第2話 忍び寄る魔手
アルン某所 夜
誰もが眠りにつき静かな街の一角。
そこに、一つの人影があった。
フードを深く被っている為顔は見えないが、そのシルエットから女性ということが分かる。
そこへ、夜の闇に隠れるような全身黒ずくめの男が4人、フードの女性の元へ来た。
近くで見ると女性というより、少女といった雰囲気の方が強い。
「来たわね」
「はい。今回の指令はどのようなものでしょうか?」
男の問いに、女性は懐から丸められ、封をされた一枚の紙を取り出す。
「宰相からの指令書よ」
黒ずくめの男の一人が、恭しく紙を受け取り広げる。
紙には命令が簡潔に書かれ、教皇と宰相の名前が複製不可能な魔法文字で連なっている。
「ッ!これは・・・よろしいのですか?」
「私が知る訳ないじゃない。あなた達は指令通りに動けばいいのよ。一応、私がバックアップにつくことになってるから。と言っても、余程の事がなきゃ動かないけど」
少女は、指令書の内容に驚きを露わにした男に興味を示さず、ただこれからの事を確認する。
「戦乙女様の御手を煩わせるような致しません。命令、確かに受諾致しました。全てはデュナミス様の御心のままに」
「ん、それじゃあ仕事に入りなさい。回収は明日の昼よ。対象確保は午前の内に済ませなさい」
女性はそれだけを言うと、正に文字通り闇に消えた。男達も、来たときと同じように夜の闇へと紛れる。
夜は更けていく。街に渦巻きだした悪意を、その内に押し隠すように・・・・
☆★☆
アルン第二円周区 ハインツ邸 食堂
「トーヤ、今日も友人と鍛練か?」
「はい。あ、でももう一人レオン達の知り合いが来るそうです」
「知り合い?」
「はい。僕もよくは知らないのですが、あの二人の知り合いなら変な人ではないでしょう」
「そうだな。ところで、トーヤ」
「なんですか、父さん?」
珍しく質問をしてきた、父親に少々驚きながらも答える。
基本口数が少ない人なので、挨拶以外は二言三言ぐらいしか朝食の時には話さない。
俺が来る前に何か話をしていたのか、母さんは微かな微笑みを浮かべながら黙っている。
「お前は、自分の才能を伸ばしたいと思っているか?」
「才能、ですか?」
「そうだ。お前は剣術の才能もそうだが、魔法の才能にも恵まれている。
お前はそれを良く理解して、鍛錬している事を私もマリーも知っている。
だが、ツァリだけでは教えきれない事がこれから出てくるかもしれない」
「それは、私をどこかの学院に入学させようということですか?」
「それも選択の一つだ。一応、アブソリュートへの入学を予定しているが、お前の道だ。お前が決めろ」
「分かりました、考えておきます。---それじゃあ、僕は約束があるので」
「ああ、気をつけて」「気をつけて行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
そう言いながら食卓の横に立つメイさん―今日は珍しくツァリさんじゃなかった―から木刀を受け取る。
そして俺は、父さんに言われたことを頭の片隅に置きながら家を出た。
「行ったか」
「ギルったらホントに親バカなんだから」
「・・・別にいいだろう」
「旦那様」
「ツァリか、どうした?」
おくびには出さないが、いい逃げ口を見つけたとばかりに話を変えるギルバートにマリアンナは「あらあら」と呟く。
「以前お話した鉱石ですが、二ヶ月後に搬入となりました。鍛冶師はクルツの知人に頼もうと思っております」
「クルツというと・・・刀か?」
「はい、坊ちゃまはどうやら刀に何か拘りがあるようなので、それに合わせる方向で進めております」
「分かった。このまま進めてくれ」
「かしこまりました」
☆★☆
アルン中央区 広場
「やばいな、父さんと喋ってて少し遅れたな」
呟きながら街を早足で歩く。
街はあちらこちらで店が開きだし、今日から今年最後の月ということでいつも以上に活気づいている。
二人とはいつもの広場にある噴水前で待ち合わせだ。
家の前から続く道から広場に繋がる大通りへ左折する。
「お、あれが二人の言ってた奴か」
広場まで一直線。
視線を先にやると紅茶色の短髪の少年とスカイブルーの長い髪をした少女の見知った二人の他に、坡璃色の長い髪をした小柄な少女が一緒に居る。彼女が二人の言っていた親の知り合いの子供だろう。
二人はいつも通りの装備で、少女は特に目立つような装備はしていない。
それにしても、坡璃色か・・・確かその色が表す系統は精神感応だったな。
「悪い悪い、待たせたな。それでそっちのが?」
