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エインスウィル  作者: アリステスリア
プロローグ編
6/15

第5話 会敵と覚醒



「レオン!エリス!危ないッ!!」


 叫ぶと同時に俺は右手の木刀を強化、片手で2人に迫る黒帯に投げつけた。

俺の警告で黒帯の存在に気付いた2人は大きく跳び退って、レオンは木剣を構え、エリスは詠唱に入る。

その間に俺の投擲した木刀は目論見通りに黒帯に当たり、その軌道を逸らしたがそのまま黒帯の力に耐えられず砕け散る。

強化を施した木刀を砕くほどの魔法の威力、かなりの使い手だ。


「トーヤ、今のは?」


「・・・・多分、闇系統中級魔法『黒の束縛(ブラックバインド)』だと思う。どうやら厄介な事に首を突っ込んでるみたいだな」


「どうするの?私はトーヤに従う」


「俺もだ。指示をくれ」


「そうだな・・・2人はこのままイリヤを連れて先に森を抜けてくれ。気配から察するに相手は1人みたいだ。足止めぐらいは出来るだろう」


「そんな!トーヤ様をそんな危険に晒すわけには!」


 意外なことに、反対の声はイリヤから上がった。そしてこれも意外な事に、イリヤの説得に口を開けたのはレオンだった。


「大丈夫だぜ。トーヤは俺とエリスの2人掛かりでも勝てないぐらい強いからな」


「でも!」


「心配しなくても大丈夫。トーヤは強い」


レオンに続いてエリスも口を開くが、イリヤの表情に納得の色は見えない。


「じゃあ、これならどうかな?僕、トーヤ・ハインツは無事にイリス達の所に戻ることを僕の”魂”に誓う」


 イリヤの驚く顔。この”魂”にかけて誓うという言葉、この世界では最大級の契約の形とされている。

一般常識として、この言葉を使って交わされた約束は必ず履行されなければならないとされている。


「・・・分かりました。必ず、必ず帰って来て下さいね!まだちゃんとお礼も言ってないんですから!!」


しぶしぶ、そうこの形容が物凄く似合う様相でイリヤはそう言う。


「分かってるよ。それじゃ、レオン、エリス、頼むよ」


「任せろ!」「任された」


そう言うと木剣をエリスに預けたレオンがイリヤを抱き上げ、この場を離れて行った。


「さてと、そこに居るんだろ?出て来いよ」


さっきからずっと剣気を向けていた木の影を睨みながら言う。


「へぇ~、よく私に気付いたわね。ちょっと驚いたわ」


「残念ながら、そんなヤワな鍛え方はしてないんでね」


返って来た答えは少女の声。しかし、その気配からは油断できないものを感じる。

久々の死合いの気配に、獰猛な素が表に出る。


「あは!面白いわね、坊や」


「俺を坊やと言えるほど年食ってるようには見えないんだけど?」


「あら、嬉しい事言ってくれるわね。あんな奴らとは大違い。それに言葉遣いも変わっちゃって、今の方が私好みよ?」


「知るかよ。それより、やっぱりお前はあの誘拐犯の仲間だったんだな」


「不本意ながらね。上からの命令だから嫌々従ってたけど、案外当たりくじだったかもね。うふふ」


「俺はハズレくじってか。悪いが、ちょいとばかり付き合ってもらうよ」


「強引ね。でも、好きよ。そういうの」


「気に入ってもらえて恐悦至極ってね!ハァッ!!」


呼気と共に気配のある位置に踏み込む。強化の魔法は発動したままだ。


確実に捕えた、はずだった。


「居ない!?」


「ざ~んね~ん、ハ・ズ・レ。あはははは!」


 再び響いてきた少女の声。

その次の瞬間に起こった事に、俺は不覚にも驚きを露わにしてしまった。


「気配が・・・増えた!?」


1つだった気配が2つ、3つと増えていく。


「さ~て、次は当たるかな~?」


感じる数は全部で10。そのどれもが本物らしい気配を放ってくる。


「1つ1つ倒すのは面倒だな。でも火使ったら苦しくなるのは俺の方か・・・だったら!」


意識を集中、魔力光を青白色へと染め上げる。


「『凍てつきし大地(ニブルヘイム)』!」


足元から放射状に、物凄い速さで氷が広がり10の気配を凍りつかせる。

だが、


「驚いたわ。まさか中級魔法を詠唱省略で、しかも一番得意じゃない系統だなんて・・・貴方、何者?」


「さてね、そういうアンタは差し詰め暗殺者(アサシン)ってとこか?俺に気配を読ませないなんて、相当な使い手だな」


「・・・お遊びはここまでよ。残念だけど貴方はここで死んでもらう。元々、目撃者は殲滅って命令だったし」


「何ッ?!おい、ま・・・」


「じゃあね」


━━━━ゾブッ!


