したりしないんだろうか。
まああの人の格好も大概だしな。
それかヤリチンのヘイトを集めるのが目的だろうか。
あいつ本当に死なないかな。
『……では単刀直入に。ヤマダさん、宮仕えする気はありますか?』
むっ普段使わない単語が出てきちまったぜ。
この数日間で通訳に慣れ切ってて?右から左に垂れ流すだけだったが。
でも待てよ、耳にした事がある気がする。
……そうだ。
ギルドで冒険者が、商家だかに奉公する事になったって現場にかち合った時だな。
他の単語は全部拾えたからよく記憶に残ってる。
未知の単語はその場で何度も暗唱して、エピソードとセットで頭に残しとくのだ。
だもんで、偉い人に仕える、って意味合いでほぼ間違いないだろう。
センテンスを紐解けば自動的にそうなる。
冒険者が奉公に行くってのは私が勝手に補完したのだが、当時のシチュエーションから見てこの訳で間違いない。
よしよし、流石私だぜ。翻訳してコミュ障に伝える。
「……いえ。僕はとてもそんな器ではありません。身に余るお言葉です。大変恐縮なのですが、お断りさせて頂きたく思います」
『動揺しないところを見ると、私達の正体もお見通しでしたか。あの戦闘力といい、個人的には共に働きたい想いもありますが、そうですか……』
「いえ、具体的に何かわかっている訳ではありません。というか、その話はほぼアランさんの独断では? ちなみに話に応じた場合、僕はどのような立場になるのですか?」
『アランは戦闘術の総指南役として勧誘すると』
普段使わない単語が頻出して疲れる。
行間を埋めるのにも脳味噌使うのだ。
「それは……、相当に高い地位では? 得体の知れない外様の者に推していい位ではないでしょう。そちらがどのような組織構造をしているか僕にはわかりませんが、然るべき筋は通したのですか? 」
『いえ、ヤマダさんの懸念する通りで、アランの完全な暴走です。このままでは当家は大混乱に陥るでしょう。今もオークの件を聞きつけ、大興奮して貴方を探そうとしておりました。抑えるのをエミリに任せ、私は何とか抜け出してここに……』
「それはまた、何とも……」
2人共、何やら辟易とした表情をしている。
AV女優も表情はあまり動かないが、コミュ障で見慣れているので私には見分けやすい。
またヤリチンがストーカーしてんのかよ。
あいつマジで害悪だな。
ヤリ捨てしたメンヘラ女に、チンポごとダルマさんにされればいいのに。
どうせ回復魔法で治るんだろうし良い薬だろ。
ていうかさっきからほげーっと乳首とか腰回りとかガン見してて全然頭動いてないんだが、なんか妙な話になってない?
コイツら話の展開早いし、通訳してると他に頭使えないから流すままになってた。
「あの、やま」
「僕が安易に手を出してしまったせいで、サラさんやエミリさんに大変な御迷惑をお掛けしてしまいました。ずっと謝るべきだと思っていました。本当に申し訳ありません」
あっ、この野郎被せてきやがった。
『あの、どうか頭を上げてください』
深々と頭を下げるコミュ障に対し、謝罪ポーズを目にした洗濯板が鉄面皮を崩して慌てている。
ちなみにこの世界でも、謝意を伝えるランゲージは日本と共通である。
とても割り込める雰囲気ではない。
しゃーない。
とりあえずまとめて翻訳する。
それを聞いたまな板エルフは余計に慌てた。
台詞を読み上げるごとに鉄面皮が剥がれていって、もはや見る影もない。
『あの時は本当に危なかったんです。オークは徒党を組んで陰から一斉に投石するなど戦術的に動く事もあるそうですから、あのまま気付かずに先制されていたら本当に命がありませんでした。それに22体もの大群に気付かぬまま囲まれていましたから、仮にそれを逃れても命懸けである事に変わりはありません』
同時通訳しながらビビってキョドる。
私達のときよりよっぽどあぶねーじゃねえか。
「ですが……」
『視界の悪い山間での戦闘を舐めていたのです。恩人であるヤマダさんに謝罪されるなどこちらの申し訳が立ちません』
「しかし、結果としてお二人が大変な想いをする事になってしまいました。もっと上手く立ち回れた、などとは言いませんが……」
『ヤマダさんのお気を煩わせるまで事を大きくしたこちらが悪いのです。そもそも私達こそ謝るべきです。助けられたにも関わらず、命の恩人に対して犯罪者でも追い回すような愚かな真似をしてしまいました。私達は仕える者として、是が非でもアランの愚を……』
謝罪合戦の予感。
お互いに恐縮しまくってて、多分色々溜め込んでるっぽい。
なんかこれ長引きそうだな。
私だけ蚊帳の外だからちょっと白けちゃうぜ。
もういい加減この状況がなんなのかを共有したいし、このタイミングで強引に割り込んじゃおう。
「山田山田、ちょっといい?」
「えっ、あっはい。なんでしょう」