途中から小走りで三人の元へ駆け寄り、一応確認を取る。
「そうだ、イリヤって言うんだ。俺達は自己紹介済ませてあるから」
「そっか」
レオンから自己紹介を受けて少女、イリヤと向き合う。
「おはよう、僕は二人と友達のトーヤ・ハインツだ」
「・・・知ってます。ビンセントさんからお話は伺っていますから」
「へぇ、おっちゃんが。俺の事なんて言ってた?」
おっちゃんは人前で俺やレオンの事をあまり褒めない人なので、その評価は気になるところだ。
「えっと・・・」
「ああ、無理に言わなくていいからな?」
「・・・はい」
言いづらそうにしていたイリヤにそう言って、自己紹介を終わらせる。
可愛いけど少し翳のある子だなっていうのが俺の第一印象だ。
むしろそれが彼女の可愛さを引き立てている面もあるようだが。
「それで、どうする?いつも通りでいいのか?」
「イリヤは魔法能力が高いから平気」
「行く場所も説明してあるしな」
「そっか、んじゃいつも通りで。イリヤもそれでいいか?」
「はい」
エリスと同様に口数の少ない性格なのか、受け答えは最小限の言葉だけだ。
その事を少し残念に思いながら、新しい仲間を加えた俺達はいつもの町はずれにある森へ向かった。
トーヤがイリヤに自己紹介をしている頃・・・
広場の噴水前に立つトーヤ達4人を物影から観察する男達が居た。
「ハイド1より各員へ、対象は護衛と思われる三名と合流。これより追跡行動に移る。全員隠密行動を徹底しろ」
「「「了解」」」
無系統魔法の一つ精神感応系統を使ったテレパシーで、隊長らしき男が他の3人に指示を出すと街の人間に紛れこむように、トーヤ達に気付かれない様に、4人は行動を開始した。
アルン近郊 アパラス山脈麓の森
もはやお馴染みとなった通常より濃い魔力濃度を感じるようになっても、イリヤの様子はさっきと変わったようには見えなかった。
本当に魔法能力が高いようだ。いや、エリスの言うことを疑ってた訳じゃないんだけどね。
「さて、僕達はいつもここで鍛錬をしてるんだ」
「街の方より空気中の魔力濃度が高いですね」
「まあ、場所が場所だからね」
ここに来るまでに気付いたことだけど、イリヤの喋り方はとても上品だった。
父さんとの商談に来る、身分のある程度高い人と似た感じ雰囲気がある。
やっぱり、王宮と関係のある家なのだろうか?
ついでに言っておくと、この国に貴族は居ない。
国王が基本的に政治を行い、8人の大臣がその補佐についている。
強引に解釈するならこの8人の大臣が他国で言う貴族の様なものだ。
と言っても、基本的に王族以外は全て同じ身分とされている。
大臣には、五年毎に開催される大臣選出の為の王国試験を突破さえすればいいので、チャンスは誰にでもある。
閑話休題
「でも、だからこそ僕はここを鍛錬場に選んだんだ」
「それは、何故?」
「周りの魔力濃度が高いと魔法を発動させやすいのと、魔法の制御力を鍛えられるからだ」
俺はそう言うと掌をイリヤの前に出すと『灯る炎』と呟き小さな炎を出す。
「ここだとこれぐらいの魔法なら自分の魔力をそんなに使わなくても、発動させることが出来る。
それと、今は街で発動した時と同じくらいの大きさに制御してるけど・・・ちょっと離れて」
3人を俺から離れさせ、安全な所まで下がらせる。
それを確認して、力の制御を手放す。すると炎は、一気に1メートルぐらいの大きさまで膨れ上がった。
「こんな風になるから僕達、と言うか僕とエリスは魔法制御の鍛錬をしている」
掌の炎を消して3人に近づくとイリヤは少し驚いたように目を見開いていた。
僅かではあるが、街で自己紹介した時より翳りが和らいだように感じた。
「今日はイリヤと友好を深めようと思ってるんだけど・・・イリヤは何か武器を使ったりとか体術が出来たりする?」
「いいえ、どちらも出来ません」
「そっか、じゃあ今日は魔法の鍛錬中心で行きたいと思うんだけど・・・レオン、いい?」
「ま、そういうことならしゃあないな。今日は強化の魔法の鍛錬でもするさ」
「ありがとう。それじゃあ早速始めようか」
☆★☆
「ハイド1より各員へ、配置に付き次第待機。対象に隙が出来るのを待つ」
「「「了解」」」
フードの少女から本国の指令を受けた4人は、トーヤ達を囲むように森の中に溶け込み、機が熟すのを待っていた。
男達が精神感応のテレパシーで”通信”を行っている時、イリヤが辺りを訝しげに見回していたことに気付いた者は、居なかった。
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