第90話 戦いの本質
名指しされたアスカは小指で耳をほじくりながら、寝転び、大あくびを見せた。
「ふあ~あ、まったくあの元女神も管理者も、ま~ったく理解しておらんのぅ。創造に必要なことを」
「もう、食べたらすぐに横になる。目指すは相撲取りですか?」
「相撲か……江戸時代に天照と一緒に雷電爲右エ門の取り組みを見ては、盛り上がったもんじゃなぁ」
遠い場所を見つめ、思い出に浸るアスカ。
ミュールは小さくため息を漏らし、呆れた様子を見せる。
だが、そこから口を引き締めて、アスカに尋ねた。
「アスカさんは、このお祭り騒ぎに関わろうとしないんですか? いつもなら、いの一番に参加して、しっちゃかめっちゃかにするはずなのに」
そこに、同席していたミシャとヤマタノとメルが話に加わってきた。
「たしかに不気味ですね。それにしても、この苺のどら焼きは絶品」
「吾輩チョイスなの~。それと下町のナポレ〇ンが合うの~」
「そのお姿でお酒は問題では? それ以前に、私が皆様方に加わって、歓談していることが恐れ多いというか」
「皆さん、話が脱線してますから。それで、アスカさん。何を企んでいるんです?」
「以前も話したであろう。ワシが深く関わらぬ方が面白い方向に動くと。ワシも連邦も、この物語の終わり……いや、その先を楽しみにしておると」
アスカは口端を上げて不敵な笑みをミシャに見せるが、ミシャは表情を変えずに緑茶を啜っている。
ミュールは嫌らしい笑みを浮かべるアスカを見つめ、首を横へ振った。
「それだけではないでしょう? アスカさんは個神的に何か企んでません?」
「フフフ、ああ、企んでおるぞい」
「それは……なんですか?」
アスカはすっくと立ちあがり、強く拳を握りしめて掲げた!
「今年の太陽神会議で皆を吊し上げるためじゃ!!」
「……はい?」
アスカは両手の人差し指をぐるぐる回しながら、それをミュールに突きつける。
「ククク、ミュール。今回の戦いの本質は何じゃと思う~?」
「うっわ、鬱陶しい。そうですねぇ……神の視点では、神の定義の揺らぎ。種族の視点では、未知への探求。連邦の視点では、比類する敵の誕生。と、言ったところでしょうか?」
「ぶっぶ~、はずれじゃ~。理を司る錬金術師の名が泣くの~」
「……ヤマタノさん、私のポーチを取ってください」
「らじゃ~なの~」
「待て! チェーンソーを取り出そうとしておるじゃろ!」
「取り出してほしくないなら、答えをお願いできませんか。簡潔に!」
「それが答えを欲する者の態度かの? まぁよかろう。よいか、皆もよく聞け。この戦いの本質は――」
「本質は?」
「兄弟喧嘩じゃ」
「……へ?」
ミュールは気の抜けた返事をして、メルは眉をひそめる。
ヤマタノはポンっと軽く手を打って、ミシャは何事もないようにストロベリータルトを味わっている。
アスカは得意気にミュールへ語る。
「よいか、始まりはオリジナルリョウと管理者の接触じゃ。管理者はオリジナルリョウの心を素に自己を生み出した。リョウもそうじゃ。看板もそうじゃ。みんなみんな、オリジナルリョウの心が、自己の材料となっておる」
「言われてみれば……ですが、兄弟というより、同一素体では?」
「皆、素は同じとは言え、その心の情報濃度が違う。近しいが同じではない。これを兄弟と言わずしてなんと言うか」
ミュールは人差し指を鍵の形にして、顎先へと置く。
「……なるほど、近しい存在による意見の相違。それによる争い。つまり、兄弟喧嘩」
「そうなのじゃ!! つまるところ、ただの兄弟喧嘩! そんなことに神は出張ってくるは、宇宙中の名立たる種族が戦争を始めるわ、連邦が率先して参加するわ、未来から火星最強が訪れるわ――何をやっとるんじゃ? という話じゃろ?」
「たしかに兄弟喧嘩で表せますけど、影響力が大きすぎますし」
「デカかろうが小さかろうが、人様のおうちの兄弟喧嘩に口をはさんで、こっちまで喧嘩するのは道理ではない! ゆえに、太陽神会議でそのことを皆に追及する予定じゃ」
「……それだけのために、今回は傍観者なんですか?」
「そうじゃ! クククク、見ておれ~。毎年のようにワシを吊し上げおってからに。今年は、ククク。ワシが皆を吊し上げてやるぞい! くくく、くはははは、はははははは!!」
アスカの笑い声が木霊する。
この笑い声に対して、メルが申し訳なさそうにしながらも、しっぽではてなマークを作り、困惑の表情を浮かべる。
「アスカ様は本当に、超神級の太陽神なのでしょうか?」
「残念ながらそうなの~。でっかいパワーにちっちゃな器なの~」
ミュールはめまいを覚えたかのように頭をふらつかせる。
「小さい、小さすぎますよ、アスカさん」
ミシャは……空っぽになった紙コップを見つめ、ぼそりと言葉を落とす。
「兄弟喧嘩……それは大変理不尽な喧嘩なのですがね」
この言葉を受け取ったアスカは笑いを収め、リョウたちがいる深淵の球体を見つめた。
「そうじゃの。その理不尽がある限り、リョウは絶対に勝てん。じゃが、その理不尽が勝利を呼び込む可能性を持つ。兄弟喧嘩とは、なんとも不公平なルールで成り立っておるものじゃからの」




