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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十九章 歩んできた世界

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第90話 戦いの本質

 名指しされたアスカは小指で耳をほじくりながら、寝転び、大あくびを見せた。


「ふあ~あ、まったくあの元女神も管理者も、ま~ったく理解しておらんのぅ。創造に必要なことを」

「もう、食べたらすぐに横になる。目指すは相撲取りですか?」


「相撲か……江戸時代に天照と一緒に雷電爲右エ門の取り組みを見ては、盛り上がったもんじゃなぁ」



 遠い場所を見つめ、思い出に浸るアスカ。

 ミュールは小さくため息を漏らし、呆れた様子を見せる。

 だが、そこから口を引き締めて、アスカに尋ねた。


「アスカさんは、このお祭り騒ぎに関わろうとしないんですか? いつもなら、いの一番に参加して、しっちゃかめっちゃかにするはずなのに」


 そこに、同席していたミシャとヤマタノとメルが話に加わってきた。

「たしかに不気味ですね。それにしても、この苺のどら焼きは絶品」

「吾輩チョイスなの~。それと下町のナポレ〇ンが合うの~」

「そのお姿でお酒は問題では? それ以前に、私が皆様方に加わって、歓談していることが恐れ多いというか」



「皆さん、話が脱線してますから。それで、アスカさん。何を企んでいるんです?」

「以前も話したであろう。ワシが深く関わらぬ方が面白い方向に動くと。ワシも連邦も、この物語の終わり……いや、その先を楽しみにしておると」


 アスカは口端を上げて不敵な笑みをミシャに見せるが、ミシャは表情を変えずに緑茶を啜っている。



 ミュールは嫌らしい笑みを浮かべるアスカを見つめ、首を横へ振った。

「それだけではないでしょう? アスカさんは個神(こじん)的に何か企んでません?」

「フフフ、ああ、企んでおるぞい」

「それは……なんですか?」


 アスカはすっくと立ちあがり、強く拳を握りしめて掲げた!

「今年の太陽神会議で皆を吊し上げるためじゃ!!」

「……はい?」


 アスカは両手の人差し指をぐるぐる回しながら、それをミュールに突きつける。

「ククク、ミュール。今回の戦いの本質は何じゃと思う~?」


「うっわ、鬱陶しい。そうですねぇ……神の視点では、神の定義の揺らぎ。種族の視点では、未知への探求。連邦の視点では、比類する敵の誕生。と、言ったところでしょうか?」

「ぶっぶ~、はずれじゃ~。理(ことわり)を司る錬金術師の名が泣くの~」


「……ヤマタノさん、私のポーチを取ってください」

「らじゃ~なの~」

「待て! チェーンソーを取り出そうとしておるじゃろ!」

「取り出してほしくないなら、答えをお願いできませんか。簡潔に!」


「それが答えを欲する者の態度かの? まぁよかろう。よいか、皆もよく聞け。この戦いの本質は――」

「本質は?」



「兄弟喧嘩じゃ」



「……へ?」


 

 ミュールは気の抜けた返事をして、メルは眉をひそめる。

 ヤマタノはポンっと軽く手を打って、ミシャは何事もないようにストロベリータルトを味わっている。


 アスカは得意気にミュールへ語る。

「よいか、始まりはオリジナルリョウと管理者の接触じゃ。管理者はオリジナルリョウの心を素(もと)に自己を生み出した。リョウもそうじゃ。看板もそうじゃ。みんなみんな、オリジナルリョウの心が、自己の材料となっておる」


「言われてみれば……ですが、兄弟というより、同一素体では?」

「皆、素(もと)は同じとは言え、その心の情報濃度が違う。近しいが同じではない。これを兄弟と言わずしてなんと言うか」


 ミュールは人差し指を鍵の形にして、顎先へと置く。

「……なるほど、近しい存在による意見の相違。それによる争い。つまり、兄弟喧嘩」

「そうなのじゃ!! つまるところ、ただの兄弟喧嘩! そんなことに神は出張(でば)ってくるは、宇宙中の名立たる種族が戦争を始めるわ、連邦が率先して参加するわ、未来から火星最強が訪れるわ――何をやっとるんじゃ? という話じゃろ?」


「たしかに兄弟喧嘩で表せますけど、影響力が大きすぎますし」



「デカかろうが小さかろうが、人様のおうちの兄弟喧嘩に口をはさんで、こっちまで喧嘩するのは道理ではない! ゆえに、太陽神会議でそのことを皆に追及する予定じゃ」

「……それだけのために、今回は傍観者なんですか?」


「そうじゃ! クククク、見ておれ~。毎年のようにワシを吊し上げおってからに。今年は、ククク。ワシが皆を吊し上げてやるぞい! くくく、くはははは、はははははは!!」



 アスカの笑い声が木霊する。

 この笑い声に対して、メルが申し訳なさそうにしながらも、しっぽではてなマークを作り、困惑の表情を浮かべる。


「アスカ様は本当に、超神級の太陽神なのでしょうか?」

「残念ながらそうなの~。でっかいパワーにちっちゃな器なの~」


 ミュールはめまいを覚えたかのように頭をふらつかせる。

「小さい、小さすぎますよ、アスカさん」


 ミシャは……空っぽになった紙コップを見つめ、ぼそりと言葉を落とす。

「兄弟喧嘩……それは大変理不尽な喧嘩なのですがね」


 この言葉を受け取ったアスカは笑いを収め、リョウたちがいる深淵の球体を見つめた。

「そうじゃの。その理不尽がある限り、リョウは絶対に勝てん。じゃが、その理不尽が勝利を呼び込む可能性を持つ。兄弟喧嘩とは、なんとも不公平なルールで成り立っておるものじゃからの」

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