第13話 腹が減ったので次の世界へ
――草原
料理道具一式が手に入った――だが!
「食材がない……」
看板を前に立てる。
その近くで、食材なら何でも切れる包丁を片手に、普段なら捨ててしまう大根の葉を刻み、芋の蔓もまた刻む。
「ううう、貧しい」
葉っぱも蔓も残さずいただくのは大変エコだが、貧しさは拭えない。
かつての食卓にあった、ただの塩ですら、今の俺には宝石よりも価値がある。
野菜くずを鍋に入れて、出汁も何もないただのお湯で煮込み、その汁を啜る。
「ずずず……ふ、ふふふ、あはははは」
「どうしたの、突然笑って? イカれた?」
「イカれてないわ! 味もそっけもない食事に情けなくて変な笑いが出ただけじゃい。こなちきしょうめ!」
「凶暴だなぁ。前々から感じてたけど、食べ物が絡むと感情値が不安定化してない?」
「看板のお前にはわからんだろうがな。人間、腹が空くと性格が荒々しくなるもんなの!」
「非効率的な方法でしかエネルギーを確保できない、低レベル生命体は大変だね」
「そういうお前は高度な生命体なのかよ?」
「生命ではないけど、君より次元階層は上かな」
「あっそ」
ぶっきらぼうに声を返して、俺は残った汁を胃の奥へ流し込んだ。
軽く腹をさすり、一息を入れる。
「とりあえず、腹は膨れた」
そう言いつつ、穴ぽこが群れをなす方角へ顔を向けた。
善行ポイントを貯めて管理者に会い、世界の復元を頼む……という、大目標よりも、次の世界で何とか食料を確保したいという思いでいっぱい。
(ポイントを使えば食料を確保できるけど、次の世界で何があるかわからないからなぁ)
ポイントは俺にとっての武器。軽々に使えない。だけど……。
(次、訪れた先で食料が確保できなかったら、さすがに使うしかないな)
「さて、飯のために働きますかね」
腹が減ると、世界の復元とかどうでもよくなってくる。正義も悪もなく、ただ食べたい。
俺は食欲に背中を押されて、一歩前へ出る。
すると、看板がそれを制してきた。
「ちょい待ち、今回は直の依頼が来てるぜ。お~、いえ~」
「だからなんでお前ってそんなに言葉遣いが不安定なの? んで、直接の依頼って、誰から?」
「惑星エルフォリアを管理する神から。はい、これが依頼内容」
看板に猫の目が現れてウインクをすると、俺の足元に古めかしいカセットレコーダーが現れた。
そいつが勝手に動き、音声を再生し始める。
『我が管理する世界に侵入者あり。偽教を広め、我の世界を汚染しようとしている。食い止めたし。なお、このカセットレコーダーは、自動的に消去される』
レコーダーが光に包まれ始めた。
「ん、なに? 消滅するの?」
これに看板が淡々と答えを返す。
「核融合反応が始まったようだね」
「核!? そんなもんで消去しようとするなよ! すぐに逃げな――」
言葉が最後まで届く前に、周囲が光に包まれ、空気が一瞬だけ焼けるような匂いがした。
両目を押さえ身構える。
だけど、特に何も起こらない。ゆっくりと瞳を開けて、恐る恐る周囲を見渡す。
レコーダーがあった場所――そこは、透明なドーム状の器に覆われていた。
看板はこっちに猫の目を向けてくる。
「シールドを張ったから大丈夫だよ」
「お、おお……ってか、お前、核を防げるのか?」
「大したことないからね。中性子も遮断してるから問題ないよ」
「そ、そうなの? あんがと、助かったわ」
「のっと、あっと、おーる~。で、依頼受ける? 以前も言ったと思うけど、神からの直接依頼はポイント高いよ。住民もいるから、食料の確保もできるかもね」
「いきなり核をぶっぱしてくるやばい神様っぽいけど、食料か……」
腹を撫でる……水気で膨らませただけで、満腹中枢は干からびている。
「クッ、背に腹は代えられない。わかった受けよう」
穴ぽこ→惑星エルフォリアへ
『ここは原始文明。蒙昧な住民たちが、神を称する高度な技術を持つ異星人に騙されている世界』(by.看板)
看板は神の詳しい依頼内容を木目の表面に描く。
――異星人が偽りの神であることを証明し、教えを破棄させ、彼らを追い返すことが今回のお仕事――
穴ぽこから深い森の奥に訪れた俺は、看板の文字を読んだ。
その内容に、いくつかの疑問が浮かぶ。
「神の教えの邪魔をしてるんだから、神様が直接どうかすればいいんじゃない?」
「以前も言ったけど、下々のことに神は介入できないの」
「でも、今回の場合は異星人相手なわけじゃん。内々の話じゃないから、状況が違わない?」
「訪れた異星人の技術レベルが、神の介入を許されるほど高度じゃないから無理。やっとこさで、恒星間移動を行える程度のしょぼいレベルだから」
「十分凄い気がするんだが? 神様基準だとしょぼいのか? あともう一つ質問なんだけど、どうして異星人は布教活動なんてものをしてるの?」
「布教してるわけじゃないよ。信仰心という心のエネルギーが、原始文明の住民たちの『エルファ』を高めるから」
「えるふぁ?」
看板は猫の目からビームを出して、そこにこの惑星の住民と思われる、少しばかり赤っぽい肌を持った成人男性を映し出す。
その男性の心臓部分が光り、看板が説明を始めた。
「エルファとは、この惑星の住民が血中に宿す水晶体。信じる心――いわゆる信仰によって、この水晶体は輝きを増す。異星人はこの水晶体に、宝石としての価値を見出して集めてるの」
「ふ~ん……集めるって? どうやって?」
看板は木目の表面に、人間の体が雑巾のように絞られる、コミカルなアニメーションを浮かべつつ、一言――。
「絞って」
……なんか今、すっごく不穏なワードとアニメを見た気がする。
俺は短い声だけを返す。
「……はい?」
これに看板は、無味乾燥な文字だけを表していく。
「信仰心の高い者たちを集めて、神への供物と称して、圧縮機にかけて血を搾り取るの。そうして、血を集めて製錬すると、宝石の出来上がり」
「さ、最悪じゃん。なんだよ、その異星人たちは……?」
神の依頼がどうのこうの以前に、こんな連中を放っておいてはいけない。
そう、良心が警報を鳴らし、俺自身が驚くくらい怒りが湧く。
「原住民を騙して、生きた鉱物扱いしてるわけだな。くそったれどもめ、絶対追い返してやる。いや、顔が整形でも追いつけなくなるほどぶん殴っちゃるわい! 行くぞ、看板!」
俺は看板を片手に歩き出す。
――看板
看板は裏側に文字を刻む。
(彼の感情は正義感? その倫理、道徳はどこから? 時間経過と共に人格形成に『あの影響』が出つつある? これは予定通りなの、主様? 彼は……ただの目じゃないの?)




