第8話 決意
王宮内 イリヤの部屋
「え・・な、・・・あ」
説明すると、イリヤの発言に驚き、何故知っているのか、と問い正す言葉を口に出す寸前で抑えたはいいが、考えてしまったが故にイリヤの発言が事実であることを悟らせてしまった事に気がついた状態だ。
「やはり、そうでしたか・・・」
「イリヤ・・・それはズルいと思うけど?」
「すみません。ですが、私も一晩考えて、その上でトーヤ様に言いたい事があるのです」
「・・・というと?」
イリヤの真剣な眼差しが俺を見つめる。
「トーヤ様自身、気がついていないようですし、出会って間もない私が言うのもなんですが━━━トーヤ様は私達に遠慮していませんか?」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
遠慮してる?俺が?確かに、イリヤとエリスを妹のような、レオンを仲の良い弟のような感覚でみてはいたけど・・・。
遠慮してるつもりは無い。
「・・・そんなことは無いと思うけど」
「そうでしょうね。私やレオン様、エリス様に関してはそこまで遠慮は無いのかもしれません。ですが、ご両親にはどうでしょう?」
「父さんと母さん?それこそ、僕は遠慮しているつもりは無いよ」
今までの生活を思い返しながら言う。
「そうでしょうか?今朝、お母様にお聞きしたお話ですと、トーヤ様は生まれてこの方我儘を言われた事が無いようですね。自分達を頼ってくれないようで、少し淋しいとおっしゃっていました」
母さんが、そんなことを・・・・
思い返すと、いくつか思い当たる節がある。
「・・・そうか。なあ、イリヤ。ちょっと話を聞いてもらってもいいか?」
「はい」
「確かに、俺は異世界人だ。と、言っても中身だけなんだけどな。この世界では、ちゃんと父さんと母さんの赤ん坊として生まれてきた。俺が話したいのはその前の事で、いわゆる前世って時の事だ。幼い頃、両親を事故で亡くした俺は祖父に育てられた。厳格な人でな、子供だからって甘える事は許されなかった。”自分の事は自分でしろ”ってのが口癖で、生活する上で必要なこととかを必死で覚えた。そんな生活を十数年、続けてきたんだ。だからかな、人に甘えるって事がよく分からないんだ。・・・いや、正確には”甘え方”が分からないんだ。それに、自分なりに甘えてみて、それで父さんや母さんを困らせるなんてことはしたくないんだ」
一人称を素の”俺”に直して語る。元々”僕”という一人称は、新たな一生の始まりに踏ん切りをつけて、新たな自分として生きようという気持ちで使っているに過ぎないからな。
「・・・・・・・そんな顔をしないで下さい」
「え?」
「今にも泣き出しそうな顔をしていますよ?トーヤ様はご両親の事をどう思っているのですか?」
イリヤの問いに、俺は即答する。
「大好きだよ。二人とも」
「なら、今はそれでいいです。少しずつ、少しずつでいいですから、ご両親に甘えてみてはいかがですか?子供なんて、我儘を言って、親を困らせるのも仕事の一つだってジルベルト様も言ってましたし」
「・・・そう、かな。そういうものなのかな・・・・うん、手探りだけどそうしてみるよ。あ~、意外と自分の事は気付いてない事が多いのかもな。そう言えば、どうして俺がというか、中身が異世界人だって気付いたんだ?」
俺の問いに、さっとイリヤの頬が朱に染まる。
「・・昨日・・・・トーヤ様に抱きしめられた時です・・・」
「あ、あ~・・・・あの時、ね」
確かに色々と思ってたな・・・
思い返すと同時に、抱きしめたイリヤの感触がリフレインして気恥ずかしくなる。
気まずい雰囲気が部屋の中を満たした。
そんな空気を打ち壊したのはトントン、というノックの音だった。
互いにハッとして、どうぞとイリヤが声を掛ける。
「失礼しますっと・・・・お!親父さんの言う通りだったな」
「二人で、何してたの?」
レオンとエリスだった。
今の状況で二人の登場は、正直ありがたい。
「よぉ、レオン。エリスも。別に、昨日のお礼に呼ばれてたんだよ。二人はどうしてここに?」
「何言ってんだよ!いつもの時間はとっくにすぎてるぞ。わざわざお前の家まで行って、親父さんに居場所を聞いてきたんだぜ?」
見ると、陽は大分高くなっている。
「そうか、もうそんな時間だったか・・・」
「トーヤ、昨日の約束。新しい魔法、教えて」
「分かった分かった。でも、今から森に行ってもそんなに出来なさそうだな・・・」
「心配ない。お母さんに鍛錬場所、用意してもらった」
「お、抜け目がないね」
「職権乱用なのでは・・・?」
「ん、気にしない。早く行く」
終いには、俺の袖を引っ張りだしたエリスに苦笑しながら、俺たちはイリヤの部屋を後にした。
☆★☆
「・・・失敗した。もっと練習が必要」
「ああ、あれは流石に死ぬかと思ったぜ。まだ体のあちこちが固まってる」
「大丈夫か?おっちゃんはああ言ってたけど、治そうと思えばすぐに治せるぞ?」
「いや、大体ほぐれたからいいや」
午前中いっぱい、王宮の鍛錬場の一画で鍛錬をした俺達は帰路についていた。
さっきからレオンが体の調子を確かめているのは、エリスに新しく教えた氷系統中級魔法「凍てつきし牢獄《フリーズンジェイル》」がレオンを巻き込んで暴走したからだ
鍛錬場一帯を凍りつかせて、騒動になった。
急いで溶かしたはいいものの、体中をカチンコチンに凍りつかせたレオンが転がり落ちてきた。
さらに間の悪い事に、おやっさんが通りがかりあわれレオンは自力での回復を申し付けられ、鍛練場が使えなくなってしまったので早めの帰宅となった。二人の家は王宮の近くにあるのだが、レオンは身体の解凍の為に散歩、エリスはその付き合いを理由に家まで送ってくれている。
「それにしても、身体強化にこんな使い道があったなんてな」
「まあ、アレは副次的に新陳代謝を良くするってツァリさんが言ってたし」
「・・・・なあ、あの人ホントにただのメイドなのか?」
「言ってくれるな。僕にも分からない」
「あの気配の消し方、ただ者じゃない」
「エリスは敵意を滲ませながら言わないで!」
「・・・善処する」
軽口を言い合いながら、町を歩く。あの時、三人を先に行かせて一人残った時、俺は死んでいたかもしれない。いや、セラフィムの代行者でなければ確実に死んでいた。いくら前世の記憶のお陰である程度刀が使えようとも、魔法に関してはからっきしの素人。場数を踏んでいる奴に勝てるわけがない。
「・・・もっと強くならなきゃな」
「ん、何か言った?」
「いや、なんでも」
今朝の父さんの提案、名門と大陸に名高いアブソリュート学院への入学は、経験を積むのには丁度いいかもしれない。ただ、俺一人ってのはいくらなんでも淋しいだろう。イリヤに言われた通り、遠慮を無くしてみるのもいい。
「やっぱりなんでもなくない。二人とも聞いて欲しいんだけど・・・」
第一章 完
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