「クッ・・・カハッ!」


 それは、黒い槍だった。

俺の腹の辺りから、その冷たい槍先を覗かせている。


「こんな所で出会わなければ、もっと楽しめたのにね。本当に残念だわ」


声は、俺の後ろから聞こえてきた。


「ずっと・・そこに居たのか?」


「ええ、正確には貴方の()の中、よ」


「・・・いつ、から?」


「私が囮を出した時よ」


ズリュッ


「グフッ・・・・」


 黒槍が抜き取られ、体にポッカリと空いた穴から血がとめどなく流れ出る。

このままだと、1分もしない内に出血多量で死ぬのは確実だ。


「ダメ・・だ」


「え?」


「俺、は・・まだ、死ねない。俺の”魂”に、誓ったんだ。みんなの所へ、戻るって!」


弱まりかけていた心臓が大きく一度、脈動する。


「まだ、この世界のこと、何も知らない。イリヤとも、友達になったばかりだ」


意識に靄がかかりはじめ、視界が揺らぐ。四肢に力が入らない。


「だか、ら俺は・・・まだ死ねないッ!!」


叫び、そして、俺の意識は暗転した。


☆★☆


「ふぅ、後味の悪い任務だったわね」


 そう呟きながら黒槍を構成する魔法を解く。

今までと同じ、そしてこれからも変わることなく同じ様に与えられた任務をこなしていくだろう。

だけどこの任務、いや、今しがた殺した彼の事を私は忘れられないだろう。

彼にはそれだけ、何か私を惹きつけるものがあった。


「せめて、安らかに」


 そう言って、その場を立ち去ろうとした時━━━━━ドンッ!!

濃密で巨大な魔力が背後から噴き出した。


「まさか!?」


 振り返るとそこには、”銀”色の魔力光を放ちながら、いつの間に取り出したのか、巨大な刀を握って立ち上がる少年の姿があった。


☆★☆


俺は、銀色の世界に居た。


「ここは・・?」


呟きに反応するように幾条もの”銀”が俺に殺到する。


「うわぁッ!」


 情けない悲鳴をあげながら、反射的に目を閉じて痛みに耐えようとする。

が、痛みは一向に襲ってこない。


「あれ?」


「欠損部位を治しているだけだ」


「誰だ?」


目の前に20代ぐらいだろうか、女とも男ともとれる顔立ちの人物が立っていた。


「我はセラフィム、天使の第1位、熾天使の名を冠する者だ。器を持ちし人の子よ」


人物が名乗ると同時にその背中に8枚の白い翼が広がる。


「天使?器?それに欠損部位って・・・あ」


 見ると腹に空いていた穴が綺麗に無くなっていた。

ため息を一つ。


「それで、俺は死んだのか?」


「死?いやいや、違うぞ人の子よ。汝は選らばれたのだ、私の力を託すべき相手に」


「お前の、力?」


「そうだ。この世界はいずれ大きな戦いの渦に飲み込まれる。それは、この世界そのものを壊しかねない程大きなものだ」


「そんなに大変なんなら、アンタが介入すればいいじゃないか。俺の瀕死の傷を一瞬で治すぐらいの力があるんだからよ」


「そう出来ればどれだけ良いことだろうか。星の数ほどある世界を維持し、時を流すことに神はその力のほとんどを使っている。我々天使は、元々世界への直接的な介入権を持っていない。出来る事と言えば、神の維持する世界に干渉して器を持つ者を呼び寄せるぐらいだ」


「呼び寄せる?じゃあ、俺がこの世界に飛ばされたのはお前が原因か!?」


「すまない、我ら天使も出来るだけ待ってみたがどうしてもこの世界の崩壊だけは免れなかった。ゆっくりと衰弱して消えるならまだしも、いきなり消えられるとその余波が他の世界に干渉しかねない。そうなると、干渉された世界は少なからず歩むはずだった時から逸れる。良い方にも、悪い方にもだ」


