第4話 救出作戦
校正が終わったので投稿します!
アパラス山脈麓の森 川原
「イリヤが誘拐された可能性がある」
「おい、本当に誘拐されてたら洒落にならないぞ!?」
「まだ誘拐されたと決まったわけじゃない」
「いや、最悪を想定して動いた方がいいだろう」
エリスとレオンにそう言いながら俺は考えを巡らせる。
「エリス、イリヤというかスベイルーン王国に敵対しそうな国はあるか?」
「ない、はず。どの国もこの国から魔法石を輸入してるから。それに、スベイルーンは中立だから」
エリスの言う通り、スベイルーンは他の4国に対して中立を表明し、特産品である魔法石を差別なく輸出している。
そしてこの魔法石は、この世界で唯一大量に人員や物品を運ぶことが出来る船━馬車もあるけど一度に運べる量の差は歴然だ━の燃料であり、良質な物ともなれば魔法具の材料にもなる貴重なものだ。
それを失うかもしれないというリスクを背負ってまで、イリヤを攫うメリットが何処にある?
それに、中立を表明するスベイルーンの王女を攫うということは明らかな敵対行為、それを知った各国が黙っているとは思えない。
それとも、イリヤを人質にして他国への輸出を止めさせることで、国力を減らすことを狙っているのか?
いや、今はそんなことはどうでもいい。イリヤを見つける事が先決だ。
優先順位の一番に、イリヤ救出を掲げて思考を中断。
黒幕については今悩んだってしょうがない。イリヤを助けるついでに誘拐犯に聞けばいいことだ。
正直に答えてくれるかは別として、だけど……
「二人とも、さっさとイリヤを見つけ出そう。まだ居なくなって10分弱だ。馬は魔力濃度の高いこの森を嫌うから、馬車で移動している可能性は無いはずだ」
「でもよ、どうやって見つけるんだよ?この森って結構広いんだぜ?探査魔法でもなきゃ無茶だろ」
「使えても無理。あの魔法は精々自分を中心として500メートルぐらいしか探査出来ないから」
「ま、普通の探査魔法ならな」
「なんだよ、普通じゃない探査魔法があるって言いたそうだな」
「ある。風系統上級魔法『風の息吹』」
「それなら聞いたことある。使いこなせれば確かにこの森全体ぐらいなら楽に探査出来る。でも、上級魔法の中でも難しい方の魔法のはず」
「おい、まさか・・・」
「そのまさか。僕の最大探査範囲はまだ約2キロル(2キロメートル)だけど、人間の歩くスピードは1時間に約4キロル。だから、今ならまだ余裕で探し出せるはずだ」
レオンが絶句、エリスはもう慣れたとばかりに表情を変えないが、その瞳には僅かばかりの驚愕と羨望が見て取れる。
いや、自分でも流石に異常だと思ってるよ?一般平均から明らかに逸脱してるし、ツァリさんや周りの人の反応を見てれば嫌でも自覚するよ。
とりあえず、そんな思いは思考の彼方へ追いやって、意識を集中。
「我放つは、大気を揺るがす緑の風
疾く早く駆けき風、広く、深く、遠く、薄く
四方放ちて、我が求めし者を探し出せ
『風の息吹』!」
言い終えるのと同時に、両手をパンッと打ち合わせる。
ごっそりと魔力を持っていかれる感覚がすると、打ち合わせた時に発生した風が緑色を帯び、俺を中心に円状に広がる。
この魔法、実は超音波に似ている。跳ね返りはしないが、自分を中心ある程度の範囲━俺なら2キロル━の地形や何があるかなどまで分かる。
もちろん、風の入れる所までなら何処までもだ。
今、目を閉じている俺の脳裏には、昔なにかのテレビで見た立体ホログラムのようなものが広がっている。
俺を中心として放たれた風は、木々の間を通り抜け、枝を揺らし、葉を散らせながら広がる。
詠唱句にあった、広く、深く、遠く、薄くという言葉の通りに・・・
そして数秒後、俺はその場所を見つけた。
「見つけた!この川の上流、アパラス山脈にある廃坑の坑夫用宿舎だ。その2階にイリヤはいる!」
「よーし、さっさとその場所に行こうぜ」
「トーヤ、道案内お願い」
