第8話 寄生木の義足
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幾日かが経ったとある日。
一時の休息を終えた三人は再び森を進もうと、立ち上がる。
アルシャはもう言葉も必要とせず、当たり前のようにクルアハに向かって腕を広げていた。それに応えて、クルアハもアルシャを軽々と抱き上げる。
今や日常と化してきたそれらを目の当たりにしたオルトラが、皮肉げな顔をして二人に半眼の視線を送った。
「随分とエルフの足が板についてきたようだな。クルアハ」
「おや。羨ましいのかい? オルトラ。それなら君も、そう怖がらずアルシャを抱っこすればいい。楽しいよ」
「ほざけ。そんな重いもんを持って何が楽しんだか」
オルトラが呆れたように首を横に振る。容赦もなく悪態を吐いたオルトラに、アルシャがはっと息を呑んで、片手を口に当てた。
そのまま、恐る恐るといったように、己を抱いてくれているクルアハを見上げる。
「きがつかなくてごめんなさい、クルアハ。ずっとわたくしをかかえたままで……おもい、でしょう?」
アルシャの怖々とした問いかけに、クルアハは涼しげな青い目を細めて、優雅に小首を傾げた。
「何を言うかね。君は羽のような軽やかさだ。何も気にしなくていい」
「まあ……! ありがとう、クルアハ。うれしいわ」
完全に二人の世界に入ったアルシャとクルアハに、オルトラが心底げんなりとした様子で「その虫唾の走る会話をやめろ……」と愚痴をこぼす。
ふと、オルトラは何やら思いついたかのような顔をして目をしばたたかせると、アルシャへと振り向いた。
「お前、自分の足で歩く気はあるのか?」
予想だにしない言葉だった。
アルシャは一瞬、ぽかんと口を開くが、すぐに我に返ると、勢いよくオルトラの方へと身を乗り出して声を上げる。
「あ……あるきたいわ! わたくし、あるいたり、はしったりすることがずっと……ここ千年の夢だもの……!」
「そうか。ならば、作ってやる」
アルシャの答えに、オルトラは淡々と頷き返すと立ち上がって「まずは場所を移動する。行くぞ」とアルシャとクルアハを先導し始める。
アルシャとクルアハは、互いに顔を見合わせつつ、オルトラの後を追った。
三人は森の奥まった場所にある川辺に天幕を張った。携帯食や保存食が少なくなってきたので、ちょうどしばらくはどこかに留まって狩りに集中したいところだったとクルアハが語る。
そしてそのついでに、アルシャの足を己の鉱物を生み出す〈左腕の魔法〉を以て錬金してやると言って、オルトラは早速作業に取り掛かった。
クルアハの手伝いもあってか、なんとオルトラはたった一日で、アルシャぴったりの義足を創り上げる。
その義足は、黄金の寄生木の意匠が繊細に細工された、職人も唸るであろう逸品だった。
アルシャは今にも飛び跳ねそうなくらいに大喜びして、半日ほど、オルトラが創った義足を抱きしめていた。
「すごい! なんてすてきなあしなの……! つくってくれて、ほんとうにありがとお! オルトラ、クルアハ! わたくし、このあしをあと三百年はながめていられるわ!」
「馬鹿。いつまで眺めているつもりだ。さっさとその足、着けてみろ」
オルトラによるとアルシャの義足は、クルアハの義手と同じ形状変化の性質を持つ稀少鉱物を素材としているらしい。
なので、クルアハの義手が錆犬の前足に変化するように、アルシャの義足も、アルシャの成長に合わせて変化していくそうだ。
他者に触れることを厭うオルトラの代わりに、完成した義足を、クルアハに装着してもらう。その間もアルシャは、ずっと頬を紅潮させて、「わくわく……!」と興奮を口に出してそわそわとしていた。
「よし。これでいい。さあ、アルシャ。立ってごらん」
「はい! ありがとお、クルアハ!」
クルアハに促されて、アルシャは大喜びで立ち上がろうとする。だが――。
「っしょっ……と……うあ……!?」
「おっと。危ない」
立ち上がった途端、アルシャは盛大に転んだ。それを咄嗟にクルアハに抱きすくめられたことで、難は逃れる。
アルシャは受け止めてくれたクルアハに「ありがとう、クルアハ」とお礼を言いつつも、もう一度立ち上がろうと全身に力を込めた。
「……も、もういちど! ……きゃあ!」
しかし、何度挑戦しても、アルシャは立ち上がることすらままならなかった。
それを見ていたオルトラが、小さく息を吐いて語る。
「足を作るのは容易い。だが、最も難しいのはその新しい足を、完全に己の身体の一部として操ることだ。お前にはしばらく、その足に慣れる訓練が必要だな」
そういうことで、ここに滞在する間、アルシャはひたすらに義足で歩く練習をすることになった。




