第7話 権能
アルン第二円周区 ハインツ邸
「あら、おかえりトーヤ。今日は早いのね。・・・ちょっと、どうしたのその服?!」
「お帰りなさいませ、トーヤ様。まずはお着替えをされた方がいいと存じますが」
「ただいま、母さん、ツァリさん。すぐに着替えるよ。それと、お客さんが居るんだけどいいかな?」
「それどころじゃないと思うんだけど・・・どなた?」
帰宅したはいいものの、俺の姿に驚きを隠そうとしない母さんと、眉一つ動かさずに着替えを提案してくるツァリさん。
レオンとエリスを呼び込んで二人の前に立たせる。
「こっちがレオンで、こっちがエリス」
「こんにちは、お邪魔します」
「お邪魔します」
「あらあら、お話は聞いてるわ。ようこそ。どうぞ中へ、トーヤは着替えてらっしゃい」
「お二人はこちらへ」
「着替えたら僕もそっちに行くから、ちょっと待ってて」
そう言ってツァリさんに連れて行かれる二人を横目に、二階にある自室に向かう。
簡素な黒の上下に着替えて下に降りる。
客室を覗くと二人が座っていた。
「二人とも、何か飲む?」
「お、何か冷たい物くれよ」
「私は何でもいい」
それなら、とばかりに食堂へ飲み物を取りに行こうとするとツァリさんが現れた。
「トーヤ様は客室に。私がお飲み物をお持ちします」
「いや、僕にやらせてよ」
しばしの無言の応酬。
「・・・・仕事をさせて下さい」
そう言われると何も出来ない。
「分かった。冷たい飲み物と何か軽く食べられる物をお願い。少し長い話になるかもだから」
「承知しました。それと、代えの木刀をお部屋にお持ちしました」
・・・・なぬ。
「それでは」
そう言って食堂へ向かうツァリさんの後ろ姿を見ながら僅かな時間、驚きで硬直する。
そりゃ、帰って来た時に木刀は持って無かったけどさ。
手際良すぎない?
ツァリさんはやっぱり謎だ。
「おう、トーヤ。あれ?飲み物は?」
「うん、ツァリさんが持ってきてくれるって」
「さっきの人?」
「うん」
「お待たせしました」
「ありがとう。ちょっと三人だけにしてくれないかな?」
「承知しました」
一礼し、客室から立ち去るツァリさん。
持ってきてくれた飲み物を一口飲んで、一息。
「それじゃ、二人にちゃんと話そうか」
☆★☆
「・・・・一言いいか?」
「ん、何?」
説明を終えるとレオンが口を開く。
三人のグラスはどれも空っぽで、かれこれ一時間ちょっと話してたかもしれない。
「前々から思ってたけど、お前って本当に人間なのか?」
「それは私も思ってた」
「失敬な!僕は人間だよ!」
「じゃあ、何で腹ぶち抜かれたのに生きてるんだよ!?」
「ん~、色々あったんだよ」
「詳しい説明を要求」
エリスが真剣な顔で俺の目を見ながら言ってくる。
視線を逸らそうとすると、それを追ってくる。
こうなると、エリスは頑固だ。
「強いて言うならば、超強力な治癒魔法が掛けられてたんだよ。気付いたら」
「・・・あのな、トーヤ。俺達も無理に聞き出そうとは思ってはいないんだよ。だけどよ、俺らを逃がす為にトーヤが怪我をして、それで何かあったら俺達の気が済まないんだよ」
こちらも真剣な顔でレオンが言い、エリスも頷く。
不覚にも目頭が熱くなったが、二人の前で泣くのは嫌だから、ぐっと堪える。
「二人とも、ありがとう。その気持ちは嬉しいけど、僕は何とも無いから」
「本当だな?」
「本当だ」
俺の答えにハァと息を吐いてレオンが力を抜く。
「分かったよ。トーヤがそう言うんなら仕方ねぇ」
「ありがとな、二人とも。もう遅いし、晩飯でも食べてくか?」
部屋はいつの間にか、夕日の赤に染まりつつある。
「いいのか?」
「ツァリさん、問題無いよね?」
「勿論で御座います」
「ッ!いつの間に?」
「最初から居たよ」
苦笑しながらエリスに答える。
「ツァリさん、三人だけにしてくれって言ったじゃないか」
「トーヤ様の事を旦那様にご報告するのは私の仕事ですので」
