第1話 レオンとエリス
アルン中央区 広場
「おはよう、二人とも待たせたか?」
「いんや、俺らも来たとこだぜ」
「おはよう、トーヤ」
広場に着くと既にレオンとエリスの二人が立っていた。
レオンは木剣を持ちエリスは母親のお下がりの魔法威力増強リングを付け、短木剣を腰に差している。
「そっか、じゃあ行くか」
「ああ」「うん」
二人と共にいつも鍛錬に使う、広場から歩いて20分ほどの町はずれの森へ向かう。
この森は魔法石が採れるアパラス山脈の麓にあり、魔力に満ちている。
森に流れる川はアパラス山脈に源流があり、大量の魔力を水中に含んでいる。
その為、この森の中は通常より魔力濃度が高い。
一般人なら通常より濃い―濃いと言っても1.5倍ほどだけど―魔力濃度に10分もしないで魔力酔いを起こして、吐き気を催すだろう。
俺とエリスは一般人以上の魔力を保有しているから平気だけど、レオンは・・・何故かは知らないけど平気らしい。
ホント何でだろう?
兎にも角にもそんな理由で人が全くいないから、俺達の鍛錬場として使っている。
「よし、まずは僕とレオンで組手から始めるか」
「うっし!どっからでも掛かって来い!」
「張り切るね。エリス、治癒魔法の用意をしといて」
「分かった」
エリスの返事を聞いて俺とレオンは向きあう。
体格はレオンの方が上、体重も腕力もリーチもレオンが上だ。
対して俺は、前世―前の世界と言うのも面倒だから前世と考えるようにした―からの経験と身軽さしかない。
自然、自分から攻めるよりカウンター狙いになる。
「行くぜッ!!」
レオンが叫ぶと同時に踏み込んでくる。
身体強化の魔法を使っている為、全身が赤茶色の魔力光に染まっている。
俺も身体強化の魔法を発動させながら、普通よりも強烈な右正拳突きを最小の動きで回避、衝撃波が身体を揺らすが耐える。
そのまま、右の脇下を通り抜ける腕を抱え込んで関節を極めようとする。
それをレオンは腕力に物を言わせて強引に振り払い、左の拳を放つ。
距離が近いので咄嗟の回避は意味を成さない。
迫る拳を包み込むようにしながら、軌道を外へ逸らす。
立花流柔術、古来より剣の道に進む者は、同時に古武術を習う事が多い。
得物が無くちゃ戦えません、なんてのは間抜けすぎるからな。
立花流もそこは同じで、これはその一つだ。相手より力の弱い者が強い者に対抗する手段。
相手の力を受け止めるのではなく、軌道を逸らすことで攻撃を外す。
体勢を崩したレオンに下段蹴りを見舞うが、流れに逆らわず前転された為に当たらない。
再び距離を取って相対。
「流石に躱ようになってきたな。最初は面白いようにこけてくれたのに」
「当たり前だ!いい加減、転ばされるのにも飽きてきたぜ」
「二人とも頑張れ」
エリスの声援で再びぶつかる俺とレオン。一息ついたのはそれから30分後だった。
☆★☆
「ありがと、エリス」
「どういたしまして」
準備運動代りの組手を終えて、エリスに怪我を治してもらう。
毎回毎回怪我をして、それをエリスに治してもらっているので、エリスの治癒魔法は俺よりも上手だ。
骨折ぐらいまでなら即座に治せる。
「レオンは休んで。次は私」
「容赦ないな~、僕に休憩は無しか?」
「息一つ切らしてないトーヤが言っても、説得力無いと私は思うけど?」
「・・・確かに」
エリスに言われ苦笑しながら立ち上がる。
最初は気の小さい女の子だと思ってたけどこれが中々、段々打ち解けてくるにつれて本性というか地というか、意外にも色んな意味でいい性格を見せてきた。
「分かったよ。まずは、一週間前に教えた氷系統の中級魔法のおさらいをしようか」
「分かった」
目を閉じ、エリスが意識を集中させる。魔法を使う上で大事なの三つあって、その一つがイメージ力だ。
イメージしなくてもある程度の威力を持つ魔法は行使できるけど、イメージが強固な方が魔法の構成が段違いに強く、速くなる。慣れれば詠唱も必要なくなる。
だから、魔法の鍛錬は自然と反復練習になる。
丁度、剣術の型を何回もそれこそ何万回も練習するのと同じだ。
二つ目は意志力で、これが強い方が魔法の威力も高まる。ある本には、圧倒的な意志力で上級魔法を下級魔法で蹴散らしたという伝説が載っていた。
また、手元を離れた魔法の操作もこの力の強さに比例する。
最後は、当たり前だが魔力だ。こいつを込めなきゃ、魔法は発動しない。
エリスの体から魔力が流れ始め、それが青白く染まる。
魔力というのは無色の絵の具みたいな物だ。青白色の魔力光は氷系統の色。
魔法は、魔力を使う系統の色に染めて、世界というキャンバスに絵を書き込む行為だ。
