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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十九章 歩んできた世界

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第97話 無限と有限

 いざ、決戦!

 という直前で、突然訪れた神・アスカ。


 戦いの前にアドバイスをくれるというが……何をしでかすかわからない相手。

 俺は訝しげに問いかける。


「アドバイスねぇ。管理者の弱点とか教えてくれるの?」

「いや、アドバイスというよりは……そうじゃなぁ、ワシらとおぬしの違いを理解してもらおうと思うての」

「違い?」


 アスカは自身の胸に、そっと小さな手を置く。

「神や管理者は人とは違い、無限の時間を生きる。そのため、有限の時間を生きる存在とは思考の在り方が全く違う。その違いが……悲劇を生むのじゃ」

「……その悲劇ってのは?」



 アスカは寂しげな笑顔を見せる。

「思考を行うための、チケットの数じゃよ」

「ん?」


 俺が疑問を抱いたとき、本来ありえないはずの気配が、スッと現れた。



「あ~、なるほど。機会が全然違いますものねぇ」



「「「――っ!?」」」


 この少女の声に俺・アスカ・看板は驚いて、一斉にそちらへ振り返った。

 そこにいたのは……ミュール!?



 彼女は驚く俺たちに向かって、キョトンとした表情を見せている。

 それにアスカが大粒の唾を飛ばしながら驚きの声を上げた。


「な、な、なんでミュールがここにおるんじゃ!?」

「アスカさんの姿が見えないので、どこに行ったのかなと思ったら、道を開けた空間の痕跡があったので、ちょっと覗いたらここに」


「じゃから、それは神専用の道で普通は――いやそれ以上に、ここは招待客以外は来られんルールなんじゃぞ! ワシですら、結構頑張って来ておるのに! 人間のおぬしでは、肉体の維持すらできぬはずなんじゃが?」



「私も結構頑張ったら来れました。体は少しつらいけど、まぁ、許容範囲です」


「かっ……」


 にこやかなスマイルを見せるミュールを前に、アスカは短い言葉を残して固まった。だけどすぐに頭を激しく横に振り、自分を取り戻す。

「……はぁ、そうじゃな。おぬしはそういうやつじゃった。もう、問うても詮無い」

「なんだかお疲れのようですけど、お話は続けないんですか?」


「誰のせいで疲れとると思っておるんじゃ!」


 怒鳴り声に対して、ミュールは糸のような細目をしながら疑問符を周囲にばらまいてる。

 それにアスカはもう一度首を横に振って、俺に向き直った。


「話を……続けても、よいかの?」

「あ、ああ、頼むよ」



「ゴホン、それでは……何かを行うという行為があったとする」

「うん」


「その行為は有限の存在にとっては、一つ一つがとても重要な時間じゃ。特に失敗は、その貴重な時間を失ったことになる。ゆえに焦りを覚える。時に諦めることもある。同じ動作に飽きを覚えることもある。これは理解できるな?」


「ああ、上手くいかなかったらイライラしたり、もうやめちゃえと思ったりするし。繰り返しに飽きたりするしな」


「うむ、そうじゃな。制限はそういった負の部分がある。しかしの、同時に成長を促すものでもある。限られた時間の中で思考を深化し、解を得ようと、もがく。じゃが……無限の時間を生きる存在にとってそれらは、とても希薄なのじゃ」


「希薄……?」



 俺はアスカの言葉を紐解こうとして、首を傾ける仕草を見せた。

 すると、その絡んだ紐の小口をミュールが漏らす。



「人間は一手ごとに寿命を削り、神は一手ごとに永遠を削る。失敗であっても、神は人のように環境を変えることはなく、同じことを繰り返すんです。何百、何千と」


「同じことを繰り返す?」


「はい……人に与えられた時間は少ない。だから、短い時間の間に、あれこれを試そうとする。だけど、神は機会が無限。数百……いえ、数万の失敗を重ねても、人間の一回にも値しない行為、ということですよ、リョウさん」


「数万が、一回……」

「そして厄介なのは、飽きるという感情を持っていないかも、という点です。仮に飽きるとしても、その時は一体、どれだけの失敗を重ねているんでしょうね」



 ミュールはそこで言葉を閉じて、視線をアスカへ動かす。

 視線を受け取ったアスカは、自嘲気味の笑みを見せた。


「まぁ、リョウが遭遇した女神のような存在もおるからの、一概に言えぬが……」

「不思議ですよねぇ。神の中にはとても感情豊かな方、いかにも全知全能という方。そして、アスカさんみたいなろくでなしもいますし」

「最後! ワシの扱いがひどすぎるのじゃ!!」



「私のおうちにアスカさんが住み始めてから、ご近所に謝らない日はないんですよ。これを真っ当な方ですね、と評価できますか? ……フフフ」


 ミュールはどす黒い微笑みを見せながら、アスカに詰め寄ってる。

 アスカは漫画に出てきそうなでっかい汗を流して、顔を青ざめさせた。

「ま、まぁ、その話は脇に置くとしてじゃな。ともかく! 今の話を頭の片隅に置いておくといいのじゃ、リョウよ。有限と無限存在の違いをの」



「ああ、わかった……ちなみに、アスカは神としてどうなんだ?」


「ワシか? ワシは――」

「コントローラーをぶん投げる派ですよね」

「ミュ、ミュール!?」


「きぃぃ、いらいらするの~!! と言って、ゲームのコントローラーを投げて、一時間後にはまたコントローラーを握りしめてプレイしてます。本体やゲームソフトには当たらない。なんだかんだで諦めない。これがアスカさんのスタイルです」



「めっちゃ、矮小化されてて、なんか嫌なんじゃが……」


 神の威厳もへったくれもないアスカと、神を相手に親しい友人のように接するミュール。

 そんな奇妙な二人を見て、自然と笑みが零れる。


「ふふ、いいコンビだな。看板」

「そうだね。アスカという神は問題が多い神。関わらない方がいいと言われてるけど、違うのかも」

「そうなのか?」


「うん。宇宙の9割くらいの厄介事が、アスカに起因していると言われるから」

「……それ、関わらない方がいいの証明では?」


「くすっ、そうだね。でも、それは神や連邦といった管理する側の視点。日常を生きる存在の立場からだと、アスカという神は、有限の存在を支えてくれる善神そのものなんだよ、きっと」



 看板の言葉が、耳から心へと浸透していく。


 たしかに、アスカは俺を何度も手助けしてくれた。

 それは直接的なものじゃない。

 あくまでもそっと背中を支える程度。

 今だって、俺のためにわざわざ訪ねてくれている。


(人にとって善い神でも、神にとっては甘すぎる神ってところなのかな? でも……)


「俺のことパチンコで飛ばして笑ってたからなぁ……素直にそうだなと言えない」

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