第11話 入学式前日前編
生存報告を兼ねて書き上げたので投稿します!
これからも大分飛び飛びで更新になると思いますがよろしくお願いしますm(_ _)m
アルン郊外 街道
アルンから出て数十分、時折襲いくる突き上げるような振動に、俺は顔をしかめていた。
「この揺れ、どうにかならないものか」
「トーヤ、諦めろ。普通の馬車はこれより酷いぞ」
「前見とけよ、危ないだろ」
俺がぼやくと、御者台で馬を操るレオンが振り返りながら言い、
「まだマシ」
ポツリとエリスが呟き、
「すみません、王宮に有るものでもこれが精一杯で」
その横で、申し訳なさそうにイリヤが頭を下げる。
「いや、イリヤのせいじゃないんだから謝るなって。……あ、これならイケるかも」
絶対にサスペンションの類を作り出してやる、と考えながら魔力を緑に染める。
「何するつもりだ?」
「取り敢えず、妥協案」
元になったものは下級魔法の『撫でそよぐ風』。それを意志力で制御した亜流魔法。
「『漂う風』」
発動場所は客室に敷かれたカーペットとの下。
「ん、これは……」
「揺れが収まった?」
「よし!成功♪」
魔法が発動した途端に収まる揺れ。時々揺れることには揺れるが、それも柔らかいものでむしろ心地好い。
「トーヤ、これは?」
「私も気になります!」
言いながら目を輝かせる女の子二人に、俺は得意顔で説明する。
「これは『撫でそよぐ風』を意志力で一定の場所に漂わせて、分厚いクッションみたいなものを作ったんだ。そのお陰で、揺れは僕達に届く前に弱められるんだ」
「『阻む烈風』じゃダメなの?あれの方がまとまりやすい」
「そうなんだけど、消費魔力高いし、風強いじゃんアレ。余計に揺れると思うよ」
「なるほど」
魔法に関して相変わらずの探究心を発揮するエリス。イリヤも、納得したように頷いている。
「改めて思いましたがトーヤ様は桁外れですね」
イリヤは叙勲されて以降、毎日俺達の鍛練に参加していた。誘拐未遂があった為に、鍛練場所は王宮にある魔導師隊用の鍛練場を貸してもらっていた。
「まあ、他とは違うのは認めるけど、フェルニスさんには敵わなかったしな……」
「当然。トーヤは経験が足りない」
自らの母を誇るエリスに、
「ま、そうなんだけどな」
そう返し、アブソリュート学院のある都市、ジェニスまで約半日の道程に思いを馳せた。
☆★☆
ジェニスは、アブソリュート学院を中心に発展した学園都市だ。中立国内に有る為、静かに研究をしたい研究者達が大陸中から集まる。南には港が広がり、イルクツク同盟との貿易が盛んだ。北には隣国、カナディル公国との国境である深い森が鬱蒼と広がっている。この森には魔獣が生息しているが、ランクはS~Fの七段階でもせいぜいDランク。学院の学生であれば程よい鍛練相手となるレベルだ。
学院は全寮制で、特に事情が無ければ夏期と冬期、春期の休みに家へ帰ることが出来る。
☆★☆
ジェニス中心部
四の鐘が辺りに鳴り響く頃、俺達は無事にジェニスに到着した。主要な町と町を繋ぐ街道では、魔獣が定期的に駆除されている為、穏やかな道程だった。
「ここがジェニスか。活気があって良いところだな」
レオンと交代して御者台に座っていた俺は、そう呟きながら視線を巡らす。
「やっと着いたか。流石に腰が痛いぜ」
「何だよ、エリスが『漂う風』維持してただろ?」
「いや、そうなんだけどな」
「多少の不安定は仕方ない」
「むしろ、いきなり発動に成功させて安定させるトーヤ様の方がおかしいです」
「イリヤ、君ってそんなキャラだっけ?」
イリヤは最近、今までの落ち着きというかふさぎ込みを挽回するかの如く、活動的になった。いささか元気すぎる気がしないでもないが………
「う~ん、私はいつも通りに過ごしてるいるつもりなのですが」
「前みたいに暗い顔してるよりはいいさ。それより、ここでは”様”は無しな」
「あ、はい。えと……トーヤ」
「おう……お、見えてきたぞ」
ジェニスの中央区を抜けて学院区に入ると町の喧騒は落ち着き、学者風の男性や制服姿の学生の姿が目立ってきた。
目の前に見えてきたのは、アブソリュート学院を囲む城壁と巨大な門だ。
「大きいですね」
「大きい」
「大きいな」
「大き過ぎじゃねぇか?」
他に感想が出てこない程大きなそれは、静かに、俺達を迎え入れた。
☆★☆
アブソリュート学院 正門前
「よし、レオン・スチュアート、エリス・マーガレット、イリヤ・ミレイユ、トーヤ・ハインツ、以上四名の入学許可を確認した。ようこそ、アブソリュート学院へ!」
俺達の名前(イリヤだけファミリーネームが偽名だけど)を呼び、歓迎の言葉を口にすると、門番の男性は人懐っこい笑みを浮かべた。