しかしこのキャンバス、自動削除機能みたいなのがあって、すぐに魔法と言う名の絵は消されてしまう。
だから、魔法が永続的に発動するという状況は起こらない。
「我放つは、大気を凍らす青白き氷
彼の地を凍らせ、敵を阻め
『凍てつく大地』!」
エリスの詠唱で魔力光が増大、目を見開き右手が突き出されるとそこから前方100メートル程が扇状に凍りついた。冷気が辺りに立ち込め、吐く息が僅かに白くなる。
氷系統中級魔法『凍てつく大地』、記録によれば周囲1キロぐらいは凍らせることができるみたいだから改善の余地有りだな。
これでも、一週間前は直線で前方1メートルしか凍らせられなかったから物凄い進歩なんだけどな。
「随分練習したんだな。かなりの進歩だよ」
「うん。お母さんにちょっとアドバイスしてもらったから」
「なるほどな。さて、『燃え盛る大地』」
魔力光を火系統の赤に染めて、火系統中級魔法『燃え盛る大地』を詠唱省略で発動。
エリスが凍らせた大地を氷だけ溶かす。
地面に焦げ目は、どこにも付いていない。
これがイメージ力と意志力を高めた結果だ。
「・・・やっぱり、トーヤの方がすごい。私はあんな正確に魔法を使えない」
「いや、火系統の中級魔法はこれしか使えないし。氷系統はエリスの方が上じゃないか」
「でも、詠唱省略は出来ない」
「いや・・・それは・・・」
魔法自体は元々詠唱無しでも発動可能だ。
なのに詠唱が必要となるのは、自らのイメージをより強固な物にする為だ。
詠唱省略は長年の鍛錬を積んでやっと修得できるものらしいけど、俺には前世で得たイメージがあるからこの世界の人々よりも早く修得できた。
意外かもしれないが立花家は武術に関してはとても厳しいけど、それ以外は一般の家庭となんら変わらない。
そんなことで思いがけずに楽をさせてもらっている。
「エリスもすぐに出来るようになると思うよ」
「もちろん、すぐに追いつく」
「身体強化しか使えない俺としては、二人とも凄いけどな」
「レオンだって、半年前とは段違いだろ?」
「それでも、まだお前に勝てないんだもんな」
(そりゃあ、精神上は年上だから負けるわけにはいかないし)
その後はいつも通り、俺はレオンには剣術を、エリスには得意の風と雷系統と短剣術を、エリスからは水系統の魔法を教えたり教えてもらったりして、時間を過ごした。
☆★☆
「お、そろそろ時間じゃないか?」
真上に上がった太陽を見てレオンが呟く。
確かに、少しお腹が空いてきた。
いや、意識したら猛烈にお腹がすいてきたぞ。
「もうそんな時間か」
「お腹空いた」
「今日はこれで終わりにしようか」
「ああ、そうだな」
それから二人と合流した広場に戻り解散、
「あっと、ちょい待ち」
---しようとしたところでレオンに呼び止められた。
「どうした?」
「明日の事なんだけどよ。親父から面倒見て欲しい、って言われてる奴が居てさ。えっと・・その・・」
「それで?」
珍しく歯切れの悪いレオンに先を促す。
エリスは何か心当たりが有るのか何も言わない。何も知らない時は疑問の声を上げるからだ。
「いや・・・連れてきてもいいか?」
「いや、僕は別に良いけど・・・どうした?」
「そっか!いや、なんかソイツは友達が少ないみたいでさ、周りに俺らぐらいの奴が居ないらしいんだよ。
それでな、親父がソイツの親に頼まれたみたいでさ」
「私もお母さんに頼まれてた」
「エリスもか?それじゃあ王宮で働いてる人の関係者かな?」
「そこら辺は俺も知らねぇ。ま、俺が言いたかったのはそれだけだ。
明日も同じで良いよな?」
「その子が問題無いのであればいいよ」
「うっし、じゃあまた明日な!」
「バイバイ」
「ああ、また明日な!」
そうして二人と別れて、俺は家へ帰った。
☆★☆
アルン中央区 王宮 謁見の間
「ビンセント、明日の件はどうなった?」
「はい、先ほどレオンから了承されたと聞きました」
老紳士風の男からの問いに、傍に控えていた如何にも武人といった然の男が答える。
「そうか、ルナが死んでからあの子はすっかり元気を無くしてしまったからのう。
明日はあの子にとって、気分転換になってくれるといいのだが・・・」
「ご心中、お察しします」
「それにしても、そのトーヤといったか?フェルニスの娘やお前の息子はともかく、彼は大丈夫なのか?」
「ご心配には及びません。彼の剣は息子を凌ぎ、魔法はエリスを凌ぐほどでございますから」
「なんと!それが誠であるならば安心じゃ。それでは明日の事、任せたぞ」
「はい、お任せ下さい」
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