「ちょっと状況がよくわかんないんだけど……」
「あ……、すいません。そうですよね。ちょっと待ってください」
ちょっと待つ。
思考をまとめているんだろう。
「そうですね。恐らくあまり時間がありませんから、なるべく簡潔に説明しましょう」
「頼む」
「話の流れからわかる通り、アランさんは恐らく位の高い貴族や大商人の御子息です。その上で、ここまでサラさんが具体的な正体を明かさなかった事から、秘匿しなければならない事情が彼女達にはあると思われます。ですから、僕達からそれを詮索するのは止めたほうが宜しいかと」
そんな話だったっけ。
まあとりあえず頷いておく。
「うん」
「そしてアランさんは、僕を不相応な地位にスカウトしようとしている訳ですが、それは混乱を産むだけで、彼以外の誰にも利がありません。……あの、これはサラさんに聞いて頂きたいのですが、佐藤さんはどのような扱いになっているのですか?」
えっ、私は関係……、なくはないな。
コミュ障の使う謎言語を翻訳できるのは、多分この世界で私だけだし。
放置していたヤリチンブリーダーに聞いてみる。
『ヤマダさんが当家の預かりになった場合、貴女も同時に引き抜きにあうと思います。その場合、かなり強引な手段を取る事が予想されますので、拒否するのは恐らく不可能でしょう』
マジかよ。
ヤリチンの下で働くとかあり得ん。
あんなキモくて押しの強いストーカーにアゴで使われるのは、いくら待遇がよくても絶対に御免だわ。
冗談じゃないぞ。
私が青くなっていると、コミュ障がまた口を開いた。
「あの、サラさんは何か考えがあるという事でしょうか? 僕は直接断る程度の事しか思い付かないのですが、それでは難しいのでしょうか?」
『恐らく難しいかと。一度だけでも自分の身内と顔を合わせて欲しいなどと言って強引に連れ出し、そのまま派閥の息の掛かった者達を使って囲い込んでしまう腹づもりでしょう。アランはその手のやり口が本当に得意なのです』
「……そうなると、ずっと避け続けるのは難しいでしょうね」
『はい。特に今回は、過去に類がない程ヤマダさんに心酔しています。何度断っても、手を変え品を変え延々とヤマダさんに付き纏うかと思われます』
AV女優は真面目な顔で続けた。
ほんとかよと思ったが口調がマジである。
コミュ障も深刻な顔をしていた。
そういえばというか、借金騒動を解決した手際の良さを考えると、話が真実味を帯びてくる。
えっマジかよ。
状況がやっと飲み込めてきた。
勘弁してくれ。
ガチの権力持ち敏腕ストーカーとかタチが悪過ぎるだろ。
無理矢理抱み込まれるとか冗談じゃないわ。
「では、姿を眩ますのが一番妥当な手段でしょうか」
『そうなります。アランも同じ手を打ってくるでしょうが、私達は派閥に手を回して動きを封じます。それでひとまず時間を稼ぎます。上手くいけばアランを一度帰還させる事も可能かと』
おう帰れ帰れ。
『今はアランが一人で暴走しているだけです。ですから彼は根回しに手を割かなければなりません。あなた方が姿を眩ませれば、多少冷静であればそのように動くかと。最近の様子を見ると何とも言えませんが……』
何とも言えない顔をしている。
よくよく見ればかなり疲れた顔つきだ。
マイホームや飲み会で目にした光景を思い出して、目の前の彼女と比べてみる。
美人さんなのだが、肌は以前見たときよりずっと荒れていた。
疲労のせいか、瞼が下りて目付きは更に悪くなり、目元には薄っすらと隈がある。
整える時間が無いのか余裕が無いのか、髪は少し荒れていた。
服装もよくよく見ると所々縒れていたりして、整っていない。
恐らく走ったせいというだけではないだろう。
あれから数日しか経っていない。
ずっとヤリチンに振り回されていたのだろう。
思わず胸が痛くなる。
『此方もアランを諌められる者と接触して事態の収拾を図ります。ですからそれまで彼の手から逃げて欲しいのです。私共の都合で大変に恐縮なのですが……』
これは見てる方がつらい。
たまらず私が返事をしてしまった。
『私達の為に骨を砕いて下さって本当にありがとうございます。こちらは身が軽いですからどうにでもなりますよ』
『申し訳ありません……。ですが水面下でアランがどのように動くかわかりません。先程申したようなこちらの近況も含めて、知り得た情報をそちらにお伝えしますので、逐一連絡を取り合うのが宜しいかと思います』
さっきからずっと同時通訳しているので、それほどタイムラグもなくコミュ障に伝えているのだが、今回は何か考え込んでいる。
しばらく間を置いてコミュ障は顔を上げた。
『わかりました。その方向でお互い動きましょう』
ー◆ー
それからいくつか話を詰め、最後にサラさんは私達に皮袋をくれた。
『これは道具袋の魔道具です。それほど容量の大きい物ではありませんが、旅には必要になるでしょう』