「分かってる。飛ばすから・・・ちゃんと着いて来いよ?」
そう言って俺達は強化の魔法を発動させると、全速力で駆けだした。
☆★☆
アパラス山脈 廃坑前 宿舎内2階
目が覚めて最初に見えたのは板張りの天井でした。
起き上がろうとして、私は両手両足を縄で縛られている事に気付きました。
部屋の中には誰も居ませんが、入口の所に1人、下の階に3人分の心を感じます。
それは、トーヤ様たちと一緒に居た森で一瞬感じたものと同じものでした。
窓の外に見える風景は見覚えのある木々の緑が多く、日もまだ高いので、誘拐されてからそれほど時間が経っていないようです。
今日、という日は私にとって意外にも楽しい時間となっていました。
レオン様もエリス様も、それにトーヤ様もとても暖かな心の持ち主です。
王宮内の皆さんも暖かい心は持っていまいますが、どうしても私と接するときに同情や憐れみといった感情が混ざってしまっているのを感じていました。
だから私は、そんな彼らを心配させないように振舞っていました。
もちろん、王である父の前でも。
でも、あの3人、特に何も事情を知らないはずのトーヤ様は、新参者である私を快く迎え入れてくれました。
レオン様、エリス様の心には同情の色は無く、トーヤさまは私の事を常に気遣って下さいました。
何よりも、3人とも私の事を本心から”友達”だと思ってくれている事が伝わってきて嬉しかった。
王宮から出る機会があまり無く、王宮内でも王女の立場のせいで親しく付き合える人が限られ、その全てが自分よりも年上の方ばかり。
だから、同年代の人との付き合いは私にとって新鮮な事ばかりでした。
そんな日だったのに、自分は今誘拐されてこんなところに寝転んでいます。
トーヤ様たちには心配を掛けてしまっているでしょうか?
「一人はさびしいです、お母様・・・」
☆★☆
アパラス山脈 廃坑付近
「着いたぞ。あそこにイリヤが居る」
「じゃあさっさと乗り込もうぜ。何でわざわざこんなところに隠れなきゃならないんだよ?」
件の宿舎は目の前にあるが、俺たちは突撃せず、近くの茂みに隠れていた。
「あそこ、入口の影と一階奥の窓際に人が居る。馬鹿正直に突っ込んだらいい的だよ。それに、イリヤのいる部屋の前にも一人居た」
「じゃあどうしろっていうんだよ。まさか、このまま隠れてるわけじゃないだろう?」
「もちろん、助けるに決まってる。そこで二人に聞きたいことがあるんだけど、ちゃんと魔力の自然放出は抑えてるよな?」
「抑えてる。それと、なんとなくトーヤのやりたい事も分かった」
「どういうことだよ?俺にも分かるように言ってくれ!」
そう言うレオンにニヤリと笑いながら俺は、
「つまりだ、今から僕達であそこを強襲する」
そう言い放った。
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アパラス山脈 坑夫宿舎玄関
「はあ~、暇だな」
「まあ、戦巫女様がいらっしゃるまではここで待機だからな」
話しているのはイリヤを攫った一味のメンバーだ。入口の防衛と索敵を任されてはいるが、滅多に人が入り込まないこの場所ではあまり意味が無い。ともすれば、2人が油断してしまうのは仕方ないと言えよう。
だから、突如として湧きあがった2つの魔力に驚き、隙を作ってしまったのも無理はない。
が、それは2人にとって致命的な隙になった。
「『凍てつきし大地』」
すでに詠唱を終えていたエリスが解放詞を唱えて魔法を発動する。
普段の鍛錬の成果か、2人まで300メートルほどあった距離が一瞬にして凍りつく。
範囲を意志力で絞って発動させた為、地面を凍りつかせた冷気はそのまま誘拐犯達の元へ辿り着き、その足を地面と一緒に凍りつかせる。
魔法を打ち終わったエリスが後ろに下がるのと同時に今度は、レオンが飛び出してくる。
その手には木刀と木剣を握っている。強化の魔法全開で飛び出すと、一刀一剣の柄を動けない2人の鳩尾へと突き込んだ!
