第12話 薄氷のいかさまと深氷の未練
――カード台
良心を担保に……俺は最大値1000Pを借りた。
そう、最大値。
つまり、失えば、俺は良心を奪われ、悪に染まり、この悪だけしかない世界の住人の仲間入り。
借金を返さない限り、奴隷として過ごすことになる。
――なぜ、そんな無茶をしたか?
勝てる案件と言った看板のことを信じたから――いや、違う!
ギャンブルってのは勝てるように仕込むもの、仕込まれているもの。
だから俺は、席に着く……。
真ん中より端にずれた場所に座り、その隣にはおじさん。おじさんの後ろには看板を置いた。
理由は、後ろからの覗き見を防ぐため。
俺はこう述べる。
「調子よく勝ってたのに急に負け込み始めた。だから、何かイカサマをされたに違いない」と……。
これに象のおじさんは何でか心外そうな声を漏らした……まあ、ここで働いているから悪く言われるのは嫌だったんだろう。
これで準備は万端。ディーラーとの一騎打ち。
負ければ全回収。良心を奪われる。
逆に勝てば、倍づけ。借りた利子を支払っても900Pは残る。
ディーラーとのポーカー勝負。
カードは配られ、俺は三枚をチェンジ。
それらを手に取り、膝に置いて整え、天を仰ぎ、祈る。
そして、絵札を確認して、台に戻し、並べ直した。
ディーラーが手役を開示……3と5の組み合わせ、フルハウス!(3が三枚・5が二枚の組み合わせ)
対する俺は……
ゆっくりと五枚のカードをめくる。
「……ロイヤルストレートフラッシュ」
A・K・Q・J・10の組み合わせで生まれる最強の役。
これにはディーラーと会場の観客が歓声を上げた。
そんな中で、ひときわ驚いた様子を見せたのは、象のおじさんと看板だった。
「なっ! こいつはぁ」
「……!」(予測された結末と違う! そうか、彼自身で乗り越えたのか!)
俺はコイン化していた善行ポイントのうち、利子の100Pを受付に払って、残りを看板へ預けた。
去り際に、おじさんが声をかけてくる。
「やったな、坊主。1000Pを借りた日には、何を考えてんのかと思ったが……」
「まぁ、なんとかね」
「そうだ、いいものを見せてもらった礼と言っちゃあなんだが、こいつをやるよ」
「これは……?」
手渡されたのは、料理道具一式。
「生野菜ばっかりで苦労してるって聞いたからな。その道具類は俺が使ってたお古だが、やるよ」
「いいの?」
「ああ、貰ってくれ。そうそう、この道具類にはちょっとした機能があってな、使い手が食材と思えば、どんなものも食材にしちまう宇宙象印の料理道具なんだぜ 」
「どんなものも食材と思えば……? ん、食材と思わないものは普通料理しないんじゃ?」
「がははは、確かにな」
奇妙なことを言うおじさんだ。
ともかく、料理道具一式はありがたいので遠慮なくもらっておくとしよう。
俺はおじさんに挨拶を済まして、この世界から去った。
――象のおじさん
彼の背後から、一つ目のバンダナをした女性の受付が話しかけてくる。
「いかさまで勝たせた目的なんですか?」
「してねぇよ」
「え?」
「いや、したつもりだが、あいつはそれを上回りやがった」
そう言って、彼は指をパチリと弾くと、カードを生み出した。
「Aのフォーカード。こいつであの坊主の勝ちだ」
「ですが、結果はその役を上回る、ロイヤルストレートフラッシュ。これは一体?」
象は鼻を高く掲げて笑う。
「そいつはなぁ、あの坊主がいかさまをしたってことさ! オーナーの俺を壁役に使うなんざぁ、大した悪党だぜ、がははは!」
ひとしきり笑うと、彼は少年が消えた空間を見据えた。
「勝ちをくれてやる代わりに、道具類を押し付け、世界を巡る間に試させるつもりだったが……ま、渡しておけば、どこかで使うかもしれねぇから、良しとするか」
「何がしたかったのですか、オーナー?」
「あの道具はな、使い手の才を吸収して鋭さを増す。そう、あれは俺の才能が詰まった道具たちだ。俺の才能が本物なら、鋭さは天井知らず。使い手が食材と思えば、何でも食材にしちまうはずなんだ。お前さんがビビってる、あの看板すらもな」
「それは……不可能かと。あれは私たちには届き得ない存在」
「本当に届かないかどうか試してみてぇと思ってな。弟は知り合いに道具を渡して、そいつは××××を料理しちまったそうだぜ」
「――――っ!? それは事実ですか?」
「お前さんの瞳は、俺を嘘と見ているか?」
「……いえ」
巨大な象は、同じく巨大な手のひらを悲しげに見つめる。
「ま、未練だな……こんなところにいるのによ。なんにせよ、結果が楽しみだぜ」
――草原
戻ってきた。
料理一式を地面に置き、看板を地面に突き刺して、ほっと一息つく。
すると、看板の文字が歪み、大量の『?』マークに囲まれたフレームに文字を浮かべた。
「何をしたの?」
「いかさまだよ」
「どんな?」
「米を潰して接着剤代わりにしただけ」
「はい?」
「まず、おじさんにはわざとぶつかって、台に当たり、ばらけたカードをくすねる」
「そんなことを?」
「で、あらかじめカードを台の下にくっつけておいて、おじさんとお前を壁にして、後ろから覗き見られないようにした。あとは、任意のカードを剥がして役をそろえるだけ」
「……よくもまぁ、あの短時間でそんなことを」
「ほら、学校でのカードゲームの話したじゃん。ジュース一本はなんだかんだで、きついからねぇ。負けを避けるために、磨いた才能ですよ、フフフ」
「なるほど、このろくでもなさが、『見』や『種銭』の知識に繋がってるんだね……」
「ふふ~ん、そのろくでもないおかげで、この通り生還! やったぜ」
「やったのかなぁ? 善行からは程遠い」
「お前が言うな!」
「そもそもとして、ディーラーに君が持つ手札と、同じ手札が入ってたらどうするつもりだったの?」
「……え?」
「うわ、考えてなかったんだ……」
「あ、あははは、結果オーライ。まさにギャンブルってことで!」
「はぁ、こっちはおじさんの挙動から計算して、勝ち確を算出してあげたのに」
「はい、なにを言ってるの?」
「空っぽな君の脳みそに呆れたの。一歩間違えたら、抜け出せなかったんだからね!」
「そ、それはもういいだろ! さぁさぁ、貰った道具類を片付けよっと。看板はここでステイな」
俺はそそくさと看板から離れて、料理道具一式をベッドそばへ運んでいく。
――看板
裏側にはこう表示される。
汚染度12%。
(参考となったモノの魅力は狂気だったけど……何かずれてる? なんだろう? 興味深い……いや――)
看板はそこで思考を切り、自分に湧いた感情を否定する。
(僕は彼に、役目を果たさせるためにいる。彼に興味を抱く必要はないんだ……ないはずなんだ)