マジかよ。
これってアレだろアイテムボックスじゃん。
これ存在してたのかよ。
こんなんあったら生活超楽になるわ。
テンションが爆上がりするのを感じて思わずコミュ障を見ると、奴は非常に微妙な顔をしていた。
私は何となく奴の内心を察した。
理屈っぽい上に拗らせた逆張り思考の負のオタクなので、超科学的なアレに拒否反応を起こしているのだろう。
まあ気持ちはわからんでもない。
得体が知れないもんな。
でもこれ多分超便利だぜ。
ー◆ー
お助け妖精の透け乳首エルフサラさんと別れた私達は、裏通りを歩きながら南門を目指して歩いている。
普段出入りしている北門を避けた形だ。
いつもとは打って変わって、町中でコミュ障が私を先導している。
緊急を要するからだろう。
血の気の引いた青白い顔で、前を向きながら私の手を引いている。
人目を避けながらも足早なのは、私達の風体がどうしても目立つからだ。
不審者は元より、今や私も噂の中心に巻き込まれてしまっている。
一刻も早く町を抜けなければならない。
途中で偶然顔を合わせた知人に、町をしばらく離れる事になった事情を話し、ズッ友にそれを伝えて貰うようお願いした。
お世話になった人達に挨拶できないのは心苦しいが、ズッ友達ならほとんどが共通の知り合いである。
その人達にはズッ友の口から伝わるだろう。
口止めもしたので、無闇矢鱈に噂を流す事は無いと信じている。
流れたならそれは私の人望が低いせいだ。
そのままコッソリと私達は町を脱出した。
そのままぐるりと回って山に入り、拠点を目指す。
可能ならマイホームに置いてきた荷物を回収していくのだ。
ー◆ー
コミュ障が周囲を警戒しながら、背の高い草が茂った道なき道を練り歩く。
しばらく歩いたところで、コミュ障が口を開いた。
「申し訳ありません。僕の行いが原因で、佐藤さんにも迷惑を掛ける事になってしまいました」
「いや、アランさんが全部悪いでしょ」
強いて言えば奴だけ見捨てるべきだったな。
世界のためにも死ぬべきだった。
「それに私が宿屋のおじさんに目を付けられたとき、山田は何も言わずに助けてくれたじゃない。お互い様だよ」
「ですが、折角建てた家を捨てなければいけません」
「ああ、うん……。それは本当に残念だよね……」
頑張って建てた新居なのに、庭だってまだまだ開拓途中だし、手離すのは本当に本当に残念だ。
だが仕方ない。町へは当面の間戻るつもりはない。
「でも、もっと良い家を建てれる自信がついたし! また一緒に頑張ろうよ!」
「佐藤さんは前向きですね……。それに、町を離れる事になってしまいました」
「ああ……」
コイツが気にしているのはそれか。
私は手を強く握った。
「丁度いい機会だったんだ。だから山田が気にする事はないよ」
「丁度いい機会、ですか?」
「うん、だから大丈夫」
「そうですか……?」
コミュ障は理解できない様子だ。
それでいい。
今の私は頭がおかしい。
この4日間、ズッ友達の相談に乗るシークエンスを定期的にこなさなければならなかった。
大体その結果だ。
濃厚極まる体験として私の脳に刻まれたそれは、時と場合に関わらずフラッシュバックし、場面を選ばず私の脳をお花畑に変えていく。
その状態に陥ると、あまりの激情と多幸感から抵抗する気が全く起きずに延々と浸ってしまう。
それが1日に何度も起きるのだ。
深い没入から離脱したあとは筆舌し難い地獄である。
軽い気持ちで思い出すこともできない。
当時の2人の悩む姿が私にはとても苦しくて、それを向き合って彼女達がやばいやばいやばい頭おかしくなってきた。
コミュ障の手を強く握る。
ギリギリと握る。
手が痛くても更に力を籠める。
「 …………?」
怖い。
本当に怖い。
最近何度も何度も手を握り締め過ぎたせいで、コミュ障も反応しなくなってきてる。
コイツの存在を意識しないと、頭おかしくなった時そこから浮上できなくて、一度手を繋いだら怖くてなかなか離す気になれない。
この4日間も、コミュ障と離れるタイミングは恐怖でしかなかった。
もう完全に病気だ。
これからコミュ障のこと馬鹿にできないぜ。
町から距離を取らないと本当にまずい。
今回の話は本当に渡りに船だった。
その点だけはヤリチンに感謝するわ。
次の町ではどうしよう。
…………本当にどうしよう。
節度を守れば女装は最高なんだよ。
要はロールプレイだからな。
チヤホヤされるのは本当に楽しいし、脳汁がニュルニュル出るのが本当に最高なんだ。
そん時はこんな悩みとは無縁だった。
どうしようかな。
まあ、ちょっと忘れて時間を置いてみようかな。
そうしてみよう。
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