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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十九章 歩んできた世界

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第91話 頼れる友たち

――球体内・お菓子の楽園



 神をやめたという女神。今は只の女性というべきだろうか?

 たしかに神々しさは失われたが、彼女が放つ威圧感は女神だった時と何ら変わらない。


「看板、彼女は力を失っていないのか?」

「うん。神をやめたと言っても、善神であることをやめただけみたい」

「じゃあ、今は悪神?」


「そうとも言えない。大まかな区分けは自然災害を表す荒ぶる神といったところ。もっとも彼女の場合は、自然というよりも、心を表す荒ぶる神かもしれないけど」


「感情を司る神、か。だったら、冷静であってほしいものだけど」



 女神へ瞳を動かす。

「リョウ……」

 深く、そして重く漏れ出た声は、殺意の棘に覆われている。


 自分を見失った彼女に、俺の声が届くかわからない。

 だけど……

(創造神経験者なんだよなぁ。で、今はフリー。お買い得な物件のような?)


「リョウ、何を考えてるの?」

「ああ、先のことをちょっと」


「先のこと? よくわからないけど、今は現在のことを考えた方がいい。ポイントはゼロ。彼女に対抗する術(すべ)がない」

「そうだな。だけど、ここは心の想いが力となる場所。そして、その想いは……」



 俺は軽く辺りを見回す。

 お菓子の世界・女神に追い詰められた自分。

 そんな状況に、自然と笑みが零れた。


「――懐かしさと一緒に、信頼を呼ぶ」



――つまりは、私たちの出番と言うわけかい――

――たしかに懐かしいとも言える、光景かもしれぬな――



「ああ、そうだな――勇者と魔王」


 二人は背後から現れ、俺を庇うように陣取った。

「久しぶりだね。状況はクライマックスかな」

「半端に終えた戦いの続き、となろうか」



 俺の想いは彼らを呼んだ。

 そう、形作ったわけではなく、本物の彼らに助けを求めた。

 そして、その想いに応じて、再び彼らは姿を現した。


 ポイントを集めた仲という、奇妙な友人たちを見つめる。

 彼らは以前とは少し違い、妙に神々しい雰囲気を纏っている。

 具体的に言えば、後光が射してるような?


「……あのさ、二人とも、なんか眩しいんですけど?」

「それは神気のせいだね」

「溢れ出た神の力が、人の目には光に見えるのだろう」


「神?」


 短い疑問符に、勇者は頭を掻き、魔王は力なく首を振った。

「君と別れたあと、神と会い、私たちの存在を認めるよう交渉を行った」

「だが、決裂。戦いとなり――我らが勝利した」


「神様に勝ったの!?」


「ああ。だけど、神に勝ってしまった以上、私たちが神に比類する存在として振舞うよう、世界が改変される」

「我らはそのような役目など負う気はなかったが、負わねばさらなる強力な神によって、我らは消滅させられる。ゆえに、仕方なくな……」



 そう言って、魔王は肩を竦めた。

 看板が彼らの言葉に、軽い補足を加える。

「神殺しを行うと、神に成り代わるか、神に抵抗をし続けるかを選ぶことになる。抵抗を選んだ場合、零領域によって消滅させられるんだ」


「零領域?」


「宇宙中に存在する神は零にして無限。その零を表す場所。神を単一存在として、定義づける場所。それが零領域。その領域に抵抗できる力を持っていれば、神殺しを行っても何ら変わらぬ日常を送れるけど、できないなら」


 看板は猫の目を生んで、二人へ動かす。

「私たちにそこまでの力はなかったんだ。で、神になることにした」

「我(われ)が魔族の神で、勇者が人間の神として、世界が再構成されたというわけだ」


 

「ふざけるな……」


 低く籠った声……それは感情の猛りが言葉となって湧き出た女神の心。

「神を殺した者が神になる機構そのものが――間違っている!!」


「ああ、私たちもそう思う。だけど、放置すれば、神を超える存在を認めるということになり、そのこと自体が、神の定義を揺るがすことになる」

「だが、神を殺した者が神であったならば、神は神としての秩序を保てる。なんとも欺瞞に満ちた機構だ」


 魔王は力ない笑みを見せるが……俺へ顔を向けると、その顔を引き締めた。

「それはリョウ。お前が為すことにも言えるぞ」

「わかってるさ。俺はもう、選んだんだ」

「フフ、そうか。寂しくなるな……さて、勇者。いや、人の神よ」

「ああ、魔族の神よ」



 人の神は青白い静謐(せいひつ)の光を纏う剣を抜き、魔族の神は深紅の光が瞬(またた)く錫杖を構えて、神の根源を指す力――神気を集める。



 二人を前に、女神は苛立ちを隠さず声を荒げた。


「矮小な存在が神になるだと! 務まるはずがない!!」


「同感だ」

 勇者は片耳を塞ぐ。その耳の内側には、誰とも知れぬ、大勢の者たちの独りよがりな願いが響く。

「神になって以来、正直ストレスが溜まりっぱなしだよ」


 魔王は瞳の内側に、獣の如く全てを刈り取っていく未熟なる存在を映す。

「導くが、まったくいうことを聞かない。すぐに欲望に負けて、奪い、争う」


「魔族の神の言うとおりだ。実際、何度世界を滅ぼしてやろうかと思ったことやら」

「フン、神になって初めてわかる苛立ちだな」



――だが――



 二人は剣と錫杖を女神へ突きつける。

「私たちはあなたのようにはならない」

「我らに世界を滅ぼすなどという選択肢はない」



――――光の階段前広場


 広場ではミュール・ヤマタノ・メル・ミシャがモニターを見つめ続けている。

 そんな中で、ここまでのやり取りを見ていたアスカが、か細く声を落とす。

「フフ、創生に必要なものを理解しておるようじゃな、若き神は」



 アスカは散々食い散らかした食べかすをビニール袋に詰めて、ギュッと結ぶ。

「では、ちょいとばかし、行かねばならぬかの。このままでは、リョウに分が悪すぎるゆえな」


 そう言葉を残し、四人には知られぬよう姿を消した。

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