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世界が滅びたので、看板を片手に旅に出ます~世界を救う相棒は、口の悪い一枚の看板でした~   作者: 雪野湯
第三章 享楽の世界

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第9話 偽りのない名前……

 そうして、看板に案内された穴ぽこの向こう側。



『善なき悪の都。神に見捨てられ、ギャンブルだけが栄える世界。だからこそ彼らは善を渇望する。異世界からの旅人に善行ポイントを賭けさせ、この地にないはずの善を貪り、確保するために 』(by.看板)


 

 今までとは打って変わって、煌びやかな世界。

 赤や青や黄色が飛び交う下品なネオンが街を(いろど)り、タコっぽい人や液状の人や獣のような姿をした人など、様々な種族が行きかう場所。



 俺は広い道のど真ん中で、片手に持つ看板に尋ねる。

「善行ポイントを賭けるって、どういう意味?」

「言葉通りだよ。君が持つ善行ポイントを賭けてギャンブルをするの。勝てば増えるし、負ければ減る。そんな世界」


「なるほど。この世界には善がないから、旅人から善行ポイントをかっぱごうという話か」



 周りを見回す。

 子どもがカードを片手に、普通に賭け事をしている。

 路上の端でうずくまり、嗚咽を漏らしている人がいるが、誰も気に留めない。

 


 ひっどいところだな、ここは。


「あの、看板。周りの人たちも俺と同じように、善行ポイントを集めてるの?」

「集めている人もいれば、初めからいっぱい持ってる人もいる。理由はいろいろ。人生もいろいろ」

「相変わらず、説明されているようでされていない。因みに、善行ポイントを失ったら?」


「0なら大丈夫。でも、借金を背負ったら、この世界の住人になって悪を謳歌する。毎日が享楽で楽しいよ」


 と、楽しそうに語る看板の向こうで、借金を背負ったと思われる男がヘラヘラと虚ろな笑みを浮かべながら、マフィアのような男たちにどこかへ引きずられていくのが見えた。


「全っ然、楽しかないわ! そうならないように、気をつけないと。とはいえ、ギャンブルするしないも俺の自由だしな。そうだろ、看板?」


「せやで」


「え~っと、何ポイント残ってる?」

「302ポイント」


「は? 待て待て待て、飯食っただけでなんで200ポイントも減ってるの?」

「アミュックレイはお高くて、あれひとつで190ポイントするので」

「たっか! あんな味があるような無いような料理がか!? そんなもん出すなよ!!」

「だって~、豪華な食事を求めるから~」

「こいつっ!」


 この看板、俺にポイントを貯めさせたいのか貯めさせたくないのか? クリーニングや暗視スコープもそうだが、俺にポイントを吐き出させようとしてないか?

 そうなると、このギャンブル自体もポイント回収の罠……ってことも。



(でも、一獲千金のチャンスでもあるし。覗くだけ覗いて、やばそうだったら草原に戻ろう)


――――

 目に悪そうな光が飛び交うギャンブルの町を歩き、ルーレットとカードゲームが行われている、いかにもといった会場を見つけた。


 その店に入り、受付へ。



 そこには、巨大な一つ目が刺繍されたバンダナで、完全に目元を覆った女性が座っていた。


「こちらに名前の記入をお願いします。嘘偽りのない名前で」

「はいはい、名前ね……あれ? 俺の名前……?」


 小さな疑問が生まれ、それが急激に拡大しようとしたところで、看板がこう描く。

「リョウ。そう名乗ったじゃないか」

「え?」

「僕と出会ったときに、君はそう自己紹介したよ」

「そう、だっけ?」


「もう、おなかを空かせた後に馬鹿食いするからぁ~。そのせいで、脳の血流がやばいことになったんだろうね。記憶が一時的に混乱を……」

「怖いこと言うなって! ……だけど、そうだった。俺の名前はリョウだ」



 リョウという名前を口にすると、それは大変しっくり来た。

 そう、俺の名前は確かにリョウだ。

(たぶん、影たちのこともあったし、なんだかんだで心が参っていたのかもな。名前をド忘れするくらいに……でも)


 空いている穴にピタリとはまるパズルのピースのように、名前が収まる。俺の名前なんだからそれは当然なのに、妙な違和感……。



「どうされました、お客様?」

「え? あ、なんでもないっす」



 俺は女性から渡されたペンで、さらさらっと自分の名前を書いた。

 女性は一つ目が描かれたバンダナでじっと名前を見つめる。

 一瞬、軽く首をかしげたが、すぐに彼女はこう返してくる。

「……確かに、嘘偽りのない名前ですね」

「わかるの?」


「はい、私の瞳は嘘を見抜きますから。もっとも、見抜きすぎてしまうので、このバンダナで力を抑えているのですけどね。本当に……この力のせいで」


 女性は嫌悪を(にじ)ませた口調でそう言い、苦しげに口元を(ゆが)めた。

 自分の力が嫌いなのか?

 何か深い事情がありそうだけど、初対面で踏み込んで尋ねるべきではないだろう。


 だが同時に、その嫌悪の色こそが、彼女の力が本物であることを物語っていた。



 つまり、俺の名前はリョウというわけだ! 


 さっきの違和感は心が参っているせいで、やはり神経質になっていただけなんだろうな。

 俺は彼女に礼を言って、看板を片手にギャンブル会場へと向かった。



――受付・女性


 女性の背後から、人の倍の背丈はあろうかという、二本足で立つ緑色の象が現れた。

「お前さんの反応がおかしかったようだが?」

「彼の名前に偽りはありません。もともと、『名前』がないのですから」

「ん、そりゃどういうこった?」


「名前を書く直前まで名前がなかった。あの看板……案内人に名前を伝えられ、少年がそう認識したことにより名前が生まれた。ですので、彼はリョウ。偽りなしです」

「随分と奇妙な話だな。あいつら、なにもんだ?」


 女性は、リョウが片手に持つ看板へ顔を向けた。

「私たちには届き得ない存在のようです。関わらないことをお勧めします、オーナー」

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