「馬車は寮の横にある棟で預けてくれ、入学式は明日だから寮に入ってゆっくりしな。詳しいことは寮長に聞いてくれ」
「はい、分かりました。ありがとうございます!」
「おう、いい学院生活を」
馬車を進め、言われた場所で馬車を止める。
「う~ん、久しぶりの地面だ」
「大袈裟だな。ほら、エリス、イリヤ」
両手を差し出して二人が降りるのを手伝い、受付らしき所で登録を済ませて馬車を預ける。
「よし、次は入寮手続きだ」
寮は円形の七階建てで、直径は約30メト(約30メートル)と流石に大きい。この寮に初等科三学年の全生徒約180名が入っているというのだから、それぐらいの大きさが必要になってくるんだろうな。
「あら、あんたたち新入生かい?」
「あ、はい。寮長さんを探しているのですが……」
声を掛けてきたのは、帳簿らしき紙の束を手にしたやや恰幅のいい女性だ。
「それなら丁度いいわ。アタシが寮長のアルトレア・ナガルだよ」
「トーヤ・ハインツです。お世話になります!」
「レオン・スチュアートだ……じゃなくて、です。えーっと、お世話になります」
「エリス・マーガレット。お世話になる」
「イリヤ・ミレイユです。お世話になります」
「はい、よろしく。みんなの荷物はもうそれぞれの部屋に運んであるからね」
そう言い、腰元の鍵束から二本の鍵を取り出す。
「レオンくん、トーヤくんは203号室。エリスちゃん、イリヤちゃんは303号室だよ。夕食は六の鐘から八の鐘まで、朝食は七の鐘から八半の鐘までだから遅れないようにね。もしこれから学院内を散歩するなら、部屋にある制服に着替えるんだよ」
「分かりました」
「いい返事だね。それじゃ、よい学院生活を!」
そう言うと、寮長は去って行った。
「鍵も手に入ったことだし、部屋に入るか」
「荷物を整理したらどうするんだ?もう休むのか?」
「私は平気」
「私も馬車でゆっくりしているだけだったので、元気です!」
二人の返事と時間帯を鑑みて、結論を出す。
「じゃあ、明日の下見がてらに学院散策でもしようか」
「お!そりゃいい。俺は賛成だぜ」
「私も」
「私もそれがいいと思います」
「よし、決まりだ。四半の鐘が鳴ったらここに集合ってことで」
互いに頷き、俺達は自らの部屋へと別れた。
☆★☆
この寮は一階を食堂などの共有スペースとし2、3階を男子、4、5階を女子部屋として割り振られている。中心に四基の魔導式昇降機が設置され、円周を15等分するように部屋が配置されている。
「おお!結構広いな!」
「だな。レオン、さっさと荷物片付けるぞ」
「分かってるって」
室内には両脇にベッドが置かれ、その奥、窓に向かって座る形で勉強机が設置されている。ベッドの横に置かれていた荷物を解き、入ってすぐにあるクローゼットに入れる。
「トーヤ、剣は持って行くか?」
机の上に畳んで置かれた制服に、袖を通しながら答える。
学院の制服は動き易いような作りで、白色を基調としている。
「んー、何があるか分からないし持って行こうか。近衛の短剣と学生紋、忘れるなよ」
「分かってるよ」
レオンに言いながら、自分も持って来た革袋から短剣を取り出し、上着に隠れるように身につける。次いで、父さん母さんからプレゼントされた刀、雷斬を腰に差す。
イリヤの父さん、国王様から下賜された宝剣、エクスブラントは金の鞘に銀細工と派手なので、クローゼットの中にあった剣掛けに置いておくことにした。学生紋は左胸に付ける。
「よし、僕の準備はいいよ」
「俺もだ」
おっちゃんのお下がりである幅広の長剣を差しながら、レオンが言う。断ち切るだけじゃなく、盾代わりにも使える優れものだ。
レオンも、下賜された盾はクローゼットに置いておくみたいだ。
タイミング良く三半の鐘が鳴る。アルンとは違う高い音が響いた。
「丁度いい、下に降りよう」
部屋の戸締まりを確認して、魔導式昇降機で降りる。イリヤ達はまだ来てないようで、姿はない。特に急いでいる訳でもないから、共有スペースにあるソファーでくつろぐ。
体感で10分ぐらいすると、制服姿の二人が降りてきた。
女子の制服はスカートズボンにブレザーっぽい上着。色は俺達と同様に白を基調としている。エリスは、下賜された指輪を左手の人差し指に着けていた。
「ごめん、遅れた」
「すみません、お待たせしました」
「いや、僕らもついさっき来たとこだから。な、レオン?」
「おうよ、気にすんな」
これからデートをするかのようなやり取りに、笑みをこぼしながら俺達は歩きだした。
「あ、二人共制服似合ってるよ」
「……ありがとう」
「フフ、ありがとうございます♪でも、次は二人共ってくくらないで下さいね?」
「……気をつけます」




