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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十九章 歩んできた世界

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第98話 渾渾沌沌

 アスカからのアドバイス――無限と有限の違いを頭の片隅に刻む。

 正直言えば、これがどんなアドバイスに繋がるのかわかってない。

 でも、わざわざアスカが訪れたということは大切なことなんだろう。


 俺は管理者が待っている扉へ一度顔を振ってから、なんだかよくわからない話を展開しているアスカとミュールを見た。


「アスカさん、例えに失敗を持ち出してましたけど、それでは全知全能の神の名折れじゃないですか?」

「全知全能をやっておっても、世界を水に流して失敗を無しにしたこともあるからよいじゃろ」

「ありましたねぇ、そんなこと。大雑把すぎません?」

「それもまた、無限と有限の価値観のずれじゃろうな」


「あの、二人とも」

「ん、なんじゃ?」

「どうしました?」


 俺は看板を手に取り、肩に置く。

「そろそろ、俺は行くよ。アスカ、アドバイス、ありがとな。ミュールも」

「なに、大した話はしとらんからな」

「リョウさん、頑張って管理者をぼこぼこしてくださいね!」



 ミュールが拳をぐっと見せつけてくる。俺はそれに応えて、拳をミュールへ突き出した。

「ああ、任せておけって!! じゃ、行くか、看板」

「うん、行こう」



 拳を解(ほど)き、ドアノブへ手を置く。

(この先に管理者がいる。どんな奴だろうか? 俺と同じ姿? それとも人とは全く異なる姿。姿そのものがないとか……まぁ、すぐにわかるか)



 ドアノブを捻る。しかし、手のひらに汗が浮かび、ノブが滑って上手く回せない。

(くそ! 緊張してて――違う、少しビビってる……)


 俺と同じ場所へ引きずり落とした。でも、それは目線が同じ場所に来ただけで、対等な関係と呼べるものじゃないだろう。

 それでも、雲を掴むような場所ではなく、物理的に掴める場所にあいつはいる!


「ふぅ~……」

「リョウ、僕もいるからね」

「――っ! ああ、そうだな!!」


 ドアノブを握る手に、俺と看板の想いが重なる。

 俺はドアノブを捻り、管理者が待つ部屋へと入った。



――――残されたアスカとミュール



 ミュールはアスカに問いかける。

「勝てますかね、リョウさんは?」

「勝つ負けるの話ではのうて、殴れる殴れないの話なんじゃがな」

「同じようなことでしょう。それで、どう思います?」



「100%、リョウは殴れず終了じゃろうな」

「……本気で言ってます」

「本気じゃよ。真っ当な勝負では、リョウの拳は管理者に届かぬ」

「それは……真っ当でなければ届くということですね。何か、リョウさんが秘策を打つと」


「いや、それはない。殴り合いを選択した時点でそれはできぬ」

「でしたら、アドバイスは殴り合いではなく、策が打てるものに。そう言えばよかったじゃないですか」

「それを行えば、さらに差は広がるのじゃよ」

「え?」


 アスカは黄金の瞳をスッと横に動かす。すると、視線の先に青色の渦が生まれる。

「さて、ワシらも戻って、ミシャたちと一緒に成り行きを見守ろうではないか」

「待ってください。このままではリョウさんに勝ち目がないんですよね?」


「……管理者は圧倒的な存在。リョウや看板から見れば理不尽の塊。じゃがの……」


 アスカはクイッと口端を吊り上げる。

「世の中には、神や管理者よりも単純で、恐ろしい理不尽があるんじゃよ、ククク」



――扉を越えた先


「ここは……」


 突き抜ける青い空。

 春を感じさせる柔らかな陽光。草の匂いは鮮烈。

 ほんのり肌寒いそよ風が生きているように動き、草原を薙(な)いで、草のキャンバスの形を変えている。

 

 周囲には、自然以外何もない。


「俺たちがいた草原、とは雰囲気が違うな」

「そうだね。穏やかすぎる僕たちの草原よりも、こちらの草原の方が活力がある」



「ま、ここがどこだっていいさ。俺は全力で管理者を殴りつけるだけだ。思いを攻撃全振りにしてな!」



 俺はそう言って、何度も拳を振るう。

 看板はこの『┐(´д`)┌』顔文字を描き、文字を浮かべる。

「防御も大事だと思うけどね」

「防御なんて必要ねぇよ! 俺にはあとがない! だから、この拳を剣に変えて、管理者をぶった切る!!」



「あはは、勇ましいなぁ。そいつが俺に届くといいけどな」


 パチパチと、乾いた拍手の音。

 広大な草原にもかかわらず、耳傍で直接叩かれているようなクリアな響きと共に、乱暴な口調の女性の声が届く。


 先ほどまで誰もいなかった草原に、一人の少女が立っている。

 俺の目には、その少女の立つ場所だけ、風が止まり、色彩がわずかに歪んで見えた。


 その存在は、美しい長い黒髪を揺らし、こちらへ少女のものとは思えぬ妖艶な笑みを浮かべた。

 だが、その雰囲気とは全くかけ離れた男勝りな言葉で、名乗りを上げる。


「はじめましてだな、リョウに看板。俺がお前たちを生み出した――管理者だ」


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