「・・・・そこで俺か」


「そうだ、無茶苦茶な事ではあるが汝しか我の力を、熾天使の力を託せる者が居なかったのだ。少しばかり早いが、汝には我の代行者となって欲しい」


「・・・はあ、分かったよ。どうせ戻れないんだろ。で、俺は何をすればいいんだ?」


「別に何もしなくてもよい」


「は?」


「汝は汝のまま生きてゆけばよい。それが自然、良い方向に世界を導くだろう」


「そんな簡単に変わっていいのかよ?」


「汝は水面に投げ込まれる石のようなものだ。それだけでも世界は劇的に変化する」


「そんなもんか」


「そういうものだ。さて、そろそろ時間だ。汝を元に戻そう。少しでも良い方向へ世界を導いてくれ」


セラフィムの言葉で視界は、銀に染まった。


☆★☆


アパラス山脈麓 廃坑付近


「痛ッ!」


 意識を取り戻すと同時に右手の甲に鋭い痛みが走る。

見ると、何処かで見たような・・・・そう、星座の牡羊座をあらわす紋章が描かれている途中だった。


「せめて、安らかに」


 さっきの少女の声が聞こえる。

意外にも、俺とセラフィムが話していた時間はこっちの換算だと極一瞬のものだったらしい。

転瞬、紋章が完成し巨大な力がそこから体中に流れ込む。

一瞬にして体全体に行き渡ったそれは、すぐさま体という器から飛び出し、銀色(・・)の魔力光となって湧き出した。

紋章が一度、瞬いたかと思うと巨大ながらもどこか荘厳さを感じさせる刀が手中に出現した。


「これは・・・凄いな」


 ゆっくりと立ち上がりながら体の状態を確認する。

魔力の保有量、体の軽さ、更には感覚の鋭さまで以前とは格段に違っている。

手の中の刀も、前世も含めた今までの中で最高の物だ。

同時にこれをどう扱えばいいのかを理解し、俺は戦慄した。

人間の範疇を遥かに超えた力。

使い方を間違えれば、それこそ国一つは簡単に滅亡させられるんじゃないかという程の力だということが分かる。


「まったく、とんでもない力を託してくれたものだ。ま、今はそれだけ期待されてるってことで納得しようじゃないか。お陰で、誓いを破らずに済む」


 そして再び、俺はその少女を対峙した。

フードをかぶっているため顔は見えないが、背格好からして年は俺より六歳ほど上。

その雰囲気には、流石に戸惑いが感じられる。


「あなた、本当に何者!?確かに殺したはずよッ?!」


「ああ、俺も死んだと思ったよ。だけど、案外俺は運がいいらしい。とりあえずお前を退けてみんなの所へ帰るよ」


「”倒す”とは言わないのね」


 少女のからかうような声。

未だ固さの残る声だが、この短時間で自分のペースを取り戻すとは・・・場数を踏んでるな


「まあ、なんかお前が絶対的に悪だ!って言える判断材料が少ないってのもあるけど・・分かるだろ?」


 俺の言葉に銀光が揺らめく。

実を言うと、巨大すぎるこの力を完全には掌握しきれていない。

なんの拍子に決壊した堤防よろしく、魔力が暴走しないか冷や汗ものだったりする。

睨みあう二人。


「甘いのね」


少女はそう言うと攻撃の雰囲気を霧散させる。


「優しいの間違いじゃないか?・・・ッ!と」


 魔法発動の気配。

地面から幾本もの黒槍が突き出してくるが、巨刀の一閃でガラスのように砕け、ただの魔力へと還る。

視線を戻すと、少女の姿は無い。


「いいわ、今回は退いてあげる。それはせめてもの抵抗よ、また会いましょう」


声だけが聞こえ、次いでその気配までもが霧散する。


「行ってくれたか」


その事実にホッと軽く溜息をつき、右手の巨刀を見つめ”消えろ”と念じる。

すると、糸を解くように巨刀はその構成を解き、左手の中へと入っていった。

光が収まると左手の甲に”刀”を意匠した紋章が表れ、放出されていた銀色の魔力光も収まった。

体の毛先まで詰まっていた力がスッと体の中心、魔力を生成する魔核に集まる。

元々俺が持っていた魔力と新しく手に入れた魔力が混ざり合うのを感じる。

感覚で俺があの、銀色の魔力光を放つ系統━仮に天使系統としておく━が使えることを知る。


「服は・・・なるようになるか」


 腹の辺りで丸く破れている服を見下ろして、ため息を一つ。

背中にも同様のものがあるのだろうけど、今は何も出来ない。


「みんなの所へ行くか」


呟いて、俺はアルンの王宮へ向けて歩き出した。

読んで頂きありがとうございました!

感想、指摘お待ちしていますm(_ _)m

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