第12話 寄生木の血
◇◇◇
それからまた、幾日かが経った。
大陸連合からの追っ手は、今のところない。
それでもオルトラとクルアハが纏う空気は、未だに少しだけピリピリとしているように思えた。
そんな時だったが、アルシャは休憩の時間になると、道中で偶然見つけた花畑へ一人で出向いていた。
義足のお礼に、オルトラとクルアハへ、花冠の贈り物をどうしてもしたかったのだ。
花畑の丘に辿り着いたアルシャは、たくさんの花草を前に、顔をほころばせる。
「ヤドリギ魔法でつくる冠もわたくしはすきだけれど……オルトラとクルアハにはもっと、いろとりどりの花冠がにあうわ」
アルシャは花畑にて夢中で花冠を作った。
オルトラとクルアハ、二人分が出来上がったところで、アルシャは踊るようにくるくると立ち上がる。
「うん! きれい……! これならきっと、ふたりもよろこんで……」
不意に。びゅん、と。風を切る音が、いくつも聞こえた。
その音を認識した瞬間、アルシャの全身に、「どっ!」と強い衝撃が走る。
アルシャは何が起こったのか把握できないまま、その衝撃に身体が耐えられなくて、その場に倒れ込む。抱えていたオルトラとクルアハへの花冠は、アルシャの横へぽとりと落ちた。
背中が、熱い。
背中がどこもかしこも、いくつもの雷が走っているかのように熱かった。
アルシャの口から「ごぽ」と何かが漏れ出てくる。それは――真っ赤な血だった。
アルシャが顔を少しだけ傾けると、アルシャの小さな身体に、幾本もの氷の矢が深々と突き立っているのが見える。
そこでようやくアルシャは、己の現況を把握した。
「……いけ、ない……」
アルシャは本能的に己の死を悟って、ヤドリギ魔法を使う。するとアルシャの全身から寄生木が生えてきて、アルシャを貫く氷の矢を全て引き抜いた。
アルシャはこれから起きるだろうことを想って、息も絶え絶えに独り謝る。
「おはな、さん……ごめ、なさ……」
それと同時に、アルシャの寄生木は花畑の生命力を吸い取って丘全体の花畑をみるみるうちに枯らし、アルシャの傷を超回復させる。
回復がおおよそ終わった頃、アルシャの首へと首輪のようなものが巻き付いた。
「!? 魔法、が……」
それは鎖だった。
しかも、その鎖が巻き付いた瞬間、アルシャのヤドリギ魔法が一切使えなくなる。アルシャはこの鎖に、憶えがあった。
(ま、さか……〈魔封じの鎖〉……?)
魔封じの鎖。
それは、多くの魔法を封じ込める、呪いが込められた鎖。アルシャが人間たちに飼われていた時代、何度もこの魔封じの鎖を、首輪として嵌められていた。
「眠れ」
ふと、見知らぬ男の声が聞こえたかと思えば、首に巻かれた鎖を強く引っ張り上げられた。
「あっ……か、は……」
たちまちアルシャは窒息して、気絶してしまう。
そんなアルシャを見下ろすのは、二人の覆面の魔喰師だった。
「魔封じの鎖が効いた――見たか。やはりこの子ども、強大な魔法を秘めている。喰いがいがあるな」
「喰う前に、まずは餌になってもらわねばならん。錆犬共を誘き寄せる餌にな」
「ゆくぞ。第三軍を率い、城にて錆犬共を迎え撃つ。今度こそ、奴らを逃しはせぬぞ」
魔喰師たちが気絶したアルシャを物のように持ち上げる。
「この子ども、義足か」
「ちょうどいい。足など邪魔でしかない。捨て置け」
魔喰師の一人がアルシャの義足を破壊すると、血だまりへ放り捨てる。
アルシャを抱えた魔喰師たちが、森の奥へと消えてゆく。
こうしてアルシャは、見知らぬ魔喰師たちと共に、忽然と姿を消した。




