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世界が滅びたので、看板を片手に旅に出ます~世界を救う相棒は、口の悪い一枚の看板でした~   作者: 雪野湯
第三章 享楽の世界

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第10話 ギャンブルの基本は冷静であること

 ルーレットが回転し、玉が跳ねる音。

 カードのシャッフル音に、歓喜と悲哀が混じり合う悲鳴。


 カクテルを運ぶバニー姿のお姉さんを横目に、いまさらながら学生の俺が、こんな大人な場所に訪れてよいものかと思ってしまう。

 周りは誰も俺のことを気にしてないからいいんだろうけど。



 だけど……自分の服装を見下ろす。


「パジャマ姿……これはさすがに浮いてるよな」

 ほんのり頬が紅潮する。そんな俺に容赦のない一言を浴びせる看板。


「TPOを理解してない若者がここにいます」

「やかましいわ! 仕方ない、1Pくらいでそれっぽい服用意できるか?」

「できるよ、上下一式で」



 猫の目が現れ、(まばた)き。パジャマが光に包まれて、消えると、蝶ネクタイがくっついたタキシード姿へと変貌。


 看板はそれを見て……吹き出しやがった。

「ぷふぅ、に、似合ってるよ! ぷふふふふふ」

「ほんと腹立つなぁ、お前は!」


 俺は看板を無視することにして、まずはルーレット台の前へやってきた。


 このゲームのルールは――


 00から36の数字があり、その上にコインを置き、ルーレットの玉が落ちた目と数字が見事一致すれば、35倍の配当がつく。

 ただし、0と00は親の総取りになるので注意。



 あとは数字には黒と赤があり、どちらかに賭けて当たると二倍になって返ってくる。

 細かなルールはまだあるが、大枠はこれでいいだろう。



「とりあえず、赤と黒に賭けてみるか。そういや、コインはどこで手に入れればいいんだ?」

「賭けたい場所に指先を伸ばして、賭けたいポイント数を念じれば、台の上にコインが生まれるよ」

「ふ~ん、こうかな?」


 言われたとおり、指を伸ばして、赤の場所を指さした。

 すると、コインが現れる。

「おお、ちょっと楽しい」

「いくら賭けたの……1P? ヘタレ」


「うるさいよ。本当はまず(けん)のところだけど、一度ルーレットの感覚を知りたいから。ま、ギャンブルの基本だな」

「様子を探るギャンブル用語・(けん)を知っている君は何者なの?」


「お前にだけは言われたくない! さて、結果は?」


 ディーラーと呼ばれる、ルーレットを回す人が玉を投げ入れる。

 その玉は何度か跳ねて、見事、赤の数字へ落ちた。

「おっしゃ! タキシード代を取り戻した!」

「ショボ。100P賭けてたら、200Pになってたのに」

「ふん、そんな誘惑には乗らないぞ。堅実に積み重ねていくのが大切なんだからな。では、ゆっくりと着実に、撤退ラインも考えて~~~~」




 一時間後――


 俺は会場の端に用意されていた椅子に、両手で顔を塞ぎつつ腰を掛けていた。

「どうしよう……ポイントが……ゼロ……」

「熱くなりすぎだよ……」


 俺は立ち上がり、看板に詰め寄る。

「だってさ! 最初は勝ってたんだぞ! 800ポイント超えて、これは1000ポイント目指せるなと思ったら――半分持ってかれるし!」


「そこでやめればよかったんじゃないの?」

「勝ってるときにやめられるか! こっちに流れがあったんだからな!」


「いやいや、無かったから、負けたんだよ」

「う、うるさい。それにそこでやめたら、せっかく800まで増えたのに400まで減ったことになるんだぞ! これだと、400ポイント失ったのと同じだろ!」


「なんでそこで、元の300Pから100Pも勝ってるという発想にならないの?」

「ぬぐ…………そうね、そのとおりですよ。でも、気がついたらこんなことに……はぁ、どうすればいい?」


「帰る?」

「帰っても、ご飯ないし……」


「じゃあ、どうするの?」

「それを俺が尋ねてるんだよ! あ~、賭ける種銭(たねせん)もないって、詰んでる」

種銭(たねせん)って……普通の学生なら知らなさそうな言葉が、どうしてこんなに出てくるんだろう?」


「それはね、学校にトランプを持ち込んで、お昼時間に賭けてたから」

「何を賭けてたの?」

「ジュース」

「ちっちゃ」

「高校生だぞ、ジュース1本でも結構きついっての! しかも毎日のお昼! って、叫んでたら腹も減ってきたし、どうしたら……」



「よかったら、こいつをどうだい、坊主?」


 巨大な人影が俺を覆う。

 見上げると、俺の背丈を遥かに超えた緑色の象が二本足で立っていた。

「えっと、あの……」

「心配するな、金なんて取りゃしねぇよ。俺が片手間で作ったまかない飯みたいなものだしよ」


 

 象のおじさん? らしき人は、お肉が山盛りのどんぶりを差し出してきた。

 思考は遠慮すべきという。

 しかし、腹の虫は大口を開けて受け入れろと言う。

「では……遠慮なく――な、うまっ!? むしゃむしゃむしゃむしゃ!!」


「がははは、いい食いっぷりだ! それくらいの勢いで食ってくれると、料理した甲斐があるってもんだ」

「もぐもぐ、おじさんは料理人なんですか?」


「たしかに、俺ら象の一族は、至高にして究極の料理を追い求める一族だが……俺は引退したよ。親父がやってた料理屋も、弟に任せたし」

「弟さんに?」


「おう! 宇宙一美味い飯を生み出した自慢の弟だ!」

「宇宙一? それって、アミュックレイ?」

「おや、お前さん、知ってんのか! 人間族にしては珍しいな! あんまり好まれないからよ」


 そう言って、象のおじさんは俺の背中を叩いてくる。

 本人は軽めのつもりでも、どでかく分厚い手のひらの一撃一撃が重い。

「ごほごほっ」

「おっと、すまねえ。それで坊主。何やら困っているようだが……」



 俺はおじさんを見上げ、一瞬だけ戸惑った。

(こういったことって、簡単に他人に相談していいものかな?)


 だけど、お肉いっぱいのどんぶりを見て……。

(悪い人じゃなさそうだし、話すくらいならいいか)


「実は……」

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