「そう言うと思った。二人とも、ツァリさんの事は気にしないで。この人の事は僕もよく分からないから」
「あ、ああ」
「・・・承諾」
エリスの返答が極端に短くなる。
どうやら、ツァリさんに気付けなかった事が余程悔しいらしい。
「機嫌直せって。今度新しい魔法教えてやるから」
「分かった」
途端に不機嫌なオーラを霧散させたエリスを、向上心の塊みたいだな、と心の中で苦笑し俺達は食堂へ向かった。
☆★☆
翌日、いつものように早朝の鍛錬を終えて家に戻ると、意外な人物が俺を待っていた。
「イリヤ、どうしたんだ?」
そう、イリヤだ。
スベイルーン国王女、イリヤ・スベイルーン。本物のお姫様。
「はい。改めてトーヤ様にお礼がしたくて」
「そんな、別にいいのに」
「いえ、それでは私の気が済まないので・・・。それに、お聞きしたい事もありますし」
「分かった。それで、どこで話をする?」
「あの、出来れば私の部屋の方で・・・」
「部屋って・・・王宮?」
「はい」
まあ、そうだよね。王女様の部屋って言ったら王宮だもんね。
「分かった。お招きに与ろうかな」
恐らく、お礼ってだけではないのだろう。
じゃなきゃ、わざわざ王宮に招いたりしないだろうしな。
「・・・・トーヤ様は鋭いですね」
「ん?何か言ったか?」
「何でもありません」
「そう?それじゃあ、レオンとエリスを待って・・・」
「いえ、出来ればトーヤ様だけで・・・」
何か訳があるのだろう、分かったと伝える。
でも━━━━
「朝食、食べてからな?」
「・・・・あ、はい」
☆★☆
アルン中央区 王宮内
一日を開けずして再び王宮内を歩いている事に奇妙な感覚を抱きつつ、前を歩くイリヤについて行く。
昨日は慌ただしかったからゆっくり見られなかったけど、意外にも王宮と言う割には華やかさに欠けている。
質実剛健、という言葉が似合う造りで、唯一建物に使われている白雲石━光沢のある白い石で高級建築材の一つ━の白さが他とは違う雰囲気を醸し出している。
「こちらです」
いくつかの階段と廊下を通った先に見えた部屋へと招きいれられる。
中は同じく白雲石で造られていて、華は無いが随所に匠の技が光るベットや本棚、机等が置かれている。
意外な事に部屋の広さは、俺の部屋━約十畳━ぐらいだ。
「ここが、イリヤの?」
「はい、私の部屋です。どうぞ、座ってください」
言われて、机の傍らにあるイスに座る。それを見て、イリヤは自分のベッドの端に座った。
「ちょっと驚いた。王女様って言えばこう、すごい広い部屋に住んでるものだと思ってたから」
感じた事をそのまま口にすると苦笑を返される。
「そう思っている方は多いようですね。ですが、私やお父様は国民の皆様から納めて頂いている税で生活をしているので、贅沢は出来ませんし、しようとも思いません」
そう語るイリヤの瞳は真っ直ぐで、彼女が本気でそう思っている事がうかがえる。
「そうか、いい心構えだと思うよ」
「ありがとうございます」
照れたように微笑む姿に心臓が跳ね、それを隠すように話題を変える。
「それで、何か僕に話したい事があるんだよね?お礼の話しとは別に」
俺の言葉にイリヤの表情が真剣なものとなる。
「はい。正しくは話したい、ではなく聞きたい事、ですが・・・」
そこで一度言葉を切り、確認を取るようにこちらを見つめてくる。
「ああ、何でも聞いてくれ。イリヤには隠せないし、隠そうとも思わないよ」
「分かりました。ではお尋ねします。━━━トーヤ様が受けた致命傷はどなたが治したのですか?」
いきなり核心をついた突いた質問に驚き、僅かに遅れて聞くとしたらその事しかないという考えに行き当たる。
「・・・・あいつは、自分の事を”セラフィム”だと名乗った」
息を飲むイリヤ。
やはり、何か心当たりがあるようだ。
「イリヤ、何か知っているのなら話してくれないか?」
「・・・その前に、一つ確認をさせて下さい」
そう言うと、彼女は目を閉じた。
変化はすぐに訪れた。
右手の刻印が熱を持ち、銀光を放ち始める。
