第11話 細工は流々
象のおじさんに事情を説明。
おじさんは鼻を悩ましげに動かして、苦笑を交えた声を生む。
「なるほどな……それで、善行ポイントを全部擦っちまったわけか」
「はい。で、途方に暮れてます」
「そうか。だったらよ、借りればいいじゃねぇか?」
「へ?」
おじさんは受付へ長い鼻を振った。
「受付に行けば、お前さんの良心を担保に、善行ポイントを借りられる。そいつで一勝負すればいい」
「俺の、良心?」
「ああ、そうだぜ。善行ポイントってのは所詮、他人を助けて積んだ善だ。だが、良心ってのはそいつに備わっている善の塊。ここはそういうのを欲しがる場所だからな」
「でも、それで負けちゃったら……この世界の住人になるんでしょ?」
「基本そうだが、額によってはすぐに出られる。だから、ちょい借りをして駄目だったなら、トイレ掃除をして、帰ればいいってくらいなもんさ」
「トイレ掃除か……それくらいなら」
このままゼロで帰っても食事に困る。
それに、新たな世界に訪れて稼ごうとしても、ポイントの助けがないとどうにもならない場合は、本当にどうしようもなくなる。
だけど、担保は俺の良心――すなわち、心!
(どうする……?)
ちらりと、おじさんを覗き見る。
そのおじさんはというと、何でか看板を見つめていた。
(坊主はこいつを警戒していると見える。こいつは俺たちよりも次元が高い存在。弟の話だと……可能だったと聞いたが、俺の愛用品が実際そうできるか試してみてぇ)
次におじさんは、自分の手を見たかと思うと、俺をじっと見る。
(俺だって、弟に負けてねぇはずだ。利用させてもらうぜ、坊主)
無言のまなざしに混ざる、なんとも粘っこい空気が流れる空間。
俺は居心地が悪くなり、おじさんから目を逸らして看板に尋ねてみた。
「どう思う? この提案」
「……君の判断に任せる」
「判断できないから相談したんだけどな――えっ?」
看板の端に、小さく文字が生まれる。
(勝てる案件。しかも勝率100%)
俺はその文字を意識しないように、悩むふりを見せつつ目を逸らした。
(信じていいのか、こいつを? 何をもって勝てると言っているんだ? しかも100%って、逆に胡散臭い)
俺は口端に残った米粒を拭う。
そこで、過去の記憶が微かによぎる。
(米粒か、学校のお昼時間を思い出すな……どのみち、ゼロだと詰む。どうせ詰んでるなら、勝負に出てみるか――だが、勝てる土台は自分で作るべき!!)
米粒を指先で磨り潰して、おじさんへ向き直った。
「わかった、おじさん。受付にお願いしてくるよ」
俺は立ち上がる。その際、よろけて象のおじさんにぶつかってしまった。
しかしおじさんは、その巨体のため微動だにせず。
逆に俺が弾き飛ばされる形で、近くのカードゲーム台に吹き飛ばされてしまった。
「がっ! いった!!」
「おいおい、大丈夫か、坊主?」
「あいててて、何とか。でも」
ギャンブル中だったのにカードはバラバラ。客は俺を睨みつけて、今にも怒鳴りださんばかりの表情で顔を真っ赤にしていた。
そこに、象のおじさんが間に入る。
その途端、なぜか客は青ざめ、気にするなと言い残してそそくさと去っていった。
「なんか、さっきの人、おじさんにビビっていたような?」
「がははは、俺の体がでかいからだろ」
「たしかに大きいよね。そうだ、あのさおじさん。その体のでかさを借りたいんだけど、いい?」