尋常じゃない圧力を受けて崩れ落ちる2人。流石に室内に居た仲間が異変に気付き次々と出てくる。
トーヤの索敵で誘拐犯の人数は4人と分かっているのでこれで全員だ。
「こんな所に人が来ると思えば、お前達か。目撃者は殲滅との命令だ。・・・・悪いが死んでもらう」
「おいおいマジかよ。急げよトーヤ、どうやらこいつらただの誘拐犯じゃなさそうだぜ」
出てきた誘拐犯のリーダーらしき人物が放つ殺気に、レオンは誰ともなしにそう呟いた。
☆★☆
その頃、トーヤは・・・
「よし、潜入完了っと。早くイリヤの所に行かなくちゃ、嫌な予感がする」
宿舎の2階に降り立った俺は、そう呟きながらイリヤが居るはずの部屋へと向かう。
俺が2人に頼んだのは誘拐犯の気を引きつけてもらうこと、要は陽動だ。
そして、2人に誘拐犯の気が向いている隙に俺が宿舎に潜入し、王女ことイリヤを救出する。
俺の作戦はそれだけだ。拙いとは言わないで欲しい、Simple is besutの精神でいこう。
最初、エリスに魔法を使ってもらったのは俺が2階の天井に昇る時に使う魔法を、誘拐犯に気取られないようにするためだ。
事前の索敵で室内に誘拐犯が居ないのは確認済みだから、何の気負いもなく扉を開ける。
「助けに来たよ、イリヤ」
☆★☆
アパラス山脈 坑夫宿舎2階
「助けに来たよ、イリヤ」
その光景に、私は少しばかり戸惑っていました。
ここには居ないはずの人が、目の前に立っていたのですから。
「どう、して・・・?」
「どうして?そりゃ、”友達”が突然居なくなったら普通は捜すよ。ましてや、誘拐なんかされてたら全力で助けに行くね」
そう苦笑しながら私の呟きに答えるとその人、トーヤ様は手際よく私を拘束している縄を解きます。
彼から感じる心には嘘偽りの気配は有りません。本当にそう思っているのでしょう。
それはとても暖かい心でした。不意に、頬に冷たい感触がしました。
「あ、れ?あれ・・・どうして・・止まらない・・」
トーヤ様が私を”友達”と言ってくれた事や当たり前のように居なくなった私を捜し、見つけ出してくれたこと、今さらながらに感じた不安など色々な気持ちが、涙となって私から流れ出ます。
そんな私を、トーヤ様はそっと抱き締めてくれました。
「大丈夫、大丈夫だよ。僕がここにいるから」
その言葉と共に私の触れているトーヤ様の胸から、暖かな何かが流れ込み、私の中にある穴を埋めていきました。
☆★☆
イリヤの事はこっちに来る途中に2人から聞いていた。
俺は前世でイリヤと同じか、それより幼いくらいに両親を亡くして祖父に育てられた。
だから、今のイリヤの姿とその時の俺の姿が重なって見えて、気がついたらイリヤを抱き締めて言葉を掛けていた。
あの時、俺が立ち直るのに必要だったのは、近しい人の温もりだった。
出会ってまだ半日も経ってない俺じゃあそんな人にはなれないと思うけど、側に居ることぐらいは出来る。
恐らく1・2分ぐらいだったろうか、イリヤが顔を上げた。
「お見苦しいところをお見せしました。もう、大丈夫です。ありがとうございます」
「いや、気にしなくてもいいよ。僕が勝手にやったことだから。とりあえずここから出よう。なんかレオン達が苦戦してるみたいだし」
髪と同じ坡璃色の瞳が涙を通してキラキラ光ってるのを、場違いながらも綺麗だなと感じながらそう言う。
「あ、はい」
イリヤはそう返事をして立ちあがり、涙をぬぐって扉へ向かおうとする。
「あ、そっちじゃなくて」
「え?」
「ちょっと失礼」
「あ、キャッ!」
戸惑い顔のイリヤを抱き上げて、魔力光を風系統の緑色に染める。
「『貫く風』」
集まった風が鋭く、目の前にある板張りの壁を貫く。
「レオン!エリス!『堕ちる雷霆!』」
粉塵が舞う中、レオンとエリスに相手取ってもらっていた誘拐犯達に落雷を食らわせて気絶させる。
「助かった!イリヤは!?」
「無事だ。さっさと退散しよう」
「おう!」
今度は魔力光を身体強化の赤茶色に染める。そして、二階から飛び降た。
強化された身体は飛び降りた時の衝撃を完全に緩和する。レオン達に合流すると、俺達は森の外へと向けて走り出した。
並走するレオンから木刀を返してもらう。
「トーヤ、後でちょっと話たいことがある」
「分かった。兎に角、早くここから出よう。嫌な予感が収まらない」
「トーヤの予感は当たるからなぁ~」
そう、イリヤを助け出したのはいいのだが、嫌な予感が一向に晴れる様子が無い。
一帯に魔力が満ち過ぎている為、人が発する魔力を当てにした索敵はほとんど意味を成さない。どうしても後手に回ってしまう。魔力も大分使ったため、なるべく早く安全な所に行きたい。
気を最大限に張り、辺りを警戒する。と、魔法が発動する波動を捕えた。
だが、人影は何処にも見えない。
━━━━そして、俺は見た。
何処からともなく黒い帯が一条、レオンとエリスを捕えようと忍び寄っているのを!
「レオン!エリス!危ないッ!!」
読んで頂きありがとうございました!
感想、指摘お待ちしていますm(_ _)m