「これは・・・?!」
よく見れば、イリヤの右手の甲にも形は違うものの刻印があり、光を放っている。
「イリヤ、君は・・・?」
「はい、私も代行者です。ただし、”セラフィムの”ではなく”エクスシアの”ですが」
言いながら、閉じていた目を開くと光も収まる。
「思った・・いえ、感じた通りでした。トーヤ様は、私達を逃がした後に代行者となられたのですね!」
「・・そう、だな。相手に腹を貫かれた時にセラフィムに助けられ、この力を託された」
「ではやはり、何か”権能”をお持ちになっているのですか?」
「”権能”?」
「はい、例えば私ですと・・・」
そう言うと再び目を閉じ、集中する。
すると、イリヤの刻印が光を放ち、何かを形作る。
「このように、精巧な人形を作る事が出来ます」
イリヤが━━━━二人いた。
確かに、良く見れば一方が息をしていないので人形であると分かるが、パッと見ただけでは判断がつけづらい。
「これが私の”権能”です」
集中を解くと、人形も光の粒になって散る。
「なるほど、じゃあ僕の”権能”はあれかな?」
左手に収められているはずの銀色に輝く巨刀を思い浮かべる。
「刀、ですか?見せて頂いてもよろしいですか?」
「ん、分かった。それと、あんまり心で思った事に返事を返さないでね。ちょっと恥ずかしいから」
「あ・・・すみません・・」
項垂れるイリヤに苦笑しながら集中する。
「お、出た出た」
途端、両手の天使と刀の刻印が銀光を放ち、左手の掌から刀の柄が現れる。
引き抜くと一メートル以上ある美しい刀身が、日の光を反射して輝いた。
「・・・きれい、ですね」
「・・・そうだな」
「刀を生み出すのがセラフィムの権能なのでしょうか?」
刀を戻す傍ら、イリヤが聞いてくる。
「生み出す、っていうのとはちょっと違うかな?」
「それでは一体……?」
「僕の権能は"心象具現"って言うんだ」
天使の刻印が刻まれた右手をイリヤへと伸ばす。
そんな俺の仕草に、かわいらしく小首を傾げるイリヤ。
刻印が再度、光を放ち始める。
「ぁ…何か……うぅ……私の、中から…ぅ……引き出されて、い、く…………あぁッ!!」
光は強まり、それに呼応するかのように坡璃色の光がイリヤの全身から放たれて、右手に収束する。
「悪い!大丈夫か?!」
「は、はい……大丈夫です。ちょっと違和感が強かっただけで……それは、ゴーグルですか?」
そう、イリヤから出てきたのは玻璃色のレンズに銀色の意匠が成されたゴーグルだ。
「・・・今のが、トーヤ様の権能ですか?」
僅かに上気した顔で息を整えるイリヤの姿に色気を感じて、視線を逸らす。
(落ち着け、落ち着くんだッ!相手は精神年齢的にアウトなんだぞ!)
「そうだよ。相手の"心"の"象"を"具現"させる権能だ」
言いながらながら、ゴーグルをかける。
「・・・なるほど」
コイツの能力が一発で分かった。レンズ越しに見えるイリヤの横に、細長いウィンドウが見える。書いてあるのは以下の通りだ。
個体名:イリヤ・スベイルーン
性別:女
年齢:六歳
保持系統:精神感応、風、水
特記事項:エクスシアの代行者、スベイルーン王国王女
「これは・・・凄いな。差し詰め、アナライザーってとこか」
「解析装置、ですか?」
俺の心を読んだイリヤが尋ねてくる。
「ああ、このゴーグルで見たものを解析するみたいだ。精神感応らしい能力だな」
そう言いながら銀光を収めると、手の中のゴーグルもその構成を解いて、玻璃色の光となってイリヤの中へと還っていった。
「イリヤ、大丈夫か?」
「ええ、特に問題は無いみたいです」
「良かった。それじゃあ、今日はここら辺でお開きにしないか?流石に一度、整理したい」
「分かりました。ですが、あともう一つだけ聞かせて下さい」
「ん?何?」
「トーヤ様は━━━━━━異世界人なのですか?」
読んで頂きありがとうございました!
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