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世界が滅びたので、看板を片手に旅に出ます~世界を救う相棒は、口の悪い一枚の看板でした~   作者: 雪野湯
第四章 似非宗教と宇宙人の世界

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第14話 自分の記憶?

――集落


 森を抜けてしばらく歩くと、二千人ほどの集落を見つけた。

 青空の下、俺は看板を片手に、木の影に身を隠しつつ様子を窺う。

 地面の上に藁ぶき屋根だけが乗っかった、いかにも文明初期の世界といった感じ。

 人々は獣の皮を(なめ)したものや毛皮などを纏っている。

 


 その中に、非常に異質な存在が混じっていた。


 村の中央――石積みでできた高台の祭壇の上に、ぴっちりとしたスーツを纏った青い肌の男性がいる。

 その男が住民たちに対し、大仰な身振り手振りを交えて語りかけている真っ最中だ。


「信ずる者は救われる! 信仰を疑う者は地獄へ行く! 悪事を行う者もまた地獄へ落とされる。しかしだ! 罪を語れば神は(けが)れを解く! 我ら神の使徒の前では、無垢であれ! 空を見よ!」



 ぴっちりスーツの男性が指先を天へと伸ばす。

 すると、ぴかぴかとライトが光り、どこからともなくオオ~ンという音が響く。

 住民たちはその音と光に恐れをなして、その場で(ひざまづ)き、頭を地に(こす)る。


 スーツの男性はさらに言葉を続ける。

「神の目は空にあり! 全てを見ている!」

 空から緑の光が下りてきて、住民たちをプリンターのスキャナーのように舐めていった。

 


 その光は、大柄な男に当たったところで止まる。

 真っ白な衣服に身を包む同じ原住民らしき男が、大柄な男性に近づいて杖を振り下ろした。


「私は神に選ばれし者として、貴様に罰を与える」

「ひ、ひいい~、俺は何もしていない!!」

「何を言うか、神の言葉が聞こえぬと言っていたのであろう。即ち、神への疑い!!」

「ち、ちがう! そんなつもりじゃ……」



「神の言葉は人には重すぎる。ゆえに、聞く者は選ばれし者のみ。我ら神官という選ばれし存在のみにな、フフ」


 杖を持った男性は後ろを振り返り、ぴっちりスーツの男へ恭しく頭を下げる。

 次に、怯えていた大柄の男性へ向き直り、杖を彼の肩へ当てた。

 

 その杖が触れると、おそらく電流のようなものが走ったのだろう。大柄の男は体を痺れさせて、その場に倒れた。

 すぐに兵士たちが集まり、気を失った彼をどこかへ運んでいった。



 一連の流れを見ていた俺は、これらを分析する。


「ふむふむ、なるほど。抽象概念、儀式、神秘を交えた特権階級。教義は短く覚えやすく、希望と恐怖の両方を含むか……因果関係の理解が浅い、原始社会向けの宗教だな」

「……へ~」

「なんだよ?」

「いや、なかなか鋭い観察だなっと思って」

「バカにすんなよ! これくらいわかるっての!」



 と、語気を強く返したが、看板は猫の目を出して、なんだか明後日の方向を向いている。

(普通の高校生が、こんな分析できるはずないのに。真っ新(まっさら)のはずの彼に、影響が出始めてる? だけど(あるじ)様から連絡もないし、これでいいんだよ、きっと。それに……僕の役目じゃないし)


 突然、看板の表面に、『503』の文字が浮かんだ。

 あの数字、どこか見たことあるな? ブラウザ画面だっけ? もしや、バグったのか?


「おい、看板、大丈夫か?」

「あ、うん、ちょっと考え事を」

「考え事?」

「そこまで分析した後に、君はどうするのかなって思って」

「そうだなぁ……」


 俺は頭をぼりぼりと掻いて、集落の中心を見た。

 二千人規模の民衆。

 杖を持った神官たちが十名ほど。

 見張りの兵士が、民衆の周りをぐるりと囲む。 

 祭壇の上には神の使徒を名乗る、青い肌のぴっちりスーツの男。

 よく見ると、奥にも似たような奴が複数人いる。


「あいつらは噓つきだ! と言っても信じてもらえないよなぁ~」

「ナニイッテンダコイツ? って扱いだろうね」

「だよなぁ。そのあとは神の敵として八つ裂きか? はぁ、洗脳された人たちを救うってどうしたら――っ!?」


 

 ふいに、立ち眩みを覚えた。

「どうしたの、リョウ?」

「いや、ちょっと眩暈――これって……?」



 瞳の奥……記憶の彼方に、奇妙な情景が浮かび、頭の奥がチリチリする。

 曖昧な情景の中で、一人の少女が数万の民衆を前に、堂々と演説を行っている。



「守りたいものは日常! 大切な人! 私が切り開く道にはその全てがある!! 全ての(しゅ)が互いに尊敬し、愛し合う。それが私の歩む道の先に在る世界だ!! 」


 

 その少女のとても小さな背中に、俺の瞳と心は奪われる。

 指先に伝わるのは看板の冷たい感触ではなく、懐かしさが宿る熱い思い……。

「我々は新たな時代を産む!! さぁっ、心の蓋を()けよ! (たけ)るがいい! 叫ぶがいい! 己と愛する人を思い、明日を信じ、我らは歩む! いざ、未来へ!!」

 

 歓呼(かんこ)が広場を埋め尽くす。少女は民衆を見つめ、流れるように後ろを振り返り、俺に向かって――


「ざっとこんなもんよ」

 

 ぼやけているが、屈託のない緩やかな口元が見えた。

――――――――――――



「……あ」

「もしや、拾い食いでもした?」

「してない! ただ、なんか、妙なものを思い出した? いや、ドラマかなんかで見た光景? でも、それにしては、リアリティがあるような?」


「本当に大丈夫?」

「あ、ああ、たぶん。よくわからないけど、一つはっきりと思い出したことがある」

「何を?」

「それはな――俺は心と言葉の力を、知っているはずなんだ!」



 看板を持ち上げて、肩に置く。

「行くぞ、正面突破だ!」

「ちょ、ちょっとさすがにそれは無茶だと思うよ」

「なに言ってんだよ。今、集落の人たちがここに集まってるんだ。絶好の機会じゃねぇか」

「なんの?」


「洗脳を解く機会だよ。見てろよ。みんなの前で、あいつらの化けの皮を剥いでやる!!」

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